Japanese Journal of Visual Science
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Investigations on the Track of the Stimulus Using a Training Software for Performing Goldmann Perimetry
Akiko KobayashiHokuto UbukataFumiatsu MaedaJun-ichi KawanoKazutaka Kani
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2018 Volume 39 Issue 1 Pages 5-10

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Abstract

目的:視標の軌跡を記録できるゴールドマン視野計練習用シミュレーションシステムを用い,視野検査のすすめ方の実態を把握することからゴールドマン視野計の検査技術指導について検討した。

方法:視能訓練士養成校の学生6名と経験年数5年以上の視能訓練士6名が行った緑内障性視野異常の結果から,検査経験の有無による周辺視野の視標の動きの差について分析した。

結果:視能訓練士のプロット数は学生よりも多く,特に視野異常部位に多かった。各プロットの平均視標速度はともに約5°/sec.,プロットまでの視標速度の変化もプロット直前は約2°/sec.と差はないものの,それまでを学生は一定の速度で動かしていたのに対し,視能訓練士は徐々に減速していた。

結論:検査の際は視野を想定しながら検査を進めることが必要であり,様々な視野結果を知るためにこのシステムで検査練習を行うことはGPの検査技術向上につながると考える。

I.緒 言

視野検査は,眼疾患,頭蓋内疾患の診断や経過観察に有用な検査であり,臨床において多く用いられている。Goldmann視野計(以下GP)は,1945年に開発された視野計であるが,量的に視野全体を測定できる利便性から,現在も汎用されている。しかし,本法は手動で自覚的に明度識別閾値による動的量的視野検査を行うため,検者の検査技術が結果に影響するといわれている。それゆえ,動的視野検査を行うには熟練が必要であるが,検査の知識・技術ともに個々の臨床経験に頼っているのが現状である。

検者が正確な視野を測ることができるように検査技術を高めるための教育が求められている中で,正常視野や緑内障性視野異常の結果を検査用紙に記載し,結果を導き出すための視標の軌跡などを考えグループで検証する試み1)をしてきた。しかし,机上での視野測定においては視標移動速度など実際のGP操作についての検証が困難であった。

可児は2012年5月開催の第1回日本視野学会学術集会でゴールドマン視野計練習装置の試作について報告したが,この練習用シミュレーションシステムは,Microsoft社のVisual Studio 2010を用いて,練習用視野結果の作成と実際に視野検査の練習を行うことができるようにプログラミングしたものである。今回改良を加えたシミュレーションシステムは2016年の22nd International Visual Field Imaging Symposiumで発表したように,このソフトを搭載したパーソナルコンピュータ(PC)をPrinston社のタブレット入力機器であるスリムペンタブレット(PTB-STRP1)につなぎGPの検査用紙の後ろに入れ,レジスタリングアームの先には付属ペンを設置することでプロットと検査中のレジスタリングアームの動きに伴う視標の軌跡をPCに記録することを可能にした(図1)。そこでGPの検査技術指導を考えるにあたり,検査経験の有無により検査のすすめ方の一つである視標の動かし方に違いがあるのかどうかについて検討した。

図1 

シミュレーションシステムの概要

II.方 法

対象はこの研究について協力の得られた視能訓練士養成校の学生6名(A群-年齢20~22歳,男性1名・女性5名)および臨床経験5年以上の視能訓練士6名(B群-経験年数54・21・11・10・9・7年,女性6名)である。方法は,まず各対象者には「矯正視力1.2の右眼緑内障の視野」という条件を伝え,このシミュレーションシステムを接続したGPを用い測定を行った。用いたGPはゴールドマン型ペリメータ― MK-70ST(株式会社イナミ),プロジェクションペリメータ― MT-325UD(株式会社タカギセイコー),Goldmnn Perimeter 940ST(HAAG-STREIT INTERATINAL)の3機種である。使用した視野を図2に示す。PCのキーボードを押している間は視標が呈示されている状態であり,レジスタリングアームの動きに同期して視標の動きは軌跡としてPC上へ0.2秒ごとにドットで表示される。視標が見えるとブザーがなるため対象者は検査用紙にプロットするが,同時にペンタブレットをクリックすることでPCにも視標ごと色別に記録される(図3)。A群とB群の視野結果の一例を示す(図4)。B群の結果はすべて全イソプタでの下鼻側欠損と下方ビエルム領域の暗点を検出していたが,A群は6名中4名が暗点の検出をできておらず,周辺の下鼻側欠損についてはすべての結果で視野異常がはっきりしない結果であった。なおソフトが起動していた時間を測定時間とすると,A群の最長72分9秒,最短37分30秒,B群の最長51分59秒,最短28分24秒であった。

