Japanese Journal of Visual Science
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Pupil response and visual attention
Kei Kanari
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2020 Volume 41 Issue 4 Pages 74-79

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要旨

瞳孔は目に入る光の量を調節する。また,瞳孔はさまざまな認知プロセス(知覚,注意,記憶,意思決定)の影響を受けることが知られている。近年,視線位置の明るさだけではなく,注意を向けた位置の明るさに対応して瞳孔が変化することが明らかになっている。本稿では,視覚的注意と瞳孔に関する研究の中で,内因性・外因性注意と瞳孔,眼球運動と関連した注意シフトと瞳孔に関する研究,そして,それらの知見を利用した障害診断や情報入力ツールに関する研究を紹介する。

Abstract

The pupil modulates the amount of light that reaches the retina. In addition, pupil size is influenced by various cognitive processes (e.g., perception, attention, memory, and decision-making). Recent studies have shown that pupil size is modulated by luminance at the eye position and at the attended location. This review introduces studies on endogenous and exogenous attention and pupil and on attentional shifts associated with eye movement and the pupil. Further studies on the tools for diagnosing the degree of autism spectrum disorders and human interface, based on these findings, are then discussed.

1. はじめに

瞳孔は虹彩に囲まれた孔であり,主に目に入る光の量を調節する機能をもつ。しかしながら,古代ローマ帝国から,「目は魂の鏡」(ローマ帝国政治家キケロ:106–47 BCE),「目に心は宿る」(ローマ帝国博物学者プリニウス:23–79 CE)と言われてきたように,瞳孔はさまざまな認知プロセス(知覚,注意,記憶,意思決定)の影響を受けることが多くの研究で示されている。本稿では,その中でも注意と瞳孔に関する研究を紹介する。始めに,内因性・外因性注意と瞳孔に関する研究を取り上げる。次に,眼球運動と関連した注意シフトと瞳孔に関する研究を紹介する。そして,注意障害をもつ患者における瞳孔反応の研究,注意と瞳孔反応の関係を用いた情報入力に関する研究を紹介し,瞳孔の障害診断やヒューマンマシンインタフェースへの応用としての可能性や問題点について述べる。

2. 内因性・外因性注意と瞳孔

内因性注意とは,ヒトが意識的に制御できる注意(トップダウン注意)のことである。Bindaらは,視線とは異なる注意を向けた位置の明るさに対応して瞳孔が変化することを明らかにした1)。実験では,画面中央に固視点と注意を向ける方向を示す手がかりが始めに呈示された。その後,その左右偏心度8°に直径7°の白と黒の円を呈示された。被験者は固視点を見たまま,教示された方向の円に注意を向け,その円の中心のドットの色が変化した回数を応答した(図1A)。その結果,白い円に注意を向けたときの瞳孔は黒い円よりも収縮した(図1B)。注意による瞳孔サイズの変化は円を直接見た場合と比べて小さく,約30%の変化だった。興味深いことに,円を左右どちらかに一方だけに呈示した場合,白い円に注意を向けた条件と円のない背景に注意を向けた条件には瞳孔変化に差が見られたが,黒い円のときは差が見られなかった。著者らはこの理由について,瞳孔の縮小と散大が異なる経路で処理2,3)されていることが関係していると考察している(詳しい経路は省略するが,縮瞳経路は網膜から視蓋前域オリーブ核(PON: pretectal olivary nucleus),EW核(Edinger-Westphal nucleus),毛様体神経節(CG: ciliary ganglion)を介して瞳孔を収縮させる瞳孔括約筋に至る。PONには上丘・視覚野(V1)からの入力4),EW核には外線条皮質(V1–V5)からの入力5)が示唆されている。一方,散大経路は,視床下部(hypothalamus)と青斑核(LC: locus coeruleus)で始まり,毛様体脊髄中枢を介して瞳孔を散大させる瞳孔散大筋に至る)。しかしながら,散瞳にだけ注意効果が見られなかったのは,単純に刺激呈示時における視野全体の輝度によって散瞳の限界に達したためではないかと考えられる。白の円を1つだけ呈示し,注意を背景のグレーに向けた場合,−0.4 mm縮瞳していることから,刺激呈示による視野全体の輝度が瞳孔に影響することが示唆される。また,白と黒の円が両方呈示された状態で,黒の円を直視した場合,瞳孔の最大変化は0.4 mmだった。黒の円を1つだけ呈示した場合の平均輝度はそれよりも低くなるはずだが,注意を背景のグレーに向けたときの瞳孔の最大変化は同じように0.4 mmであった。これらのことから,Bindaらの実験条件における散瞳変化の限界は0.4 mmであったため,注意の効果が見られず,処理経路の違いではないと考えられる。

