Journal of Information Processing and Management
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Meeting
Japanese Society for Information and Media Studies 16th convention
Yukiyo HASEGAWA
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2017 Volume 60 Issue 6 Pages 444-446

Details

開催情報

  • 日程   2017年6月24日(土)
  • 場所   関東学院大学 金沢文庫キャンパス(神奈川県横浜市)
  • 主催   情報メディア学会

1. はじめに

2017年6月24日土曜日,関東学院大学金沢文庫キャンパスにて,情報メディア学会は第16回研究大会注1)を開催した。前半は,「学校司書への期待と養成の課題:情報教育との関わりを視野に」を基調テーマとしたシンポジウムを行い,後半では基調テーマに限定しない,最新の研究成果のポスター発表の場を設けた。

学校図書館法改正により学校司書が規定され,養成のためのモデルカリキュラムが示されている中,学校司書注2)への期待や,養成の取り組みにおける課題についてさまざまな議論を呼んでいる。このような現状を踏まえてテーマが設定されたが,当日は活発なパネルディスカッションが展開され,学校司書や学校図書館の今後の可能性を模索する,非常に有意義な機会となった。

2. シンポジウム「学校司書への期待と養成の課題:情報教育との関わりを視野に」

本テーマの設定の背景として,2014年6月の学校図書館法の改正が存在する1)。この改正により,「学校には司書教諭のほか,学校図書館の運営の改善及び向上を図り,児童又は生徒及び教員による学校図書館の利用の一層の促進に資するため,専ら学校図書館の職務に従事する職員(「学校司書」という。)を置くよう努めなければならない」ことが定められた。さらにそれに伴い,「国及び地方公共団体は,学校司書の資質の向上を図るため,研修の実施その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない」ことが示された。すでに,一部の大学で学校司書の養成が開始されている。

このようなテーマ設定を受けて,野末俊比古氏(青山学院大学教育人間科学部教育学科准教授)をコーディネーターに,天野由貴氏(椙山女学園大学図書館主任・司書/前椙山女学園高・中図書館学校司書),河西由美子氏(鶴見大学文学部ドキュメンテーション学科教授),日向良和氏(都留文科大学情報センター准教授)をパネリストに迎え,シンポジウムを開催した。主な論点は,「学校司書にはどのような活躍が期待されるのか」「活躍ができる学校司書には何が求められるのか」「学校司書の養成に望まれることは何か」である。最初に,3名のパネリストそれぞれから,学校図書館や学校司書の経験,あるいはそれらの役割に対する見解などが述べられた。

天野氏からは,自身の学校司書の経験による,教員集団と学校司書の関わり等について述べられた。学校司書は,教科との連携を図り,教育の展開に寄与する役目があるということ,情報リテラシーとの関わりも重要になってくることが指摘された。日向氏からは,学校司書と情報リテラシー教育の関連についての言及があった。生涯学習を見越した,それぞれの発達段階に合ったアプローチが必要になるのではないかとの見解が示された。河西氏からは,図書館を活用した情報リテラシー教育について,図書館が情報源の多様性に触れる「場」になるであろうこと等が指摘された。

続いて,パネリストによるディスカッションが行われた(1)。現在の学校図書館は,単なる図書の館ではなく,さまざまな学びのリソースをもった場であることが確認された。つまり,従来の図書,教科書,資料集といったものを提供する場から,さまざまな形態のメディアを使用した多様な学びを提供する場へと変化しているということである。具体的には,新たなメディアが現場に入ってきた際に,学校司書は,それをどのように授業に生かしていくかについて,教員とコンサルテーションを行うことが期待されるだろうとの指摘があった。また,学校司書が情報を蓄積するだけでなく,情報を動かす人となることも望まれる等,新たな活躍の可能性が示された。課題としては,役割の中で必要となるコミュニケーション能力やコンピテンシーを備えること,現在すでに学校司書の職務に就いている人への教育をどうするかといった問題が挙げられた。

