2016 Volume 59 Issue 1 Pages 11-18
本稿では,全般的なトレンド情報収集の考え方を整理し,代表的な参考情報源(Webサイト・文献)を紹介している。トレンド情報には主に以下の4種類が存在する。(1)市場トレンド情報,(2)顧客トレンド情報,(3)技術・研究トレンド情報,(4)世の中トレンド情報。特に(4)の世の中トレンド情報を意識してウオッチしておくことが重要である。情報提供・管理ビジネスに携わる関係者は,情報選別の「選択眼」を磨く意識を常にもっておきたい。そして選択眼を磨くには,まずは多くの情報源に当たり,その特性を理解しておく必要がある。
「トレンド」を知るためのビジネス情報収集手法は,情報を扱う多くの関係者にとって,非常に関心が高いテーマだと拝察される。
他社に先んじていかにしてトレンドを読み解くのか,そもそもトレンドというのはどのように把握していけばいいのか,日々,悩んでいるビジネスパーソンは数多い。トレンド把握が重要であることに異を唱える方はおそらくいないであろう。
仕事柄,日々多くのビジネス情報に触れている(触れざるをえない)こともあり,よく顧客から「トレンド情報を一体どのように集めているのか」「どのように多くの情報を咀嚼(そしゃく)しているのか」と尋ねられる。
おそらく,「これぞ正解」という明快な答えは存在しないのだが,よい機会でもあるので,トレンド情報をいかに集めて咀嚼していくのか,私なりの考え方を皆さまにお伝えしたいと思う。
「トレンド情報」といっても,その種類は実に多種多様である。人によってその解釈もさまざまであろう。時間軸でみた場合,「最新」「時系列」「将来」のいずれのとらえ方もある。
本稿では「トレンド情報」を以下4つの分類で整理して考えることとする。
(1)市場トレンド情報
(2)顧客トレンド情報
(3)技術・研究トレンド情報
(4)世の中トレンド情報
いずれも読んで字のごとくではあるが,一応紹介しておく。
(1) 市場トレンド情報特定製品・サービス・業界全体の直近の市場トレンド情報(市場規模や注目企業,新製品等の情報)が主体である。今後特に重視すべきは,市場予測(定量・定性両方)情報と用途先情報(生産財・中間財なら用途先の変化,消費財なら利用者の変化)であることを意識しておきたい。
民間調査会社(富士経済,矢野経済研究所他)資料や当該業界の専門誌等で定点観測されるケースが多い。
(2) 顧客トレンド情報本誌読者の皆さまはこの情報をみている方が多いだろう。最新技術や最新研究開発情報はいつの時代にもニーズが高い。商用データベースやWebサイトなどから有益な情報を収集できるジャンルの筆頭格である。魅力的な専門誌も多い。この分野は,将来予測レポートを併せてみておくことが,1つの肝である。官公庁・業界団体による各種「技術ロードマップ」や「メガトレンド」シリーズ(日経BP社)は業界を問わず,知っておきたい情報源である。
(4) 世の中トレンド情報重要だが見落とされがちなのがこの情報である。業績好調な企業や新規事業・新商品開発に秀でている企業の共通項の1つが,「世の中」全体の流れがよくみえていて,視野が広いことが挙げられる。
「今これが売れているのは,こういう時代背景を反映しているから」「これからはこういう時代になる,そうなるとわが社はこういう取り組みをしていくべきだ」といった要するに「時代感を把握する」ことが重要なのだが,この発想は現業に埋没してしまうと,ついつい忘れてしまう。
以上,4分野を紹介したが,ではこうした情報はどのように集めていくのがよいのであろうか。トレンド情報収集の進め方について,次章で触れることとする。
「視野を広げる」「広げたうえで発想する」という考え方は非常に重要である。
ここまでの流れでお気付きの方も多いと思うが,私はまずは業種業界を問わず,「世の中トレンド情報」を収集する癖をつけるべきだと考える。
そのうえで,各所属機関の実情に応じたトレンド情報を収集していくことをお勧めする。
情報収集の流れとしては,以下のような順番になる。
1)BtoC
〈(4)世の中トレンド〉→〈(1)市場トレンド〉→〈(2)顧客(生活者)トレンド〉→〈(3)技術・研究トレンド〉
2)BtoB
〈(4)世の中トレンド〉→〈(1)市場トレンド〉→〈(2)顧客(取引先)トレンド〉→〈(3)技術・研究トレンド〉
まずは世の中全体の流れを大きく把握したうえで,市場で今何が起きているのかを確認・検証する,そして顧客の状況を確認する。ここまでで「今起こっていること(これまでに起こったこと)」をよく整理し,「これから何が起こるのか」を発想していく。
