Japanese Journal of Visual Science
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Interview
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2022 Volume 43 Issue 1 Pages 24-27

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要旨

この度,セントラルアイクリニック院長の渥美一成先生にお話しをお伺いする機会をいただきました。渥美先生が眼科医となるきっかけ,視機能を専門にされ,屈折矯正手術を行われるようになった経緯を伺いました。行うだけでなく,ご自身がレーシック,多焦点眼内レンズ手術をうけられた興味深い経験談もおききすることができました。渥美先生の熱い心をご一読ください。

Q: さっそくなんですが,渥美先生が眼科医になられるきっかけからお聞かせいただけますか?

A: 私の家は眼鏡店でして,ニコンのメーカーの人がよく来ていました,天文部に入っていたので,メガネのこともですが天体望遠鏡のことでメーカーの人によく話を聞いていたんですね,そういう光学に興味がありました。また,親が眼科医になって処方箋を回してくれと言われたことなどが,眼科に入ることになった直接的なきっかけですね。

Q: 眼鏡店の子弟でいらしたことが大きなバックグラウンドにあるということですが,眼科医になって眼光学的な研究を始めるまでの経緯について教えていただけますでしょうか?

A: 愛知医科大学に入りまして,その時の主任教授は鈴村昭弘先生で,その当時から屈折調節の大家でいらっしゃったんですが,入るなり「お前は眼精疲労のことをやれ」と言われました。それはちょうどVDT(ビデオディスプレイターミナル)が世の中に出始めた頃でした。自分にとっての初めての学会は昭和56年の第16回日本眼光学学会(筑波大学)で,コンピュータディスプレイによる眼精疲労について発表しました。右も左もわからない1年目の若造が日帰りで筑波に行き,しゃべるだけしゃべってきたわけですが,大阪赤十字病院の原田清先生や畑田豊彦先生などいろんな人から質問をされて混乱してしまいましたが,なんとか切り抜けて,原著の第1号も眼光学学会でした。VDTについては教授にやれと言われたわけですが,多くの健診施設からVDT健診の依頼を受けて,臨床のバックグラウンドの下に,おもしろいなと思い始めてきたわけです。それで,教授が作った,今のニデックのアコモドメーターのプロトタイプみたいなもの,コーワで作っていた赤外線オプトメーターを使っていろんな実験・研究をし始めた,というのが眼光学および眼光学学会のかかわりということになるかと思います。

Q: 私が渥美先生と一緒にお仕事をさせていただいたのは,セントラルアイクリニックでしたが,調節の研究を始められてから,アイクリニック経営に進まれるまでの経緯を教えていただけますでしょうか。

 

