Japanese Journal of Visual Science
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Kerartoconus detection index derived from a placido ring topographer
Motohiro ItoiOsamu HiedaSatoshi TeramukaiShigeru KinoshitaChie Sotozono
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2020 Volume 41 Issue 2 Pages 19-24

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要旨

【目的】Placido型角膜形状解析装置(PR-7000®,サンコンタクトレンズ)に内蔵されている円錐角膜診断指数の診断能力を,他機種の指標を用いて比較,検討した。

【対象と方法】Pentacam HR®(OCCULS)のD値,TMS-4®のKCI(Keratoconus Index),KSI(Keratoconus Suspective Index),およびPR-7000®の円錐角膜indexの全てを得られた症例を対象に,正常群と円錐角膜群に分類し,KCI,KSI,および円錐角膜indexについて,ROC曲線下面積を比較した。

【結果】正常群80眼,円錐角膜群40眼(平均K値:47.94 ± 1.43,52.13 ± 6.33)を対象とし,ROC曲線下面積(95%信頼区間)は,KCI,KSI,円錐角膜Indexがそれぞれ0.963(0.921–1.000),0.963(0.916–1.000),0.950(0.901–1.000)となり,有意差を認めなかった。

【結論】PR-7000®の円錐角膜診断indexは,KCI,KSIと同様に,大きなROC曲線下面積を示し,円錐角膜の検出に有用と考えられた。

Abstract

Purpose: To evaluate the diagnostic ability of the keratoconus index compared with other keratoconus (KC) screening indices.

Method: We enrolled patients who underwent examination via Pentacam HR®, PR-7000® and TMS-4®, and classified into either the normal or KC group based on D-index. The keratoconus index measured by PR-7000®, and KCI (Keratoconus Index) and KSI (Keratoconus Suspective Index) measured by TMS-4® were evaluated. The area under the receiver-operating-characteristics (AU-ROC) and confidence interval (CI) was calculated to assess the diagnostic ability of the indices.

Results: This study involved 40 eyes of 40 KC patients and 80 eyes of 80 normal subjects. No significant difference was found in AU-ROC between the keratoconus index, KCI, and KSI (0.950 CI: 0.901–1.000, 0.963 CI: 0.921–1.000, and 0.963 CI: 0.916–1.000, respectively).

Conclusions: The keratoconus index, showed large AUROC as well as KCI and KSI, which may be an effective diagnostic option for detecting KC.

緒言

円錐角膜は角膜実質の菲薄化と角膜の前方突出をきたし,角膜不正乱視を生じる進行性の疾患である1)。病因として,先天的な遺伝子異常2,3),酸化ストレス4),性ホルモンの関与5)が指摘されているが,その詳細なメカニズムは分かっておらず,円錐角膜に対しては,視力矯正を目的にハードコンタクトレンズ処方や角膜移植が治療として行われてきた。しかし近年,角膜クロスリンキングによる円錐角膜に対する進行抑制効果68)が報告されており,進行予防を目的とした早期診断が重要となっている。また,円錐角膜は,エキシマレーザーによる角膜屈折矯正手術の合併症である術後角膜拡張症の危険因子911)の一つと考えられており,不可逆性の視力低下を避けるために円錐角膜のスクリーニングは重要である。

円錐角膜の診断は,古くは細隙灯顕微鏡による所見で行われていたが,プラチド型角膜形状解析装置の一種であるビデオケラトスコープの開発12)により,詳細な角膜前面形状の定量化が可能となり,円錐角膜に特徴的な形状を捉えることが可能となった。その後,角膜後面が測定可能な機器が出現し,角膜後面形状および角膜厚を用いた円錐角膜診断が可能となったが,現在もプラチド型角膜形状解析装置は,最も一般的に使用されており,円錐角膜診断の基本となっている13)。PR-7000®(サンコンタクトレンズ社)は2005年に発売されたプラチド型角膜形状解析装置であり,円錐角膜診断指標である円錐角膜indexが内蔵されている。しかし,円錐角膜indexについて,円錐角膜の検出力を評価した報告はない。

今回,Placido型角膜形状解析装置(PR-7000®,サンコンタクトレンズ)に内蔵されている円錐角膜診断指数の診断能力を,計算式の異なる他機種の指標を用いて比較,検討した。

