2015 Volume 58 Issue 2 Pages 100-106
日本音響学会は1936年発足以来,「音」に関するあらゆる分野の学術交流の場として,学会誌・論文誌の発行,研究発表会や研究会,技術講習会の開催などを進めている。現在,約4,300名の会員が活発な活動を行っている。本稿では,学会誌での論文発行,研究発表会などを中心に,日本音響学会における学術情報発信の現状を紹介し,その課題について述べる。和文誌には和文論文に加えて解説記事や特集記事を毎号掲載している。英文誌も35年以上発行しており,J-STAGEにおいてオープンアクセスで公開している。本稿では,論文発行などの研究情報の発信状況と課題について概説する。
一般社団法人日本音響学会は「音」に関するあらゆる学術分野を扱う学会であり,正会員,学生会員合計約4,300名を擁し,賛助会員約200社の協賛を得ている。1936年の発足以来,学会誌の発行をはじめ,学会全体で開催する春と秋の研究発表会,研究分野ごとの月例の研究会,また,技術講習会,シンポジウムの開催などを通し,研究者や技術者に情報交換の場を提供してきた。この会員数は,世界では米国音響学会に次ぐものである。定期的に米国音響学会とジョイントミーティングを開いており,次回は2016年11月28日~12月2日に開催予定である。国際的にはInternational Congress on Acoustics(ICA)のメンバー学会としていくつかの国際会議運営に協力している。European Acoustics Association(EAA)とも協力を行ってきている。また,韓国音響学会と相互の支部レベルの交流があるなど,アジア地域の音響関係学会とも協調している。
1.2 分野横断的・学際的な構成日本音響学会が扱う「音響」の分野の特徴は,その広がりの大きさにある。物理学としての音響学はもちろん,スピーカーやマイクロホンに代表される音を出したり検出したりするデバイスを扱う電気音響,室内の音響特性を研究する建築音響,建物あるいは戸外の騒音についての騒音・振動の分野などがある。一方,最終的に音を感じるのは人であり,人間の聴覚については耳の仕組みから脳における認識,心理学まで,それだけで広い学問分野になっている。また,声の出る仕組みや言葉を認識する仕組み,あるいはそれらを工学的に実現する技術を扱う音声分野も音響学会を代表する大きな研究分野である。また,音楽や楽器に関することも1つの研究分野を構成している。さらに,聞こえない音である超音波も,非破壊検査や医用診断装置のような計測応用から超音波洗浄機のような工業利用まで広範な応用分野を有している。また現在では,ほとんどの音声信号はデジタル信号として扱われるので,その処理法や圧縮法,それらを駆使した音場再現手法などの研究が行われている。
このようにいろいろな異なった分野の研究者が「音」をキーワードに一緒に議論を行える環境を提供していることが,日本音響学会の特徴であると同時に,当学会の使命でもある。
1.3 研究分野日本音響学会では,音声,聴覚,騒音・振動,建築音響,電気音響,音楽音響,超音波,音響化学,アコースティックイメージングの9分野の研究委員会を組織しており,この単位で春と秋の研究発表会のセッションが組まれている。さらに分野を横断するテーマを選んだスペシャルセッションも企画される。また,各研究会は個別あるいは共催で研究会を年に数回〜11回開催している。
このほかに,新しい研究分野を作る準備や特定の課題,緊急性のある課題のために以下の調査研究委員会が組織されている。
調査研究委員会も研究発表会でセッションを企画したり,独自に研究会を開いたりしている。
日本音響学会における研究情報は,
1)学会誌の原著論文等
2)春と秋の研究発表会における論文集
3)研究会資料
の3つであり,次章以降でこれらの発信状況について述べる。
和文誌『日本音響学会誌』を毎月,英文誌『Acoustical Science and Technology(AST)』を奇数月に発行している。これらの表紙デザインを図1に示す。和文誌は音叉(おんさ)注1)を,英文誌は音が広がる様子を図案化している。2015年1月に発行したのは,和文誌が第71巻1号,英文誌が第36巻1号である。学会誌の編集のために編集委員会があり,解説記事などの企画を行う部会と投稿論文の審査を行う部会に分かれている。
