Japanese Journal of Visual Science
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2020 Volume 41 Issue 3 Pages 44-47

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1. はじめに

眼底の画像診断は,近年の光工学・光エレクトロニクス・情報工学の発展によって,光源・光検出器・情報処理装置の向上により進化を遂げてきた。現在,眼底カメラ,走査レーザー検眼鏡(scanning laser ophthalmoscope: SLO),光干渉断層計(optical coherence tomography: OCT)等が眼底画像診断装置として用いられている。

ここでは,これら眼底光イメージング装置の画質を決定する要因の基本を振返り,最近登場してきた新たなイメージング装置について触れる。

2. 画像化装置の画質

眼底光イメージングに限らず,ある対象の画像を撮影する装置の性能を表す方法は共通している。これにはもちろん,眼も含まれている。画像化装置の点拡がり関数(point spread function: PSF)を求めることができれば,この装置を通して撮影された像がどのように劣化するかを検討することができる。そのため,様々な画質評価指標がこのPSFと関連している。PSFとは対象のある一点が形作る像のことである。視覚においても,網膜に投影される像の評価に眼光学系のPSFが用いられている。画像で識別可能な最小構造の大きさを表す指標である分解能は,PSFの幅によって定義される。また,PSFの裾の広がりは画像のコントラストに影響する。

3. 眼底光イメージングの画質低下要因

眼底光イメージングにおいて,画質は眼光学系によって大きく制限を受ける。一般的に光学イメージング装置の分解能は,光学系の絞りを広げる(開口数が上がる)につれて向上する。しかし,開口数が大きくなるにつれて収差の影響による分解能の低下が顕著になっていくため,光学イメージング装置の光学系は収差を打消すように設計されている。眼底光イメージングでは眼も光学系の一部となる。開口数は眼光学系の絞り(瞳孔)により制限されてしまう。また,眼光学系の収差は個人差・時間変化があるため,これを打消すには可変鏡や空間光変調器等による補償光学系が必要となる。加えて,以下に示す要因により画質が低下する。

3.1  迷光

光学系の中を光が伝搬する過程で期待されていない散乱が起こると,画像のコントラストが低下する。また,レンズ表面での反射などによってベーリンググレアが発生し画質が落ちる。

装置内の光学素子ではこれらの散乱・反射を抑えるように設計されている。そのため,眼底光イメージングでは眼球内の散乱や反射の比重が相対的に大きくなる。眼光学系で起こるこれらの迷光を除去するように,光学系の設計・撮影方法・信号/画像処理に工夫が施されている。

3.2  多重散乱

実際のイメージングでは,対象は一点のみからの散乱のみを画像化しているわけではない。対象は空間的な広がりを持っている。そのため,近傍からの散乱光が混ざり合って記録装置で検出される。このことで画質の低下が起こるが,その影響は画像化の方式によって様々である。それぞれについては以下の各画像化装置の項で述べる。

3.3  固視微動

撮影中に対象が動くと,本来の構造とは異なる画像が得られれることになる。固視を行っていてもヒトの眼球は常に動いているため,撮影に時間がかかるほど画像に映し出される像は本来の構造からずれることになる。

4. 眼底カメラ

眼底カメラの撮影は,眼底をハロゲンランプなどの自然光に近い光源を使ってほぼ均一な光強度で照明し,眼底からの反射・散乱光を光学系によって検出面に結像して記録することで行われる【図1a】。眼底からの反射・散乱光は非常に弱いため,光学系の要素によって生じる迷光,特に角膜表面での反射や,角膜・水晶体による照明光の散乱が検出されないように除外する必要がある。そのため照明光は角膜上でリング状に照明され,角膜中心部を通って戻ってくる散乱光によって画像が構成される1)

