Japanese Journal of Visual Science
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2021 Volume 42 Issue 4 Pages 102-104

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要旨

この度,旭川医科大学医工連携総研講座の石子智士(いしこ さとし)特任教授にお話しをお伺いする機会をいただきました。石子先生が医師,眼科医となるきっかけ,尊敬する恩師の存在や留学時代の様子,ロービジョン研究をはじめるきっかけや研究に対する情熱など,普段なかなか気軽に聞けない内容かと思います。また,来年の眼光学学会を主催していただくこともあり,学会への思いや情熱についてもお話しいただこうと思います。是非,御一読いただければと思います。

Q: 先生が医師,そして眼科医を志すきっかけと時期について教えて下さい。

A: 母親がよく入院していて,直接には言われなかったんですが,医者になって欲しいという期待感を感じて頑張ったことがきっかけです。大学6年の夏休みくらいまでは,なんとなく小児科をイメージしていたのですが,眼科臨床実習の際,函館ラ・サール高校の先輩である吉田晃敏先生に出会い,気がついたら眼科に入局していました。ですので,医師になることも眼科医になることも,特に強いこだわりがあったわけではありませんでした。

Q: 実際に眼科医になられてから,戸惑った事や理想と違ったことはあったのでしょうか?

A: 大学卒業当時は,眼科に入局してそのまますぐに大学院に入る事が出来ました。これも,何かやりたいという強い希望があったわけでは無く,卒業時に吉田先生から大学院に行きたいやつはいるかと聞かれてなんとなく進学しました。大学院に行きながら眼科研修もしていましたが,当時は学生の身分で収入も無く,初めはアルバイトもできず,奨学金をもらいながらかなり貧しい生活をしていました。金銭的にも大変でしたが,他の先生の研究も手伝っており,土日でもいつ呼び出されるか分からず,毎日の目標が「夜0時前に帰ろう!」でした。イメージしていた医者の生活とかけ離れていて疑問に思うこともありましたが,これがずっと続くわけでは無く,4年が終われば次に進むステップがあると信じて頑張れました。

Q: 特に影響を受けた恩師や先輩はおられますか?

A: 3人います。まずは,入局した当時の眼科教授保坂明郎先生ですが,「近視」を大学院での研究テーマとして僕に与えてくれました。これが,僕の研究のスタートラインになりました。吉田晃敏先生は,大学院時代の直接の指導教官で,研究の仕方,論文の書き方等,研究の基礎を教えてくれました。また,医局に入局する際,将来留学したいという希望を伝えていたのですが,米国ハーバード大学スケペンス眼研究所への留学を叶えてくれました。そして,現在の職である医工連携総研講座に任命していただきました。Charles L. Schepens先生ですが,Schepens先生直属の立場で研究留学をさせて頂き,直接多くのことを学ぶことができました。彼自身ナチスに対するレジスタンス活動をしていた経験があり,「私がベルギーにいた頃,ドイツの人はヒトラーが良いと信じていた。皆が正しいと思っている事でも違うと感じたならば,自分が信じた事を突き進むことが大切。」との言葉は今も心に残っています。

2005年ARVO Schepens先生,吉田先生,Van de Velde先生と

Q: 当時から近視やロービジョンに興味を持たれて,研究をされていたのでしょうか?

A: 近視に関しては,大学院の研究テーマとして与えられたもので,自分から興味を持ったものではありませんでした。具体的には,サルの片眼に瞼々縫合をして実験的に近視を作り,FluorophotometryとComputer Simulationで,近視発症・進行に伴う血液-網膜柵の変化を解析しました。その後,ツパイを用いた実験近視をしていましたが,最近は基礎実験からは遠ざかっています。

一方,臨床研究として,旭川医大に導入された1990年から走査レーザー検眼鏡(SLO)を使わせてもらっていました。初めは眼底イメージングの装置として使われていましたが,1994年から視機能評価のプログラムであるマイクロペリメトリーが搭載されるようになり,特にこれに興味を持ちました。留学先もこの装置を開発したスケペンス眼研究所で,ロービジョンケアに出会ったのもここでした。ですので,ロービジョンに関しては,自分で興味を持ってはじめたと言って良いと思います。