図1

内因性注意と瞳孔の関係(文献1より)

その後,同様の結果が立て続けに報告されており,内因性注意によって瞳孔が調整されることは間違いないと考えられる。例えば,Mathôtらは,注意タスクとして,ガボールパッチの傾きを応答してもらうことで同様の結果を示した6)。また,刺激輝度の周波数変化7),特徴ベース8)および空間ベース9)の注意において,刺激輝度と対応して瞳孔変化が生じることが明らかになっている。瞳孔は光の調節以外にも,近いところを見るときに縮瞳し,被写界深度を深めることで網膜像のボケを減少される近見反応という機能があると言われている10)が,注意を向けた刺激の空間周波数によって瞳孔が調整されることも示されている11)

内因性注意と瞳孔の関係については多くの研究があるが,外因性注意との関連について検討している研究はほとんどない。外因的注意とは,フラッシュのような手がかり刺激に対して空間的注意が無意識的に向くことであり,その直後,空間的注意が向いた位置でのターゲット検出が向上する。そして,ターゲットが手がかり刺激から300 msほど後に呈示されると,反応時間が遅れるという復帰抑制(IOR: inhibition of return)が生じる12)。Mathôtらは,手がかり刺激としてガボールパッチの位相を50 ms変化させることで外因性注意を向けさせ,手がかり刺激呈示からターゲット呈示までの時間間隔(SOA: stimulus onset asynchrony)を変化させることで,瞳孔が外因性注意と復帰抑制によって調整されるか検討した13)。その結果,外因性注意が向いた位置の輝度と対応して瞳孔が変化した。さらに,IORが1000 msのとき,ターゲットに対する復帰抑制が生じたと同時に瞳孔の変化の方向が逆転した(図2)。このように,瞳孔は注意によって調整されることで,視覚入力を安定させ,色収差や球面収差によるボケを減少させることで視力を最適化14,15)している可能性が示唆される。

図2

外因性注意と瞳孔の関係(文献13より)

3. 眼球運動と瞳孔

視覚的注意は眼球運動と密接に関係していることが多くの研究で示されている。そのため,眼球運動と関連した注意シフトは瞳孔を調整すると考えられるが,それを示した心理物理的研究は少ない。その1つはサッカードと瞳孔に関連するものである。サッカードとは,周辺視でとらえた対象を中心窩に捕捉する高速な眼球運動である。そして,サッカードが生じる前に注意がシフトすると言われている16,17)。この現象と前述した注意と瞳孔の関係をもとに,Mathôtらは,サッカードが生じる前に注意がシフトする位置の輝度と対応して瞳孔が変化するか検討した18)。実験では,ターゲットにサッカードを開始した瞬間にターゲットの背景輝度を操作した。その結果,ターゲットにサッカードを開始する前後でターゲットの背景輝度が変化しない条件では,サッカードを開始する前にターゲットの背景輝度と対応した瞳孔反応が見られた。ターゲットの背景輝度が入れ替わる条件では,サッカードを開始する前のターゲットの背景輝度と対応した瞳孔反応が見られた。これらのことから,瞳孔はサッカード前の注意シフトによって調整されることが示唆される。

