Japanese Journal of Visual Science
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Comparison of reproducibility of corneal measurements by anterior segment optical coherence tomography in keratoconus and normal eyes
Aya SaitoKazutaka KamiyaFusako FujimuraRie HoshikawaMasahide TakahashiNobuyuki Shoji
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2020 Volume 41 Issue 4 Pages 80-85

Details
要旨

【目的】円錐角膜眼における前眼部OCT(TOMEY社:CASIA2)の測定の再現性を正常眼と比較した。

【対象と方法】対象は北里大学病院眼科通院中の円錐角膜眼20眼(年齢23.9 ± 4.4歳)(K群)であり,屈折異常以外に眼疾患を有さない正常眼20眼(年齢26.6 ± 4.7歳)(N群)を対照とし,Bland-Altman Plots,変動係数(CV),級内相関係数(ICC)にて再現性を評価した。

【結果】最大角膜前後面屈折力の再現性は,両群ともにICC 0.9以上と良好であったが,K群のばらつきが大きかった(K群;CV < 2.0,N群;CV < 0.7)。中心角膜厚,前房深度,他のすべてのパラメータにおいても同様の結果であった。

【結論】前眼部OCTにおける円錐角膜の再現性は,正常眼よりやや劣るものの,良好な再現性が得られた。

Abstract

PURPOSE: To compare the keratoconus and normal eyes for reproducibility using CASIA2.

METHODS: Corneal measurements of 20 keratoconus eyes (K group) were obtained using anterior segment optical coherence tomography (CASIA2, Tomey, Japan) and compared with 20 normal eyes (N group) for reproducibility. The intraclass correlation coefficient (ICC), Bland-Altman plot, and coefficient of variation (CV) were used to evaluate the reproducibility of both groups.

RESULTS: Both groups showed high agreements in anterior and posterior keratometry (ICC > 0.9). However, the reproducibility (CV) in the N group (CV < 0.7) was higher than that in the K group (CV < 2.0). Moreover, the same result was obtained in central corneal thikness (CCT), and anterior chamber depth (ACD), but the CV in the K group was larger than that in the N group for all parameters.

緒言

円錐角膜は角膜傍中心が菲薄化し,前方突出する進行疾患であり,1000~2000人に1人に発症するといわれている1,2)。円錐角膜の診断には,角膜形状解析装置が有用であり,角膜形状解析装置には原理が異なる様々な機器がある。プラチド式,スリットスキャン式,シャインプルーク式では,角膜混濁を有する高度な円錐角膜症例に対して測定困難,評価に苦慮する場合があるが3),前眼部光断層計(Optical Coherence Tomography:以下OCT)式は角膜混濁をきたす進行症例であっても角膜形状,角膜厚の定量化が可能と報告されている4,5)。Swept-source OCTによる3次元光断層画像診断装置CAISA2(以下CASIA2:TOMEY社)は精度の高い測定が可能68)である。近年,進行性円錐角膜に対する角膜クロスリンキングが普及しつつあるが,角膜クロスリンキングの施行時期を検討するうえで,円錐角膜の進行度を評価する必要があり,評価機器としてCASIA2が有用となる可能性が考えられる。しかし,CASIA2における円錐角膜眼に対する再現性の報告は見受けられないため,円錐角膜においても測定の再現性を確認する必要がある。そこで,今回我々は,円錐角膜眼におけるCASIA2の測定値の再現性を正常眼と比較検討した。

