Journal of Information Processing and Management
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Symposium "What is the information management profession required private corporations, universities and academia?: Current status of information and records management, and future of research, education and human resource development"
Kazuyuki KIYOHARA
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2018 Volume 60 Issue 12 Pages 898-901

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開催情報

  • 日程   2017年11月17日(金)
  • 場所   九州大学中央図書館4階 視聴覚ホール(箱崎キャンパス,福岡県福岡市)
  • 主催   日本アーカイブズ学会,九州大学大学院統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻
  • 共催   九州大学附属図書館

1. はじめに

日本アーカイブズ学会(Japan Society for Archival Science: JSAS)注1)と,九州大学大学院統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻(Department of Library Science, Graduate School of Integrated Frontier Sciences, Kyushu University: DLS)注2)の両主催団体では,情報管理専門職人材の育成をめぐるシンポジウム「情報管理専門職をめぐる民間企業と大学・学界:記録情報管理の現状と研究教育・人材育成」(2017年度JSAS第1回研究集会)注3)を開催した(1)。当日は大学関係者,図書館・アーカイブズ機関等関係者,民間企業の関係者等,40名近い参加者を得て,活発な議論が行われた。プログラムは,冨浦洋一氏(九州大学附属図書館副館長・DLS前専攻長)の開会あいさつに始まり,筆者(JSAS研究部会委員)による両主催団体を代表する立場からの趣旨説明の後,三谷直也氏(株式会社 日立ドキュメントソリューションズ),高津隆氏(帝国データバンク史料館),岡崎敦氏(DLS教員)の三者がそれぞれ報告を行った。続いて,フロアを交えたパネルディスカッションを行い,最後に保坂裕興氏(JSAS副会長)が閉会あいさつを行った。

本稿では,シンポジウムの趣旨と内容を紹介し,その意義と今後の展望を述べる。

図1 シンポジウム会場

2. 開催趣旨

趣旨説明では,アーカイブズ学の視点から,「情報管理」という言葉を主題に掲げた意味と,その専門職育成における現状について整理した。アーカイブズ学界では,20世紀末頃の社会におけるアカウンタビリティ要請の高まりを背景にして,組織における現用記録管理への関与の重要性が指摘されてきた。しかしながら,近年,電子環境において取り扱うべき情報の類型や性格が多様化する中で,従来の記録管理(records management)という表現は情報管理(information management)という表現に取って代わりつつある注4)。この表現の変化には2つの点が含意されているものと考えられる。第一に,証拠としての「記録」それ自体の事後的な管理・保存から,作成・収受される「情報」を生み出す組織の業務プロセス自体の管理への重点の移行,第二に,情報を資産として位置づけることで,その価値づけと積極的な利活用の促進が図られてきている点である。このような情報管理の民間企業における取り組みとして,三谷氏は業務プロセス全体の管理をプロジェクトマネジメントの技法を用いて支援する事業の実際と課題について報告した。また,高津氏からは企業資料の価値の再発見や利活用が求められるビジネス・アーキビストのあり方についての報告を得た。

他方,現在の日本社会での情報管理専門職のキャリア形成をめぐっては,その送り手と受け手双方における遮蔽(しゃへい)要因が存在する。すなわち,受け手である民間企業のジェネラリスト志向の人事制度と,人材を送り出す側である大学院における専門的教育・研究の社会との不適合という問題である。そこで,岡崎氏は近年の欧米の情報管理専門職をめぐる動向を踏まえて,これらの要因を乗り越える専門職養成のあり方について報告した。

3. 各報告の概要

3.1 「企画」「開発」「運用」が三位一体となったプロジェクトマネジメント支援:記録情報管理の視点から(三谷直也氏)

三谷氏は,自社のプロジェクトマネジメント支援事業の具体的取り組みについて報告した。実際の支援にあたっては,プロジェクトの開始から終了までの全体の作業手順を事前に計画し,その計画に基づいてプロジェクトの作業状況をコントロールしていくこと,また,プロジェクトに必要なすべての書類や製品について,適切な期限管理を行うことを重視しているという。記録情報管理の視点からみた課題として,部署間での情報の一元管理の徹底,顧客やプロジェクトに関わる各ステークホルダーとの密なコミュニケーションの必要性を指摘した。

3.2 企業の記録と資料を守るために:出番を待つアーカイブズ専門家(高津隆氏)

帝国データバンク史料館では最近アーキビストを採用したが,同館館長の高津氏はその採用の経緯と,ビジネス・アーキビストに求められる資質について報告した。同社では例外的な,外部からのキャリア採用を行ったが,キャリア採用は自分から意識的に関与しない限りは,資料が生み出される現場の業務に精通することが難しい。そのため,アーキビストには現場に出ていく積極的姿勢や,資料受け入れ等のルールを自ら設定する能力,また,社内外に新たなネットワークを構築し,それを活用しつつ,新たな資料価値を発見し利活用していくプロデューサーとしての役割が求められると指摘した。

