Journal of Information Processing and Management
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Meeting
Establishing a place for discussions and co-creation of policy for utilizing Japan Link Center : DOI registration for contents on institution repositories
Ritsuko NAKAJIMA
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2014 Volume 57 Issue 8 Pages 591-595

Details

  • 日程   2014年8月21日(木)
  • 場所   JST東京本部別館
  • 主催   ジャパンリンクセンター運営委員会

1. はじめに

ジャパンリンクセンター(Japan Link Center,以下,JaLC)は,日本で唯一のDOI登録機関(Registration Agency: RA)であり,日本発の学術コンテンツ情報を収集し,普及・利用を促進する目的で2012年から活動を行っている。JaLCは,科学技術振興機構(JST),物質・材料研究機構(NIMS),国立情報学研究所(NII),国立国会図書館(NDL)の4機関によって共同で運営されており,運営委員会(委員長:武田英明NII教授)が意思決定を担っている。これまで,主に学術論文に対してDOIの登録を行ってきており,2014(平成26)年3月末には登録数が200万件を突破した。今後は,対象コンテンツを拡大して研究データやe-learning教材などにもDOI登録を行い,あわせてシステムの機能拡張も実施する予定である。12月のリリースを目指して,現在新システムの開発を進めている。

2. 背景

これまでJaLCがDOIを登録したコンテンツのうち多くを占めるのは,JSTが運営する電子ジャーナルプラットフォーム「J-STAGE」で提供されている学術論文である。今回の集会のきっかけとなったのは,3月にJ-STAGE上に学会誌を登載している学協会を対象として行ったDOIに関する説明会であった。JaLCが今後対象コンテンツを拡張していく計画を説明する中で,機関リポジトリのコンテンツにDOIを登録する方針を示したところ,学協会からその影響を心配する声があがった。学協会は,電子ジャーナルを出版している立場であるが,その出版論文に対する著者版が機関リポジトリに掲載されている場合,それらの著者版にDOIが登録されると混乱を招くのではないかという懸念である。具体的には,以下の2つの問題点が指摘された。

  • 1)引用の分散

著者版に出版版とは別のDOIを登録すると,引用が分散するのではないか。DOIが登録されることにより,査読などを受けていない著者版が「正規の」ものと認められてしまい,研究者等がその文献を引用する際に,出版版の代わりに著者版のDOIを記載してしまうかもしれない。そのためインパクトファクターの低下が起きるのではないか。

  • 2)投稿規定や公開許諾条件,著作権の考え方

出版社が機関リポジトリに対して著者版の公開を許諾したときの条件に,DOI登録は含まれていない。出版版の著作権は出版社がもっている。著者といえども,著者版にDOI登録をすることはできないのではないか。

このような意見を受けて,さまざまな立場の関係者が集まり,ともに議論することによりJaLCの方針を作っていきたいという考えから,「ジャパンリンクセンター活用の為の対話・共創の場」を開催することをJaLC運営委員会において決定した。今回は,特に機関リポジトリに対するコンテンツの扱いが議論の焦点となっていたため,副題は「機関リポジトリのコンテンツへのDOI登録」とした。

3. プログラム概要

はじめにJaLC運営委員会の水野副委員長から本会合の主旨について説明があった後,第1部では6名の講演者から発表が行われた。

  • (1)DOI,JaLC新システムの概要

    加藤斉史(JaLC事務局,JST):1

DOIの基礎知識を簡単に説明した後,JaLC設立の経緯および現在の状況(サービス概要,システム機能,会員制度等)について説明を行った。また,今回のテーマである機関リポジトリについて,JaLCとのデータ受け渡し方法や,新システムの概要,スケジュール等,この後の議論に必要な知識を提供した。