対象と方法

対象は北里大学病院通院中の円錐角膜眼20眼(K群)である。平均年齢は23.9 ± 4.4歳であり,経過観察中にCASIA2を2回測定しているものとし,コンタクトレンズ使用者は原則検査日1週間前からコンタクト装用は中止の指示をしている。円錐角膜重症度分類を示すAmsler-Krumeich分類9)による程度内訳はstage 1(n = 8),stage 2(n = 6),stage 3(n = 4),stage 4(n = 2)であった。また,K群と年齢をマッチングさせた屈折異常以外に眼科的疾患を有さない20眼を対照群(N群)とした(平均年齢26.6 ± 4.7歳)。方法は,CASIA2の前眼部スクリーニングモードにて測定し,各パラメータ(最大角膜前後面屈折力,平均角膜前後面屈折力,角膜前後面におけるflat K,steep K,中心角膜厚,最小角膜厚,前房深度)の再現性をBland-Altman Plots,変動係数(CV),級内相関係数(ICC)にて後ろ向きに検討した。Bland-Altman PlotsはX軸を1回目と2回目の測定値の平均値,Y軸を1回目と2回目の測定値の差としてプロットした散布図であり,95%信頼区間を差の平均±1.96 × 差の標準偏差で求めた。変動係数は2回測定を行った各パラメータの標準偏差(standard deviation: SD)と平均(mean)を用い,次式にて求めた(CV = SD/mean)。さらに,測定時の固視状態を確認するための角膜頂点位置合わせのズレ量を示すオフセット(x軸,y軸)(mm)を用いて2回測定の差についてもK群とN群で比較した。オフセット2回測定の差が大きい場合,1回目,2回目の測定時における固視位置が大きく異なることを示す。統計解析にはMann-Whitney’s U検定を用い,統計学検討における有意水準は5%未満とした。なお,本研究は,北里大学医学部倫理委員会(B18-233)の承認を受けている。

結果

K群,N群ともに測定時の角膜前後面のトレースは全例正確にできていた。図1に最大角膜前面屈折力,図2に平均角膜前面屈折力のBland-Altman Plotsの結果を示す。最大角膜前面屈折力の1回目と2回目の差の平均値(D):1.22 ± 2.61(K群),0.09 ± 0.52(N群),95%信頼区間(D):−3.90, +6.34(K群),−0.93, +1.11(N群),CV(%):1.91(K群),0.62(N群),ICC:0.978(K群),0.984(N群)であった。平均角膜前面屈折力においては,1回目と2回目の差の平均値(D):0.32 ± 1.19(K群),0.03 ± 0.22(N群),95%信頼区間:−2.01, +2.64(K群),−0.40, +0.46(N群),CV(%):1.00(K群),0.27(N群),ICC:0.993(K群),0.997(N群)であった。

図1

左にK群,右にN群のBland Altoman plotsを示す

点線は95%信頼区間,実線は差の平均値を示す

図2

左にK群,右にN群のBland Altoman plotsを示す

点線は95%信頼区間,実線は差の平均値を示す

34に最大角膜後面屈折力,平均角膜後面屈折力の結果を示す。最大角膜後面屈折力における1回目と2回目の差の平均値(D):−0.10 ± 0.32(K群),0.03 ± 0.09(N群),95%信頼区間(D)は−0.73, +0.53(K群),−0.14, +0.20(N群),CV(%)は1.65(K群),0.52(N群),ICCは0.988(K群),0.961(N群)であった。また,平均角膜後面屈折力は1回目と2回目の差の平均値(D):−0.05 ± 0.19(K群),−0.01 ± 0.05(N群),95%信頼区間(D):−0.42, +0.32(K群),−0.11, +0.09(N群)CV(%):1.19(K群),0.32(N群),ICCは0.991(K群),0.979(N群)であった。

図3

左にK群,右にN群のBland Altoman plotsを示す

点線は95%信頼区間,実線は差の平均値を示す

図4

左にK群,右にN群のBland Altoman plotsを示す

点線は95%信頼区間,実線は差の平均値を示す

1(K群),表2(N群)に角膜前後面屈折力のflat K,steep Kの結果を示す。さらに,表3(K群),表4(N群)に各々の群における中心角膜厚,最小角膜厚,前房深度の結果を示した。すべてのパラメータにおいて,両群ともにICCは良好であるが,K群がN群よりばらつきが大きい傾向であった。

