Japanese Journal of Visual Science
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2021 Volume 42 Issue 1 Pages 19-20

Details

本の紹介

眼光学の基礎 編集 西信元嗣(金原出版 1990年)

①医師・視能訓練士

②眼光学の基礎が分かる。

③視能訓練士養成校で眼光学を学ぶ際の教科書として使用

視能訓練士にとって,検査を行うすべての基本は?と問われると,「屈折矯正」であると考えています。しかしながら,,,物理の基礎知識を備えていなかった私にとって,学生の頃にこの教科書を読み解くのは,難解(苦手)以外の何物でもない存在でした。どちらかというと,生理光学(屈折矯正)を深く理解しないで済むなら,浅く勉強すればよいと思っていたくらいです。

ただ,臨床の現場で眼位・眼球運動検査,両眼視検査(Hess赤緑試験・大型弱視鏡など含む),視野検査(動的・静的),眼鏡処方など,すべての検査を実施するにあたって,適切な屈折検査の結果を基盤にしなければ,各検査の結果解釈は違ったものになり,場合によっては結果自体が不正確になってしまうことを実感し,眼光学を学ぶことは視能訓練士としての基礎であり,とても重要だと考えるようになりました。

学生の頃には難解であった内容も,臨床を経験した後に改めてこの本を読み直すと,一層理解を深めることが出来ます。平易な言葉で説明している書籍もありますが,眼光学の基礎を学びたい時には,この教科書が今でもバイブルになっています。残念ながら現在は絶版になっており,改訂版として「新しい眼光学の基礎(金原出版)」が出版されておりますのでご興味のある方は,ご参照ください。

(藤村芙佐子)

論文紹介

Krishnaiah S, Ramanathan RV: Impact of blindness due to cataract in elderly fallers: findings from a cross-sectional study in Andhra Pradesh, South India. BMC Res Notes 11: 773, 2018

「白内障によって転びやすくなる」,一見当たり前のことのように思えるが,白内障手術によってこの転倒数を大きく減らせているとしたら,眼内レンズは視機能向上だけない多くの価値をもたらすことにつながるという貴重なエビデンスと思われた。

Krishnaiahら(1)によって報告されたこの論文は,50歳以上の高齢者における転倒の有病率,転倒頻度,転倒による傷害を推定し,白内障と転倒の関係を調査した横断研究である。過去12か月間の転倒の詳細と全身疾患の病歴を面接で収集した結果,対象382人の患者のうち70人(18.3%)が転倒経験者であった。再発転倒の既往歴は,両側性白内障患者でより顕著であった(p = 0.023)。視力の平均値は,転倒者では非転倒者と比較して有意に悪化していた(p = 0.001)。転倒の有病率は,両側白内障患者で有意に高かった(調整オッズ比1.76,p = 0.042)。白内障の診断と外科的介入は,高齢患者の転倒予防に役立つ可能性があると報告された。

(川守田拓志)

Ang, J. W. A., & Maus, G. W. (2020). Boosted visual performance after eye blinks. Journal of Vision, 20(10): 2, 1–9.

論文要約:瞬きは角膜前涙液層を維持するため以上に頻繁に行われており,それらは大脳皮質神経網間の切り替えに利用されていることを示唆する先行知見もある。そこで本論文では,これが知覚的,または,認知的な結果として現れるかを明らかにするために,RSVP課題における随意的瞬目と液晶シャッタによる人工的瞬目の影響を調べた。その結果,随意的瞬目後,約300 msでの課題正答率は人工的瞬目の場合や瞬目がない場合よりも有意に高いことが明らかとなった。この効果はRSVP課題における刺激の種類を変えても変わらなかった。これらのことから瞬目は物体認識における注意利得の向上にも利用され,知覚的,認知的な役割を持っていることが明らかとなった。

●論文についての一言コメント:瞬きが高次視覚機能に積極的に利用されていることは,我々の普段の行動,例えば,何かを再度確認する際に頻繁に瞬きをするなど,からも推測されるが,実験的に明らかにした興味深い論文である。瞬目の機能についてご研究されている研究者にご参考になればと思います。

(吉澤達也)

Kamiya K, Fujimura F, Ando W, Iijima K, Shoji N. Visual performance and patient satisfaction of multifocal contact lenses in eyes undergoing monofocal intraocular Lens implantation. Cont Lens Anterior Eye. 2020; 43(3): 218–221.

白内障手術後の老視矯正の選択肢として,多焦点コンタクトレンズは一部コントラスト感度が低下するものの,遠方から近方まで良好な全距離視力が得られ,満足度も有意に向上した。

現代における白内障手術は安全性や有効性が高く,屈折矯正・老視矯正手術としての比重が高まっている。高齢者の患者が多く,老視矯正は重要な課題となっているが,多焦点眼内レンズは全ての症例で適応とはならず,術後に見え方の不満を訴える患者も存在する。今回単焦点眼内レンズ挿入眼に対して,多焦点コンタクトレンズ(CL)装用前後における視機能と満足度を検討した。その結果,白内障術後の多焦点CL装用は,コントラスト感度は一部低下するものの,近方視から中間視を改善することで,患者満足度が有意に向上することが判明した。白内障術後に行うことで,より正確な屈折矯正や老視矯正が可能であり,患者の心理的負担をかけずに,眼鏡なしに遠方から近方まで良好な視力を得る選択肢の一つとなり得ることが示唆された。

(神谷和孝)

Imai T, Hasebe S, Furuse T, et al: Adverse reactions to 1% cyclopentolate eye drops in children: an analysis using logistic regression models. Ophthalmic Physiol Opt. 2020 Dec 10. Online ahead of print.

2018年JJOに報告された多施設共同研究(n = 2238)では,シクロペントレート1%点眼(Cp)の副作用発生率は稀(1.2%)と報告された。本研究は追試ながら,大きく異なる結果が得られている。

目的:Cp点眼副作用の頻度,症状,危険因子を明らかにする。方法:被験者はCp点眼による屈折検査を受けた646例(0~15歳)。副作用発生率と年齢,性別,追加点眼,中枢神経系(CNS)合併,時間帯,季節との関係を検討した。結果:副作用の全頻度は18.3%,主要症状は,結膜充血,眠気,顔面潮紅であった。結膜充血のオッズ比(OR)は,年齢,男児,冬期で上昇,逆に眠気のORは年齢と共に低下した。顔面紅潮は4歳未満でみられた。CNS合併は有意な危険因子ではなかった。結論:副作用は高頻度にみられたが,軽度で一過性であった。各症状の発症率は年齢に依存していた。

近視進行に関する臨床試験や疫学調査では,研究の厳密性から調節麻痺薬の必要性が増している。調節麻痺薬には副作用が有り,点眼使用の倫理性をめぐる議論に必要なエビデンスのひとつである。

(長谷部聡)

 
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