図1 「DOI,JaLC新システムの概要」 https://www.youtube.com/watch?v=QHikXvdgVvA

  • (2)JaLCにおけるDOI登録ポリシー

    武田英明(JaLC運営委員会 委員長,国立情報学研究所):2

はじめにDOIの役割・運営の構造について触れた後,各DOI登録機関(RA)はそれぞれのポリシーに基づいてDOI登録を行うことが可能であり,特に,主に海外の大手出版社からなる団体であるCrossRefのDOI登録方針と,JaLCの方針が異なっていても,何ら問題がないことの説明があった。そして,著者版コンテンツにDOIを登録することに対して各方面から寄せられている賛否それぞれの意見を踏まえつつ,今日,DOIがいかにさまざまな形で登録され使われているか,そしてそのDOIの多様性を認め,この流れに沿って活用することで,JaLCの特有の事情(日本語文献の管理,流通,電子化された学術コンテンツの多様性,電子化由来の多様性)に適合させることができるという意見が述べられた。海外の状況として,プレプリントにDOIを登録している例が示された。

図2 「JaLCにおける登録DOIポリシー」 https://www.youtube.com/watch?v=52cooNZ0GoE

  • (3)機関リポジトリの文献識別子

    杉田茂樹 (千葉大学附属図書館):3

本会合のトピックスである機関リポジトリを運営する立場から,機関リポジトリ上に文献識別子をもたせることの必要性が具体的に説明された。すなわち,論文の出版版・著者版については,両者の性質・関係性の情報組織化・明確化を行ったうえで,コンテンツ閲覧に関するユーザーの契約有無に応じて,閲覧可能な版への誘導ができることが望ましい。JaLCへの期待として,機関リポジトリが個別に独自体系の識別子を付与するのではなく,JaLCが集約してDOIを登録することで可視性が高まるという意見が述べられた。

図3 「機関リポジトリの文献識別子」 https://www.youtube.com/watch?v=Z_zdcc_9EUo

  • (4)自然科学における研究成果の公表:機関リポジトリ及びDOI登録との関係

    森哲 (京都大学):4

自然科学,特に生物学分野における研究成果の公表と,それに対する機関リポジトリの影響について説明がなされた。科学において,研究成果の公表は論文の出版によらなければならないが,査読を経ない著者版の段階の論文が機関リポジトリによって公開されることは混乱を招くとして疑問が呈された。現実に大学で議論になっている例として,博士論文が機関リポジトリで公開されることにより,その後,学術雑誌に論文を投稿する際,二重投稿禁止ルールに抵触するおそれがあるといった問題があげられた。

図4 「自然科学における研究成果の公表:機関リポジトリ及びDOI登録との関係」 https://www.youtube.com/watch?v=eIKiEJ-Dprs

  • (5)研究者の論文引用の現状

    小野寺夏生 (筑波大学):5

「著者版に出版版とは別のDOIが登録されることによって,引用が分散するのか」「機関リポジトリに著者版が掲載されることによって,引用が減るのか」という疑問に対して,著者は何のために引用するのか,引用文献をどのように選ぶのかについて概念的な説明がなされた後,引用分析を行った既存の研究を調査した結果を用いて,それらの影響が示された。機関リポジトリ等でOA出版(Green OA)されている雑誌論文の方がされていない論文に比べてより引用されるという研究結果は多くある。しかし,それだけではなく,物理学の著名なプレプリントサーバーであるarXivで公開された論文がWeb of Science(WoS)にも登載された場合と,WoSには登載されなかった場合を比較すると,WoSに登載されたほうがarXiv版に対する引用数が少ないという研究が紹介され,つまり引用者は意識的にプレプリント版より出版版を選んで引用しており,著者版の存在が出版版の引用数を減らすことにはつながらない旨の分析がなされた。

図5 「研究者の論文引用の現状」 https://www.youtube.com/watch?v=kiqsBMk4Q7k

  • (6)トムソン・ロイター社のWeb of Scienceにおける被引用数算出の現状

    堀切近史(JaLC普及分科会主査,トムソン・ロイター):6

被引用数を議論するときに,最初に注目するのはトムソン・ロイター社が算出する被引用数であり,さらにインパクトファクターに対する影響であろう。本講演では,同社のデータベースに関する基本的な情報の提供が行われた。被引用数の算出は,5つの要素(1. 著者名 2. ジャーナル名 3. 出版年 4. 巻 5. ページ)を参照して行われており,原則としてDOIは関与しない,またインパクトファクターの算出にはDOIを参照しないとの説明が行われた。なお,これは発表時点(2014年8月)の情報であり,将来にわたって同じ状況であるとは限らないとのことである。

