2018 Volume 39 Issue 3 Pages 37-44
OCTが眼底から前眼部まで様々な場面で必須の検査となって久しいが,なぜOCTで断層画像を撮影できるのか,本当に納得している人は少ないのではないだろうか。また,タイムドメインやフーリエドメインといった各方式の違いは何なのか,さらに近赤外光の中でも840 nm帯,1 μm帯,1.3 μmといった特定の波長帯がなぜ用いられるのか,根本的な説明がなされる機会はそう多くない。これらの疑問に答えるには,OCTの原理と技術の基本に一度立ち戻って理解する必要がある。本稿ではOCTの原理と技術について専門家以外にも理解して頂けるよう解説する。
眼科においてイメージングやバイオメトリーは極めて重要な検査手段である。その中でも,一般に深さ方向の情報を得るためには特殊な手法が必要となる。高品質な断層画像を得る手段として従来は超音波エコーが代表的手法であったが,近年は光干渉断層計(Optical Coherence Tomography, OCT)が大きく注目されている。眼科用OCTとしては1990年台にタイムドメインOCT(TD-OCT)が登場し1),その後2000年台の技術革新によってフーリエドメインOCT(FD-OCT)方式が主流となった。現在では眼底用・前眼部用・そして眼軸長測定用にFD-OCTを用いた商用機が各社から発売され,外来から手術室までどこでもOCTの撮影が可能となった。OCT検査は例えば加齢黄斑変性等に用いられる抗VEGF薬投与の最適化のために必須であり,医療費削減にも大きな役割を果たしている2)。眼底OCTに加え前眼部OCT検査も角膜疾患や狭隅角等に対する有用性が認められ,本邦では今年度より保険収載となった。
このように普及したOCTであるが,そもそもなぜ光を使って高分解能な断層画像を撮影できるのか,誰しも一度は不思議に思ったことがあるのではないだろうか。一般的に,医学的文献で紹介されるOCTの原理はごく概略のみであり,疑問を完全に解消できるわけではないだろう。そこからさらに踏み込んで調べようとすると急に専門的すぎる技術文献になってしまい,光学や物理のバックグラウンドなしに読み進めることは難しい。両者の間には大きなギャップがある。
そこで本稿では,OCT技術の核心について専門家でなくとも理解して頂けるよう,図を多用して解説したい。OCTを純粋なツールとして利用している研究者・医療従事者にとって,OCT技術の基礎を知っておくことはOCTの理解をさらに深めるために役立つだろう。また,本稿はOCTのコア技術が専門でない技術者にとっても理解の手助けになると考えられる。昨年の特集記事3)と同様,今回も数式を用いずにイメージして頂けるよう説明する。
OCTは光干渉と呼ばれる物理現象を応用した技術である。光干渉とは何だろうか?その前に,そもそもなぜそのような技術が必要になるのだろうか?光で断層画像を測定するには,測定対象に照射され戻ってきた光が測定対象物内のどの深さから来たものなのか判別できる必要がある。光は秒速30万kmという超高速(人類が知る限りこれを超えるものは存在しない速さ)で進む波である。もし光が検出器に到達する時間差を直接計測する場合,例えば6 μmの深さ分解能を得るには28フェムト秒(28 × 10−15秒)の時間分解能が必要である。このような時間分解能は通常の検出器ではもちろん,ストリークカメラと呼ばれる特殊な検出器を用いても到達困難である。そこで光干渉法の出番となるのだ。
1) OCTは光干渉法によって「時間を止める」光が持つ深さ方向の情報を取り出すにはどうすればよいか?簡単に言えば,光の時間を止めてしまえばよいのだ。もちろん本当に時間を止めることはできないのだが,光からの信号が「経時変化しない」よう何らかの別な形に変換することができる。それが光干渉法の本質だ。
図1(a)にOCTの光学系を単純化して図示する。光源から出た光はビームスプリッターを通り,一方は上方の参照(reference)アーム,もう一方は右へ直進し眼を照射する。眼から戻ってきた微弱な散乱光がどの深さから戻ってきたのかを知りたいのだが,前述のように直接時間分解することはできない。また,近赤外光の振動周波数はおよそ3 × 1014 Hz(波長1 μmのとき)であり,これもまた速すぎて直接観測することが困難である(物理用語でunobservableと呼ぶ)。このような直接観測不能量を観測可能量に変えてしまうのが,光干渉である。眼から戻ってきた光と参照光はビームスプリッターで再び合わさり,光検出器(photodetector)で検出される。ここで,検出された光を異なる振動周波数に分けて考えてみよう。光の振動周波数は光の波長の逆数に比例するので,光を異なる色ごとに分けて考えるということだ。ここで便宜上,3色の光f1(赤),f2(緑),f3(青)を模式的に図1(b)に表した。なお,実際の光は3色だけでなく無数の色を含んでいる。