図1

眼底光イメージング装置の基本構成.O:観察面,S:検出面

画像化される領域全体が同時に照明・撮影されるため,フラッシュ照明により撮影時間を十分短くすることで,固視微動に影響されずに撮影することができる。

しかし,広い範囲を同時に照明しているため,対象のある一点に着目した際,近傍の組織で散乱された光が重なることで,画像のコントラストは低下する傾向がある。

5. 走査検眼鏡

レーザー光源の登場により,非常に狭い領域のみを高い強度で照明することが可能となった。走査レーザー検眼鏡(SLO)は観察面上の1点を照明・記録し,照明・記録位置を順番にずらしていく(走査)ことで画像を撮影する【図1b】。照明範囲を検出する点に絞ることで,照明されていない場所からの散乱光の発生が抑制される。また,照明位置からの散乱光を共役となる位置に置いた点検出器で検出することで,焦点に合った深さ位置以外からの散乱光の検出を抑えることができる。これを共焦点効果と呼ぶ。この共焦点効果で近傍からの散乱光の影響を抑え,画像のコントラストを向上させることができる2,3)。検出器前にピンホールを置くと共焦点効果をさらに高めることができる。検出される光強度は減るが,分解能とコントラストをさらに向上させることができる4)。また,照明による迷光を比較的簡易に除去できるため,眼底カメラのような複雑な照明を用いずに済む。

眼底カメラと比較して,装置の光学系が簡易化され,画像コントラストが向上したが,レーザーを使用することによる短所も存在する。単にレーザーという場合,単一波長の光を発光するものを指す。そのため,カラー眼底写真のような色情報を得ることができない。異なる波長のレーザーを2ないし3個使用することで疑似カラー画像を撮影する方法があるが,自然光(広帯域の可視光)によって照明した際に得られる色を再現している訳ではない。

眼底カメラで使われているような照明はインコヒーレント照明と呼ばれるのに対し,SLOはコヒーレント照明である。これは,コヒーレントな光であれば,より小さな領域に光を集中して照明できるからである。インコヒーレント照明の場合,画像は,観察面の各点が検出面に形成する光強度分布を積算したものとなる。コヒーレント照明の場合,光強度ではなく,電磁波(光)の振幅分布が積算されてからその強度が検出される5)。つまり,撮影対象点の近傍で散乱された光と干渉が起こる。このため,画像にスペックルと呼ばれる粒状のパターンが発生する。

光のコヒーレンスには空間と時間の2種類があり,照明範囲を極小に絞るためには空間コヒーレンスが高ければ良い。SLOではレーザーを照明しているがレーザーである必要はない。レーザーは空間コヒーレンスと時間コヒーレンスの両方が高い光源である。時間コヒーレンスのみ低い光で照明すると,照明光の進行方向にある近傍点からの散乱光との干渉が抑えられ,スペックルが抑制される。そこで,スーパールミネッセンスダイオード(super luminescence diode: SLD)から発光した光を光ファイバーに通して空間コヒーレンスを高めて使用し,スペックルを抑えて画像化する方法が取られるようになった6,7)

6. 光干渉断層計(OCT)

奥行方向の散乱位置を検出して断層画像の撮影を可能としたのがOCTである。一般的な商品化されているOCTは,点走査イメージング構成【図1b】に光ファイバーによる高い共焦点効果と低コヒーレンス干渉による散乱光の抽出(ゲート効果)によって深さ方向の分解能力を備えたものである。点走査方式プラス共焦点効果により散乱光を除去しつつ,奥行き方向の散乱位置を細かく分解することで,高解像度の断層画像が撮影される。一般的に商品化されているスペクトルドメインOCTでは,複数の波長を分光器で分けて検出する。そのため,検出器が一例に並んだラインスキャンカメラを用いる。高速に撮影が可能となったラインスキャンカメラが登場したことで,高速なOCT撮影が可能となった。