和文誌は紙媒体で毎月発行され,会員や特殊会員(図書館等)に配布されるので,4,500部程度の発行部数である。毎号,原著論文のほか,充実した解説記事を掲載している。特に,奇数号ではテーマを絞った小特集として6~7件から成る解説群を掲載している。このテーマに合わせて論文投稿の募集を行う場合もある。英文誌ASTでも解説記事を掲載する場合があり,そのときにはその抄訳を和文誌に掲載するようにしている。
たとえば,第71巻1号では次の小特集が企画された。
小特集「聴覚特性の理解に基づく音響電子透かし技術とその評価」と題し,次の解説記事を掲載した。
一方,英文誌は1980年より『Journal of the Acoustical Society of Japan (E)』として紙媒体で隔月に発行してきたが,2000年より『Acoustical Science and Technology』に刷新した。巻号は『Journal of the Acoustical Society of Japan (E)』から引き継ぎVol. 21から始まる。やはり隔月で奇数月にJ-STAGEにおいて公開している。なお,旧論文誌『Journal of the Acoustical Society of Japan (E)』についても,2011年2月に創刊号からすべてがJ-STAGEで公開されたので,Webから閲覧できる。

和文誌へ投稿される原著論文の数の推移を図2に示す。和文誌では「論文」のほかに「技術報告」等がある。技術報告等を「その他」に分類している。ここ10年で和文誌への投稿数が減っていることがわかる。これは,できるだけ英文誌へ投稿するという昨今の一般的な傾向を反映しているものと考えられるが,かなり以前より和文誌の在り方が議論になっている。原著論文は英文誌のみとし,和文誌は解説に特化すべきではないかという意見もある。一方で,音響分野の場合,言語にかかわるものなど,その研究内容によっては日本語で書くべきものもあるという考え方もある。和文誌の役割については今後も議論を行っていくが,電子化と分けて考えることはできないであろう。
一方,英文誌への投稿状況を図3に示す。英文誌では,オリジナル研究論文として,Paper(原著論文)に加えて研究速報の性質をもつLetter(正式名称はAcoustical Letter)という種別を設けているのが特徴である。英文誌はすでに電子化されており,J-STAGEにおいてオープンアクセスで公開されている。2012年に,紙媒体の配布を中止し,電子版のみとした。J-STAGEにおいては個別論文ごとにPDFファイルをダウンロードできるが,会員はIDとパスワードにより,表紙等を含めて従来の紙版冊子と同様の体裁で学会誌1冊分のPDFファイルを学会サーバーからダウンロードできる。この10年間,PaperとLetterは安定してほぼ同数の投稿がある。
英文誌の完全電子化に際しては,事務局に請求すれば,紙に印刷したものを有料で支給するオプションも準備した。しかしながら,このサービスの利用請求はこれまでに発生していない。このことから,電子版のみで,ほぼ問題は起きていないと考えている。印刷をなくすことによるコスト低減効果,また,タブレットなどの最近の電子端末の普及による利便性の向上効果は大きいので,和文誌でもゆくゆくは電子公開を考えたい。なお,年に1回,和文誌と英文誌の記事を1枚のCD-ROMに収めて和文誌に添付している。また,和文誌において著者に渡す別刷りは2015年1月より紙版を廃止し,PDFファイルを著者に支給している。


前述のように,当学会は多彩な分野から構成されているので,編集委員会論文部会では,分野ごとに2~3名ずつの委員を置いている。原則として投稿時に著者が選んだ分野あるいは編集委員会で適切と考える分野の編集委員がその論文を担当し,査読者の選定や査読のとりまとめを行っている。採否に関しては,編集委員長ならびに編集委員会の責任において決定している。
