2022 Volume 43 Issue 1 Pages 17-23
【目的】学童期における身長発育と屈折度数変化の関係性について検討すること。
【方法】2016年から2019年に「詳しい視力検査」へ参加し,経時変化を追うことのできた小学1年生から中学2年生の延べ642名1261眼(男児342名,女児300名)を対象とした。非調節麻痺下での両眼開放型オートレフケラトメーターにて屈折度数を測定し,等価球面度数を算出した。身長のデータはアンケート回答から取得した。学年,性別で14群に分類し,各群における1年間での屈折度数変化量と身長変化量の関係性について検討した。
【結果】屈折度数変化量と身長変化量には,男児は小学6年生~中学1年生で有意な相関が認められ(r = −0.27, p = 0.005),女児では小学4~5年生で有意な相関が認められた(r = −0.32, p = 0.003)。
【結論】男児は小学校高学年から中学校,女児は小学校中学年から高学年にかけて屈折度数と身長の変化が相関していた。
[Purpose] To examine the relationship between body height development and refractive error (RE) change in school-age children.
[Subjects and Methods] In 1261 eyes of 642 children who “detailed visual acuity test” between elementary-school Grade 1 to junior-high-school Grade 2 from 2016 to 2019, changes in RE was examined by binocular open-field autoref keratometer under non-accommodated paralysis and spherical equivalence was calculated. Body height data was obtained from questionnaire responses. Grade and gender was classified into 14 groups. The relationship between RE change and body-height change in each group was examined.
[Results] A significant correlation was found between RE change and body-height change in Grade 6 elementary to Grade 1 junior high school boys (r = −0.27, p = 0.005) and Grade 4–5 elementary school girls (r = −0.32, p = 0.003).
[Conclusion] Correlation between RE change and body height was found in upper-grade-elementary to junior-high boys and middle to upper-grade-elementary girls.
文部科学省の学校保健統計調査による小・中学生の「裸眼視力1.0未満の者」は年々増加している。昭和54年,平成元年,令和元年において,小学生ではそれぞれ17.91%,20.60%,34.57%,中学生ではそれぞれ35.19%,40.90%,57.47%となっており1),その増加の多くは近視が原因と考えられている(図1)。
小・中学生における「裸眼視力1.0未満の者」の割合の推移(文献1より改編)
小・中学生における「裸眼視力1.0未満の者」の割合は,年々増加している。
現在,報告されている近視関連因子として近業作業2,3),屋外活動4,5)が挙げられるが,近年では思春期の発育や遅寝,季節の変化など近視関連因子について様々な報告がされている6–8)。
Vivienらは6–14歳を対象に身長,屈折度数,眼軸長のピーク時期について調査した研究で思春期が早い群と遅い群での比較検討をしており,思春期が早い群で屈折度数および眼軸長のピークが早いことを報告している6)。また,日本学校保健会による「児童生徒の健康状態サーベイランス事業」での近視に関する調査では,小学1年生から高校生を対象に身長と近視者頻度について非近視群と近視群に分けて比較検討しており,平均身長は非近視群に比し,近視群で有意に高値であったと報告している9)。
学童期の成長過程におけるすべての時期で近視進行と身長発育に関連があるのか,身長が著しく発育する前と後ではどちらで近視進行が大きいのか結論は出ていない。
今回,我々は学童期における身長発育と屈折度数変化の関係性について検討した。
