Japanese Journal of Visual Science
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2021 Volume 42 Issue 1 Pages 16-18

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はじめに

円錐角膜(KC)やペルーシド角膜変性症,角膜移植後,角膜屈折矯正術後などで角膜不正乱視を生じる患者は,世界中に存在する。不正乱視は,通常の眼鏡やソフトコンタクトレンズ(SCL)では矯正ができないため,日常生活で不便を感じていることが少なくない。そのため,角膜前面の不正乱視矯正能に優れた酸素透過性コンタクトレンズ(RGP)が良い医学的適応とされてきた。海外では不正乱視用に開発された強角膜RGPやハイブリッドCL(中心ハード材,周辺ソフト材),特殊トーリックSCLなど,様々な選択肢が存在する(図113)。さらに近年では,SCL単独で高い矯正効果が得られるレンズを完成させようする動きがある。そこで本稿では,不正乱視用SCLに関する文献ベースでの最新事情について取り上げる。

図1

不正乱視患者に対するCL処方選択(ホームページより引用改変)

一般的なRGP(a)でも角膜前面の不正乱視矯正能に優れているが,海外では不正乱視用に開発された強角膜RGP(b)やハイブリッドCL(c),特殊トーリックSCL(d)など,複数の選択肢が存在する。

不正角膜疾患へのSCLの適応

不正角膜疾患の初期の段階では,通常のRGPやトーリックSCLを用いて近視や乱視を矯正するだけで十分な場合がある4)。初期のKCやRGPに対して不耐症な患者である場合,不正乱視専用に設計された特殊SCLはさらに有効な矯正視力を得られる手段である。この特殊SCLは,オーダーメイドのトーリックレンズにすぎないが,従来のSCLよりも中心厚みが0.25 mm以上と厚いため,レンズ形状が不規則な角膜形状に適応するのを防ぎ,RGP様に不正乱視をある程度矯正することができる。さらに,まだ研究段階ではあるが,ここ数年でKCの視力矯正効果を飛躍的に向上させる特殊SCLの新しいデザインが試みられている。

特殊トーリックSCLの特徴と矯正能

不正乱視専用に設計された特殊トーリックSCLは,中心部の厚さを厚くして不正角膜をマスキングする効果を高めた光学部を有することが主要な特徴だが,回転抑制のためのバラストデザインが付加されていることに加え,光学部とは独立した周辺カーブのオプションを選べること,光学部の厚さを増すと酸素透過性が低下するためDefinitive(Contamac, UK)に代表される切削可能なシリコーンハイドロゲル素材を用いている場合が多い。これらの特徴を合わせ持つことにより,円錐角膜,外傷による不規則な角膜形状,角膜内リング術後など,様々な角膜形状により増加する不正乱視を軽減させ,臨床的に視力の質を向上させることができることが報告されている57)。このような特殊トーリックSCLとしては,HydroCone® (Toris K)(SwissLens, CH)8,9),KeraSoft® IC(UltraVision CLPL, UK)10),Rose K Soft(Menicon, UK)などの商用レンズがあり,どれも矯正効果に違いはないようである。

一方で,特殊トーリックSCLを用いても良好な見え方の質を得られない場合には,ピギーバックシステムを使用することがさらに有効な選択肢となる場合があるが,取扱いが複雑になるなど,必ずしも次の有効な手段になるとは限らない。そこで,SCLだけでより矯正効果が高く得られるよう,最適化された度数プロファイルを持つ新たな特殊SCLの研究が,ここ数年進んでいる。眼の不正乱視を高次収差として定量化できる波面センサー11)が利用できるようになって以来,波面収差レベルでカスタマイズした度数プロファイルのCL性能が何人かの著者によって研究されている。

