2018 Volume 60 Issue 12 Pages 932
2月4日のNHKスペシャル「人体」で,「ぼーっと」しているとき,わたしたちの脳は休んでいるどころか広い領域が一斉に活動しているというMRIの結果を紹介していました。脳内にちらばる記憶の断片がつなぎ合わさり「ひらめき」が生まれるのは,この「ぼーっと」しているときだというのです。
科学技術の研究はわたしたちの常識を覆し,生命の謎をはじめたくさんの不思議を解明します。しかし科学技術研究は社会から隔絶したものであってはならないし,常に一般市民の視点を忘れてはならないということが,昨今明確に意識されるようになってきました。ELSI(倫理的,法的,社会的含意:Ethical, Legal, and Social Implications)を紹介したのはちょうど2年前,2016年3月号(58巻12号)でした。
今号では信頼性の高い医療情報を提供してきたコクランが一般市民・患者を「医療消費者」と位置づけ,その参加を重視して活動してきたこと,今後さらに市民参加を進めようとしていることを報告します。
日本人類遺伝学会からは,簡易データベース付きOAジャーナル創刊の試みを紹介します。既知の疾患に関わる遺伝子変異データの発見は,ゲノム医療において重要ではあっても記事掲載されにくく情報共有が難しかったとのこと。学術情報共有およびデータベースは弊誌が最も力を入れてきた情報の基盤整備に関わる記事テーマであり,今号でこの意義ある試みを紹介できたことをうれしく思います。
「クローン文化財」はアナログ技術とデジタル技術の融合による文化財の再現の解説です。2017年秋に東京藝術大学の美術館で開催されたシルクロード特別企画展「素心伝心」は,本文にあるとおり五感で鑑賞できる素晴らしい展示でした。素心はSOSinと書くとSOSを含みます。失われる文化財への思いも込めた命名と聞きました。
今号には久しぶりにトーク・セッションの採録記事を掲載しました。誌面の都合で3分の1ほどに編集しましたが,充実した内容のエッセンスはお伝えできたと思います。
皆さま,ありがとうございました。(KM)
1958年1月から60年続いた弊誌は,今号をもって休刊します。長きにわたるご愛読に感謝いたします。今号のWeb版には,51巻から60巻まで120号分の年間索引を,記事へのリンク付きで登載しました。また「この本! おすすめします」で紹介された約360冊のリストも,同様に一記事として登載しています。1万件超の掲載記事のWeb版は,今後もJ-STAGEでお読みいただけます。ぜひご活用ください。