図6 「トムソン・ロイター社のWeb of Scienceにおける被引用数算出の現状」 https://www.youtube.com/watch?v=aMGd_huaIJU

第2部では,第1部の講演を踏まえて,テーブルを囲んで意見交換会が行われた(7)。

著者版にDOIを登録する場合,JaLCで出版版と著者版の区別をする仕組みが提供されることは理解できたが,実際に運用が適切になされるのか,特に,研究者が引用を行う際に著者版を引用してしまうのではないかという懸念があげられた。それに対して,研究者は正式な版を引用すべきであるが,その行動の責任は研究者自身にあり,必要があれば編集委員会等で倫理規範を定めるべきでありDOIの登録ルールにかかわるものではないという意見があった。DOI自体に対する理解については,デジタルオブジェクトのIDであり,コンテンツの所在を示す役割をもつもので,コンテンツの著作権や重要性には関与しないという意見に収束したようにみえた。そのうえで,著者版には出版版のDOIを関連付けるなど,運用ルールを整理し,混乱をきたさないようにすることについての意見が交換された。

さらに,話題は今後のDOIの活用にも及んだ。著者版・出版版に限らないさまざまな問題が出てくると考えられるとして,その見通しについて議論が行われた。著者版・出版版以外のバージョン管理やコンテンツの品質コントロールなどが課題として考えられるが,CrossRefのサービスであるCrossMark(バージョン管理)やFundRef(研究助成金情報)の例が対応策として紹介され,JaLC運営委員会からは,日本ではそれらのサービスはJaLCでも検討していくが,第三者にもアプリケーション開発を働きかけていきたい旨の発言があった。また,論文に加えてデータ,研究者,助成金等の研究情報を関連付けて整備していくためにどのような構造をもつべきかという問題提起があり,たとえばORCIDなどの識別子で情報をパッケージ化するなど意見が交換され,DOIをもつことでいろいろな試みが可能になるというコメントもあった。機関リポジトリについては,論文の置き場であったものがデータの置き場になりうるかが今後の課題としてあげられ,リポジトリ関係者からは,大学の生産するものはすべて,研究活動の終点だけではなく始点,中間点に生産される情報についても登載したいという展望が話された。

図7 会場の様子

4. おわりに

これまで,JaLCの運営にあたって外部に開かれた話し合いをもつ機会はあまりなかったが,今回公式な場としてははじめて「対話・共創の場」をもつことができた。この場で話された問題は明確な答えが出るような性質のものではないが,異なる立場の関係者が直接話し合うことで,JaLCに関する理解だけではなく,それぞれの事情について相互の理解が深まったように感じた。本会合の一番大きな成果は,このような場をもつことができたことであると思う。会合後の参加者アンケートでも好意的な意見を多くいただいた。JaLC運営委員会および事務局では,今後もこのような場を開くなど,外から意見をいただいてJaLCの運営方針に生かしていくための取り組みを行っていきたいと考えている。今回は,多少背景が複雑であり前提知識を必要とするものであったため,比較的少人数でテーブルを囲んで話し合う形式をとった。参加者のほぼ全員から発言をいただくことができ,この形式が効果的であったと思うが,JaLCの活動への理解や協力をさらに求めていくにあたって,次回以降どのような形式が適切かについても検討したい。

なお,本会合の発表資料および動画をJaLCのWebサイト(http://japanlinkcenter.org/)に掲載しているので,興味のある方にはご覧いただければ幸いである。

(ジャパンリンクセンター事務局,JST 中島律子)

参考資料

  1. a)   ジャパンリンクセンター運営委員会. “ジャパンリンクセンターとは何か:その成り立ちと基本方針”. http://japanlinkcenter.org/top/doc/JaLC_policy.pdf, (accessed 2014-10-08).

 
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