もう1つは視運動性眼振と瞳孔に関連するものである。視運動性眼振(OKN: optokinetic nystagmus)とは,視野の持続的な運動物体に対して生じる眼球運動であり,運動物体を追うようにゆっくりと動く成分(緩徐相)と,その反対方向に急速に動く成分(急速相)の繰り返しから構成される。OKNの基本的な機能は運動物体の網膜像を固定することである。OKNの平均眼球位置は急速相の方向(運動刺激の方向とは反対)にずれることが示されている1921)。このずれは,視覚系がこれから来るターゲットを効率的に検出できるようにするための機能だと考えられる。実際に,注意が刺激の運動方向とは反対にシフトすることが示されており,一方向に移動するランダムドットが画面全体に呈示された場合,中央の固視点を凝視中,In-coming field(固視点に向かってランダムドットが来る領域)におけるターゲット検出がout-going field(固視点に向かってランダムドットが去る領域)より速かった22)。Kanariは,OKNによってin-coming fieldへ注意がシフトしたときに,瞳孔がin-coming fieldの輝度と対応して変化するかどうか検討した23)。実験では,ディスプレイの垂直中心線に沿って白と黒に分割された背景に,グレーの明るさをもったランダムドットで構成される一方向運動刺激(左または右方向)を400 ms呈示した(図3)。その結果,in-coming fieldの背景輝度に対応した瞳孔反応が見られた(図4)。このことから,瞳孔はOKNにおける注意シフトによって調整されることが示唆される。

図3

OKNの注意シフトと瞳孔の実験手順(文献23より)

図4

OKNの注意シフトと瞳孔の実験結果(文献23より)

自発的または反射的サッカードとOKNの急速相が共通の機構で制御されている24,25)と仮定すると,上丘(SC: superior colliculus)の中間層(SCi: intermediate layers of SC)がOKN・サッカードの注意シフトによる瞳孔調整に関連していると考えられる。SCは視運動性眼振を含む眼球運動の定位反応の中枢であり2628),視線の変化と空間的注意に関連29)があることが示されている。さらに,SCiは視線と注意のシフトだけでなく,定位反応と関連する一過性の瞳孔反応を調整する3032)。最近では,サルのSCiマップの微小刺激位置に対応する空間位置での局所輝度レベルに応じて瞳孔サイズが変化することが示されている33)。これらの先行研究から,サッカードの注意シフトによる瞳孔調整は上丘のSCiが関連する可能性がある。しかしながら,OKNの反射経路は脳幹,小脳を含む複雑な系の影響を受ける34,35)ため,OKNの注意シフトによる瞳孔調整についてはさらなる研究が必要である。

4. 注意障害と瞳孔

瞳孔が注意を向けている位置や対象の輝度によって調整されるという知見は,注意機能障害をもつと言われている自閉症スペクトラムなどの障害診断や注意障害の重症度の判断などに利用できると考えられる。自閉症スペクトラムはパターン内に隠されたオブジェクトを見つけるパフォーマンスが高い36)ことや錯視の影響を受けにくい37)ことが報告されている。また,コヒーレント運動38)や顔認識39)のパフォーマンスが低いことが示されている。このように自閉症スペクトラムはグローバル/運動処理に障害があり,これは注意機能障害との関連が示唆されている40)

Turiらは,自閉症スペクトラムのローカルに注意を向けるという特徴に着目し,瞳孔反応と自閉症スペクトラム傾向との関係を検討した41)。実験では,反対方向に運動するランダムドットパターを重ねて呈示し,各パターンは白と黒で明るさが異なった。この刺激は回転する円柱のように知覚され,その回転方向は双安定性であり,あるときは時計回り,あるときは反時計回りと切り替わる(https://doi.org/10.7554/eLife.32399.005)。また,白パターンの運動方向右,黒パターンの運動方向は左だったため,円柱が時計回りに知覚されたときは白が手前に,反時計回りに知覚されたときは黒が手前に知覚される(図5A)。被験者(定型発達)は円柱がどちらに回転しているか持続的に応答した。その結果,回転方向が時計回りから反時計回りに切り替わったあとの瞳孔は,反時計回りから時計回りに切り替わったあとの瞳孔よりも散大した(図5B)。このことから,被験者は円柱の手前のパターンにより注意を向けていたことが示唆される。そして,その瞳孔変化の差は,質問紙により得られた被験者の自閉症スペクトラム傾向の度合い(AQ: Autism-Spectrum Quotient42))が高いほど大きかった(図5C)。つまり,AQが高い被験者は注意が手前のパターンに向くローカルな処理をしており,AQが低い被験者は注意が円柱全体に向くグローバルな処理をしていたと考えられる。このことから,瞳孔反応を測定することで,個人の注意に関連する障害の度合いを診断できる可能性が示された。ただし,自閉症スペクトラムはそもそも対光反射に障害があり43),さらにADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠陥/多動性障害),不安症など他の障害や疾患が合併しやすい傾向にあるため,それらと共通の機構が関連しているのか検討する必要がある。

