Japanese Journal of Visual Science
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2021 Volume 42 Issue 2 Pages 37

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新型コロナウイルス感染症の影響により,多くのイベントが中止・延期を余儀なくされたなか,日本視覚学会2020年夏季大会(9月16日~18日)および2021年冬季大会(1月20日~22日)はオンラインで予定通りの期間に開催された。夏季大会実行委員長の河邉隆寛先生(NTT),冬季大会実行委員長の永井岳大先生(東工大)をはじめ実行委員会の皆様のご尽力に深く敬意を表したい。

冬季大会第1日目のプログラムは,一般講演2セッションと若手の会による企画セッションであった。「Open Scienceの現状」と題した企画セッションでは,若手の会代表の久方瑠美先生(東工大)が自ら座長を務められた。北條大樹先生(東大)の演題は「Open Science Frameworkを用いたReproducibleな研究を目指して」であった。Open Science FrameworkというWebサイトを用いてopen scienceを実現する方法について解説された。Warrick Roseboom先生(Univ of Sussex)の演題は「Towards transparent science—an example study investigating human time perception」であった。ご自身の時間知覚研究を例に,研究の透明性を高める方法について解説された。これらの講演では,実験結果を見てから研究目的を修正する誤りを防ぐために実験を行う前に研究の目的や解析方法を予め登録する取り組みや,他の研究者が別の観点でデータを解析し直すことが可能になるようにローデータを公開する取り組みなどが紹介された。これらが普及し定着するにはある程度の時間を要すると思われるが非常に有効な取り組みであると感じた。

第2日目のプログラムは,二つの企画セッションと「ポスター」セッションであった。また,夕方にはオンラインの懇親会も企画された。ポスターセッションと懇親会はRemoというWeb会議ツールを利用して開催された。最初は少し使い方に戸惑ったが,「テーブル」を自由に移動して参加者と会話をする感覚はまさにポスターセッションであり,懇親会であった。

「オンライン・リモート実験の方法論と実例」と題した企画セッションでは,3件の招待講演があった。眞嶋良全先生(北星学園大)の演題は「実験協力者募集ツールとしてのクラウドソーシング」であった。クラウドソーシングの費用やデータ収集に要する時間などの情報は非常に具体的で,これから利用を考えている人には大いに参考になったものと思われる。黒木大一朗先生(九大)の演題は「jsPsychを用いたオンライン実験環境構築の実践」であった。先生の人柄がにじみ出た丁寧なチュートリアルであった。細川研知先生(立命館大)の演題は「リモート実験の制限を緩和する実例の紹介と方法の検討」であった。リモート実験では,スマートフォンやタブレットの機種を特定することにより刺激の統制はある程度可能であるが,実験者-被験者間の双方向のコミュニケーションが存在しないため正確に教示を与えることが難しいという指摘が印象に残った。

「視覚・脳科学への計算論的アプローチの最前線」と題した企画セッションでは,3件の招待講演があった。島崎秀昭先生(北大)の演題は「脳への計算論的アプローチ概説:視覚野の理論を中心に」であった。林隆介先生(産総研)の演題は「視覚野の計算モデル:教師なし学習手法による視覚情報の表現分離」であった。吉本潤一郎先生(奈良先端大)の演題は「強化学習理論から迫る脳の意思決定と情動」であった。計算論的研究について入門から最前線までまとめて学べる充実したセッションであった。

最終日には,ポスターセッションと一般講演が2セッションずつあった。総会では,ベストプレゼンテーション賞として岡田康佑氏(東大),瀬野了斗氏(山形大),小林司弥氏(東北大)の3名が表彰された。演題はそれぞれ「四次元エネルギースペクトルに基づく自然テクスチャ知覚」,「様々な質感知覚の画像特徴依存性の刺激呈示時間による変化」,「脳波を用いた自発的注意変化測定の検討」であった。お三方の今後の研究の進展を祈念いたします。

コロナに対処するためのオンライン開催ではあったが,メリットもいくつもあったように思われる。講演の最中に聴講者の間でチャットできるのは便利だ。また,特に私のような地方在住者にとっては移動のコストがなくなるのはありがたい。いつか訪れるコロナ後の世界では,講演会は対面と遠隔のいいとこ取りで,最新のコミュニケーションツールを駆使したものになるのであろう。そんなことを想像させる三日間であった。

 
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