図2 

使用した視野結果

図3 

PC上での視野結果の一例

図4 

GP検査用紙での視野結果

また,ペンタブレットでクリックしたプロットおよび呈示されている間の視標の動きを表す軌跡はすべてGP検査用紙の座標としてもPCに記録される。プロットはイソプタとしてつなぐことができるだけの数が必要である。プロットを記載する意味はイソプタをつなぐに至った根拠を表記していることであり,プロットした部位を確認することによりどのように視野を想定し何個のプロットでイソプタを作製したかがわかる。そしてプロットまでの視標の軌跡を追うことでどこから呈示しどの方向に動かして測定していたのかをとらえることができる。ただし,測定しているかどうかにかかわらず視標を呈示していると軌跡はドットでモニター上にも表されるため,検者が視標を止めて結果を確認している間も視標の軌跡として記録されることになる。今回はその中からプロットにつながる軌跡を有効軌跡数として抽出した。それらの視標軌跡の座標を個々に追うことで,各軌跡間の距離とプロットまでの距離を導き出すことができ,またプロットまでの軌跡数を数えることによりプロットまでにかかった時間がわかるため,各プロットに至るまでの視標速度を算出した。これらを用い,周辺視野について検査経験によりプロットまでの視標の動きに差があるのかを分析することから検査技術向上にむけての指導を検討した。プロットおよびプロットまでの視標の動きをA群とB群で比較するにあたって,統計的処理については,プロット数,視標の呈示からプロットまでの時間と距離および平均速度はunpaired t-test,視標速度の変化は二元配置分散分析を用い,有意水準を0.05とした。

本研究は,九州保健福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した(受理番号:17-012)。

III.結 果

1. 視標の軌跡数とプロット数

A群とB群のそれぞれ検査中に記録された軌跡の数(点)の平均は,V/4eが506.7と684.3,I/4eが603.3と562.3,I/3eが604.5と568.7であった。プロットに結びついた軌跡数とその割合はV/4eが369.8(73.5%)と524.2(79.8%),I/4eが389.2(68.6%)と486.7(87.4%),I/3eが370.7(73.6%)と502.3(88.5%)であった。イソプタをつなぐのに用いたプロット数(個)の平均は,V/4eが17.3と29.2,I/4eが21.8と27.7,I/3eが22.5と26.7,また,最多プロット数はV/4eが33と22,I/4eが28と30,I/3eが32と29,最少プロット数はV/4eが12と25,I/4eが18と25,I/3eが19と24であった。象限に分けた部位別の平均プロット数は,上鼻側のV/4eが5.0と6.5,I/4eが5.7と7.3,I/3eが5.8と7.0,上耳側のV/4eが4.2と6.0,I/4eが4.5と5.5,I/3eが5.5と5.8,下鼻側のV/4eが4.0と11.0,I/4eが5.8と9.2,I/3eが5.2と8.2,上耳側のV/4eが4.2と5.7,I/4eが5.8と5.7,I/3eが6.0と5.7であった。どの視標もBの方が平均プロット数は多く,部位別で視野異常のある下鼻側のプロット数が特に多かった。視標別の平均プロット数はV/4e(p < 0.01)とI/4e(p = 0.01),部位別は上鼻側のV/4e(p = 0.04),下鼻側のV/4e(p < 0.01),I/4e(p = 0.01),I/3e(p < 0.01)で両群に統計的有意差がみられた(図5)。

図5 

視標別・部位別プロット数

(■はA群 [学生],□はB群 [視能訓練士] を示す。* p < 0.05)

