Journal of Information Processing and Management
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2017 Volume 60 Issue 5 Pages 373-375

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FAIRデータ原則をめぐる米国・欧州の取り組み

米国国立衛生研究所(NIH)は6月1日,データコモンズのパイロットフェーズを立ち上げて,FAIRデータ原則を満たす生物医学研究データや,関連ツールへのアクセスと共有,データ保存などをクラウド上で行う方法をテストすると発表した。

FAIRデータ原則は,「Findable, Accessible, Interoperable and Re-usable(発見・アクセス・相互運用・再利用が可能)」の頭文字で,研究データの再利用を促進するためのガイドラインとなることを目指し,出版社,図書館,大学等が参加するコミュニティーFORCE11での議論によってまとめられ,2016年初めに公表されている。

クラウドベースのデータコモンズモデルを使用することによって,研究者は,データをクラウドで直接検索したり,共有したりできるようになり,大規模なデータセットを自分のサーバーにダウンロードするために時間やリソースを費やす必要がなくなる。NIHは,パイロットフェーズの結果を,コストや有用性,効率,使いやすさ,FAIRデータ原則の遵守といった観点から分析し,評価することにしている。このパイロットフェーズは,2017年からの3年間で,予算総額約5,550万ドルで実施される予定。

一方,欧州委員会(EC)の「FAIRデータに関する専門家グループ」は6月13日,既存イニシアチブの評価や,FAIRデータ原則の各要素の分析を行うために,意見を募集すると発表した。集まった意見を基に,研究データ文化,スキル,インセンティブ,サービス要素,データ管理計画,FAIRの評価指標,コストモデル,持続性といったテーマについて検討し,報告書にまとめたいとしている。

2016年の米国書籍市場,紙の書籍が好調,専門書は大幅減

米国出版社協会(AAP)は6月15日,2016年の米国書籍市場の速報値を発表した。これによると,2016年の書籍市場全体の収益は143億ドルで2015年から6.6%減少した。書籍の媒体別に見ると,紙の書籍が好調だったのに対して,電子書籍は減少傾向にある。全体としては,一般向け出版社に比べて,教育系出版社や学術系出版社が不調であり,ビジネス,医学,法律,科学技術分野の専門書や雑誌の収益は前年比マイナス20.8%と大幅に減少した。また大学出版局の収益も2015年より2.5%減少している。

Googleと米国図書館協会によるプログラミング教育支援

米国図書館協会(ALA)は6月22日,学校図書館や公共図書館によるプログラミング教育活動支援を目的とした,総額50万ドルの競争的助成金プログラムを発表した。このプログラムは,Googleの資金援助を受けて2016年4月から行われている「Libraries Ready to Code」プログラムの第3フェーズ。今回の助成金は,子どもを対象としたプログラミング教育ツールキットに関連する装置の費用や人件費などに充てる。また専門知識や運用面のサポートをGoogleから受ける。ALAとGoogleのパートナーシップである「Libraries Ready to Code」は,図書館で子どもを対象としたプログラミング教育活動を実施できることを目的に始まったプログラム。第1フェーズでは,図書館が取り組んでいるプログラミング活動の現状の調査報告書をまとめた。2017年1月からの第2フェーズでは,図書館情報学の修士課程レベルの学生に対して,プログラミング教育を行える能力を身につけるためのパイロットプログラムを実施している。

公正取引委員会,ビッグデータと独禁法に関する報告書を公表

公正取引委員会は6月6日,同委員会の競争政策研究センター内に設置した「データと競争政策に関する検討会」における検討をまとめた報告書を公表した。IoT(モノのインターネット)の普及や人工知能技術の高度化により,ビッグデータを事業活動に生かすことが重要になってきた。しかしその一方で,データの収集・利用を公正・自由な競争環境で行えることが必要と指摘している。データの集積や利活用自体は競争を促進し,イノベーションを生み出すものだが,データによる寡占化が進んで競争が制限され,消費者の利益が損なわれるような場合には,独占禁止法による迅速な対応が必要だとしている。独占禁止法上の問題になりうる場合としては,不当なデータ収集(業務提携などによる取引先企業からの一方的なデータ提供の要求など)や,独占・寡占事業者等によるデータの不当な囲い込みなどを挙げている。

ソフトバンク,米国ロボティクス企業Boston Dynamicsを買収

ソフトバンクは6月9日,米国Alphabet(Googleの持ち株会社)傘下のロボティクス企業Boston Dynamicsの買収に合意したと発表した。買収の詳しい取引条件は非公表となっている。Boston Dynamicsはロボティクス分野ではパイオニア的存在であり,米国の国防高等研究計画局(DARPA)の支援で開発した,荒れ地での物資運搬をおこなう四足歩行ロボット「ビッグドッグ」など,高度なロボットの設計・開発で知られ,2013年にGoogleによって買収された。ソフトバンクは,子会社の「ソフトバンクロボティクス」でヒト型ロボット「Pepper」を販売しており,2016年1月にはIBMと協力して,人工知能「IBM Watson」をPepperに搭載するなど,ロボティクス分野での取り組みを強化している。

ファクトチェックの推進を目指す団体発足

インターネットを中心とするメディア上での「フェイクニュース」(偽ニュース)が問題視される中,6月21日に,日本国内のファクトチェックの推進・普及を目的とした協議体(任意団体)として,「ファクトチェック・イニシアティブ」(FactCheck Initiative Japan: FIJ)が発足した。社会に影響を与えるさまざまな報道・言説のファクトチェック(真偽検証)を,ジャーナリズムの重要な役割として位置づけて推進する必要があり,そうした問題意識を共有する個人や関連団体が業界の垣根を越えて協働するための団体だとしている。発起人には,大学に所属するジャーナリズムや法律,情報学の専門家や,メディア関係者,ジャーナリスト,食品安全性に関するNPO理事などが名を連ねている。具体的には,国内のファクトチェックの事例集積や,ファクトチェックのガイドラインおよび評価方法,効果的な情報提供の方策についての検討を行う。

慶應大と大手出版4社が「未来の出版」に関するラボ設立

慶應義塾大学SFC研究所は6月27日,大手出版4社ならびに出版デジタル機構と共同で,電子書籍の国際標準規格EPUBへの対応を中心に,未来の出版に関する研究を行う「Advanced Publishing Laboratory(APL)」設置に合意したと発表した。参加する出版社はKADOKAWA,講談社,集英社,小学館。APLは2年間の活動を予定しており,慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス内に設置される。代表者は同大環境情報学部長の村井純教授。

設立の背景には,2017年2月1日に,EPUBの仕様を管理する「International Digital Publishing Forum(IDPF)」が,Web技術の標準化団体「World Wide Web Consortium(W3C)」に統合されたことがある。この統合によって,電子書籍とインターネットの親和性がいっそう高まるとみられている。

APLはこうした状況の中で,日本の伝統的な出版技術とデジタル技術の融合を推進し,国際競争力を高めたいとしている。具体的な活動としては,縦書きやルビなど日本特有の表現技術などの開発を通じて,現在のEPUBの維持管理や,次世代規格策定の活動に参加する。また,デジタル技術の活用によるアクセシビリティーの確立に向けた研究も実施する。さらに出版に関わる寄付講座の開設など,各種教育プログラムを実施して,未来の出版を支える人材の育成を行う。

なお,慶應義塾大学SFC研究所は,米国MIT計算機科学人工知能研究所,欧州情報処理数学研究コンソーシアム,北京航空航天大学とともに,W3C共同運営者を務めている。

 
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