表1 K群における角膜前後面屈折力(Flat K/SteepK)
前面   後面
Flat K Steep K Flat K Steep K
Mean ± SD 50.55 ± 6.49 55.02 ± 7.80 −6.61 ± 0.92 −7.50 ± 1.16
中央値 49.45 52.85 −6.35 −7.55
95% CI −1.99, +2.46 −2.65, +3.45 −0.48, +0.44 −0.49, +0.34
CV 0.88 1.34 1.31 1.42
ICC 0.992 0.990 0.980 0.984
表2 N群における角膜前後面屈折力(Flat K/SteepK)
前面   後面
Flat K Steep K Flat K Steep K
Mean ± SD 46.62 ± 1.95 48.10 ± 2.06 −5.99 ± 0.18 −6.38 ± 0.20
中央値 47.25 48.50 −6.00 −6.40
95%CI −0.44, +0.54 −0.57, +0.60 −0.06, +0.06 −0.11, +0.11
CV 0.27 0.36 0.12 0.33
ICC 0.996 0.995 0.991 0.981
表3 K群における角膜厚・前房深度
中心角膜厚(μm) 最小角膜厚(μm) 前房深度(mm)
Mean ± SD 478 ± 36 439 ± 37 3.46 ± 0.32
中央値 476 448 3.44
95% CI −23.20, 13.30 −40.10, 26.10 −0.17, 0.19
CV 0.94 1.85 1.15
ICC 0.983 0.947 0.978
表4 N群における角膜厚・前房深度
中心角膜厚(μm) 最小角膜厚(μm) 前房深度(mm)
Mean ± SD 528 ± 30 524 ± 31 3.33 ± 0.26
中央値 523 520 3.33
95% CI −12.87, +10.47 −13.86, +12.16 −0.34, +0.34
CV 0.60 0.68 1.63
ICC 0.990 0.988 0.888

5にオフセットの2回測定の差の結果を示す。x軸における2回測定時の差(mm)はK群:0.14 ± 0.14,N群:0.08 ± 0.14と両群で有意な差は認められなかった(p = 0.25; Mann-Whitney’s U検定)。y軸における2回測定時の差(mm)はK群:0.13 ± 0.11,N群:0.05 ± 0.08と両群に有意な差を認め(p = 0.02; Mann-Whitney’s U検定),K群の方が2回測定時の固視位置の差がN群に比べて差が大きかった。

表5 オフセット
K群 N群
x軸の2回測定の差(mm) 0.14 ± 0.14 0.08 ± 0.14
y軸の2回測定の差(mm) 0.13 ± 0.11 0.05 ± 0.08

考按

円錐角膜の診断を補助する評価方法として,角膜形状解析装置による測定結果は重要である。現在,眼科臨床において使用される角膜形状解析装置には原理の異なるプラチド式,スリットスキャン式,シャインプルーク式,OCT式など,様々な機器があり,検査する際には検査機器の特性を理解し,検査・評価を行う必要がある10)。プラチド式,スリットスキャン式,シャインプルーク式では円錐角膜の進行症例に対して測定が困難,結果がばらつき,評価が難しい場合があると報告されている3,11)。これに対し,前眼部OCTは進行例であっても角膜形状,角膜厚の定量評価が可能となったことが多く報告されている5,12)。CASIA2もOCT式の角膜形状解析装置であり,精度の高い測定が可能となった6)。今回,円錐角膜眼における前眼部パラメータの再現性をCASIA2にて検討した結果,正常眼と同等の再現性であった。Chanら4)は円錐角膜眼における前眼部OCT(CASIA)とプラチド式(TMS-5)の再現性を比較検討し,CASIAの再現性がTMS-5より良好であり,CASIAは円錐角膜の進行評価に用いることが可能であると報告しており,今回の結果と同様の結果であった。また,過去の報告4,11)と本検討の円錐角膜眼におけるICCの結果を比較したものを表6に示す。表6に示すように今回の結果は,過去の報告結果と同様であった。さらに今回用いた測定機器はCASIA2であるが,CASIAとCASIA2はどちらもswept source方式の前眼部3次元OCTであり,解像度,測定光源波長が1310 nmと長波長の光源を用いている点は同じである。しかしながら1断面あたりの最大スキャン本数はCASIAが512本であるのに対し,CASIA2は800本に増加,スキャン速度も30000本から50000本へと向上し,同じ測定時間でより鮮明度の高い画像の取得が可能となった。さらに,OCT断層像はスリット断層像よりハレーションが生じにくい13)ことから,CASIA2もCASIAと同様に円錐角膜の進行評価の一つとして活用できると考える。しかしながら,パラメータによっては本検討のICCが過去の報告より若干劣る結果となった項目も存在した。これはSzalaiら11)やChanら4)は同一検者で行ったのに対し,今回は同一検者ではないことが原因の一つとして考えられる。

