2017 Volume 60 Issue 9 Pages 669-672
アイピン(IPIN: International Conference on Indoor Positioning and Indoor Navigation)と呼ばれる屋内測位と屋内ナビゲーションに関する国際会議が,2017年9月18日からの4日間,北海道大学 学術交流会館にて開催された注1)。2010年にスイスのチューリヒ工科大学で記念すべき第1回のIPINが開催され,今回は8回目を数える。屋内測位と屋内ナビゲーションというある種非常に狭い研究分野を扱っているにもかかわらず,40以上の国や地域から370名以上が参加し大盛況であった。しかも,その7割以上が海外からということで,真の国際会議であったともいえる。
レギュラーペーパー(RP)が156件,速報(WiP: Work-in-Progress)が75件の計231件が投稿され,厳正なる査読の結果,106件のRP,66件のWiPの計172件が採択された。図1,図2に,それぞれ国・地域別の投稿数,採択件数を示す。また,84件の口頭発表(基調講演,特別セッションを含まず),81件のポスター発表が,3日間にわたって行われた。Google h-indexは,2017年10月現在で26となっており,同分野では最高レベルとなっている。
本会議では2件の基調講演が企画された。まず,Maria Garcia Puyol 氏(Google)が,「Accurate 3D indoor location during emergencies」というタイトルで,緊急時の高精度測位の必要性やその実現方法について講演した。現状よりも1分早く通報者まで到達できれば,年間1万人の命を救うことができる。そのため,米国ではロードマップが示されており,たとえば,2020年までに80%以上の携帯端末で50m以内の位置の絞り込みができ,50%以上の携帯端末で高さ方向の測位ができることを目標としている。Google(Android)では,ロードマップ上の各目標を前倒しして達成しているそうである。
2件目の基調講演では,高木啓伸氏(IBM東京基礎研究所)と貞清一浩氏(清水建設)から,彼らが開発を進めている視覚障害者向け屋内ナビシステムとその実証が紹介された。タイトルの「Indoor turn-by-turn navigation for the blind」にもあるように,視覚障害者向けのナビシステムのためには,屋内においても逐次進路情報を提示していくことが求められる。HULOPプロジェクトで開発されたiOSナビアプリ「NavCog」ではそれが実現されており,BLE(Bluetooth Low Energy)のFingerprinting(電波強度の分布)を用いた手法,PDR(歩行者自律航法),マップマッチングに基づく統合測位アルゴリズムや,IBMのWatsonを活用した音声対話インターフェースなどが実装されている。測位精度は誤差が平均2m程度と実用性の高いものとなっており,東京のショッピングパーク・コレド室町での実証では,多くの被験者からよい評価を得たということである。
NavCogを用いるには,事前準備作業として現地調査によるFingerprintingの収集が必要とされる。電動車いすを用いた収集システムの開発によりその高解像度化と効率化がなされ,約2万1,000㎡の現地調査は12時間程度で済んだそうである。ただし,店舗の営業等の邪魔にならないように,また,閉じたシャッターなどの影響を受けず営業時間帯と似たような電波状態での現地調査をするには,朝の3時間のみが調査時間帯となるため,調査は計4日に及んだそうである。
口頭セッションは,6つの特別セッション(シームレス位置情報サービス:準天頂衛星から屋内位置情報サービスまで,標準化と視覚障害者向け屋内ナビ,IPINでのセキュリティー,位置情報サービスでの価値創造,最優秀論文候補,競技会)と,12カテゴリー(ワイヤレスセンサーネットワーク,UWB(Ultra-wideband),超音波,磁気,光学/コンピュータービジョン,マルチIMUs(Inertial Measurement Units),ハイブリッド,SLAM/サイトサーベイ,マッピング,評価,車両/ロボット,応用/文脈)の一般セッションから構成された。
ポスターセッションでは,一部のRPと全てのWiPの著者が発表を行い,終始活発な議論が展開されていた。最優秀論文,最優秀ポスターの各賞は以下の通りであった。
最優秀論文賞:Janis Tiemann and Christian Wietfeld, "Scalable and Precise Multi-UAV Indoor Navigation using TDOA-based UWB Localization"
最優秀ポスター賞:Muhammad Usman Ali, Soojung Hur and Yongwan Park, "A step towards effortless Indoor Positioning System using RSSI based Path Loss Model Maps"
IPIN 2017 Competitionでは,以下の4つの課題(Track)に分かれて競技会が行われた。
Track 1では,スマートフォンでできることは何をしてもよく,Track 2では,PDRであればどんなハードウェアを使ってもよいという規定となっていた。Track 1と2では,学術交流会館の1階と2階にルートを設定し,ルート上の計54か所のキーポイントで測位誤差を計測した。Track 3では,3つの建物で計測された各種センサーデータログやフロアマップが競技者に提供された。
Track 4は,PDRベンチマーク標準化委員会が主催したもので,PDR Challenge in Warehouse Pickingという別名も付けられた。実際の業務中のピッキング作業員が装着したスマートフォンで計測された10軸センサー,BLE情報,WMS(倉庫管理システム)の実績データ,フロアマップが競技者に提供された。図3は,Track 4の表彰風景である。
Track 1から3では,各測位誤差の累積分布で評価した。勝敗は,第3四分位数(累積が75%となった際の誤差)が用いられていたが,75%に明確な理由があるかは不明であった。また,Track 4では,測位精度だけではなく,動きの自然さに関する指標や倉庫業務に適した指標も含む総合指標で勝敗を競った。競技会では,この総合指標の出し方が適切だったかどうかの議論でも盛り上がっていた。
9月20日と21日の2日間,会場中央ホールにおいて企業展示が開催された。国際学会は基本的に英語でやりとりをする場ではあるが,今回は最終日に日本語ワークショップも開催され,国内外のインドアロケーションビジネス関係者・技術スペシャリストが多く集まることが期待され,17団体もの出展があり大盛況であった(図4)。学会セッションの合間の時間帯においては展示会場に多数の関係者がブースを見回る光景がみられた。最終日の後半においても国内の関係者が多数参加しており,最後までにぎわっていたという印象である。
展示に関しては筆者の主観ではあるが,いくつかの分野に分けて解説する。
先に少し述べたが,最終日の日本語のワークショップも大変好評であった。本会議の各セッションの注目発表の概要を日本語でまとめて聞くことができ,多くの参加者が聴講した。次回のIPINは,2018年9月24日から27日の4日間,フランスのナントで開催が予定されている。
(産業技術総合研究所 蔵田武志/クウジット株式会社 塩野崎敦)