3.3 21世紀の情報管理専門職の養成について(岡崎敦氏)

岡崎氏は,21世紀の情報管理専門職をめぐるキャリア形成の問題を論じた。まず,現在の欧米におけるアーキビストの職務標準を概観し,その特徴として,専門職キャリアが階層化されていること,また,業務自体のマネジメントと資料の「価値づけ」戦略への関心の高まりを指摘した。続いて,情報管理の鍵を握るのは業務の証拠性を担保し,業務を超えた情報の社会的価値を付与するメタ情報管理であるとし,民間企業においては業務自体を評価・統制する経営管理部門や組織内の多様な価値の再発見と利活用のための研究開発部門との結合,さらには,広報・ブランド戦略を促進する企業の社会的責任との関係で情報管理ミッションが行われうることを示唆した。これらのミッションを遂行する情報管理専門職の養成にあたっては,大学と企業共同による教育プログラムの開発やダブル・ディグリー注5)の導入,共同研究開発や中長期的なインターンシップの実施,そして,情報管理諸領域の連携によるミッションや基礎教育の統合が必要であると指摘した。

4. パネルディスカッション

フロアを交えた総合討論では,業務全体のマネジメントと資料や情報への新たな価値づけが可能な情報管理専門職をどのように育成していくかという問題について,中心的に議論した(23)。岡崎氏は,ある特定の知識を教え込むのではなく,情報管理のいくつかの基本的なあり方,一般的原理や将来的な可能性を教授したうえで,実習等を通して現場の多様な仕事や資料について学んでいくことが必要であるとの見解を示した。他方,高津氏は企業においては高度な専門知識よりも,企業がもつ資料やデータから顧客やステークホルダーの求めるものを分析し,価値を見いだす柔軟な創造力が求められるとして,大学院での限られた教育期間の中でも,積極的に企業や社会人と接触し,豊富な経験を積むことが重要であると指摘した。また,IT化の進展によって最初から紙が発生しない業務の仕組みが普及していく中で,証拠性をどう担保していくかということや,こうした流れの中で,社会基盤としてのアーカイブズの管理という問題をどう議論していくかを今後考えていかなければならないということを,それぞれの報告を通して認識させられたとの意見も聞かれた。

図2 パネルディスカッション
図3 質疑応答の様子

5. おわりに

今回のシンポジウムでは,情報管理専門職の役割として,組織業務のマネジメントと情報の「価値づけ」戦略への関与という2つのミッションが提示された。これらの役割は今後ますます重要となってくるものと考えられるが,いまだ情報管理専門職の位置づけが明確ではない日本の現状にあって,報告者の間でも若干の意見の相違がみられた。しかしながら,三谷氏の挙げた各部署やステークホルダーとの間に立って業務を一元管理する視点や,高津氏の指摘した組織内他部署や外部機関との連携による創造性豊かな発想力をもったプロデューサー的役割,岡崎氏のいう公共的視点からの「情報管理」政策への積極介入はいずれも,組織の全体を見渡し,社会的な視点から情報管理を行う専門職の姿がみてとれる。こうした専門職の確立には産官学の諸主体,また,アーキビストやレコード・マネジャー,ライブラリアン,キュレーターといった情報管理に関わる専門職が領域の垣根を越えて連携し,教育研究基盤を整備していくことが必要であり,今後も専門的業務としての重要性が社会的に認知されるためのさらなる議論が望まれる。

(日本アーカイブズ学会/学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻 清原和之)

本文の注
注1)  日本アーカイブズ学会:http://www.jsas.info/

注2)  九州大学大学院統合新領域学府ライブラリーサイエンス専攻:http://lss.ifs.kyushu-u.ac.jp/

注3)  情報管理専門職をめぐる民間企業と大学・学界:記録情報管理の現状と研究教育・人材育成:https://www.lib.kyushu-u.ac.jp/ja/events/20171117

注4)  例として,英国国立公文書館やオーストラリア国立公文書館のWebサイトを参照。

英国国立公文書館:http://www.nationalarchives.gov.uk/information-management/

オーストラリア国立公文書館:http://naa.gov.au/information-management/getting-started/

注5)  ダブル・ディグリー(DD):複数の連携する大学間において,各大学が開設した同じ学位レベルの教育プログラムを,学生が修了し,各大学の卒業要件を満たした際に,各大学がそれぞれ当該学生に対し学位を授与するもの。

「我が国の大学と外国の大学間における ジョイント・ディグリー及びダブル・ディグリー等 国際共同学位プログラム構築に関するガイドライン」 文部科学省 中央教育審議会大学分科会 大学のグローバル化に関するワーキング・グループ 平成26年11月14日 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1353907.htm より引用。

 
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