Q: 留学のきっかけや留学先での仕事について教えてください。

A: 留学のきっかけは,たまたま文部省在外研究員募集のポスターを見つけたことです。特定の何かを研究するためどうしても行きたいところがあるという強い希望があったわけでは無かったのですが,吉田先生に相談したところ,スケペンス研究所を紹介して頂きました。留学先での仕事は,SLOマイクロペリメトリーを用いた眼科外来患者の視機能評価でした。これらの結果を用いて臨床研究を行っていましたが,この際に評価した網膜感度と偏心視域の結果は,通常の外来のみならずロービジョン外来にとって重要な情報をもたらすのを目の当たりにしたのが,今につながっています。

Q: 現在の仕事内容や御研究テーマについて聞かせてください。

A: 「近視」,SLOやOCTなどの「イメージング」,視機能評価に加え,現在のメインテーマは,ロービジョンと遠隔医療です。

ロービジョンケアは,患者さんの視機能をいかに評価するかが重要で,保有している視機能をどのように使えるかをアドバイスするものですが,視機能評価のみならず,視覚補助のためのロービジョンエイド開発に興味があります。

第43回日本眼光学学会 会長の吉田先生(右)と事務局長の石子先生(左)

遠隔医療は,旭川医大では1994年から行っていましたので少なからず関わってはいたのですが,2010年に医工連携総研講座の所属になってから本格的に取り組んでいます。眼科の場合,自覚症状がある疾患は何らかの処置が必要なことが多いため,救急患者に対する遠隔医療は現実的では無いと思っています。それよりも,自覚症状のない患者さんを,在宅で簡易的スクリーニング検査をして,受診が必要かどうかを判断し,早期受診を促すことができるようにすることが現実的と考えています。そのために,眼科検査機器の小型軽量化を目指しています。

Q: 今後眼光学分野においてどのような御研究を進めていきたいと考えていらっしゃいますでしょうか?

A: 眼科検査装置の開発としては,2つの方向性で考えています。一つは,より詳しい,精細な検査・評価ができる装置で,もう一つは,誰でも簡便な検査が可能で,スクリーニングとして眼科受診した方がよいかどうかを判断できる小型軽量の機器です。

さらには,患者さんの実生活上での視機能評価法の開発と,視覚リハビリテーションや視覚補助に繋がる装置の開発に携わりたいと考えています。

Q: 2022年9月に第58回眼光学学会総会を主催されますが,意気込みや抱負などあれば聞かせてください。

A: このところのコロナ禍のため日本眼光学学会総会もWeb開催を余儀なくされていますが,来年はぜひ皆さんに集まって頂き,対面で議論ができればと思っています。

来年のテーマは “夢” としました。この学会は,企業の研究者と医療に携わる眼科医,視能訓練士が情報を交換し交流を深めることが出来る,とても貴重な機会を与えてくれる学会です。病気を適切に評価し,患者を治療したい。そしてそのためにはこのような装置があれば,という医療者側の夢があります。一方で,このような装置を医療に役立てることが出来れば,という研究者側の夢があると思います。これらの夢を持ち寄って,国産の医療機器開発に繋げられれば,そして,学術成果を日本から世界に発信できればとの願いを込めました。

Q: 最後に眼光学に興味を持つ若い先生方にメッセ―ジをいただけますでしょうか?

A: チャンスは周りに転がっていますが,それに気がつかないことも多いと思います。自分が主体的に興味を持ってチャンスを生かすのも大切ですが,特に強い思い入れが無くても,やってみると興味が沸くことは沢山あります。人から与えられた仕事でも,それをやるかやらないかは本人が選択して決めることです。そして,一旦やると決めたら一所懸命に取り組むことで,自分にとって糧となることも多くあります。眼光学も様々な分野がありますので,若いうちはいろいろと手を出してみることをおすすめします。チャンスを逃さないよう,イメージだけで毛嫌いせず,何でも試しに頑張ってみると世界が広がると思っています。

神谷: 石子先生,一貫したロービジョン研究や遠隔医療実現への情熱と未来を見据えた展望に大変感銘を受けました。本日は貴重なお話有難うございました。

 
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