対象ならびに方法

2016年3月から2019年3月の間に,バプテスト眼科クリニックの屈折矯正外来を受診した症例のうち,エキシマレーザー角膜屈折矯正手術,角膜クロスリンキング,角膜内リング挿入を予定し,術前検査を施行した症例を対象とした。術前検査はソフトコンタクトレンズを2週間,ハードコンタクトレンズを3週間以上装用していない状態で施行した。対象患者のうち,PR-7000®(サンコンタクトレンズ社),TMS-4®(TOMEY社),Pentacam HR®(OCCULS社)の3機種全てを測定している症例を抽出し,Pentacam HR®のBelin/Ambrosio Enhanced Ectasia Displayから得られるD値14)を基に,正常群,円錐角膜疑い群,円錐角膜群に分類し,正常群,円錐角膜群を対象に後ろ向きに解析を行った。D値による判定は,Pentacam HR®の内蔵ソフトウェアに基づき,1.6未満が正常群,1.6以上かつ3.0未満が円錐角膜疑い群,3.0以上が円錐角膜群とした。正常群と円錐角膜群の代表症例について,PR-7000®(サンコンタクトレンズ社)の測定結果を図1に示す。

図1

PR-7000から得られたカラーマップ。 左:正常眼のカラーマップ。円錐角膜indexは−; 3.51を示し,正常眼と判定されている。 右:円錐角膜眼のカラーマップ。円錐角膜indexは−3.5を示し,円錐角膜眼と判定されている。

術前検査の結果から,眼鏡最良矯正視力(logMAR),PR-7000から得た,円錐角膜index,中心ずれ,ばらつき,平均R値,平均Q値,QVmax,TMS-4から得たKCI(Keratoconus Index)15),KSI(Keratoconus Suspective Index)16),および,Pentacam HRから得た,角膜前面の平均K値,最薄角膜厚,D値,について,正常群と円錐角膜群でMan-Whitney U検定を用いて比較し,有意水準は5%とした。また,KCI,KSI,および,円錐角膜indexの3指標について,それぞれReceiver Operating Characteristic(ROC)解析を行い,円錐角膜の検出力について比較した。ROC解析では,それぞれ3指標についてROC曲線を算出し,内蔵プログラムで円錐角膜疑いと判定されるCut-Off値におけるROC曲線下面積(Area Under-ROC: AU-ROC)を比較した。

円錐角膜indexは,PR-7000®に内蔵された円錐角膜診断指標であり,マイヤーリングから得られた,中心ずれ,ばらつき,平均R値,平均Q値,QVmaxという5つの指標を用いて,円錐角膜index = −20.85 + 3.31平均R値−1.87平均Q値−5.25中心ずれ−1.06ばらつき−1.42 QVmaxという式から求められる。稗田らの臨床データを用いた報告に基づき,内蔵ソフトウェアではCut-Off値は1.7に設定されており,1.7未満で円錐角膜疑い群,1.7以上で正常群に分類される。(稗田牧:角膜形状による円錐角膜の診断.日本眼光学学会抄録集: 2005)。Placidoリングの1本目のリングに水平・垂直方向へ接線を引き,得られた長方形の中心を測定中心とする(図2)。この測定中心を中心に,放射状に32方向のPlacidoリングの1本目から5本目の平均曲率半径を求める。尚,測定範囲は角膜曲率8.00 mmの模擬眼でプラチドリング1本目が直径1.7 mm,5本目が直径3.9 mmとなる。32方向の平均曲率半径を,XY座標の平面上に測定中心から11.25度ステップでプロットし,この32ポイントを通るもっとも近い楕円を求める。この楕円の中心と測定中心のずれを“中心ずれ”とする。また,得られた楕円と各ポイントとの誤差の平均値を“ばらつき”とする(図3)。また,角膜を45度ずつに8等分し,それぞれの領域の角膜形状を最小二乗方にてコニコイド曲線に近似を行った。コニコイド曲線は,X2 + (Q + 1)Y2 − 2RY = 0で表され,R値は原点における曲率を,Q値は曲線の形状を示す(図4)。それぞれ得られた8方向のR値の平均を“平均R値”,Q値の平均を“平均Q値”とする。また,それぞれ8つの領域について,180度対側の領域とのQ値の差分を求め,その最大値をQVmaxとした。

