2019 Volume 40 Issue 4 Pages 114-116
近年,近視の人口はアジアを中心として世界的に増加傾向にある1)。このままの傾向で増加し続けた場合,世界の近視人口は,2050年には全世界人口の49.8%にあたる47億5,800万人,失明リスクのある強度近視の人口は,9.8%の9億3,800万人になると報告2)されている。
日本でも近視人口は増加していると考えられている。2005年度の厚生労働省の報告では,日本における失明原因疾患の第4位に強度近視が挙げられ,近視予防は急務であるにもかかわらず,日本における小児期の近視有病率は1990年代以後明らかにされていなかった。そこで我々は,東京都内における小中学生約1,400人を対象に,非調節麻痺下屈折値と眼軸長を測定し,さらにアンケート調査により近視とドライアイに関連性がある可能性を見出し報告3)したので,本稿ではその内容についてご紹介する。
東京都内小中学校の全校生徒1,478名(小学生/中学生:726/752名)のうち,保護者から同意が得られ,かつ検査当日出席した1,429名に対し,非調節麻痺下他覚屈折値(HOYA iTrace Surgical Workstation; Tracey Technologies)と眼軸長(IOLMaster 700; Carl ZeissMeditec AG)を測定した。そのうち,アトロピン点眼やオルソケラトロジーを装用している生徒や,視機能に影響を及ぼす眼疾患の既往のある生徒を除いた1,416名のデータを解析した。
近視を等価球面度数−0.5 D以下,強度近視を等価球面度数が−6.0 D以下,または眼軸長26.0 mm以上と定義した。
その結果,小学生689人における近視有病率は76.5%,強度近視有病率は4.0%であり,特に小学1年生時点での近視有病率は,既に60%を超えていることが明らかになった。また,平均屈折値は−1.73 ± 1.98 D,平均眼軸長は23.41 ± 1.03 mmだった。
中学生727人における近視有病率は94.9%,強度近視有病率は11.3%で,中学生の3学年全てにおいて,近視有病率は90%を超えるという結果だった。非調節麻痺下での測定であるため過大評価をしている可能性があるが,これは東アジア諸国の既報よりも高い有病率であり,中学生期における近視が深刻なものであることが示された。また平均屈折値は−3.09 ± 2.26 D,平均眼軸長は24.73 ± 1.19 mmであり,強度近視(眼軸長26.0 mm以上)有病率は15.2%だった。
我々は前述した測定に加え,ライフスタイルに関するアンケート調査を行った。近視と関連性があるとコンセンサスの得られている屋外活動時間の他,既報で検討されている近業(読書やテレビ視聴など近くを見る作業)時間,読書距離,近視家族歴,睡眠時間について検討した。
さらにドライアイの有無を,Women’s Health Study questionnaire4)日本語版5)を用いて評価した。この質問票は下記3項目から構成されている。
質問1:目が乾きますか。
質問2:目に異物感を感じますか。
質問3:ドライアイと診断されたことがありますか。
質問1,2については,「いつも・時々・ほとんどない・決してない」の選択肢があり,質問1,2どちらも「いつも」もしくは「時々」を選択している場合,またはドライアイと診断されたことのある場合,ドライアイありと評価することができる。
年齢,性別,身長・体重から算出した体格指数(body mass index: BMI)と上記ライフスタイルに関連する項目を調整し多変量解析した。その結果,小学生において等価球面度数とドライアイに有意な関連性があり(β = −0.626,P = 0.03),近視進行の目安である眼軸長/角膜曲率(axial length/corneal curvature radius: AL/CR)とドライアイにも関連性があり(β = 0.033,P = 0.04),ドライアイがあるほど近視傾向であることが示唆された。また,中学生において眼軸長とドライアイにも有意な関連性があり(β = 0.354,P = 0.002),眼軸長が長いほどドライアイがある結果となった。以上より,近視とドライアイに何らかの可能性があることが見出された。
さらに我々は,屈折値を測定したiTrace Surgical Workstationにて,全眼球収差を測定した。測定時コンタクトレンズ装用例,Manual操作で測定した例と測定時開瞼した例を除外し,高次収差を算出した。収差は3 mm径で測定した球面収差,3次から6次の収差データ(それぞれコマ様収差,球面様収差,5次収差,6次収差)と,3次から6次の収差の二乗和平方根を全高次収差(total higher-order aberration: THOA)とした。
年齢,性別と上記収差を調整し多変量解析を行った結果,小学生において屈折値と球面収差に有意な関連性があり(β = 6.152,P < 0.001),中学生では眼軸長と4次収差に(β = 26.546,P < 0.001),屈折値とTHOA(β = −26.273,P < 0.001),球面収差(β = 14.097,P < 0.001),4次収差(β = −41.621,P = 0.004)が有意に関連し,AL/CRと4次収差に有意な関連性を認めた(β = 2.940,P < 0.001)。以上の結果より,高次収差,特にTHOAと4次収差が大きいと近視傾向にある可能性が示唆された。
近視と高次収差の関連性については,既報でも報告されている。6~16歳において全高次収差が大きいほど近視進行が速かったという報告している既報6)や,高次収差が大きくなりボケ像を生じることが近視を発症させるという考察7)もある。しかし,角膜収差が大きいほど近視の進行程度が小さく,眼軸長伸長量も少なくなるという既報8)もあり,収差と近視の関連性については今後さらに検討していくべき課題である。
ドライアイと高次収差にも関連性があると考えられている。2006年に改訂されたドライアイ診断基準では「ドライアイとは,さまざまな要因による涙液および角結膜上皮の慢性疾患であり,眼不快感や視機能異常を伴う」と定義されている。従来はこの視機能の変化を客観的,定量的に評価することが困難であったが,高次収差の連続測定機能を備えた波面センサー(KR-1W; TOPCON)の登場により,さまざまな涙液動態における高次収差の経時的変化を評価することが可能となった。
ドライアイのない正常眼では,瞬目後の高次収差がほぼ安定しているのが一般的である。瞬目後10回測定(約15秒間)した際,高次収差は低値で安定しており,連続測定表示(サマリーマップ)における10回目のランドルト環のシミュレーション像も明瞭である(図1)。しかしBUT短縮型ドライアイでは,瞬目後高次収差が右肩上がりに増加し,サマリーマップにおけるランドルト環のシミュレーション像も経時的な悪化を認める(図2)。
正常眼における高次収差の経時的変化(KR-1W; TOPCON)
瞬目後の高次収差は低値で安定しており,連続測定表示(サマリーマップ)においても10回測定後のランドルト環のシミュレーション像も明瞭である。
BUT短縮型ドライアイにおける高次収差の経時的変化(KR-1W; TOPCON)
瞬目後の高次収差は右肩上がりに増加傾向を示し,サマリーマップにおいてもランドルト環のシミュレーション像の経時的な悪化を認める。
我々の報告により,近視とドライアイに,そして近視と高次収差に関連性があることが示唆された。しかし今回ドライアイを質問票のみで評価したため,今後は客観的かつ定量的な評価が必要である。また,ドライアイが近視を進行させる因子となるのか,さらに高次収差との関連性も含め縦断的に検討していきたい。