Japanese Journal of Visual Science
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2021 Volume 42 Issue 2 Pages 35-36

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本の紹介

Introduction to visual optics

Alan H. Tunnacliffe

わかりやすい英語の眼光学の入門書

この本の出版者はThe association of British dispensing opticiansで,眼鏡店店員が勉強用の教材として使用されていたとうかがえるが,内容は眼鏡店員が実務で必要な知識範囲をはるかに超えて豊富で,しかもわかりやすくまとめられている。各章の内容は:

1.背景光学

2.眼の光学(屈折異常など)

3.乱視

4.調節

5.眼科機械

6.眼球運動

7.視覚の眼の側面

8.視覚系でのコーディング

9.視覚認識と両眼視

10.両眼視異常

この本は,図形がわかりやすく,勉強して苦にならないことが特徴である。もう一つの特徴,やたらに式が多いことに関しては,賛否分かれるが,理科系出身の方はありがたいと思うはずである。ただ,この本は1993年以降Reviseされていないので,波面センサーなど最新の眼科機器が網羅されていないことが唯一残念な点だが,逆に古い眼科機械を詳しく紹介されていて,興味深い。

私事だが,1996年にUK出張の際,著者のTunnacliffe先生に面会を申し込んで,快く迎えていただいた。やせ型で白髪のイギリス紳士であった。

この本を読むと,日ごろ感じている疑問の一部を解消し,英語の専門用語も自然に身に着けることが期待できる。視能訓練士,エンジニア,学生が眼光学全般を勉強するためには最適な一冊である。

(祁 華)

論文紹介

Konrad R, Angelopoulos A, Wetzstein G: Gaze-contingent ocular parallax rendering for virtual reality. ACM Trans. Graph. 2020, 39(2), 1–12.

バーチャルリアリティにおける視線追従型ocular parallaxレンダリング

Ocular parallaxとは,眼球の回転中心と光学中心の不一致により,奥行きを持つ対象に対し,眼球運動に伴って生じる網膜像のずれを指す。本論文では,視線検出機構を備えたヘッドマウントディスプレイ(HMD)でocular parallaxを表示し,これが奥行き知覚の手がかりとなり得るかどうかを検証した。その結果,奥行きの順序(前後)の判断の正確さとリアルさの向上にocular parallaxが寄与することが明らかになった。

近年,視線検出デバイスやHMDが容易に手に入るようになってきたことから,バーチャルリアリティをより「リアル」に感じさせるために有効な一手段と言えるだろう。

(水科晴樹)

Masket S, Fram NR. Pseudophakic dysphotopsia: Review of incidence, cause, and treatment of positive and negative dysphotopsia. Ophthalmology 2020 Aug 12:S0161-6420(20)30787-9. doi: 10.1016/j.ophtha.2020.08.009. Online ahead of print.

陽性異常光視症(positive dysphotopsia:PD)と陰性異常光視症(negative dysphotopsia:ND)の原因,発現率,治療に関する文献をレビューしたもの。PDの原因は主として直角(鋭い)IOLエッジにおける斜光線の内部反射によるものと考えられる。NDの原因は確定していないが,耳側から鼻側網膜への入射光線のうち,IOLの前方を通過するものと,IOLによって後方に屈折するものの間に差が生じ,耳側に影ができるというillumination gap説が有力である。その他の関与因子として,鼻側前嚢のoverride,IOL支持部の方向,大きなκ角,強度遠視などがある。持続性NDは,reverse(anterior)optic capture,IOL毛様溝固定,ピギーバックIOL,Nd:YAGレーザーによる鼻側嚢切開により治癒,または症状が軽減する。

(大鹿哲郎)

Efficacy and safety of 0.01% atropine for prevention of childhood myopia in a 2‑year randomized placebo‑controlled study. Japanese Journal of Ophthalmology. 14 February 2021.

稗田 牧,他 ATOM-J研究グループ

日本人における低濃度アトロピン点眼の有効性が証明された

シンガポールのATOM(Atropine for the treatment of childhood myopia)-2研究や香港のLAMP(Low-Concentration Atropine for Myopia Progression)研究で0.01%アトロピン点眼により小学生の近視進行は屈折度で抑制されたが,眼軸長の延長抑制は明らかでなかった。

本論文は,日本の7大学で行われた,多施設ランダム化二重遮閉試験の結果である。2年経過後0.01%アトロピン点眼群の眼軸長延長は0.63 mm(95%信頼区間0.59, 0.68)にとどまり,偽薬群では0.78 mm(0.73, 0.82)だった。点眼の有無で平均0.14 mmもの差(P < 0001)が示された。

(稗田 牧)

Chantal Coles-Brennan, Anna Sulley, Graeme Young.: Management of digital eye strain. Clin Exp Optom. 2019 Jan;102(1): 18–29.

デジタルデバイスによる眼の疲労時の症状,軽減アプローチの提案に関するレビュー

デジタルデバイスの普及により,眼にとっては過酷な状況となっており,眼の疲労の症状把握,定量化,疲労の管理方法の提案が必要とされる。本論文では,種々の内容をまとめており,目新しいものがあるわけではないが,眼自体,そして身体に対する症状の項目の多さに改めて眼からの影響の大きさを実感させられる。疲労度の測定方法は自覚に頼るところが大きいため,さらなるパラメータの発見,画期的な方法の提案が期待される。疲れの緩和方法は,劇的に効くものがあればよいが,そうするとさらに負荷をかけてもよい方向になる可能性があるため,地道にやることでゆっくりよくなる方法が確立されて普及される方向に行くのが一番よいのかもしれない。

(広原陽子)

 
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