2. 視標呈示からプロットまでの時間

A群とB群のそれぞれのプロットまでの時間(sec.)の平均と標準偏差は,V/4eが4.25 ± 0.83と3.67 ± 1.18,I/4eが3.59 ± 0.75と3.47 ± 0.73,I/3eが3.40 ± 0.51と3.74 ± 0.92であった。最長時間は,V/4eが14.8と15.4,I/4eが11.0と6.8,I/3eが10.4と8.0,最短時間は,V/4eがどちらも0.6,I/4eが0.4と0.6,I/3eはどちらも1.0であった。部位別のプロットまでの時間の平均と標準偏差は,上鼻側のV/4eが4.78 ± 0.53と3.99 ± 1.33,I/4eが3.25 ± 0.55と3.67 ± 1.18,I/3eが2.89 ± 0.49と3.80 ± 1.09,上耳側のV/4eが4.55 ± 1.15と3.00 ± 0.83,I/4eが3.93 ± 0.79と3.66 ± 1.05,I/3eが3.41 ± 0.65と3.74 ± 0.80,下鼻側のV/4eが4.74 ± 1.55と4.07 ± 1.48,I/4eが3.45 ± 0.77と3.29 ± 0.65,I/3eが3.26 ± 0.68と3.71 ± 1.10,下耳側のV/4eが2.84 ± 0.64と3.27 ± 1.10,I/4eが4.03 ± 1.40と3.14 ± 0.65,I/3eが3.96 ± 1.14と3.65 ± 0.67であった。統計的にはV/4eの上耳側でのみ両群に差があった(p = 0.03)。

3. プロットまでの軌跡の距離

A群とB群のプロットまでの軌跡の距離(deg.)の平均と標準偏差は,V/4eが19.84 ± 2.18と17.29 ± 3.45,I/4eが19.09 ± 3.22と20.05 ± 5.84,I/3eが17.47 ± 4.14と23.57 ± 7.14であった。最長距離は,V/4eが38.7と60.5,I/4eが46.6と38.5,I/3eが39.4と55.6,最短距離は,V/4eが0.2と1.4,I/4eが1.9と1.5,I/3eが5.0と6.0であった。部位別のプロットまでの距離の平均と標準偏差は,上鼻側のV/4eが24.50 ± 3.40と21.81 ± 3.42,I/4eが17.78 ± 5.28と19.80 ± 4.53,I/3eが14.95 ± 5.26と22.70 ± 7.98,上耳側のV/4eが17.35 ± 4.21と11.91 ± 1.20,I/4eが21.24 ± 2.26と19.92 ± 2.28,I/3eが18.03 ± 4.49と24.21 ± 7.11,下鼻側のV/4eが27.16 ± 3.20と20.82 ± 5.57,I/4eが17.84 ± 2.74と19.66 ± 4.75,I/3eが16.47 ± 4.26と22.69 ± 7.27,下耳側のV/4eが10.33 ± 3.16と10.83 ± 2.52,I/4eが21.41 ± 3.99と20.38 ± 4.82,I/3eが20.52 ± 4.33と25.53 ± 7.32であった。統計的にはV/4eの上耳側でのみ両群に差があった(p = 0.02)。

4. 視標速度

1) 各プロットの平均視標速度

視標呈示からプロットまでの時間と距離から各プロットの平均視標速度を算出した。A群とB群の視標速度(°/sec.)の平均と標準偏差は,V/4eが4.78 ± 0.70と5.08 ± 0.82,I/4eが5.66 ± 1.18と6.19 ± 1.46,I/3eが5.40 ± 1.41と6.61 ± 1.58であった。最高速度は,V/4eが12.53と17.63,I/4eが12.49と13.70,I/3eが12.51と16.34,最低速度は,V/4eが0.30と1.60,I/4eが1.21と1.45,I/3eが2.56と2.57であった。部位別速度の平均と標準偏差は,上鼻側のV/4eが5.42 ± 0.77と6.04 ± 1.44,I/4eが5.45 ± 1.09と5.96 ± 1.75,I/3eが5.24 ± 1.18と6.35 ± 1.92,上耳側のV/4eが3.96 ± 0.68と4.29 ± 0.91,I/4eが5.76 ± 1.20と4.98 ± 2.17,I/3eが5.59 ± 2.14と6.91 ± 2.23,下鼻側のV/4eが6.40 ± 1.31と5.60 ± 1.05,I/4eが5.74 ± 1.25と6.16 ± 1.36,I/3eが5.16 ± 1.07と6.44 ± 1.29,下耳側のV/4eが3.68 ± 0.88と3.50 ± 0.50,I/4eが6.11 ± 2.08と6.98 ± 2.34,I/3eが5.70 ± 1.89と7.05 ± 1.65であった。どの値も群間に統計的な有意差はみられなかった。

2) プロットまでの視標速度の変化

記録される軌跡から移動距離が計算されるため0.2秒ごとの視標速度の変化を算出した。プロットまでの視標の軌跡は各々の距離や時間が一定ではないため今回は平均を計算できた3.8秒前からとした。視標別,部位別にプロットまでの視標速度の変化をグラフに示す(図6)。

図6 

視標別・部位別プロットまでの視標速度の変化

(●はA群 [学生],〇はB群 [視能訓練士] を示す。)

