Journal of Information Processing and Management
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Meeting
Super guidance! University library and Learning Commons : The largest scale! "Academic Commons" from Kwansei Gakuin University
Noriko OKA
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2014 Volume 57 Issue 9 Pages 690-693

Details

  • 日程   2014年9月19日(金)18:30~20:00
  • 場所   田辺三菱製薬株式会社
  • 主催   情報活動研究会(INFOMATES)
  • 後援   一般社団法人情報科学技術協会(INFOSTA) 独立行政法人科学技術振興機構(JST)情報企画部

  • 話題提供者:井上 昌彦 氏 関西学院大学 神戸三田キャンパス図書メディア館
  • 参加者数:24名(運営委員7名含む)

今回は,大学図書館で最近話題の「ラーニング・コモンズ」について紹介していただいた。現在多くの大学に導入され,学生の主体的な学びの場となっているそうだが,どういうものか知る機会は少ない。大学図書館との関係や,教師や学生はどのように活用しているのか,ぜひ現場にいる方から話を聞きたい,という要望に応えて,関西では最大級のラーニング・コモンズを設立したという関西学院大学の井上昌彦氏から話題提供をしていただいた。

1. ラーニング・コモンズとは何?

まず定義から紹介する。ラーニング・コモンズは,もともと1990年代にアメリカで始まった大学の機能であり,大学図書館の役割が大きく変化してきた経緯がある。文部科学省の「学術情報基盤実態調査」によると,「複数の学生が集まって,電子情報も印刷物も含めた様々な情報資源から得られる情報を用いて議論を進めていく学習スタイルを可能にする『場』を提供するもの。その際,コンピュータ設備や印刷物を提供するだけでなく,それらを使った学生の自学自習を支援する図書館職員等によるサービスも提供する」とある1)

他の定義をみると,米澤誠氏による「インフォメーション・コモンズからラーニング・コモンズへ:大学図書館におけるネット世代の学習支援」では,一部の抜粋だが,「学生が自主的に問題解決を行い,自分の知見を加えて発信するという学習活動全般を支援する…」とある2)。さらに呑海沙織氏による「大学図書館における学習支援サービス再考―学習支援を再構築するラーニング・コモンズ」でも,「学習支援のための設備・施設,人的サービス…」という表現がある3)

これらの説明から,「人的サービス」がある「場」だと理解できる。そしてただの「場」ではなく,学生が自主的に問題解決を行う学習支援空間である,ということもわかった。目的は学生のアクティブ・ラーニングであり,従来の「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり」「学修者が能動的に学修することによって,認知的,倫理的,社会的能力,教養,知識,経験を含めた汎用的能力の育成を図る」ということが,中央教育審議会の資料にうたわれている。現代社会では,上記したような能力の人材が望まれていることを反映して,大学の機能をはじめ教育の改革が大変なスピードで進んでおり,そのあり方の1つだととらえることができると思われる。場所は大学図書館内に設置されることが多い(8割程度)そうだが,必ずしもそうとは限らない。関西学院大学では,井上氏のおられる図書メディア館とは別に設置されている。

2. 関西学院大学のアカデミックコモンズ

関西学院大学では,ラーニング・コモンズ(以下,ラーコモ)は2013年度に設立されたばかりである。現在試行錯誤しながら利用開始されており,今のところ正課外の諸活動にも大きなウエイトをかけており,1,2年生の利用が多いとのことである。それにしても,このように大学生の恵まれていることに感心してしまう。大学のキャンパスは山の中で町から隔離された場所とのことだが,その4,400㎡もの敷地に,「アカデミックコモンズ」がある。学生が毎日長時間過ごせる学びと集いの場として,大変な人気になっているとのことである。また注目したいもう1つは,アカデミックコモンズ建屋には,学生が日常出入りする管理セクション(教務部,学務部などの機能をもつ管理系事務室,学生支援相談室,保健室まで)のほとんどが入っていることである。このように学生が過ごす大学の生活空間が,いかに学生中心に設計されているかということをうかがい知ることができる。

そこでアカデミックコモンズのパンフレットを紹介しよう。このパンフレットには,表紙に「アカデミックコモンズでしかできない50のこと。」と書いてある。「50も多い!」「これはいったい何なんだ?」とめくっていくと,果たしてどのページも一目瞭然で,50のことが書かれていた。コンセプトは,出会う→気づく→深める→形にする→共有する→(出会うへ一周する)の5つ,全体を4つのパートに分け紹介された見開きページには,その50のことに番号が振られて載っていた。50を確かめずにおれない私などにも,ぐうの音も出ない内容ですっかり満足してしまった。またどれも,写真と簡単な説明があり,誰にでもわかりやすく,「行ってみたい」「使ってみたい」という気持ちにさせてくれる。ちなみに1番目は「学びの空間をデザインする」というコンセプトで,机や椅子が自由自在に動かせて楽しい形になるらしい。色もさまざまで,場により一目でわかるようになっているが,遠すぎていけないのが残念である。そして50番目に「やりたいことを実行!!」とあり,「クレセントサポーター」と記されていた。どうもこれは前述した定義にあった人的サービスの1つだろう。自主的に自らイベントを企画実行しようとするときに利用する場である。この説明に「『world cafe』の手法を用いて」の一文を見つけてうれしくなった。49番目は,人的サービスの1つ,クレセントチューターで「わからない時は悩まず相談」というコーナーとなっており,至れり尽くせりである。特徴ある項目として,3番目「本を通じた気づき・出会いを」では,カジュアルライブラリーのコーナーが紹介されている。本は誰でも自由に持ち出して読んでよいそうだ。このコーナーは本棚プロジェクトが企画していて,講師の井上氏もその担当委員の1人とのこと。このプロジェクトメンバーがビブリオバトルの大会で日本一に輝いたとのことであり,実に楽しそうだ。これに関連して48番目は,「気づきのきっかけ『プロジェクト型アクティビティ』を企画してみよう!」というコンセプトで,先の本棚プロジェクトをはじめIT世界展開プロジェクトやアイデア創出型コンテストのようなものがいっぱいある。つまりアカデミックコモンズは,「何かやってみたくなる空間」だということだ。これ以上は言葉を尽くしても説明し切れない。パンフレットには,2~48番目のできることが満載なので,ぜひカタログないしはサイトを参照されたい。