対象は我々が2013年より毎年8月末または9月初めに「詳しい視力検査」を実施している京都市内の小中一貫校の児童生徒のうち,2016年から2019年に検査へ参加し,1年間の経時変化を追うことのできた小学1年生から中学2年生の延べ642名1261眼である。また,矯正視力1.0未満(弱視治療中,眼疾患など),近視治療中(低濃度アトロピン点眼,オルソケラトロジーなど),斜視,心因性視覚障害(疑いを含む),アンケート調査の回答が得られなかった症例を除外した。
方法「詳しい視力検査」にて測定した屈折度数とアンケート調査により回答を得た身長を検討に用いた。屈折度数は,視能訓練士または眼科医が測定した。非調節麻痺下にて両眼開放型オートレフケラトメーター(WR-5100K®,株式会社シギヤ精機製作所)を用いて5 m先に視標を設定し複数回測定したうちの代表値を採用し,測定値を等価球面度数に変換した。屈折度数変化量,身長変化量ともに1年経過後の数値から初回測定年時の数値をひいたものと定義し,1年間の変化量を検討に用いた。
学年(小学1~2年生,小学2~3年生,小学3~4年生,小学4~5年生,小学5~6年生,小学6年生~中学1年生,中学1~2年生),性別(男児,女児)で14群に分類し,以下の3項目について検討した。
① 屈折度数変化量が最大となる時期
② 身長変化量が最大となる時期
③ 屈折度数変化量と身長変化量との相関
統計解析には,Pearsonの相関係数を用いて,有意水準を0.05未満とした。
本研究は,京都府立医科大学倫理審査委員会の承認を得て行った(研究番号RBMR-E-467-5)。
検討対象症例を表1,各群における屈折度数,身長を表2-1,表2-2に示す。男女とも学年が上がるほど,近視化し,身長も高くなっている。
2016年~2017年 | 2017年~2018年 | 2018年~2019年 | 合計 | |
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小学1~2年生 | 65眼 | 69眼 | 92眼 | 226眼(男児109眼,女児117眼) |
小学2~3年生 | 48眼 | 61眼 | 71眼 | 180眼(男児91眼,女児89眼) |
小学3~4年生 | 60眼 | 56眼 | 67眼 | 183眼(男児93眼,女児90眼) |
小学4~5年生 | 60眼 | 60眼 | 57眼 | 177眼(男児97眼,女児80眼) |
小学5~6年生 | 66眼 | 60眼 | 61眼 | 187眼(男児97眼,女児90眼) |
小学6年生~中学1年生 | 62眼 | 64眼 | 55眼 | 181眼(男児108眼,女児73眼) |
中学1~2年生 | ― | 62眼 | 65眼 | 127眼(男児73眼,女児54眼) |
合計 | 361眼 | 432眼 | 468眼 | 1261眼(男児668眼,女児593眼) |
小学1~2年生 | 小学2~3年生 | 小学3~4年生 | 小学4~5年生 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
小学 1年生 n = 109 |
小学 2年生 n = 109 |
小学 2年生 n = 91 |
小学 3年生 n = 91 |
小学 3年生 n = 93 |
小学 4年生 n = 93 |
小学 4年生 n = 97 |
小学 5年生 n = 97 |
||
屈折 度数 (D) |
平均 | +0.22 | +0.11 | +0.05 | −0.13 | −0.19 | −0.44 | −0.21 | −0.33 |
標準 偏差 |
0.53 | 0.71 | 0.69 | 0.98 | 1.00 | 1.20 | 1.06 | 1.22 | |
身長 (cm) |
平均 | 118.9 | 124.6 | 123.0 | 129.3 | 129.0 | 135.0 | 134.2 | 139.5 |
標準 偏差 |
5.7 | 5.5 | 6.0 | 5.8 | 4.6 | 5.2 | 5.4 | 6.0 |
小学5~6年生 | 小学6年生~中学1年生 | 中学1~2年生 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
小学 5年生 n = 97 |
小学 6年生 n = 97 |
小学 6年生 n = 108 |
中学 1年生 n = 108 |
中学 1年生 n = 73 |
中学 2年生 n = 73 |
||
屈折 度数 (D) |
平均 | −0.39 | −0.72 | −1.03 | −1.38 | −1.41 | −1.79 |
標準 偏差 |
1.15 | 1.43 | 1.70 | 1.86 | 1.97 | 2.17 | |
身長 (cm) |
平均 | 138.9 | 145.5 | 146.6 | 154.6 | 154.9 | 162.5 |
標準 偏差 |
5.8 | 6.4 | 6.7 | 7.3 | 6.9 | 6.4 |
① 屈折度数変化量が最大となる時期