学会誌の原著論文を投稿する著者の立場からすると,投稿してからどれだけ早く掲載出版されるかということに興味があるだろう。投稿した日から掲載までに要している日数をまとめた結果を図4に示す。英文誌のLetterで半年程度,和文論文とPaper(英文論文)はいずれも1年弱となっている。音響分野の論文誌としては比較的短い時間で発行しているといえる。しかし,たとえば英文誌のLetterの正味の査読に要した日数は,2回目の査読を行った場合を含めて平均50日前後となっており,発行までの時間をさらに短縮する余地がありそうである。1つには,英文誌は2か月に1回の発行なので,査読が完了して採録が決定するタイミングがたまたま発行日の直後であると,次の発行日まで60日近くが待ち時間となってしまう。この点は電子出版の利点をまだ十分に生かしていないとも考えられ,その対策を検討している。なお,英文誌については英文校閲業者と契約しており,査読完了後に英文校閲にも2週間程度を要している。論文やPaperの場合は正味の査読日数は平均して150日強程度である。

日本音響学会では3月と9月に学会をあげたメインイベントとして研究発表会を行っている。3月(春季研究発表会)は首都圏,9月(秋季研究発表会)は首都圏以外で開催することが慣例となっている。3日間の開催で,首都圏開催の場合で1,500名程度,首都圏以外の開催の場合で1,200名程度の参加がある。また,発表件数は図5に示すように600件前後であり,年間で合計1,200件である。会員数4,300名に対して研究発表会に参加し論文発表を行う会員の割合が大変高いことがわかる。この研究発表会の論文集は1件あたり2ページまたは4ページと充実した内容になっており,年間で1,200件,合計,数千ページにのぼる。2013年,2014年の分野別の発表件数を表1に示す。音声,電気音響,超音波などの件数が多いことがわかる。
現在,研究発表会の論文集は電子データをCD-ROMに収めた状態で,概要を印刷した冊子とともに参加者に配布されている。この豊富な研究情報をいかに外部に発信していくのかが課題になっている。研究発表会の研究のうち当学会の学会誌に論文等として発表されるものは,単純計算で6~7%と低い値にとどまっている。一昨年から,和文誌において英文誌のLetterに相当する「研究速報」という種別を追加し,研究発表会の成果を学会誌に誘導する仕組みを作ったが,まだ当初の狙いが十分果たされてはいない。今後,春と秋の研究発表会での研究情報の公開の方法を検討していく。

| 2013年 春 |
2013年 秋 |
2014年 春 |
2014年 秋 |
|
|---|---|---|---|---|
| 音声A | 90 | 82 | 96 | 60 |
| 音声B | 103 | 80 | 102 | 91 |
| 聴覚/聴覚・音声 | 49 | 42 | 49 | 39 |
| 電気音響 | 123 | 97 | 100 | 76 |
| 電気音響/聴覚(共催) | ‐ | 16 | 14 | 59 |
| 音楽音響 | 39 | 22 | 29 | 20 |
| 騒音・振動 | 27 | 20 | 25 | 48 |
| 建築音響 | 37 | 52 | 33 | 76 |
| 超音波/水中音響 | 86 | 78 | 79 | 68 |
| アコースティックイメージング | 13 | 10 | 11 | 11 |
| 音響教育 | ‐ | 2 | ‐ | 5 |
| 音支援(音バリアフリー) | 5 | 9 | ‐ | 6 |
| 熱音響技術 | 5 | 9 | 6 | 10 |
| 音のデザイン | ‐ | 4 | 7 | 3 |
*分野に独立したスペシャルセッションを除く
先に紹介した各研究分野の研究委員会,調査研究委員会がそれぞれ研究会を定期的に開催している。これらは複数の研究会で共催されることもあるほか,関連他学会と共催することもあり,その論文集などの研究情報のまとめ方は複雑になっている。すなわち,複数の学会で研究会を開催する場合,その論文集をどちらの学会が編集・印刷するのか,また,その著作権はどの学会に帰属するのか,など,歴史的経緯もそれぞれあり,ケースバイケースとなっている。たとえば,超音波研究会は年間11回開催されるすべてが電子情報通信学会と共催になっており,論文集の編集・発行は電子情報通信学会が行っている。また,これに加えて,非線形音響研究会(4月),日本超音波医学会(6月),日本レオロジー学会(7月),海洋音響学会(8月),日本塑性加工学会(12月),非破壊検査協会(2月)とも共催しており,外部の関連学会との重要なリエゾンの役割も果たしている。一方,日本音響学会内でも,電気音響研究会(1月),アコースティックイメージング研究会(6月,2月)と共催し,境界分野の研究発表,議論の場を作っている。