OCTの構成と信号についての概略を示す。(a)OCTの光干渉計の概略図,(b)光干渉信号を波長ごとに分け,それらがどのようにTD-OCTやFD-OCTの信号を形成するか図示したもの。橙色の矢印は光の伝播方向を示す。(c),(d)はそれぞれTD-OCT,FD-OCTが取得する信号の模式図。眼球模式図はCC BY-SA 3.0にて配布の画像を使用(https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Eye-diagram_bg.svg)。
図1(b)左側赤色のf1について考える。ここで,参照光(reference)と眼からの戻り光(sample)がそれぞれ別個に示されている。横軸は深さ位置,縦軸は光の振幅を表す。これらはどちらも橙色の矢印の向き(左方向)に進む波である。したがって,前述したように直接観測することができない。そこで光干渉法では,参照光と眼からの戻り光を合わせる。これは図中に示すように波同士の和である。そして波同士の和を測定するのだが,実はこの段階でも先程と同じ理由で光の波を直接観測することは不可能(unobservable)である。我々が光検出器を通して観測できるのは光の波が2乗された光強度のみであり,それが図1(b)の3段目に示された光干渉(interference)信号である。光干渉信号は理論上およそ3 × 1014 Hzで振動しているのだが,そのような超高速振動成分は光検出器で捕捉されない。結果として,参照光と眼からの戻り光が重なってできた「うなり成分」のみが観測可能(observable)となり検出される。このうなり成分というのは,2つの波が2乗された光強度を測定する過程でできる相互干渉(2つの波の掛け算)成分である。この光干渉信号は,参照アームと眼球が動かない限り一定で,経時変化しない。つまり,擬似的に「時間を止める」ことができたのだ。図1(b)3段目には,参照アームのミラー深さを動かした場合に形成される干渉縞が示されている。ここで,横軸は深さではなく参照光と眼からの戻り光の相対深さになっていることに注意されたい。つまり,図1(b)3段目の信号を直接的な手段で取得するには,参照アームのミラー深さを動かす必要がある。
OCTでは,このような光干渉を単一の色だけでなく無数の色(振動周波数)について測定する。図1(b)には,模式的に3色の異なる振動周波数f1,f2,f3についてのみ示した。これらの異なる振動周波数の光干渉信号を足し合わせたのが,図1(c)の「TD-OCT」である。参照光と眼からの戻り光の光路長が一致するとき(図1(c)中央破線の深さ位置),すべての光の振動周波数について光干渉信号の位相が一致し,様々な振動周波数の足し合わせ(spectral sum)によって光干渉信号が強め合う。それ以外の深さでは各振動周波数の信号位相が一致しなくなるため,上述の光路長が一致した深さから参照アームのミラーが離れるほど信号が弱め合う。この原理は光学において白色干渉と呼ばれる。参照アーム中のミラーの深さ位置を変化させることで,図1(c)の桃色で示された信号が検出される。この包絡線のみ抽出したのが図1(c)の黒色の曲線である。より広範囲の光の色を使えば使うほど,図1(c)の黒色の曲線の幅が小さくなり,深さ分解能が向上する。これがTD-OCTの原理である。この原理からわかる通り,TD-OCTでは参照アームのミラーを深さ方向に変化させることで図1(c)黒色のAスキャン波形が得られる。
上記TD-OCTに対し,FD-OCTは光干渉信号の検出方法が異なる。FD-OCTでは図1(b)3段目の各振動周波数成分を合わせずに分離して検出する(spectral detection)。参照アームのミラー位置を深さzに固定すると,各振動周波数では異なる信号強度が得られる。図1(b)の模式化された3色だけでなく多数の色(振動周波数)について光干渉信号を検出すると,図1(d)に示すように横軸が振動周波数(optical frequency),縦軸が光干渉信号強度のデータが得られる。これをスペクトル干渉信号と呼ぶ。スペクトル干渉信号は振動周波数方向に干渉縞を示し,図1(d)中に桃色の曲線で表される。このスペクトル干渉信号を逆フーリエ変換すると,実空間すなわち深さ方向の情報である図1(c)と同じ信号が得られる。なお,これとは反対方向に図1(c)をフーリエ変換すれば図1(d)が得られる。ちなみに,どちらの変換が順方向でどちらが逆方向のフーリエ変換かは定義次第であり本質的ではない。重要なのは,TD-OCTとFD-OCTで得られる信号はフーリエ変換によって関係付けられる,ということである。また,TD-OCTとFD-OCTの実用上大きな違いは,FD-OCTでは参照アームのミラー深さを変化させる必要がないことである。