1年間での屈折度数変化量が最大となったのは,男女とも中学1~2年生で男児では−0.38 ± 0.50 D,女児では−0.44 ± 0.54 Dであった(図2)。
② 身長変化量が最大となる時期
1年間での身長変化量が最大となったのは,男児では小学6年生~中学1年生で8.0 ± 2.9 cm,女児では小学2~3年生で6.9 ± 3.9 cmであった(図3)。
③ 屈折度数変化量と身長変化量との相関
各群における屈折度数変化量と身長変化量の相関は,男児では小学6年生~中学1年生でのみ有意な負の相関を認め(r = −0.27, p = 0.005),女児では小学4~5年生でのみ有意な負の相関を認めた(r = −0.32, p = 0.003)(表3,図4,図5)。
本研究により,学童期での身長発育と屈折度数変化には相関する時期があることが示唆された。相関する時期は男女で異なり,男児では小学6年生~中学1年生,女児では小学4~5年生の1年間のみで有意な相関が認められた。
古田らは中学1年生から高校1年生を対象に2年間での近視進行度と身長の伸びについて検討し,男子のみで有意な相関を認めたと報告している10)。また,小学2年生から6年生を対象に1年間での近視の進行度と身長の伸びについても検討しており,女子のみで有意な関連性が認められたと報告している11)。また,山下らは小学校男子児童と男子中学・高校生徒を対象に同一人で小学1年から6年までの6年間および中学1年から高校3年までの6年間での屈折度と身長,近視化と成長時期との関係について検討しており,小学生の屈折度と身長の年間変化量の相関は各学年ごとでは有意ではなく,中学・高校生の相関は中学2年から3年,高校1年から2年で有意であったと報告している12)。
小学1~2年生 | 小学2~3年生 | 小学3~4年生 | 小学4~5年生 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
小学 1年生 n = 117 |
小学 2年生 n = 117 |
小学 2年生 n = 89 |
小学 3年生 n = 89 |
小学 3年生 n = 90 |
小学 4年生 n = 90 |
小学 4年生 n = 80 |
小学 5年生 n = 80 |
||
屈折 度数 (D) |
平均 | +0.19 | −0.08 | −0.20 | −0.46 | −0.28 | −0.47 | −0.35 | −0.61 |
標準 偏差 |
0.65 | 0.97 | 0.93 | 1.34 | 0.95 | 1.16 | 1.12 | 1.30 | |
身長 (cm) |
平均 | 117.5 | 123.4 | 122.6 | 129.5 | 128.6 | 134.7 | 135.4 | 141.8 |
標準 偏差 |
6.1 | 6.2 | 5.4 | 5.6 | 6.3 | 6.8 | 6.5 | 6.9 |
小学5~6年生 | 小学6年生~中学1年生 | 中学1~2年生 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
小学 5年生 n = 90 |
小学 6年生 n = 90 |
小学 6年生 n = 73 |
中学 1年生 n = 73 |
中学 1年生 n = 54 |
中学 2年生 n = 54 |
||
屈折 度数 (D) |
平均 | −0.59 | −0.85 | −1.09 | −1.45 | −1.59 | −2.04 |
標準 偏差 |
1.34 | 1.48 | 1.95 | 2.04 | 2.06 | 2.26 | |
身長 (cm) |
平均 | 141.2 | 147.4 | 147.3 | 152.4 | 152.9 | 156.1 |
標準 偏差 |
7.3 | 6.9 | 7.9 | 7.2 | 6.9 | 6.3 |
各学年における屈折度数変化量
男児,女児ともに中学1~2年生で変化量が最大となっている。
各学年における身長変化量
男児では小学6年生~中学1年生,女児では小学2~3年生で変化量が最大となっている。
学年 | 男児 | 女児 | ||
---|---|---|---|---|
相関係数 | p値 | 相関係数 | p値 | |
小学1~2年生 | −0.13 | 0.16 | 0.11 | 0.25 |
小学2~3年生 | −0.09 | 0.41 | −0.11 | 0.31 |
小学3~4年生 | −0.17 | 0.11 | −0.16 | 0.13 |
小学4~5年生 | 0.03 | 0.74 | −0.32 | 0.003 |
小学5~6年生 | 0.04 | 0.69 | 0.17 | 0.11 |
小学6年生~中学1年生 | −0.27 | 0.005 | ‐0.05 | 0.65 |
中学1~2年生 | 0.11 | 0.34 | 0.03 | 0.82 |
小学6年生~中学1年生の男児における屈折度数変化量と身長変化量の相関
