Japanese Journal of Visual Science
Online ISSN : 2188-0522
Print ISSN : 0916-8273
ISSN-L : 0916-8273
Book & Paper Review
[title in Japanese]
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 41 Issue 4 Pages 92-93

Details

本の紹介

面発光レーザーが輝く VCSELオデッセイ(伊賀健一著,オプトロニクス社,2018年)

理想的なSSOCT光源の起源,その物語。

近年,超高速・超広画角SSOCTの研究が進んでいる。これを可能にしたのは,波長可変の面発光レーザー(VCSEL)である。VCSELは光通信,プリンタ,ディスプレイ,LiDARなど様々な分野に応用されており,市場規模は10億ドルから今後増々伸びると予測されている。このVCSELを発明したのが東工大の伊賀先生である。本書は,伊賀先生がVCSELを考案した当時のエピソードに始まり,その後の輝かしい発展に至るまでを詳細に記した大変興味深いエッセーである。通常のVCSELは波長固定であるが,VCSELにMicro Electro Mechanical Systems(MEMS)型の波長可変機構を組み合わせることで波長可変にしたものが開発され,この性能を進化させたものがSSOCT用に用いられている。このようなMEMS-VCSELとそのOCTへの応用についても本書でごく簡単ではあるが触れられている。視覚の科学読者にとって光源開発は専門外の分野であるが,本書は光源開発の様々な苦労と華々しい成果を堅苦しくなく壮快に記したエッセーであり,難なく読むことができる。技術に興味のある方すべてにお薦めしたい。

(山成正宏)

論文紹介

Christopher A. Clark, OD, Ann E. Elsner, PhD, FAAO, and Benjamin J. Konynenbelt BS.

Eye Shape Using Partial Coherence Interferometry, Autorefraction and SD-OCT

Optom Vis Sci. 2015; 92(1): 115–122.

SD-OCTを使った眼底形状の評価と近視との関係

近視進行に伴う眼の形状変化の特徴を知ることは,正確な近視進行スクリーニングのために重要なテーマである。本論文は,近視スクリーニングで期待されているOCTによる眼底形状評価についての報告である。眼軸長測定装置やオートレフラクトメータとの相関も示されているが,特に興味深いのは近視眼で眼底の周辺部で曲率が増すこと,その増加が垂直断面で顕著であることである。読後の感想としては,眼底形状の測定精度を上げ,さらに多項式近似等を使ってより詳細な形状特徴と近視との関係を調べる必要があると感じた。

(三橋俊文)

Hess RF, To L, Zhou J, Wang G & Cooperstock JR: Stereo Vision: The Haves and Have-Nots. i-Perception, Vol. 6, No. 3, pp. 1–5, 2015

「オンライン立体視力検査によって示された立体視の個人差」

531名(10代~90代)の立体視閾は2 logの広い範囲に分布した。この分布は,1.983 log arcsecと2.845 log arcsecにピークをもつ2つの分布の重ね合わせで近似することが可能で,全体の3分の1は後者の感度が低いグループに属した。また,大学1年生95名について同様の検査を行ったところ,同じような結果が得られた。立体視閾の絶対的な値に関しては,テスト刺激のパターン(ここではJulesz型RDS)や課題(手前か奥かの弁別),両眼分離の方法(アナグリフ),閾値を決定するための手続き(下降系列の極限法)などに大きく依存すると思われるが,ここでは,立体視閾が広い範囲に分布すること,およびこの傾向が年代にあまり依存しないことが重要であると思われる。

(佐藤雅之)

Sujin Hoshi, Kuniharu Tasaki, Takahiro Hiraoka, Tetsuro Oshika.

Improvement in Contrast Sensitivity Function after Lacrimal Passage Intubation in Eyes with Epiphora.

Journal of Clinical Medicine. 2020; 9, E2761

流涙を伴う涙道閉塞症は日常診療において良く遭遇する疾患であり,近年では涙道内視鏡および涙管チューブを用いた生理的涙道再建術が広く行われるようになってきた。しかし術前後の視機能変化に関しては,これまで十分な検討が行われておらず,本論文では術後にコントラスト感度が有意に改善することを初めて明らかにした。ドライアイなどの涙液減少が視機能を低下させることは周知の事実であるが,涙液貯留量が増加した状態でも視機能は悪化する。つまり,屈折の最前線を担う涙液の安定性がquality of visionの維持に極めて重要であることを再認識させる有意義な報告である。

涙道閉塞による流涙症の患者51例の58側に対して涙道内視鏡併用涙管チューブ挿入術を施行したところ,縞視標コントラスト感度(AULCSF)は術前1.29 ± 0.17から術後1.37 ± 0.14へと改善した(p < 0.0001)。

鼻涙管閉塞では涙小管閉塞に比べて,術前のコントラスト感度がより低下していたが(1.26 ± 0.17 vs 1.33 ± 0.16, p < 0.05),術後コントラスト感度は同等まで改善した(1.36 ± 0.16 vs 1.38 ± 0.13, p = 0.32)。涙管チューブ挿入術前後のコントラスト感度測定は,涙道閉塞による流涙症の患者の,見え方の質の低下と,治療による改善の定量的評価,理解に有用である。

(平岡孝浩)

Formenti D, Duca M, Trecroci A, et al: Perceptual vision training in non-sport-specific context: effect on performance skills and cognition in young females.

Sci Rep. 2019; 9(1): 18671.

doi:10.1038/s41598-019-55252-1

近年ビジョントレーニングへの関心が高まっているが,それがスポーツに特有のスキル向上をもたらすのか不明である。この論文では,51名の若年女子バレーボール選手を3グループに分け,通常のバレーボールトレーニング,バレーボールに特化せずスポーツ全般に関連したビジョントレーニング,バレーボールに特化したビジョントレーニングを6週間それぞれ実施した。

その結果,バレーボール技能の精度向上はバレーボールのトレーニングを行ったグループにあったが,ビジョントレーニングを取り入れた2つのグループにはなかった。一方,ビジョントレーニングを行った2つのグループは,通常のバレーボールトレーニングのみのグループと比較して認知機能(反応時間,遂行機能,知覚速度)が向上していた。以上の結果から,ビジョントレーニングは認知機能を向上させるが,スポーツに特有のスキル向上には効果が認められなかった。

ビジョントレーニングは認知機能を向上させるが,スポーツの上達のためには一にも二にも練習が必要である。認知機能がスポーツに果たす役割(多様な要因が関係していることは想像に難くないが),そして認知機能の向上が実際のスポーツのパフォーマンスを高める効果があるのかについてはさらに詳細な検討が必要である。

(塚原嘉之佑,前田史篤)

 
© 2020 The Japanese Society of Ophthalmological Optics
feedback
Top