図5

自閉症スペクトラム傾向と瞳孔反応の関係(文献41より)

5. 注意による瞳孔変動を用いたヒューマンインタフェース

近年,注意と瞳孔の関係に基づいた非接触な情報入力装置の開発が検討され始めている。これまでの文字入力装置は,視線を文字の上に合わせることで入力を決定するものがほとんどであった。そのため,ディスプレイ全体に文字を配置できるくらいの大きな入力画面が必要であり,視線を常に動かし,入力決定の際に凝視する必要があるため,ユーザーの目に大きな負担をかけるという問題点があった。Mathôtらは,視線を動かさずに注意だけで文字入力が可能な手法を提案した44)。その方法は,同心円上に文字を配置し,文字の背景輝度を1.25秒周期で変化させ,瞳孔反応から注意を向けた文字を推定するというものだ(図6)。例えば,8文字から入力したい1文字を選択する場合,4文字は白から黒,残り4文字は黒から白に輝度が変化する。瞳孔変化から入力した文字が4文字に絞られ,その4文字は白黒パターンの2文字と黒白パターンの2文字に分けられる。この操作を繰り返すことで,最終的に入力したい文字が推定される。実験の結果,2文字から1文字を推定できる確率は88.9%,4文字から1文字は91.0%,8文字から1文字は87.6%と高かった。しかしながら,決定するまでにかかる時間はそれぞれ,14.9秒(2.58 bits/min),20.2秒(4.55 bits/min),28.0秒(4.86 bits/min)であり,脳波を用いた文字入力時間44.4秒45)よりは速いが,視線位置を用いた入力時間1.72秒46)と比べると時間が掛かりすぎている。これは輝度変動が2パターンしかないため,2つのうち1つにしか絞ることができないことによる。

図6

注意と瞳孔を用いて情報入力手法(文献44より)

Mutoらは,輝度変調周波数が異なる円刺激を同時に呈示し,入力したい円の文字に視線を向けたときの瞳孔変化を測定することで,文字入力が推定可能な輝度変調周波数を検討した47)。その結果,左右に異なる輝度変調周波数の刺激を呈示した場合,0.12 Hzの周波数の違いがあれば98%推定可能なことを明らかにした。また,刺激が12個の場合,0.75~2.75 Hzの輝度変調周波数であれば,85%推定可能であった。この研究のように,入力文字背景の輝度変調周波数を変えて呈示することで,文字入力時間の短縮が期待される。ただし,キーボードなどによる文字入力と比べると,やはり入力時間が遅いため,身体が不自由な高齢者や閉じ込め症候群などの障害者のためのコミュニケーションツールや,昨今の新型コロナウィルスなどへの感染症予防の非接触入力ツールとしての活用が期待される。

6. まとめ

本稿では,瞳孔と視覚的注意に関する研究と,その知見に基づいた障害診断,情報入力ツールとしての有用性に関する研究を紹介した。瞳孔が注意によって調整されることを示した心理物理学的研究は多くある。しかしながら,その処理過程はほとんど明らかになっていないため,今後の重要な課題である。瞳孔はヒトの意識では制御できない,無意識的な反応であることから,注意状態や内部状態を推定するのに信頼性が高い指標の一つであると考えられる。また,生理学的手法(EEG, fMRI, MEG)と比べて,トレーニングがいらない,非侵襲性である,安価,容易に測定できるなど,さまざまな利点があるため,これからの新たな障害診断やヒューマンマシンインタフェースのツールとして大いに期待される。

利益相反

利益相反公表基準に該当なし

文献
 
© 2020 The Japanese Society of Ophthalmological Optics
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