図2

測定中心の模式図。 1本目のマイヤーリングの接線から得られた長方形の中心を測定中心とする

図3

中心ずれとばらつきの模式図。 測定中心と楕円中心のずれた距離を“中心ずれ”,楕円と各測定点との誤差の平均値を“ばらつき”とする

図4

コニコイド曲線のグラフ。 X2 + (Q + 1)Y2 − 2RY = 0で示されるコニコイド曲線

本研究は,ヘルシンキ宣言に則り,京都府立医科大学倫理審査委員会の承認を受け行った。

結果

正常群が80例80眼(男性57例,女性23例,平均年齢31.0歳 ± 7.6歳),円錐角膜群が40例40眼(男性24例,女性16例,平均年齢28.7歳 ± 10.5歳)となった。

円錐角膜群では正常群に比較して,最良矯正視力(logMAR)が不良であり,角膜前面の平均K値は大きく,最薄角膜厚は薄く,D値は大きくなり,いずれの指標でも有意な差を認めた(表1)。また,両群における,KCI,KSIおよび円錐角膜indexの数値を表2に示す。円錐角膜群では,正常群に比較して,KSI,KCIが大きく,円錐角膜indexが小さい値となり,いずれの指標でも有意な差を認めた。ROC解析の結果得られた各指標のROC曲線を図5に,また,内蔵プログラムで円錐角膜疑いと判定されるCut-Off値における解析結果を表3に示す。いずれの指標でも円錐角膜の診断について高いAU-ROC値を認め,95%信頼区間はいずれの指標も重複しており,明らかな差を認めなかった。また,感度・特異度は,いずれの指標でも90%を超える高い値を認めた。

表1 対象
正常群(n = 80) 円錐角膜群(n = 40) P value
最良矯正視力(logMAR) −0.01 ± 0.13 0.21 ± 0.27 <0.01
Ave K(D) 47.94 ± 1.43 52.13 ± 6.33 <0.01
最薄角膜厚(μm) 536.82 ± 26.69 449.80 ± 48.59 <0.01
D値 0.87 ± 0.46 19.73 ± 66.16 <0.01
表2 角膜形状解析の比較
正常群(n = 80) 円錐角膜群(n = 40) P value
TMS-4® KSI 0.00 ± 0.00 72.64 ± 31.15 <0.01
KCI 0.41 ± 2.58 58.40 ± 28.28 <0.01
PR-7000® index 4.22 ± 1.60 −21.08 ± 23.30 <0.01
Ave R 7.79 ± 0.25 6.79 ± 0.90 <0.01
Ave Q −0.27 ± 0.17 −2.45 ± 4.48 <0.01
Q max 0.26 ± 0.33 6.55 ± 6.07 <0.01
中心ずれ 0.11 ± 0.08 1.39 ± 0.90 <0.01
ばらつき 0.25 ± 0.63 10.29 ± 18.87 <0.01
図5

ROC曲線。 KCI(Keratoconus Index),KSI(Keratoconus Suspective Index),および円錐角膜indexのROC曲線を示す

表3 ROC解析の比較
Index Cut-off AUROC 95%信頼区間
TMS-4® KSI 15 0.963 0.921–1.00
KCI 5 0.963 0.916–1.00
PR-7000® index 1.7 0.950 0.901–1.00

考察

現在,角膜形状解析装置には様々な種類があるが,その大部分に円錐角膜の診断を目的とした診断プログラムが内蔵されている。Placido型角膜形状解析装置である,TMS-4®(TOMEY社)には,KCI(Keratoconus Index),KSI(Keratoconus Suspective Index)の2種類の円錐角膜診断指標が内蔵されているが,いずれの指標も円錐角膜に対して良好な診断力を有することが報告されている15,16)。一方,同じPlacido型角膜形状解析装置であるPR-7000®(サンコンタクトレンズ社)に内蔵される円錐角膜診断指数の診断能力を検討した報告はない。今回,我々の検討では,PR-7000®に内蔵されている円錐角膜診断指数である円錐角膜indexは,TMS-4®から得られるKCI,KSIと同様に,円錐角膜の診断で高いAU-ROCを示した。