OCTでは,点照明【図1b】のためSLOと同様,空間コヒーレンスの高い光を照明する。しかし,深さ分解を行う様式によって,異なる照明光を用いている。波長掃引OCTの場合は,波長を時間的に走査する波長掃引レーザーを使う。瞬間的にほぼ単一の波長で照明するため,時間コヒーレンスは高い。タイムドメインOCTとスペクトルドメインOCTの場合は複数の波長を同時に照明するため,SLDなどの広波長帯域光源を使う。そのため時間コヒーレンスは低いが,深さ分解に用いるためにスペックルの低減効果はない。よってどちらの場合でも得られる画像には同様のスペックルが発生する。

7. 線走査イメージング

これは,フルフィールド照明と点走査方式を一部ずつ組合せた方式である。光源を線状に成形して対象を照明し,線状のイメージを検出する【図1c】。照明部位を線状照明に対して垂直方向に走査することで,二次元の観察面をカバーする。これにより,線状照明の垂直方向には共焦点効果があるため,画像コントラストがフルフィールド照明よりも向上する。また,走査は1軸方向のみで良いため,点走査方式のように高速な走査機構は要しない。

この様式のイメージング装置として,線走査レーザー検眼鏡(line-scanning laser ophthalmoscope: LSLO)や,SLDを使ってスペックルを抑制した線走査検眼鏡(line-scanning ophthalmoscope: LSO)8)がある。高速・高コントラストイメージングが可能となり,眼底のモーション追跡に使用されている9)

近年,複数の発光ダイオード(light-emitting diode: LED)を使ってカラー眼底写真に近い自然なカラー画像を撮影するブロードライン眼底イメージング(broad line fundus imaging: BLFI)10)が登場した。眼底カメラのようにフルフィールドで照明せず,一部を線状に照明する。LEDによる照明のため,スペックルが発生せず,しかし線走査イメージングによる共焦点効果でコントラストが向上した眼底画像が撮影される。

8. 点走査以外のOCT

OCTとは,低コヒーレンス干渉によって深さ分解して断層イメージングを行うもの全体を指しており,点走査イメージング以外に様々な方式のOCTの開発が研究では行われている。

フルフィールド照明方式【図1a】を用いたOCTはフルフィールドOCTと呼ばれ,研究が行われている。タイムドメイン方式と波長掃引方式の2種類が提案されている。タイムドメイン方式ではランプなどのインコヒーレント光源で照明しているが,波長掃引方式では照明強度が足りなくなるため,波長掃引レーザーによるコヒーレント照明を用いている。このため,この2方式の画質は大きく異なる。

タイムドメイン方式では低コヒーレンス干渉によるゲート効果が深さ方向だけではなく横方向にも働くため,点走査方式の共焦点効果と同様に近傍からの散乱光の影響を抑制する。さらに,収差によって分解能が低下せず,代わりに画像強度が低下する13)

波長掃引方式では,高速なカメラを用いることで,非常に短い撮影時間で眼底の三次元構造を可視化することが可能である14,15)。しかし,フルフィールドのコヒーレント照明であるため,近傍からの散乱光が重なり,さらに干渉を起こしてコントラストの低下と顕著なスペックルが現れる。特に脈絡膜など強い散乱を起こす組織の構造を可視化することが困難になるという問題がある。

線状の照明イメージング【図1c】と低コヒーレンス干渉を組み合わせることで,線状照明上の各点のOCT A-scanを並列に撮影することが可能になる。この方式はline-field OCTと呼ばれている11,12)

9. まとめ

眼底光イメージング装置の基本と,それぞれのイメージング装置の特徴についておおまかにまとめ,研究動向について触れた。光源や検出器などの光技術の進化によって,様々な方式の照明・検出方法による眼底光イメージングが登場してきた。現在も高画質・高機能そして低コストのイメージング方法の研究が活発に行われており,今後も発展していくと考えられる。

今回,眼底から戻ってくる散乱光によるイメージング方法についてのみ述べた。散乱ではなく,蛍光を用いた蛍光眼底検査や自家蛍光イメージングは臨床検査で用いられているが,その画像化の過程は散乱とは異なるため,ここでは割愛した。

文献
 
© 2020 The Japanese Society of Ophthalmological Optics
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