2019 Volume 40 Issue 3 Pages 70
SPIEが主催するPhotonics Westは光学・フォトニクス分野で世界最大規模の学会である。今年は2月2~7日にサンフランシスコのMoscone Centerにて開催され,参加者は約23,000人であった。学会全体の規模が巨大であるだけでなく,昔からOCT技術の研究者・開発者が最も集まる学会でもある。フーリエドメインOCTの黎明期を知る方々にとっては,熱気と緊張感に満ちた技術革命期であった2000年代の空気を思い出す学会かもしれない。現在では随分と落ち着いたが,それでもOCTの技術者にとって重要な学会であることに変わりはない。
最近のOCT技術開発は多様化と高度化が加速している。抜本的なローコスト化・小型化を目指したワンチップOCT,こなれた技術とデバイスを用いた1万ドルOCT,生体の粘弾性を測るOCT Elastography,可視光OCT,OCTA,そして筆者の専門でもある偏光OCTなど,挙げていけばきりがないほど様々なバリエーションがある。Photoacoustic tomographyやspectroscopyとの組み合わせなども含めれば,OCTは実に様々な領域に「当たり前の標準技術」として浸透しつつある。偏光OCTに関して言えば,以前はすべての発表をチェックできる程度の演題数しかなかったのだが,ここ2~3年はもはや物理的にすべてをチェックできないほど発表数が増えた。この理由の1つには,基礎研究では何をするにしても偏光OCTを標準のベースエンジンとする研究グループが増えていることが挙げられる。
Photonics Westの展示会はMoscone South/Northの広大な会場をすべて使い,今年は1,350社の光学部材・光学機器メーカーがブースを連ねた。OCT関連では次世代SS-OCT光源である波長可変面発光レーザーを複数の光源メーカーが展示しており,眼科機器への搭載で性能の飛躍的向上が期待された。また,一般研究・実験用途向けに波長1,310 nmの円偏光入射型偏光OCTが一般光学機器メーカーのブースにて展示され,販売が開始された。筆者としては,このような一般向け偏光OCTがOCTの専門技術者を持たないラボにも普及し,応用研究を加速させることに大きく期待している。
一方,Photonics Westでは十分カバーされない領域が近年発展目覚ましい機械学習・AIの分野である。AIについてはソフトウェアや眼科を含めた応用・臨床分野の学会でないと動向は掴めない。世間的にはAIが大きく注目されており世の中を変える重要な技術であることは間違いないが,AIの発展によって,元データを取得する光学機器の重要性も同時に増していくはずである。Photonics WestはOCT以外にも光超音波技術,LIDAR,AR/VR/MR光学技術等を深くカバーしており,今後も縁の下のハイテク光学技術を見せ続けてくれるだろう。
Photonics West展示会場エントランス(左上),一般光学機器メーカーが展示・販売開始した偏光OCT(左下),たまたま立ち寄ったサンフランシスコ近郊にある大手IT企業本社キャンパス(右上),San Francisco-Oakland Bay Bridgeの夜景(右下)。