図1 シンポジウム登壇者

3. ポスター発表

本研究大会では,情報とメディアに関するポスター発表の場を設けている。今回は5件の発表があり,ライトニングトーク(口頭発表),ポスターを囲んでの意見交換,会員の投票による最優秀ポスター発表の選出と表彰が行われた。

1件目は,岡野裕行氏(皇學館大学)による「学生主体による本を活用したコミュニティづくりの可能性と展望:ビブリオバトル@伊勢河崎と伊勢河崎一箱古本市の実践事例から」,2件目は,阿部ひかる氏(口頭発表者),清水綾香氏,増田理乃氏,森柚衣氏,角田裕之氏(以上鶴見大学)による「フォロワー獲得を目的とした大学図書館Twitterの内容分析」,3件目は,酒井未穂氏(口頭発表者/専修大学),松井進氏(千葉県立西部図書館),野口武悟氏(専修大学),植村八潮氏(専修大学)による「デジタルテレビのアクセシビリティに関する予備的調査:視覚障害者による利用の現状」,4件目は片山ふみ氏(口頭発表者/聖徳大学),佐藤賢一郎氏(聖徳大学),野口康人氏(筑波大学大学院)による「ベテラン保育士の絵本に対する価値観:月刊誌の選定に着目して」,5件目は榎本翔氏(口頭発表者),小林俊貴氏,村田龍太郎氏,大房叶氏(以上筑波大学)による「機関リポジトリに収録されている修士論文の引用分析」が発表された。

口頭発表の後は,場所をポスター掲示コーナーに移し,参加者と発表者の自由な質疑応答,意見交換の場を設けた(2)。毎回,この場では研究内容の詳細な紹介,活発な議論が行われているが,今回も非常に活気あふれる場となり,参加者にとっても発表者にとっても,今後の参考になる知見を得る機会となっていた。

最後に,参加者の投票により,酒井氏らの「デジタルテレビのアクセシビリティに関する予備的調査」が最優秀ポスター発表に選出され,表彰が行われた。

図2 ポスター展示・ディスカッション

4. おわりに

本大会では,「学校司書への期待と養成の課題」という,現在の図書館を取り巻く状況の変化に焦点を当てた基調テーマでシンポジウムが行われた。法制度が敷かれ,学校司書養成のためのモデルカリキュラムが提示される中,養成課程がスタートしたばかりであるが,その課題と可能性について,パネリストからの活発なディスカッションを通し,参加者は理解と問題認識を得ることができたのではないだろうか。

学校司書への期待として,これまで使用されてきた教材以外の,多様なデジタルメディアの使い方や強みを熟知し,それを教育に結び付ける役割が強調された。また,コミュニケーション能力を生かし,学校司書自らスペシャリストとしての価値を教員側へアピールし,「学びの場」を広げていく力も求められよう。養成の課題としては,モデルカリキュラムはあくまでもモデルであり,もっと多様性があってよいのではないか,学校図書館の位置づけの確認や,さらなるカリキュラムの充実も求められるのではないかという意見も示された。

図書館を取り巻く情報環境は,日々変化し,新たな技術の進歩も目覚ましい。教育の現場で,このような新たな技術を有効活用し,学校司書が学習の向上に一役買う姿が思い浮かぶ,まさに,この情報メディア学会の専門領域にふさわしい,充実した内容であった。そして,今始まったばかりのこのテーマについて,本大会を機に,さらなる議論や研究が繰り広げられることを期待したい。

なお本研究大会は,筆者を含め角田裕之,天野晃,石川敬史,岡部晋典,佐藤翔,千錫烈,中林幸子,藤平俊哉,以上9名が企画した。

(情報メディア学会 長谷川幸代)

本文の注
注1)  第16回研究大会開催のご案内:http://www.jsims.jp/kenkyu-taikai/yokoku/16.html

注2)  本稿およびパネルディスカッション中での「学校司書」の表現は,学校図書館情報専門職を意味している場合があるが,まとめて「学校司書」としている。

参考文献
 
© 2017 Japan Science and Technology Agency
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