FD-OCTの実装形態には2種類あり,スペクトルドメインOCT(SDOCT)とスウェプトソースOCT(SSOCT)がある。SDOCTでは光源として多数の色を含んだ広帯域光源を使用し,分光器によって各色を分離して同時に測定する。SSOCTでは光源として各色を一気に照射するのではなく順番に変化させる波長掃引光源を使用し,光検出器で各色の光干渉信号を順番に検出する。SDOCTとSSOCTのさらに詳しい特性については後述する。
2) TD-OCTとFD-OCTの違い図1(c)に示したように,TD-OCTはすべての振動周波数の干渉信号を重ね合わせる。この重ね合わせによって,各振動周波数のノイズも重ね合わされる。それに対してFD-OCTでは,振動周波数ごとに信号を検出するので,ノイズも振動周波数ごとに検出される。一見するとノイズがTD-OCTでは深さ方向に分布するかFD-OCTでは振動周波数方向に分布するかの違いだけに見えるが,それだけではない。TD-OCTでは眼からの信号が深さ方向に局在して検出されるのに対し,FD-OCTではノイズだけでなく信号も振動周波数方向全体に分布しており,すべての振動周波数成分が信号に寄与する。この違いにより,FD-OCTはTD-OCTよりも感度が高くなる。この事実については以前の記事3)でも概念的に触れた。
3) 感度の限界は何で決まるかOCTのノイズには光源の光出力強度変動による強度ノイズ,光検出器で検出するときの熱雑音,電気的増幅器が持つ過剰雑音などがあるが,近年のFD-OCTで支配的なノイズはショットノイズである4,5)。ショットノイズとは,光検出器が1光子を検出するかしないかが確率的である,という量子力学的な光の粒子と波動の2重性によるノイズで,原理的に超えられない最後の壁になる。信号強度は眼への入射光強度に比例し,これは安全基準で限界が決まっている(基準にもよるが例えば波長840 nmであれば約700 μW程度)。Aスキャン速度にも依存するが,これらの条件により,典型的な眼底FD-OCTの感度は−90~−100 dBの間になる。
ところで,ここで突然出てきた光の2重性とは一体何だろうか。これは本稿および筆者がカバーできる範囲を超えるため深入りしないが,光の正体が人間の理解するところの粒子でもなければ波動でもないために起きている人間の認知の問題が根本に存在する。平たく言えば,人は光の正体をまだ理解しきれておらず6),OCTの感度の限界はその人間の理解と認知の限界に接しているということだ。そもそも光は干渉しないと考えたほうが現象を素直に理解できるという主張7)すら存在する。なお,この光の2重性による量子もつれ現象を利用した量子OCTの原理も提唱されているが8),実用化には至っていない。
OCTの基本原理を述べたところで,今度は実応用に近いOCT基礎知識について述べていきたい。本節ではOCTで用いられる光の波長帯について議論する。
図2はOCTで用いられる様々なデバイスの波長特性(a)–(c)と水の吸収分光特性9)および人眼視細胞の比視感度10)(d)をまとめたものである。生体光イメージングでは基本的に波長が長いほど生体組織中の光散乱が減弱しプローブ光が深部まで届きやすくなる11)が,図2(d)に示すように水の吸収も増大するため,単純に波長が長ければよいわけではない。
OCTの波長に関連する様々な要素をまとめた図。(a)TD/SDOCTに用いられる各種広帯域光源の波長帯,(b)光通信やレーザー加工等で用いられている産業技術の主要な波長帯,(c)光検出器の波長帯,(d)比視感度および水の吸収係数の分光特性。
眼科用OCTでは中間透光体を通して光を測定するため,光が水に吸収されにくい波長範囲を選択することがまず重要となる。図2(d)から明らかなように,最も水の吸収が小さいのは可視域である。可視域では超高分解能にできることや赤血球の酸化還元の分光測定が可能であるなどの理由により,近年研究がなされている波長帯である12)。とくに近年市販されている超広帯域なSuper continuum光源(図2(a)参照)から可視域で必要な領域だけ切り出して利用できるようになり,一気に研究利用が活発になった感がある。しかし,可視域はプローブ光が眩しいだけでなく光強度の安全基準が厳しいため,一般的にはOCTに用いられない帯域である。そのため波長が長い近赤外領域が最もOCTに用いられており,その中にも後述するように様々な波長帯がある。