全象限平均では,両群ともにプロット直前は速度が約2°/sec.になっていた。A群ではどの視標でもプロット1秒前に減速していくまでは一定の速度を保っていたが,B群はプロットに近づくほど減速していた。V/4e,I/4e,I/3eと刺激が小さくなるほどその傾向が強かったが,有意な交互作用はI/4e(p < 0.01)とI/3e(p < 0.05)は群とプロットまでの時間の間で認められ,検査経験により視標速度の変化に差があった。

部位ごとを視標別にみると,V/4eの上・下耳側は両群ともグラフの傾きは小さく,ゆっくり動かす傾向であり,下耳側はプロットまでの時間に有意な主効果が認められ(p = 0.04),視野が広い部位でありレジスタンスアームを最大稼動域から動かさなければならないため経験にかかわらず慎重に動かしていることを反映していた。I/4eはレジスタンスアームを動かしやすい上鼻側と上耳側でプロットまでの時間の要因に主効果が認められたが,(p < 0.01),下耳側と視野異常がある下鼻側では群の要因に主効果が認められ(p < 0.01),検査経験により差がみられた。I/3eになると上耳側では群に主効果(p = 0.02)が認められ検査経験による差があったが,下鼻側と下耳側では群(ともにp = 0.02)とプロットまでの時間(p < 0.01, p = 0.02)の間で有意な交互作用が認められるに至っており,検査経験だけでなくプロットまでの時間にも影響されていた。

IV.考 按

今回このシミュレーションソフトを用いることで,視野検査のすすめ方の実態をとらえることができた。この研究は対象数が少なく所属施設も限られているため,その差が普遍的なものであるとするには限界があるかもしれないが,視野検査経験がわずかな視能訓練士養成校の学生と臨床経験のある視能訓練士に検査のすすめ方に差があることを確認できた。

まずはプロット数である。異常の疑われた下鼻側へのプロット数が一番多くなっていたことは,臨床経験のある視能訓練士の方が視野の異常部位を検出できていたためと思われる。また,上鼻側のプロットが次に多かったことは,鼻側に異常が出やすい緑内障であるため異常のないことを確認していたと考えられる。プロットが多いことは精密な結果に結びつくもののその分検査時間がかかり被検者に負担をかけることになる。しかし被検者の状況に配慮しながらも,検査にあたっては視野異常の有無を確認できるだけのプロットが必要である。当然ながら視野異常の程度によりプロットする部位や数は異なってくるが,今回の視野異常を検出するには視能訓練士の結果からV/4e,I/4e,I/3eイソプタに対して各々24~25個のプロットが必要だったと考えられる。また,全軌跡数の1割以上がプロットに結びつくものではなかった。測定していない時は視標を呈示しないように指導しているが,プロットを忘れたのか視標の動かし方に悩んでいるのかなどその状況については遡れなかったため今回の検討では明らかにできていない。しかし,軌跡数が多ければ検査に時間がかかることになるため,有効な視標呈示を行うことを指導で注意喚起することはできる。

次に,視標呈示からプロットまでの時間は平均3~4秒と差はなかったが,時間と距離はV/4eで上耳側でのみ差があった。ただし,V/4eの上耳側のイソプタは正常であり,学生の方が遠くから動かしていたことから検査にあたって正常域の確認が必要になるといえる。

そして,視標速度については,軌跡を記録できるこのシミュレーションソフトを用いることでGPによる視標の平均速度とプロットまでの視標速度の変化を初めてとらえることができた。12°/sec.を超える速度で視標を動かしたり,中心測定の時の速度である3°/sec.より遅く動かしたりした視標の移動もあったが,周辺視野測定の時の視標の移動は5°/sec.と教育されているように平均値はそれに近いものであった。視能訓練士養成校の学生と臨床経験のある視能訓練士に差もなく,指導に準じていると思われた。しかし,平均は5°/sec.であってもプロットまでの視標速度は一定ではなくプロットする直前には2°/sec.近くまで減速していたことが明らかになった。