表6 円錐角膜眼における過去の報告と本検討の比較
使用機器 角膜前面(D) 角膜後面(D) 中心角膜厚
(μm)
最小角膜厚
(μm)
Steep K Flat K Steep K Flat K
Szalai, et al10) (n = 84) CASIA 0.997 0.995 0.997 0.940 0.997 0.907
Chan, et al4) (n = 30) CASIA 0.998 0.998 0.998 0.998 0.999 1.000
本検討(n = 20) CASIA2 0.990 0.992 0.984 0.980 0.983 0.947

今回,正常眼と比較すると,検討したすべてのパラメータにおいて円錐角膜眼が正常眼よりもCVが大きく,ばらつきが大きかった。Szalaiら11)はCASIAを用い円錐角膜眼の再現性は正常眼より劣ると報告し,CASIA,CASIA2は16方向の断層像から(全方向を補完して)解析されるため,10°以内の局所的変化を見逃してしまう可能性10,13が存在し,測定の再現性へ影響したと考察している。今回は,測定時の固視監視の指標となるx軸,y軸のオフセットにも着目し,2回測定時のオフセットの差を検討した。その結果,y軸で2回測定の差が正常眼と比較し,円錐角膜眼の方が大きかった。これは1回目と2回目の解析中心がずれていたことを示していることから,今回の結果から1回目と2回目での解析範囲にずれが生じたことで再現性へ影響し,ばらつきが大きくなったのではないかと考える。解析中心が測定の度に異なった理由としては,第一には固視が不安定であった可能性が考えられる。また,第二の理由として,円錐角膜による不正な角膜形状により解析中心を機器が捉えにくく,自動解析に誤差が生じたことが考えられる。

円錐角膜における治療法の一つとして挙げられているクロスリンキングの手術適応を考慮すると,手術適応は,年齢が14歳以上であり,角膜厚が400 μm以上である,12か月の間に最大角膜屈折値が1 D以上増加,自覚乱視度数が1 D以上増加,等価球面度数が1 D以上変化,ハードコンタクトレンズのベースカーブが0.1 mm以上小さくなる,これらのうち1つ以上当てはまることとされている14,15)。そのため,今回のCASIA2を用いた円錐角膜眼の生体計測データの再現性の結果は,正常眼より劣るものの良好であることから,円錐角膜に対するクロスリンキングの手術適応基準を評価するにあたり,CASIA2は円錐角膜の進行評価に有用であると示唆される。

本研究の限界として,今回の検討は後ろ向き検討であるため,測定検者が同一ではないことが挙げられる。今後は,検査同一間での検討,また,円錐角膜眼の重症度別における検討も必要と考える。

今回,CASIA2における円錐角膜眼の再現性を正常眼と比較検討した。各パラメータの再現性は,円錐角膜眼が正常眼よりわずかに劣る傾向があるが良好であった。今後本機器を用いて円錐角膜の進行評価を行うことが十分可能であると考えられた。

利益相反

神谷和孝(カテゴリーF:ノバルティスファーマ,日本アルコン),庄司信行(カテゴリーF:アールイー・メディカル)

文献
 
© 2020 The Japanese Society of Ophthalmological Optics
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