円錐角膜indexは,中心ずれ,ばらつき,平均R値,平均Q値,QVmaxという5つの指標を用いた指数である。中心ずれとばらつきは,1本目から5本目のマイヤーリングを近似した楕円を用いた指標であり,中心ずれは角膜中央部の非対称性を,ばらつきは,角膜中央部の非均一性を反映した指標である。中心ずれとばらつきと算出方法は異なるが,TMSから得られる角膜中央部の非対称性および非均一性を示す指標として,SAI17),SRI18)がある。いずれの指標も,円錐角膜眼では乱視眼に比較して高値を示すことが報告されており,KSIの算出に用いられている16)。このように,角膜中央部の非対称性および非均一性の数値化は,円錐角膜に特徴的な形状を捉えるために,有用な手法である。平均R値,平均Q値,QVmaxは,角膜形状をコニコイド曲線に近似して得られた指標である。中心ずれやばらつきとは異なり,角膜周辺部を含めた角膜形状全体を反映し,R値は角膜曲率,Q値は角膜形状の非球面性を示している。R値・Q値は,それぞれ,PKS分類のステージの進行に伴い小さくなること19,20)が知られており,円錐角膜特有の,角膜中央が急峻化し,周辺部と角膜中央の屈折力の差が正常眼に比較して大きいという角膜形状を反映した指標と考えられる。このように,円錐角膜indexを構成する5つの指標は,いずれも円錐角膜特有の形状変化を捉えた指標であり,その結果として,円錐角膜に対し高い検出力を認めたと推測された。

Pentacam HR®はScheimpflug型角膜形状解析装置に分類され,角膜前面のみならず角膜後面も測定可能という特徴を持ち,円錐角膜診断プログラムとして,Belin/Ambrosio Enhanced Ectasia Displayが内蔵されている。円錐角膜診断プログラムの総合的な評価として,角膜前後面のエレーベーション値・角膜厚・角膜厚分布から構成されるD-index14)が示されており,円錐角膜に対し高い診断能を持つとされる。一方,TMS-4®,PR-7000®はPlacido型角膜形状解析装置に分類され,角膜前面形状や涙液動態の評価に優れているが,角膜後面形状の評価は困難という欠点がある。しかし今回,D値によって診断された円錐角膜に対して,Placido型角膜形状解析装置から得られたKSI,KCI,円錐角膜indexはいずれも大きなAU-ROCを有し,感度・特異度ともに90%を超える高い値を認めた。このことから,円錐角膜の診断には,角膜前面形状の子細な評価が有効と言える。Hashemi21)らは,IVA(Index of Vertical Asymmetry),ISV(Index of Surface Variance)など,Pentacam HR®から得られる角膜前面の非対称性・非均一性を示す形状指数が,D-indexと同等の円錐角検出力を示すことを報告し,円錐角膜の早期診断に有効としている。円錐角膜に特有な角膜形状変化を捉える上で,角膜後面・角膜厚のみならず角膜前面の非対称性・非均一性を評価することは依然として重要と考えられた。

近年,円錐角膜の早期診断について,角膜収差22),角膜上皮厚23),角膜生態力学特性24)のみならず,角膜後面形状変化25)が重要性であることが指摘されている。円錐角膜眼では,初期の形態変化として,角膜前面に先んじて角膜後面が変化する25)という報告もあり,角膜後面形状に関する複数の指標26,27)が,円錐角膜の早期診断に有効とされている。今回,症例数が少ない為,円錐角膜疑い群を対象外とした。しかし,円錐角膜疑い群には,角膜前面に比較して後面変化が大きい症例が含まれている可能性がある。そのため,角膜前面の形状変化を反映した円錐角膜indexでは,円錐角膜疑い群を含む早期円錐角膜の検出力については,今回の検討とは異なる結果となる可能性がある。今後は,円錐角膜群の症例数を増やした上で,円錐角膜疑い群を含めた診断能力の検討が課題として挙げられる。また,今回は正常群と円錐角膜群の2群間における検出力を検討したが,ペルーシド角膜辺縁変性や,角膜移植後など,円錐角膜以外の不正乱視を生じる疾患を含めた,鑑別能力も検討する必要がある。

今回の検討では,Pentacam HR®のD値に基づいた,円錐角膜疑いを除く円錐角膜群に対して,PR-7000®に内蔵されている円錐角膜診断指数である円錐角膜indexは,TMS-4®から得られるKCI,KSIと同様に高いAU-ROCを示した。PR-7000®の円錐角膜診断indexは,円錐角膜の診断に有用な選択肢であると考えられた。

利益相反

木下茂(カテゴリーF:参天製薬,カテゴリーF:千寿製薬,カテゴリーF:大塚製薬,カテゴリーF:興和,カテゴリーP:参天製薬,カテゴリーP:千寿製薬,カテゴリーP:興和,カテゴリーP:ロート製薬,カテゴリーP:シスメックス),外園千恵(カテゴリーF:参天製薬,カテゴリーF:日本アルコン,カテゴリーF:サンコンタクトレンズ,カテゴリーF:シード,カテゴリーP)

文献
 
© 2020 The Japanese Society of Ophthalmological Optics
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