「過去・現在」を整理し,「将来」を見据えたうえで,「技術・研究トレンド情報」を収集し,深掘りして確認していけば,間違いなく発想領域の広がりを感じていただけるであろう。
ここで簡単に情報収集手法の基本について触れておく。ビジネス情報を探す際の基本プロセスは今も昔もそんなに大きく変化していない,というのが私の考えである。
私自身はどんな情報を収集する際にも,この順番を崩すことはまずない(図1)。
(1)官公庁/自治体→(2)業界団体→(3)シンクタンク/金融機関→(4)民間調査会社→(5)有力全国紙・ビジネス誌,有力メディア→(6)業界専門誌紙
「これが王道」と,もうかれこれ20年以上にわたり,各所で訴え続けてきた。ビジネス調査する際には,この順番で肉付けしていくことが非常に有効だと思う。あくまでも肉付けの順番であり,いずれの情報ソースにも特徴(表1)があり,いずれも有益であることを申し添えておく。
情報源 | 特徴 |
---|---|
官公庁/自治体 | 調査の規模が大きく,信頼性・客観性が高い。国内・海外を問わず,国の成長戦略の確認は必須である。トレンド情報の視点からは,将来ビジョンや技術ロードマップは必見。新たな委員会や審議会が立ち上がった際にはぜひ注目しておきたい。 |
業界団体 | 調査したい業界に業界団体が存在するかどうかは最初にみておきたい。業界団体のデータが業界スタンダードになるケースもみうけられる。業界ビジョン報告書を発刊している場合はぜひ入手したいところ。 |
シンクタンク/金融機関 | アナリストレポートを筆頭に特定の業界や企業について,コンパクトにまとめられている。Webサイトで入手できるレポートも増加傾向。日本企業は金融等特定の業界を除くと,海外企業に比べ,利用が少ない印象があり,実にもったいない。 |
民間調査会社 | 富士経済,矢野経済研究所等の大手をはじめ,特定業界の専門機関もさまざま存在する。海外にも多数存在。日本国内では,10万円前後の文献が中心。調査会社の刊行資料から時代のトレンドを読み取れる。 |
有力全国紙・ビジネス誌 | メジャーな新聞や雑誌において,どのような特集が取り上げられているのかは把握しておきたい。特に企業特集は深読みしておきたい(なぜこの企業が特集されているのか,注目される理由は,といった視点)。 |
業界専門誌紙 | 速報性が高く,業界誌紙にしか載らない,ややマニアックな情報が得られることが大きな特徴。当該業界のメーカー・流通業とのつながりが深いため,製品情報や参入企業のコメントが豊富。年間契約を前提としたものも多い。 |
虎の巻,という少し懐かしいコトバを使ってみた(若い読者はご存じであろうか)。ここでは,トレンド情報収集において,もっておきたい考え方をいくつか示しておこう。
1) 追いかけるのではなく,「先回りする発想」をもつおそらくトレンドを追いかけている間は,いつまでたっても時代の後追いである。前にも述べたが,今起こっている事象を参考に,今後はこういう時代になっていくということを常に頭の中で発想する癖をつけるべきである。これはトレーニング次第で相当強化できる。中期経営計画立案,中期研究テーマ検討,もちろん新規事業発想にも必ず役に立つのが「先回り」発想である。
2) なぜ「そうなっているのか」自問自答する国内・海外問わず,世の中では不思議な事象が多く見うけられる。たとえば,欧米が先行する形で,その音質のよさが再評価され,アナログレコードの人気が復活している。この世界的なアナログレコード大復活を予見した人は一体どれくらいいるだろうか。音楽配信全盛の時代にアナログレコードがはやるのはやはり不思議な事象に私には映る。また,デジタル化が当たり前の世の中で,なぜアナログ製品である高級紙製品や文具に顧客は引かれるのか。
世の中のトレンドがデジタル一辺倒であれば,アナログの世界でヒット商品が生まれる,なぜかひと手間かけた商材が売れる,といった事象は普通に起こっている。こうした事象を説明するには,世の流れや人間の心理を深読みしないと背景がみえてこない。今起きている事象から世の中を読み解き,そこから自分のビジネス領域に与える影響や自社の事業展開につながるヒントを会得できるかどうか…,非常に重要な視点である。
3) 自分で「トレンドを予測」してみる個人的に続けていて有効だと感じていることの1つが,自分でトレンドを予測する,という行為である。「来年はこういうものが流行(はや)るのではないか」「このビジネスが今後3年以内にブレークしそうだ」「鍵となる技術はおそらくこれとこれになる」といったことを定期的に予測することはビジネス展開においてもよいトレーニングになる。
