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Restructuring academic libraries in North America
Shinya KATO
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2017 Volume 59 Issue 11 Pages 792-793

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北米の大学図書館で分館の中央図書館への統合・廃止やサービスポイントの集約が進んでいることは,ほとんど紹介されることがなかったように思われる1)

本書『Difficult decisions: Closing and merging academic libraries』は,北米の大学図書館における再編を扱った論文集で,9編(第1章から第9章)の事例と,5編(第10章から第14章)の再編に伴う特定の問題についての詳細な調査から構成されている。各章の内容を1に示す。

表1 『Difficult decisions: Closing and merging academic libraries』の概要
大 学 名 国 名 再編の内容/論点 期 間
1~3 イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 米国 新サービスモデル・プログラムとそれに基づく,国際地域研究図書館,応用健康科学図書館,社会科学図書館の統合 2008-2014
4 ジョージア州立大学機構参加の2つの大学図書館 米国 ダウンサイジングと統合 2012-2013
5 ジョンズ・ホプキンス大学 米国 ウェルチ医学図書館の変貌 2000-2012
6 パデュー大学 米国 経営学図書館の再編,ヒックス学部図書館と人文学・社会科学・教育学図書館の統合 2004-2012
7 コロンビア大学 米国 7つの科学図書館を統合した科学技術図書館の創設 2009-2011
8 マギル大学 カナダ 経営学図書館,教育学図書館,生命科学図書館の統合 2010-2013
9 カリフォルニア大学サンディエゴ校 米国 スクリップス研究所海洋学図書館のガイゼル図書館への統合 2011-2014
10 カリフォルニア大学バークレー校 米国 3つの社会科学図書館のコレクションの統合 2012-2014
11 マギル大学 カナダ コレクション統合における人員配置 2013
12 オーガスタ州立大学とジョージア健康科学大学 米国 統合Webサイトの創設 2012-2013
13 アイダホ大学 米国 図書館とITサービス部門の統合 2002-2003
14 ブリティッシュ・コロンビア大学 カナダ コミュニケ―ションの重要性 2012-2014

なぜ,近年,北米の大学図書館で再編が活発に行われるようになったのだろうか。一方には2008年のリーマンショックに端を発した州財政の悪化に伴う,公立大学の予算の削減があるだろう。この影響は大学図書館の運営費のみならず人件費にも及んでいる。「より少ない労力でより多くのことを行う(doing more with less)」という常套句は,現代の大学図書館が置かれている厳しい状況を示すものである。他方には,学問の変化,学術コミュニケーションの新しい手段,デジタル技術の進歩そして教育理論の転換に対応し,大学図書館自体が変わりつつあるということもあるだろう。たとえば,インフォーマルな学習空間であるラーニング・コモンズの設置や印刷体資料からデジタルリソースへの移行が挙げられるであろう。半世紀にわたって,学問分野と主題専門家である図書館職員と連携してきた伝統的な部局図書館システムが,見直しを余儀なくされているといえるようである。

本書で取り上げられている大学は大規模で,2例(ジョンズ・ホプキンス大学とコロンビア大学)を除いて公立(州立)大学である。しかもイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校と編者のホルダーとラノンが実際に再編にかかわったマギル大学の事例が相当部分を占める。事例に偏りがあるのは確かである。しかしながら,それだけに2つの大学図書館についての事例は読み応えがあるし,図書館の統合に伴うコレクション,職員,サービス,コミュニケーションへの取り組みについて詳細に取り上げたのは,本書が初めてであろう。分館,コレクション,業務の廃止・統合は非常に困難な事業である。特に,歴史的経緯や特定の教員や分野とサービスやコレクションとの結びつきが背景にある場合は,図書館と教員との間に感情的な面も含めてさまざまな軋轢(あつれき)を招きかねない。本書はそれらの点についても踏み込んだ記述がみられる。個人的には,図書館とITサービス部門の組織文化の違いが,どのように組織統合を阻害するかについて,構造,人的資源,政治,象徴の4つの枠組みで分析した第13章が特に興味深かった。

編者らは,北米の大学図書館では,多くの図書館職員が図書館組織の再編にかかわりながら,その経験や教訓が出版物を通じて共有されることがほとんどなかったと述べている。翻ってわが国ではどうであろうか。残念ながら北米と同様に,大学の移転や統合とそれに伴う図書館組織の再編についての事例報告はないようである。この図書の出版を契機に, 大学図書館組織・業務・サービスの再編について改めて議論が行われ,事例報告や調査がまとめられることを期待したい。

『Difficult decisions: Closing and merging academic libraries』Sara Holder, Amber Butler Lannon編 American Library Association, 2015年, 58.00USドル http://www.alastore.ala.org/detail.aspx?ID=11520

執筆者略歴

  • 加藤 信哉(かとう しんや) skato@aiu.ac.jp

公立大学法人国際教養大学特任教授・図書館長。図書館短期大学図書館学科卒業。1976年から2016年まで8つの国立大学図書館に勤務。主な著書に『ラーニング・コモンズ:大学図書館の新しいかたち』(共編訳,勁草書房,2012)『電子書籍と電子ジャーナル(わかる!図書館情報学シリーズ第1巻)』(共著,勉誠出版,2014)『変わりゆく大学図書館』(共著,勁草書房, 2005)など。

参考文献
  • 1)  竹内比呂也. “大学図書館”. 情報資源の社会制度と経営. 根本彰編. 東京大学出版会, 2013, p. 176-190, (シリーズ図書館情報学3).
 
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