特殊度数プロファイルSCLの現状

Marsackら12)は,高次収差を100%補正する度数プロファイルのSCLを用いた結果,眼球収差は大幅に低減できることを報告した。Jinabhai13)やKatsoulos14),Sabesan15),Suzakiら16)は,3次のComa収差だけを矯正するCLを用いた結果,全てのZernike収差を矯正しなくてもKC患者の見え方の質(Quality of Vision:QOV)を有意に向上できることを示した。Coma収差だけに焦点を絞った特殊SCLの研究が進む背景には,最近の研究1720)でKC患者は縦コマ収差が主要な高次収差成分であることが報告されているためである。いずれの報告も,レンズに設計された度数プロファイルに対して100%は寄与せず,自覚的なQOVの向上も期待されたレベルではなかった。また,これには共通点としてレンズの偏心が大きな原因である可能性があると述べられている。de Brabanderら21)は,カスタム度数プロファイルSCLの偏心量が0.5 mmを超えると,視覚性能が低下することを示している。Jinabhaiら22)は,典型的な臨床例における高次収差を完全にキャンセルさせる度数プロファイルを持つレンズが偏心(最大1.0 mm)と回転(最大15°)したときの影響を理論的にシミュレーションし,光学性が低下する条件を示した。しかしながら,SCLは,角膜に潤滑と栄養素を供給することができるよう,ある程度の動きが必要である。また,SCLは一般的に耳下側に安定することが知られている。したがって,カスタム度数プロファイルSCLが実用的な矯正効果を得るためには,この偏心の影響とのバランスを取る何らかの工夫が必要である。

Suzakiらは,乱視用SCLと同様に数種類のComa矯正量と軸を持つ規格化されたレンズセット(図2)で不正乱視を矯正する特殊ソフトCLの矯正効果について本邦で評価した16,23)。最初の報告16)では,自覚的なQOVが平均で約7割改善する結果を得られたものの,眼の瞳孔中心に対して耳下側に安定するSCL特有の偏心の影響によって規格度数に応じた段階的な矯正効果を得られない,という課題が抽出された。この時のレンズの平均偏心量は0.67 ± 0.22 mmであり,de Brabanderら21)が指摘したレンズ偏心量の0.5 mmを超えると視覚性能が低下することを支持するものだった。そこで,下方の偏心を補正するよう光学部を上方偏心させた改良デザインで再評価した結果,光学部の中心位置が瞳孔中心付近へ有意に改善し,且つ,コマ収差の矯正効果は初期デザイン(上方偏心なし)よりも改良後デザイン(上方偏心あり)の方が有意に改善,QOVの向上も認められた。光学部の位置を最適化した本報告の特殊SCLは,円錐角膜患者のComa収差の矯正能を向上できることが示されている。

図2

円錐角膜に特有なComa収差を矯正する特殊SCLの概略図(文献23より引用抜粋)

a)初期試験デザイン(光学部上方偏心なし)

b)改良後デザイン(光学部上方偏心あり)

GC:幾何中心(Geometric Center)

トーリックSCLと同様に数種類のComa矯正量を90度方向に持つ規格化されたレンズセットで構成された特殊SCL。光学部の上方が相対的にプラス度数,下方が相対的にマイナス度数となるS字形状の非対称な度数分布を有する。非対称度数の頂点間の差は4,6,8,10,12 D(縦コマ収差C3−1に換算すると0.36,0.54,0.72,0.90,1.08 μm)の全5規格からなる。レンズが角膜上で回転しないよう周辺バラストデザインが付加されている。Suzakiら23)によれば,円錐角膜患者のコマ収差は初期デザイン(a)よりも改良後デザイン(b)の方が有意に改善しており,光学部の位置を最適化することで矯正効果を向上できることが示されている。

まとめ

不正乱視患者に対するSCLは,快適性と視覚性能の両立という点では重要な進歩を遂げているが,その適応範囲はRGPほど広くはなく,完全には達成されていない。新しいアプローチが実用化されるまでにはまだ課題があり,この分野での探究は今後も必要である。

本邦では,RGPでさえ海外ほどの選択肢が無い上,円錐角膜用に認可を受けている特殊RGPはメニコンローズK-T(Menicon, Japan)のみであり,特殊SCLに至っては認可品の存在すらなく,海外に比べて不正乱視患者への医学的な救済策が不十分と言わざるを得ない。メーカー側としては,社会貢献の必要性を理解しつつも,販売枚数が多くは見込めないニッチな市場に対して許認可を得るだけの費用対効果を見出せず,二の足を踏んでしまう現状がある。このような状況から抜け出し,矯正弱者とも言うべき不正乱視患者のQuality of VisionやQuality of Lifeを向上させるためには,医師とメーカー,および,国が手を取り合って有効な手段を講じていく必要があると筆者は考える。

文献
 
© 2021 The Japanese Society of Ophthalmological Optics
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