有意な負の相関を認めた(r = −0.27, p = 0.005)。
小学4~5年生の女児における屈折度数変化量と身長変化量の相関
有意な負の相関を認めた(r = −0.32, p = 0.003)
古田らの報告では学年別での相関について検討されていない点が本研究と異なることであるが,男子と比べて女子のほうが早い時期に近視進行度と身長の伸びに有意な相関を認めている。この点は,本研究と類似している。本研究と先行研究から,身長発育と屈折度数変化が相関する時期は性別により異なり,男児では小学6年生から中学生・高校生にかけて,女児では小学生の特に小学4~5年生にかけて相関することが示唆される。
1年間での屈折度数変化は,男女ともに中学1~2年生で最大となっており,身長変化は男児で小学6年生~中学1年生で最大となり,女児で小学2~3年生で最大となった。男女ともに身長変化が最大となった後に屈折度数変化が最大となった。
Vivienらの6–14歳のシンガポールの児童を対象にした検討では,屈折度数変化のピークは,男児で10.33 ± 1.64歳,女児で10.29 ± 1.52歳,身長が伸びる速度のピークは男児で11.97 ± 1.65歳,女児で10.98 ± 1.22歳であったと報告されていた6)。
本研究と比べると,身長が伸びる速度のピークは男児に比べ女児のほうが早いという点は一致していた。しかし,ピークの年齢は本研究と異なっており,人種の影響があるかもしれない。本邦での山下らの報告より,小学校男子児童および男子中学・高校生徒では屈折度の年間変化量は小5–小6で最も大きく,身長の年間変化量は中1–中2で最も大きいと報告されている12)。男児のみでの検討ではあるが,屈折度の年間変化量が最大となる時期よりも身長の年間変化量が最大となる時期が遅く,本研究とは異なる結果となっていた。
また,本研究で男女ともに屈折度数変化のピークが中学1~2年生と遅くなっている。Frenchらは,ベースラインで屈折異常がある小児では屈折異常がない小児と比べて屈折が大きく変化する傾向が強かったと報告している13)。本研究の対象でも学年が上がるほど屈折度数が近視の症例が多くなっており,そのためより近視化する傾向が強く屈折度数変化のピークが遅くなっていることが考えられる。
また,以前我々が実施した小学2年生から小学6年生を対象とした1年間での変化における検討では男児では屈折度数変化は小学5~6年生,身長変化は小学6年生~中学1年生で最大となり,女児では屈折度数変化は小学2~3年生,身長変化は小学3~4年生で最大となっていた。身長変化が最大となる時期については以前の検討とほぼ同じ結果であったが(添田浩生:学童期における屈折度および眼軸長変化と身長変化の関係について.視能矯正学会抄録集:60, 2019. より),屈折度数変化が最大となる時期については異なる結果となった。また,男児では屈折度数変化が最大となった後に身長変化が最大となっていた。
今回の結果と以前の結果の相違については,以前の症例が小学2年生から6年生であるのに対して,今回は小学1年生から中学2年生までに症例を拡大したことによる影響が考えられる。今後,対象となる学年をさらに拡大することで異なる結果となる可能性も考えられる。
本研究の限界としては,一つ目に学校で行う視力検査の一環として実施しているため調節麻痺剤が使用できなかったことが挙げられる。本検討における屈折度数の測定では内部固視型オートレフラクトメータに比べて調節の介入を抑えることのできる両眼開放型オートレフラクトメータを用いている14)。Karaらは3~6歳を対象として両眼開放型オートレフラクトメータにおける非調節麻痺下と調節麻痺下での屈折度数について検討しており,非調節麻痺下では有意に近視寄りの結果となったとの報告から調節を取り除くのは不十分であると考えた15)。二つ目に保護者のアンケート調査による身長データの取得が挙げられる。柴田らは小中学生の体型に関して実際の肥満度と保護者の認識について検討し,保護者がわが子の体型を正確に認識している割合は,女児では66.9%,男児では64.1%であったと報告しており16),福冨らは幼児の保護者の主観的体力評価と実際の体力水準の一致度について検討し,わが子の体力水準を正しく評価できている保護者の割合は,男児32.6%,女児33.2%と報告している17)。このことより,保護者の主観で回答された身長データにより実測値との乖離が生じている可能性がある。そのため,今後実測値による身長データを用いての検討が課題となる。
本研究により,学童における身長発育と近視化は一部相関している時期があるが,身長発育のピークをむかえたあとでも大きな屈折度数変化が起こる可能性があり,身長発育のみでは近視進行のピークを推察することはできないことが示唆された。今後,身長以外のパラメータにより近視進行の予測が可能か検討していきたい。
利益相反:外園千恵(カテゴリーF:参天製薬,サンコンタクトレンズ,シード,CorneaGen,ひろさきLI),木下茂(カテゴリーF:参天製薬,千寿製薬,大塚製薬,興和)