Japanese Journal of Visual Science
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2020 Volume 41 Issue 4 Pages 88-91

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1. はじめに

網膜自家蛍光画像は,網膜疾患に対する主要画像検査の一つで,黄斑疾患外来では必要不可欠な検査となっています。網膜自家蛍光画像検査は保険適応となっており,講習会や教科書ではいかに重要で有用かが力説されています。しかし実際に黄斑疾患を診察していると,自家蛍光画像は複雑な所見から構成されており,一筋縄ではないことに気づきます。本稿では,まず網膜自家蛍光画像の概略について解説したいと思います。続いて初心者向けに,従来唱えられてきた比較的単純で判りやすい解釈について解説したいと思います。続いて上級者向けに,自家蛍光画像がいかに複雑で難しいかについて論じたいと思います。

2. 網膜自家蛍光画像の概略

網膜の自家蛍光画像は励起光480 nmまたは580 nmの短波長自家蛍光と励起光780 nmの近赤外自家蛍光画像が実用化されています。このうち短波長自家蛍光画像は網膜色素上皮(RPE)細胞内のリポフスチン由来の自家蛍光を検出していると考えられ1),近赤外自家蛍光画像はRPE細胞内のメラニン由来の自家蛍光を検出していると考えられています2)。またメラニンがリポフスチンで覆われたメラノリポフスチンに関しては,短波長自家蛍光と近赤外自家蛍光の両者で検出されると考えられています1,2)。一般的に短波長自家蛍光画像の励起光として波長480 nmの光源が用いられます。この波長帯はフルオレセイン蛍光眼底画像撮影と共用が可能ため,ほとんどの装置で使われている標準的な励起光となっています(ハイデルベルグHRA,ニコンOptos,ニデックF-10,等)しかし,この波長帯の自家蛍光は黄斑色素で吸収されるため,中心窩付近の自家蛍光観察が困難という弱点があります。そこでトプコンDRI OCT Triton Plusでは自家蛍光画像専用の波長580 nmフィルターを用いることにより,黄斑色素の影響を回避しています。短波長自家蛍光は臨床現場で広く普及しており,講習会や教科書で網膜自家蛍光画像といえば短波長自家蛍光を意味するのが一般的です。一方,近赤外自家蛍光は,網膜から発する自家蛍光の光量(光子)が短波長自家蛍光の100分の1しかありません2)。そのため,近赤外自家蛍光の撮影には強力な画像加算技術が必要となるため,市販機ではハイデルベルグHRAのみで撮影可能となっています。

3. 従来の臨床解釈

短波長自家蛍光はRPE細胞のリポフスチンに由来すると考えられており,低蛍光病巣はRPE細胞の欠損,過蛍光病巣はRPE細胞内のリポフスチン蓄積を意味するものと考えられてきました1)。このうち低蛍光病巣は網膜色素上皮萎縮病巣や網膜色素上皮裂孔の検出に極めて有用です(図1)。それに対し過蛍光病巣は,リポフスチンに含まれるA2Eの酸化作用によりRPE細胞が障害されるため,将来の網膜色素上皮萎縮の前駆所見と考えられてきました(図13)。特に萎縮型加齢黄斑変性では,過蛍光病巣が将来の萎縮病巣進展の予想に有用と考えられ,過蛍光病巣の臨床分類も提唱されました(FAM study group)3)。近赤外自家蛍光に関しては,RPE細胞が欠損していても低蛍光とはなりません(図1)。そのため網膜色素上皮萎縮病巣や網膜色素上皮裂孔の検出には使えません。また普及が進んでいないこともあり,もっぱら研究用に使われているのが実情と思われます。

図1

萎縮型加齢黄斑変性の自家蛍光画像。480 nm短波長自家蛍光画像では萎縮病巣の境界が明瞭に観察可能なのに対し(白矢印),780 nm近赤外自家蛍光画像では不明瞭である。また萎縮病巣の周囲には,リポフスチン集積と考えられてきた過蛍光病巣を認める(黄色矢印)。

4. 従来の臨床解釈への反証

短波長自家蛍光の過蛍光病巣におけるリポフスチン(特にA2E)蓄積説は多くの眼科医にとって通説として広まりました。また過蛍光病巣がRPE細胞障害の前駆所見であるとする説は,講習会や教科書における定説にすらなっています。しかし近年の研究から,決定的な反証が報告されています。まず過蛍光病巣の分布とRPE障害進展には関係性が無いことが報告されました4)。さらに過蛍光領域とA2Eの分布が一致しないことも報告されました5)。続いて,過蛍光はRPE細胞が重なり合うことによる自家蛍光の増強に由来することが報告されました6)