研究会の論文集は1件あたり通常6ページ程度と,論文並みの研究情報となっているものも多く,実質的に非常に貴重かつ有効で新しい情報である。この情報をどのように電子化あるいは公開していくのかも課題である。
論文投稿と査読のためのWebシステムを独自に構築しており,著者,編集委員,査読者はそれぞれのタスクをWeb経由で行うことができる。これにより投稿から採否決定までを効率的に進めることができているが,現状のバージョンは英語対応が不十分なことが問題になっている。海外からの投稿を増やすには,投稿システムの利便性が重要であるが,システムの修正コストなど,当学会くらいの規模では,このようなシステムを独自にもつことは大きな負担となっていることも確かで,すでに広く使われているシステムを利用した方が費用対効果の点でよいとも考えられ,検討を行っている。
また,英文誌は前述のようにJ-STAGEにおいてオープンアクセスで公開されているので,引用も増えており,Google Scholar(https://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja)やScopus(http://www.scopus.com/)からも検索可能となっている。しかし,国際誌としてのプレゼンスをより高めることが課題であり,より多くのデータベースに掲載されるようにしたいと考えている。そのためには編集委員の国際化も必要であり,そのような編集委員会で作業を行うためにも優れたWeb投稿・査読の仕組みが必須である。また,アクセス数などの情報を運営にいかにフィードバックしていくかが課題である。
和文誌は国立情報学研究所電子図書館(NII-ELS)に収録されているが,電子図書館(NII-ELS)の事業終了注2)に伴い,J-STAGEへの移行を検討したいと考えている。前述した研究発表会での年間1,200件の予稿論文の公開方法と併せて考える必要がある。また,CiNiiの機関利用料収入も当学会としては小さい額ではなかった。オープンアクセスは論文の著者にとってプラスに作用する。学会誌としてもプレゼンスの向上に貢献すると考えられる。しかし,会員サービスの差別化の観点からは,慎重に検討せざるをえない。当学会は,前述のように研究発表会に参加したり,論文発表を行ったりするアクティブな会員の割合が大変高いが,それでも過半数の会員にとっては,学会誌だけが実際に享受している会員サービスとなっている。これを非会員でも受けられるようにすると,会員メリットはなくなってしまう。オープンアクセスとするのを会員への頒布から時間的に遅らせる(エンバーゴ)などの方法で会員メリットを担保することが考えられるが,引き続き検討が必要である。
日本音響学会の学会誌,研究発表会,調査研究委員会における研究情報の発信状況について概説した。英文誌は長らくJ-STAGEにおいてオープンアクセスで公開されている。しかし,査読時間は比較的短いにもかかわらず,投稿から発行までにはむだ時間もあり,時間短縮の方法を模索中である。各種論文データベースへの収録を進めることも課題とされている。また,海外からの投稿はそれほど多くはない。投稿システムの国際対応がまだ不十分な状態にあることも問題であるが,当学会くらいの規模では投稿システムなどの開発に費用をかけることは難しく,すでに国際的にユーザーの多いシステムの利用を含めてよい方法を検討している。一方,和文誌は電子図書館(NII-ELS)には収録されているが,今後の和文論文の電子化と公開をどのように進めるのか,研究発表会の膨大な研究情報の有効な外部発信方法をどうするかも近々に解決すべき課題である。
なお,日本音響学会誌では音に関するQ&Aのページ「音の何でもコーナー」を設けているが,これは学会Webサイトでも公開している。一般からアクセスの多いサイトである。英文誌のJ-STAGEでの掲載ページにもリンクされている(図6)。学会のURLを以下に示すので,一度ご覧いただけると幸いである。
http://www.asj.gr.jp/

東京都生まれ。1992年3月東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。同大助手,講師,助教授を経て,2010年1月より同大精密工学研究所教授。現在,日本音響学会・編集委員会委員長。超音波工学,光計測などの研究に従事。著書に『音のなんでも小事典』(講談社ブルーバックス)など。