私の場合,仕事柄,こうした予測に加えて,きっと来年は時代がこう変化するので,こういう調査案件がかなり増加するに違いない,と予測し,近年は(たまたまかもしれないが)そんなに外れることがなくなってきた。
ポイントは自分の業界のみにとらわれず,広く世の中を俯瞰(ふかん)しながら(違う業界や顧客の業界などを意識しながら)発想してみることだろう。企業研修等でやってみると面白いと思うが,いかがであろうか。
4) 既存のトレンド予測情報を参照,「その後」を検証する官公庁や業界団体,そして調査会社等が発表する各種将来ビジョンによる未来予測,あるいは年末年始発刊のトレンド誌や業界誌紙でよくみられる「20XX年のキーワード」のような特集記事。
こうした予測は当然当たることもあるが,外れることもある(将来予測自体が難しいのだから,ある意味当然である)。その時点で次年度以降の戦略立案のために参考にする人は多いと思うが,たとえば1年後に実際どうなったかを検証する人はあまりいないだろう。
「この予測はよいポイントをついている」「この資料の内容は自分の発想に近い」といった「頼りになる」情報源を探すという観点からも,時には検証してみるとよいであろう。
5) 「定点観測」する情報源をもつ文献でもWebサイトでも構わないが,定期的に見続けるトレンド情報源を見つける,自分(自社)に新たな気付きや示唆を与えてくれる,相棒のような情報源を見つけてみてはいかがであろうか。
現業関連で読んでいる専門誌やWebサイト以外で探すことが重要である。後ほど,お勧め情報源を紹介するので,皆さまの琴線に触れるようであれば,ぜひ定点観測をしていただきたい。
6) 「過去のトレンド」をみる「情報は最新でなければ意味がない」「とにかく最新情報を探せ」といった声を本当によく耳にする。確かに最新情報は重要だが,過去の情報も相当重要である。
経験上申しあげておくと,情報収集活動に秀でたビジネスパーソンの多くは,過去の統計や年鑑類,情報を大切にしている(ちなみに過去の情報を廃棄してしまい,後悔している企業を多く知っている)。
今注目されている技術があったとすると,「もともとそれはどういう社会背景や期待を背負って登場して来たのか」を知っておくと,他社に差をつけることができる。
たとえば「平成27年版情報通信白書」(総務省)に掲載されている「コネクテッドカー(ICT端末としての機能を有する自動車)」は,その将来性が高く期待されているが,実は約20年前の業界誌ですでに特集記事が組まれていたことはあまり知られていない。
「過去30年未来20年」という私の造語があるのだが,極論すると,延べ50年程度のスパンでビジネスをみなければ,人と違う発想はなかなかもつことができないのではないか。
過去の情報をどうか侮るなかれ。
7) 「観察」の重要性すでに「ブルーボトルコーヒー(東京・清澄白河,2015年2月オープン)」(https://bluebottlecoffee.jp/cafes)や,「シェイクシャック(東京・外苑前,2015年11月オープン)」(http://www.shakeshack.jp)の店舗に実際に出向いた方はどれくらいいるだろうか。前者はコーヒー界のApple,後者はマクドナルドキラーと呼ばれるハンバーガーショップであり,いずれも日本初上陸である。
TVや新聞,雑誌等で知っているという方もいると思うが,トレンドを感じるにはこうした店舗に実際に足を運び,その息吹を感じてしまうのが一番早い。ビジネスの視点でみると,こうした海外の注目店舗が「日本参入を果たした背景は」「顧客層は」「勝算は」といったことが頭に浮かぶ。繰り返しになるが,人が多く集まる場所や話題の場所には,可能な範囲で出向いて観察してみることをお勧めする。
見本市・展示会なども「観察」視点を与えてくれる。「どういう企業が出展しているのか」「この企業は昨年は確か出展していなかった」「あのブースはなぜあんなに混んでいるのだろう(すいているのだろう)」…。その「場」に身を置くことで初めて得られるトレンド情報もある。
ビジネスのヒントはどこに転がっているかわからない。街の息吹から景気回復や景気減速も実は読み取れる。「実際に見て自分で感じる」という行為から得られる「情報」は貴重なはずである。
トレンド情報収集において大事な視点は,前項でも述べた,見続けるこだわり情報源をもつこと,そして,あまり人が見ていない(とおぼしき)情報源を知る,の2点では,と考えている。
トレンド情報を収集できる情報源は数多いが,まずは知っておきたい情報源(Webサイト)を下記にいくつか紹介しておく。参考になる書籍も多々あるので,表2にまとめて整理しておく。