5. 偏光OCTを使った検証

これらの反証を発展させるため,筆者等は偏光感受型光干渉断層計(偏光OCT)を用いて過蛍光病巣における,RPE細胞変化を検討しました7)。偏光OCTは通常のOCT画像に,眼球組織の偏光特性を付加情報として加える装置です。偏光特性のうち,偏光解消性は,メラニンにおける多重散乱光で生じると考えられています。RPE細胞内のメラニンは偏光解消性を生じるため,偏光解消性画像の解析によりRPE異常の3次元分布解析が可能となります。そこで加齢黄斑変性におけるRPE変化を偏光OCTで観察し,短波長自家蛍光画像と近赤外自家蛍光画像と比較しました。まず自家蛍光画像所見を解析したところ,網膜色素上皮剥離(漿液性およびドルーゼノイド)における過蛍光病巣が,短波長自家蛍光と近赤外自家蛍光で近似していることが判りました(図2)。従来の説に従えば,RPE細胞内にリポフスチンとメラニンが同時に蓄積していることになります。しかし,RPE細胞内のメラニンは加齢により減少するため,メラニン蓄積は考え難い仮説です。続いて偏光OCTで検討したところ,過蛍光領域はメラニンの網膜内遊走の分布に一致していることが観察されました(図2)。メラニンの網膜内遊走は,通常の強度OCT画像では網膜内高輝度点(Hyper-reflective foci)として観察されます。今回,観察された網膜内高輝度点においてはメラニンの存在が確認されました。また短波長自家蛍光でも過蛍光となったことから,リポフスチンも含まれていることになります。このことからメラニンの網膜内遊走はリポフスチンも含んだ細胞,すなわちRPE細胞から構成されていることが判ります。すなわち短波長自家蛍光と近赤外自家蛍光の両者で過蛍光となったのは,RPE細胞の網膜内遊走に由来していることになります。

図2

漿液性網膜色素上皮剥離を伴う加齢黄斑変性。480 nm短波長自家蛍光画像と780 nm近赤外自家蛍光で過蛍光病巣が一致している。また過蛍光病巣の分布は,偏光SLOおよび偏光OCTによる偏光解消性画像とも一致している。過蛍光部位では網膜内高輝度病巣(強度OCT)に一致した,メラニン網膜内遊走が確認される(偏光OCT 偏光解消性)。(Miura M, et al. Sci Rep 7: 3150, 2017から引用)

6. 近赤外自家蛍光の起源

一般に近赤外自家蛍光はメラニンに由来していると考えられています。しかしメラニンはRPE細胞と脈絡膜メラノサイトの両者に分布しており,RPEおよび脈絡膜のメラニンを反映しているとも考えられます。そこでVokt-小柳-原田病の夕焼け状眼底を基に,脈絡膜メラノサイトの関与を検証しました8)。夕焼け状眼底では脈絡膜メラノサイト内が破壊されて脈絡膜からメラニンが消失する一方,RPEメラニンは正常なままという特有な病態です。この特殊なメラニン異常は偏光OCTを使えば容易に観察可能です(図3)。しかし近赤外自家蛍光で夕焼け状眼底を観察すると,夕焼け状眼底の有無による変化は確認できません(図3)。すなわち,近赤外自家蛍光では脈絡膜メラニンの関与は少なく,主としてRPEメラニンを観察していることが判ります。これは780 nm波長帯では,励起光がRPEメラニンに吸収され,脈絡膜メラニンからの自家蛍光量が少ないためと思われます。しかしRPEが破壊されると,RPEメラニンによる励起光の吸収がなくなるため,脈絡膜メラニン由来の自家蛍光が観察されるようになります。そのためRPEが欠損した網膜色素上皮萎縮や網膜色素上皮裂孔でも,低蛍光とはならず,これらの病変の検出には役に立ちません(図1)。このことが近赤外自家蛍光の臨床普及を妨げている一因となっています。

図3

Vokt-小柳-原田病の近赤外自家蛍光画像と偏光解消性画像(偏光OCT)。近赤外自家蛍光画像では,夕焼け状眼底の有無による明らかな変化を認めない。偏光OCT画像では,夕焼け状眼底における脈絡膜メラニン消失が明瞭に観察される。(Miura M, et al. Invest Ophthalmol Vis Sci 58: 4467–4476, 2017.から引用)