Webサイト http://www.kwansei.ac.jp/kgac/

当日は動画を見ることができなかったのが残念であるが,「一見は百聞にしかず」,何よりも現場を見たほうが早いだろう。

3. ラーニング・コモンズの先には

いよいよ講師からのプレゼンも終盤になり,今後ラーコモをはじめ大学における教育は一体どうなっていくのか,図書館やライブラリアンは,教員や大学本体とどのように連携をするのか,というもっとも重要な課題が投げ掛けられた。

講師から,大学では学習支援機能というものがますます重要視され,将来の教育活動への直接の関与や研究支援の機能へと拡大していくことが要求されているとの話があった。そして,この専門的知識やスキルの変化の流れがあることや,ライブラリアンの伝統的サービスが評価を勝ちとれなかったことについて話された。そこで専門職としてのライブラリアンは,将来何を見据えていくべきかが極めて重要な課題といえる。このことは参加した関係者は皆痛切に感じていることでもある。続いて講師から「リサーチ・アドミニストレーター」という制度に関する説明があった。「リサーチ・アドミニストレーター」とは,文部科学省サイトによると「研究開発内容について一定の理解を有しつつ,研究資金の調達・管理,知財の管理・活用等をマネジメントする人材」とのこと4)。これは従来の大学の事務職でもなく教師でもなく,その間をつなぐ人材ということであり,今後の大学図書館のあり方を示唆しているものである。リサーチ・アドミニストレーターは,大学院生と学生,先生と学生とのコミュニケーションを支援するもので,仕事は多く非常に忙しいとの話である。私たち図書館に関係する者は,大学,企業や公共図書館などに所属しており,「リサーチ・アドミニストレーター」としての能力は,これからの社会が必要としている機能であり,求められる人材だということが理解できた。

ここで講師からのお話はいったん終わり,その後は5つのグループに分かれディスカッションを行った。

4. さいごに

今回の講師のお話から,ラーコモをまとめると次のようなことになるだろう。

  • •   会話OK・飲食OK・PC環境(ノートパソコン貸し出しもOK,電源などにも対応)・可動式机,椅子,ホワイトボードなどの什器(じゅうき)など何でもあり・サポートしてくれる人(この存在は大きい)あり。

大学により形態こそ異なるが,学生にとって将来の社会に役立つ能力を育成する場である,という目的は同じである。だからこそ大学では,それぞれの特徴やコンセプトが独自に打ち出され,着実に増えている。

井上氏からのプレゼンは,大変わかりやすく楽しい話が中心であり,終始和やかで,フレンドリーな研究会となった。最後のグループ討議も自由な雰囲気で行われ,あっという間に過ぎてしまった。ラーコモを知ることができた一方で,大学図書館との連携,さらに専門図書館の将来についても考えるよい機会となったのではないだろうか。講師から出された課題を心にとめながらお開きになったが,懇親会ではさらに講師にいろいろな質問が飛び交っていた。

ちなみに井上氏は空手家,「空手 図書館」で検索するとすぐ見つかるので,ぜひご閲覧いただきたい。参加者は,何かしらの新しい知見を仕入れられたのではないだろうか,また,自身への今後の業務の目標ができることを期待している。

井上氏ブログ http://karatekalibrarian.blogspot.com/

最後に,INFOMATESは,結論を出すということより,自分自身にとって何か1つ発見できることが目的です。そして互いに顔見知りになって,人的ネットワークを広げていくためにあります。今後のテーマについて希望がありましたら,アンケートやメールで,ご連絡ください。どなたでも自由に参加できますので,奮ってご参加ください。

(INFOMATES運営委員 岡 紀子)

参考文献
  • 1)  文部科学省. “大学図書館の機能・役割及び戦略的な位置付け”, 大学図書館の整備について(審議のまとめ)概要学術情報基盤実態調査. http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/attach/1301607.htm, (accessed 2014-10-30).
  • 2)  米澤誠. インフォメーション・コモンズからラーニング・コモンズへ:大学図書館におけるネット世代の学習支援, (CA1603動向レビュー). カレントアウェアネス. 2006, no. 289, p. 9-12. http://current.ndl.go.jp/ca1603, (accessed 2014-10-30).
  • 3)   呑海 沙織. 大学図書館における学習支援サービス再考:学習支援を再構築するラーニング・コモンズ. SALA会報. 2012, no. 20, p. 2-3.
  • 4)  文部科学省. “リサーチ・アドミニストレーター(URA)を育成・確保するシステムの整備”. http://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/ura/, (accessed 2014-10-30).
 
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