書籍名 | 著者 | 発行元 | 発行年 |
---|---|---|---|
ビジネスの先が読めない時代に:自分の頭で判断する技術 | 小林 敬幸 | KADOKAWA | 2015年 |
ビジネスモデル2025 | 長沼 博之 | ソシム | 2015年 |
イーロン・マスク:未来を創る男 | アシュリー・バンス | 講談社 | 2015年 |
未来に先回りする思考法 | 佐藤 航陽 | ディスカヴァー・トゥエンティワン | 2015年 |
ベンチャーキャピタリストが語る:着眼の技法 | 古我 知史 | ディスカヴァー・トゥエンティワン | 2015年 |
21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由 | 佐宗 邦威 | クロスメディア・パブリッシング | 2015年 |
キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論 | ジェフリー・ムーア | 翔泳社 | 2014年 |
ゼロ・トゥ・ワン:君はゼロから何を生み出せるか | ピーター・ティール他 | NHK出版 | 2014年 |
シグナル&ノイズ:天才データアナリストの「予測学」 | ネイト・シルバー | 日経BP社 | 2013年 |
グロースハッカー 第2版:会社もサービスも劇的に成長させるものの売り方,つくり方 | ライアン・ホリデイ | 日経BP社 | 2015年 |
「捨てない未来」はこのビジネスから生まれる:赤字知らずの小さなベンチャー「日本環境設計」のすごいしくみ | 岩元 美智彦 | ダイヤモンド社 | 2015年 |
日経MJトレンド情報源 | 日経MJ(流通新聞)編 | 日本経済新聞出版社 | 年刊 |
「ポッキー」はなぜフランス人に愛されるのか?:海外で成功するローカライズ・マーケティングの秘訣 | 三田村 蕗子 | 日本実業出版社 | 2015年 |
官公庁や業界団体の作成する報告書は,トレンド情報入手における基本である。どのような情報があるかをしっかりと把握し,事業展開に生かしていきたい。
(1) 経済産業省委託調査報告書/経済産業省ご紹介したい情報源は相当数に上るが,トレンド把握の視点で,特にお勧めできるものは以下である。
(1) 不景気.comここまでほとんど触れてこなかったが,特に海外の投資家やスタートアップ企業の動向を知ることで,今後のビジネス展開の予測に相当役立つことをぜひ知っておきたい。実はトレンド情報をつかみたいビジネスパーソンにとっては,今最も注目しておきたい手段かもしれない。
(1) TechCrunch Japanここまでトレンド情報の収集の際の視点の置き方と参考情報源を中心に話を進めてきた。何らかの形で読者の皆さまのビジネス展開の参考となれば,このうえない喜びである。特に「4. トレンド情報収集~虎の巻」の項で紹介した法則はいずれも不変的な内容だと思っている。
トレンド情報収集に限った話ではないが,よく言われるのが「情報が多過ぎて,どれを見ればよいのか判断が難しい」ということである。本誌の読者も社内で「何を見たらよいのか」という相談を受ける方は多いであろう。
確かに本稿だけでも,10以上のURLや参考文献を紹介している。ではどうすればよいのか。
おそらく「選択眼」を磨いていくほかはない。情報提供・管理に携わる関係者に今求められているのは,間違いなく「選択眼」であろう。
情報量が爆発的に増えていく環境下において,「探せるようで探せない」ユーザーが増えていくのがこれからの時代である。そうなれば,ユーザーに見るべきものを勧めることができることが1つの仕事の価値となる。常に人はアドバイスを求めており,すでにそういう時代に突入しているのだ。
選書,選Webサイト,選データベース……。
「選択眼」を磨くためには,1度は可能性のありそうな情報源に触れるしかないのだ。大変ではあるが,そこに仕事の価値があるなら立ち向かうしかない。
もちろん私自身もまだまだ道半ばではあるが,トレンド情報収集をはじめとしたビジネス情報収集の活動を通じて,これからも「選択眼」を磨いていきたいと考えている。
1990年日本能率協会総合研究所入社。メンバー制ビジネス情報提供機関であるマーケティング・データ・バンク(MDB)において,情報提供業務に携わる。得意分野は,ビジネストレンド情報や新規事業・新商品開発における情報収集手法の解説。講師歴は,個別企業,自治体,図書館向けセミナーをはじめ,日経BP社,東洋経済新報社主催セミナー他多数。