視標速度について,Goldmannらは周辺視野5°/sec.,中心30°内2°/sec.としていたとGreveが報告2)している。また,動的計測で正確さ,信頼性,効率を考えると3~5°/sec.が最適であり,マリオット盲点のような小さい暗点は2~3°/sec.としている著書3)もある。Johnsonら4)は自動視野計を用いて一定の速度で視標を動かして被検者の反応時間であるreaction timeを検討することから周辺,中心とも4°/sec. がよいとしていた。こうした報告を基に,検者は検査を行う際に一定の速さで動かすよう指導されそのように努めているはずであったが,経験に関わらずプロットに近づくと減速していた。ブザーでの応答があって検者がレジスタリングアームを止めるまでの誤差を小さくするにはアームをしっかり保持していたとしても視標速度は遅い方が止めやすいため,その点で減速していることは理に叶っている。しかし,視標速度が遅くなれば検査時間が長くなることになり,被検者への負担を考えると遅ければよいわけではない。また,経験の少ない学生の方がプロットに近づくまでは同じ速度で視標を移動していたが,等速度で視標を動かしていても正確な視野結果を導き出すとはいえなかった。V/4eの場合,耳側はレジスタリングアームの可動域いっぱいから動かす必要があり正常視野では応答もすぐあることが考えられるため,視能訓練士も学生と同様に等速で動かしている時間が長かった。I/4e,I/3eと測定範囲が狭くなるほど視標呈示を始めた時は速いものの徐々に減速する傾向を示していた。その要因として,経験を積んだ視能訓練士は視野結果を想定して検査を進めていることが考えられる。もちろん検者の意識としては視標を一定の速度で動かしており,意識的に減速していたとすると予測した位置で止まってしまうことになる。視標は見えないところから出すことを徹底していることもあり,見えていない部位は早く動かすことで検査時間短縮を図り,応答がありそうな部位になるとゆっくり動かしすぐプロットできるように反応を探っているのではないだろうか。当然のことながら検査では応答の有無で想定した視野を修正しながら検査をすすめていかなければならず,視野異常のバリエーションをどれだけ知っているかは正確な視野結果を導き出すには大事なことである。またそれは疑われる疾患に対して検査のポイントをしぼるためにも求められることである。

従来のGPのシミュレーションソフトとしては,Octopusに搭載されているOctopus101GKPがある。Octopusは動的と静的を同機種で測定することができ,動的視野は半自動計測である。視標の種類や移動速度,そして視標をどこから呈示しどのように動かすのかを検者が手動で選択し,その順番通りに自動で検査が施行される。GKPは数例の模擬患者の条件や視野結果が組み込まれており,呼び出したそのデータに対し実際と同じ操作をして検査を行うことで,検査条件の選択や注意すべき測定部位など検査の進め方を検討していくことができるものである。ただし,すべてマウスを用いての操作であり,GPで視標を動かすレジスタリングアームの操作技術向上にはつながりにくく,ソフトに組み込まれている視野結果も10例のみと限られている。しかし,このシミュレーションソフトは任意に視野結果を取り込むことが可能であるため様々な視野の検査を行うことができる。視野結果の取り込みにあたってはイソプタを作製することで感度分布が決まるため,ソフトの特性として「見える」「見えない」が明確な視野結果になる。そのため現状では緑内障性視野異常部位での不安定な応答や心因性視覚障害で変動する応答など短期変動を考慮した視野のシミュレーションは不得意である。それとともに実際の検査では対応しなければならない固視監視や被検者への配慮などの学習は現在のところできないが,視野を学ぶために検査練習を行うことは多種にわたる視野結果を知る機会となり,検査経験を補うものとして活用できる。また,レジスタリングアームの動きを反映できるようにしたことにより,自己の記録された検査の経過である視標の軌跡を確認する中で測定が不足している部位を理解し,効率よく検査を行うにはどうすればよいのかを考えていくことにつながる。もちろん,GPチェックシートにあげた検査ポイントを確認することも可能であり,基礎的な検査手順を学習することもできる。ただし,ひたすら検査の練習回数を増やせばよいのではなくフィードバックの機会を持つことは大事である。PCを活用することにより検査結果を記録できるが,ビデオソフトも同時に使用することで検査の経過をビデオ画像として保管し再現することも可能である。それを利用すれば技術指導として記録された検査経過をモニター上に映しながらフィードバックしていくことができ,検査中には気づかなかったことを視覚的に確認でき学習効果をあげることにもつながる。それには測定時間の倍の時間が実技指導に必要となるが,測定時間の中には検者が検査のすすめ方を熟考している時間も含まれており,おおむね1時間程度で検査およびフィードバックを行うことができると考えている。こうした振り返りまでを行うことによって次の検査でのレジスタリングアームの動かし方,つまり検査のすすめ方に反映されていくことになる。

今までこのシミュレーションソフトのようにGPの練習を目的に開発されたものはない。これからのGPの検査技術指導の一端を担えるものと考えている。

文献
 
© 2018 The Japanese Society of Ophthalmological Optics
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