近赤外自家蛍光はメラニンに由来するとするのが一般的ですが,根本的な反論もあります。メラニン自体が自家蛍光を吸収するため,メラニンからの自家蛍光は観察できないという主張です。この説は,2018年のARVOで開催されたSIGでも,多くの分光画像解析を専門とする研究者から指摘されました。しかし,偏光感受型SLOを用いて作成した偏光解消性画像(RPEメラニン分布を反映しています)が近赤外自家蛍光画像に類似していることから(図27),メラニンからの自家蛍光を反映していると考えるのが妥当と思われます。一方,メラニンは酸化すると自家蛍光を発するという報告もあります9)。近赤外自家蛍光とメラニンの関係については,今後の研究課題のひとつと思われます。

7. 過蛍光病巣の解釈

これまで解説したように,従来から提唱されてきた,「短波長自家蛍光の過蛍光は,RPE細胞内のリポフスチン蓄積に由来する」という単純な説では,過蛍光病巣は説明しきれないことが判ってきました。また短波長自家蛍光と近赤外自家蛍光を比較することが重要なことも判ってきました。これらのことをふまえ,近年の研究を基にした過蛍光病巣の解釈について解説したいと思います。

1) 短波長自家蛍光と近赤外自家蛍光で同じ場所が過蛍光

a) RPE細胞の網膜内遊走,重層化,巨細胞化

前述したようにRPE細胞が網膜内遊走したり重層化すれば,自家蛍光信号が重積することにより過蛍光となります。同様の現象はRPE細胞が合体して巨細胞化することによっても起こりえます。これらの所見は強度OCT画像でも網膜内高輝度点およびRPE bandの局所肥厚として観察されるため,多角的画像解析によって類推可能です。また偏光OCTを使ってRPEメラニン3次元分布を解析することによっても確認可能です。

b) 視細胞障害

筆者等はVokt-小柳-原田病の視細胞障害部位に一致して,短波長自家蛍光と近赤外自家蛍光で同じ場所が過蛍光になることを報告しました10)。また補償光学を使った近赤外自家蛍光でも,視細胞障害によって過蛍光になることが報告されています11)。これは視物質による自家蛍光吸収が減少するためと考えられています。

c) RPE細胞内のメラノリポフスチン増加

これは従来から提唱されている説です12)。メラノリポフスチンは,加齢によってメラニンがリポフスチンで覆われた色素顆粒です。メラニンとリポフスチンの両者から構成されるため,短波長自家蛍光と近赤外自家蛍光の双方を発すると考えられています。しかしメラノリポフスチンが増加した分,単体のメラニンは減少します。そのためメラニン由来の自家蛍光の総量は変化しないため,メラノリポフスチンが増加しても近赤外自家蛍光は増加しません。しかしメラノリポフスチンではメラニンが酸化するため自家蛍光が増加する可能性も否定できません9)

2) 近赤外自家蛍光のみ過蛍光

a) メラニン貪食炎症細胞

筆者等はVokt-小柳-原田病ではメラニン貪食炎症細胞の集積によって,近赤外自家蛍光のみ過蛍光となることを報告しました10)

b) 黄斑色素の影響

480 nm短波長自家蛍光は黄斑色素で吸収されるため,RPE細胞の網膜内遊走,重層化,巨細胞化があっても,中心窩付近では近赤外自家蛍光のみ過蛍光となります(図2)。

3) 短波長自家蛍光のみ過蛍光

a) RPE細胞内のリポフスチン集積

従来から提唱されている説です。Best病のリポフスチン集積で,短波長自家蛍光が増加することからも明らかです。

b) 網膜色素上皮下の沈着物

分光顕微鏡を使った研究から,加齢によって網膜色素上皮下に沈着するbasal linear depositも,短波長自家蛍光を発することが報告されています13)

c) RPE内の色素顆粒分布異常

RPE細胞自家蛍光の3次元解析による研究結果です14)。RPE細胞内でメラノソームが偏在することによって,メラニンによる自家蛍光吸収が減少することによって過蛍光になると報告しています。一方,メラノソームまたはリポフスチンの偏在によって,低蛍光にもなるとも報告しています。

d) 視細胞外節,器質化した網膜下出血

中心性漿液性網脈絡膜症や加齢黄斑変性に関する臨床観察から,短波長自家蛍光で過蛍光になると報告されています15,16)。しかし臨床所見による推測のみのため,今後の追加研究が必要です。

8. まとめ

ここまで自家蛍光画像の臨床解釈の現状について解説しました。従来の解釈はあまりにも単純なことが御理解いただけたかと思います。自家蛍光の研究は,分光顕微鏡,分光網膜画像,偏光OCT,偏光SLOといった,市販臨床網膜画像以外の光学機器による解析が必須となります。また短波長自家蛍光と近赤外自家蛍光を比較することも重要です。今後,自家蛍光画像の解釈が一変する可能すらあり,注目度も高い研究分野と思われます。

文献
 
© 2020 The Japanese Society of Ophthalmological Optics
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