2) 840 nm帯可視域に最も近い近赤外領域が図2(d)に薄赤色で示された840 nm帯で,眼底SDOCTで用いられている主要波長帯である。この波長帯は近赤外の中では水の吸収が最も弱く,可視光に比べれば眩しさを感じない利点がある。歴史的には光通信技術開発の初期に用いられた帯域であるため,図2(a)–(c)に概略を示すように光ファイバーを含めた光デバイスを入手しやすいという実装上の利点もある。例えば小型・安価な半導体広帯域光源であるSuper Luminescent Diode(SLD)が早期から入手できた。また,高性能かつ安価なシリコン(Si)光検出器が使用できる上限の波長帯である。以上の理由から,840 nm帯はOCT開発の黎明期から現在まで用いられている代表的波長帯である1,13)。
3) 1064 nm帯図2(d)の水の吸収曲線を見ると,波長1~1.1 μmのあたりに水の吸収が極小となる領域があることがわかる。この領域は古くから生体の窓の1つとして知られ,OCTへの適用可能性についても極早期から指摘されていた14)。実際にin vivo人眼測定が行われたのは2005年で15),その後SSOCTも開発され16),眼底の脈絡膜・強膜まで高侵達なOCTが可能な波長として近年急速に普及が進んでいる。1064 nm帯はレーザー加工の産業用途として巨大市場があり,ファイバーレーザーを始めとする様々な光学デバイスがそこそこ入手しやすい。一方でSi光検出器は波長検出限界付近となり使いづらく,代わりにInGaAs光検出器が用いられる。しかしInGaAsラインセンサーはSiと比べ非常に高価であるため,それを必要とするSDOCTは研究向けにしか市販化されていない。このような理由により,この帯域から長波長側ではSDよりもSSOCTのほうがコスト的に有利となることが多い。
4) 1310 nm帯1310 nm帯は光通信用ファイバーの波長分散がゼロとなる帯域で,Original band(O-band)として光通信で多用される帯域の1つである。その巨大市場のおかげで高性能・低価格な光コンポーネントを入手しやすい帯域である。図2(d)の水の吸収は前出の帯域よりも高く,眼底からの戻り光はほとんど吸収されてしまうため眼底撮影には不向きであるが,そのかわり光入射の安全基準は約十倍程度緩和される。結果として前眼部撮影に適した帯域となり,前眼部OCTの市販品で用いられている。
5) 1550 nm帯1550 nm帯は光通信用ファイバーの伝送損失が最も低くなる帯域であるため,1310 nm帯とともに光通信の代表的波長帯である。1550 nmを含むConventional band(C-band)を中心として,その両脇のShort wavelength band(S-band),Long wavelength band(L-band)とともに波長分割多重通信で用いられる。そのため,1310 nm帯と同様に1550 nm帯も光コンポーネントが豊富に存在する。しかし,図2(d)からわかるように1550 nm近辺から水の吸収はさらに増大するため,眼科用OCTにはあまり適さない帯域である。OCT用としては,光源の初期的な試験開発目的で用いられることがある帯域である。
6) 1700 nm帯さらに長波長の1700 nm帯は,産業用途で用いられる機会は少ない。図2(d)の水の吸収を見ると,長波長帯の中では若干低めになっていることがわかる。水の吸収の影響が大きくない応用において,光散乱が弱い長波長という特徴を活かして高侵達なOCTを組むことができるため注目されている波長帯である17)。また,脂質が特徴的な吸収特性を示す帯域であるため,OCTで分光特性解析を行い,脂質を特異的に抽出することができる18)。しかしながら,やはり水の吸収が大きいために眼科用としては不向きな帯域である。
7) そのほかの波長帯上記以外の波長帯はOCTにほとんど用いられないが,可視~近赤外とは全く異なる波長帯として軟X線やテラヘルツ波を用いた報告がある19–21)。眼科用にはならないだろうが,応用・使用方法も全く異なるものになるだろうから,今後の動向に注目したい。
8) 波長帯のまとめ以上議論したように,眼科用OCTに適した波長帯には比視感度・水の吸収・産業技術の3つが密接に関係している。本稿の読者であれば視機能に直接関係する比視感度や水の吸収についてはご存知の事柄が多いと思うが,産業技術という要素は意外だったかもしれない。医療検査機器と比べると一般レーザー加工や工場の生産工程自動化システム,さらには軍事・天文といった産業向け市場は桁違いに大きく,それら市場向けに投資・開発された技術を可能な限り流用・転用することでOCTは成り立っている。本節ではその要点を簡潔に紹介した。
現在市販されている眼科用OCTにはSDOCTとSSOCT両方がある。SSOCTのほうが市販化が後だったので,SDよりもSSOCTのほうが新しい・優れていると言われることもあるが,話はそう単純ではない。原理としては第2節で述べたようにどちらもFD-OCTであるが,実装形態や利用できるデバイスの制約から,それぞれに得意・不得意がある。ここでは,両者の特徴をざっくり見てみよう。図3にSDOCTとSSOCTの深さ分解能と深さ方向の信号減衰特性についてまとめた。世の中には例外も存在するが,大まかにはこの図のようになっている。横軸の深さ分解能は値が小さいほど良い。縦軸の信号減衰特性は,OCTの信号が−6 dB(25%)に減衰する深さを示しており,長いほど信号が減衰しにくいので良い。したがって,図の左上に行くほど理想的な特性となる。
SDOCTでは光源の波長が広帯域であるほど高分解能を実現できる。近年は多波長組み合わせのSLDやSuper continuum光源などの広帯域光源が入手しやすくなったため,市販のSDOCTの分解能は向上する傾向にある。しかし,SDOCTで必ず用いる分光器の基本的な特性上,信号減衰特性の改善には限界がある。そのため,図3に水色で示すように深さ分解能は様々なバリエーションが可能だが,信号減衰特性はあまり改善の余地がない。図3右下段に示すように,SDOCTは標準~高分解能の眼底撮影や隅角・角膜など部分的な前眼部撮影に用いられることが多い。
SSOCTの場合,図3に示す性能は光源の性能に大きく依存する。図3縦軸の信号減衰特性はSSOCTの場合コヒーレンス長と呼ばれ,コヒーレンス長が長いほど瞬間的出力光波長線幅が細く,OCT信号が減衰しなくなり,高性能となる。SSOCTの光源は進歩が続いており,その性能から大まかに3つの世代に分けることができる。図3に緑色で示された第1世代のSSOCTは,深さ分解能・コヒーレンス長ともにあまり高くない。この世代は眼底用には市販されておらず,前眼部用にはトーメー社CASIAが市販された。光源の中身としてはポリゴンスキャナなどで構成される外部共振器を用いたリング型共振器が代表的である22)。
第2世代SSOCTを図3に橙色で示す。この世代では光源のコヒーレンス長が大幅に改善され,深さ計測レンジが拡大された。また,深さ分解能が向上した光源も開発されている。現在眼底用には複数社から市販化されており,前眼部用にはトーメー社CASIA2が市販されている。この世代が現行市販機の最新世代ということになる。光源の中身としては微小光学技術を用いたshort cavity laserが代表的で23),ほかにも分散補正済みFourier domain mode locked (FDML) laser24)もこの世代に入るだろう。
そして,まだ医療検査用OCTとしては市販化されていないものの研究開発が進められているのが第3世代SSOCTで,図3に赤色で示す。この世代は従来のSSOCTとは一線を画す優れたコヒーレンス長を持っており,深さ方向の信号減衰がもはや光源には制約されず,プローブ光学系の焦点深度や光検出器の応答速度,高速デジタイザのサンプリング速度がボトルネックとして残されるのみである。SSOCTがこの世代になると,深さ計測レンジを求めるなら第3世代SSOCT,深さ分解能を求めるならSDOCTという棲み分けが明確になってくるだろう。光源の中身としては波長可変面発光レーザー(tunable VCSEL)25,26),Vernier-tuned DBR laser27–29),超高精度分散補正済みFDML laser30)が挙げられる。
本節では深さ分解能と信号減衰特性からSD/SSOCTの特性を解説した。ほかにもAスキャン速度といった別の観点で比較することも可能である。市販機のAスキャン速度は100~200 kHzが現時点での上限だが,研究段階ではMHzのAスキャン速度も多数報告されている31)。しかし測定感度が犠牲となるため,市販の普及モデルは今後も現在と同程度の速度が用いられるだろう。
以上,OCTの原理と技術の基本についてかなり突っ込んだ解説をしたが,いかがだっただろうか。要点としては,(1)OCTは時間を止める技術である,(2)OCTには水の吸収特性や産業技術が深く関係している,(3)SD/SSOCTはそれぞれ高分解能/長い深さ計測が得意である,が挙げられる。本稿が読者のOCTに対する理解をさらに深めるきっかけになれば幸いである。