A: 鈴村先生の下で研究をしていたわけですが,鈴村先生が日眼のシンポジウムを出されることになり,そのデータを全部私が測定して統計処理することになりました,ところがその鈴村先生が血小板減少性の白血病という非常にめずらしい病気で急に倒れられて,私にシンポジストの大役が回ってくることになってきたわけです。座長の名古屋大学の市川宏教授から「お前がデータを作ったんだから,お前がしゃべればいい」,ということを言われました。その頃教授はステロイドを使っていたんですが,そんなことは自分がやるから心配しなくてもいい,という感じで,相談できずに毎晩寝られないような事態になりましたが,四日市での日本眼科学会総会でシンポジストとして発表させていただきました。そうすると,同じシンポジウムの先生と一緒に日本全国を行脚して発表するようなことになるわけです。奈良医大の西信元嗣教授とか,福島医科大学の加藤桂一郎教授など,その頃自分は若造だったからかわいがってもらいましたが,屈折調節のおもしろさに目覚めて,本腰を入れてやろうと思いました。その頃,石川哲教授(北里大学)が眼科医会でVDT研究班を立ち上げられて,そこに入らせてもらい,続いてテクノストレス研究班にも入らせていただき,いろいろな屈折調節の専門家の先生と知り合うことができました。そんな中で愛知医科大学に京都大学から荻野誠周先生がいらっしゃいました。先生は手術のスペシャリストで,手術と視機能を合体させればいろんなことができるということで,荻野先生が手術をしたデータと視機能を組み合わせ眼内レンズと視機能,自分がそのころやっていたのは動体視力,夜間視力,グレア難視度,コントラスト視力という静止視力以外のいろいな視力なんですが,それらを組み合わせて「Quality of Vision」そういう言葉を発信しました。また,世の中にレーシックというものが出てきたわけです。そこで,レーシック手術とは本当に意味のあるものなのか,調べてくれと言われて見学に行きました。これは精密なすごい屈折矯正手術だということに気が付きましたが,そこでは50歳の患者さんにレーシックで度数を正視にしていたんです。どうして老眼になる人に正視レーシックの手術をするのか聞いたところ,患者さんが望むからという答えが返ってきました。だとしても,目のことを考えればやるべきではないと思いましたが,それを言うと,「じゃあ君がやればいいじゃないか」という売り言葉に買い言葉みたいですが,レーシックをやろう,ということになりました。そうなると,レーシック手術の勉強を一からやらないといけないですから,京都府立医科大学の木下茂教授や稗田牧先生に教えを請うことになり,指導を受けて,今に至っているわけです。

Q: その中で,渥美先生ご自身もレーシック手術を受けられましたが,いかがでしたか?

A: 人に手術を行う立場として,これはいいものだと確信を持ってやっているわけですけれども,患者さんからは,じゃあどうして先生はやらないの?と思われることもあります。私は老眼で遠近両用の眼鏡をかけているから,と言っても患者さんは納得しないわけです。私自身,たくさんの人を手術して眼鏡なしで生活できているのを見ています。その中で,眼鏡なしでレーシックを受けて何とかならないかと考えたときに,モノビジョンレーシックにすればいいじゃないかと考えました。私は右も左も−3.0 Dくらいで,中等度くらいの近視ですが,右を正視にして,左を−1.5 Dの近視を残しました。モノビジョンで右で遠くを見て,左で近くを見るということになります。手術を受けたのが47歳くらいのときです。それから60歳くらいまで眼鏡なしで車の運転,手術,読書,全部できました。レーシックを受けた後,世の中がこんなに変わると思わなかった,というくらいものすごくよく見える,と思いました。逆にモノビジョンにしたことによってものが立体的に見える,ということもありました。自分自身が経験したことによって,こんなにいいものだよ,と人に話せるし,ドライアイの症状とか若干のハロー・グレア,というのも,それがどれくらいで無くなるか,というのも体験してみてわかることでした。

Q: 今のお話に関連することでもありますが,最近,多焦点眼内レンズの手術もされたとのことですが,どのような感じでしたでしょうか。

A: もっと前にやろうと思っていました。60歳を過ぎてから調節力がさらに落ち老眼鏡が必要になり,65歳から遠視化が始まってきました。前立腺の病気で入院や手術もあって体調が悪かったこともありますが,右眼の正視が,+1.5 Dくらいの遠視になって,左の−1.5 Dの近視がほぼ正視になりました。遠くは遠視で見えない,近くも老眼で見えないという状況になって遠近両用眼鏡が必要になり,不同視もあり,肩こりがあり,早く多焦点をやろうと思った矢先にコロナ禍の状況になり,コロナが落ち着いたら多焦点を入れようと心に決めていたんです。うちのクリニックではコロナの職域接種をやっていまして,11月15日に全ての接種が終わり,やっと手術を受けられることになりました。当クリニックで白内障の手術をされている林田康隆先生に11月22日に遠視の右を,LENTIS Mplus X ToricのIOLを挿入していただきました。レンティスコンフォートっていう遠くと近くの中間くらいのがありますが,LENTIS Mplus X Toricは完全にオーダーメイドのレンズで0.01 D単位で,非常に細かい設定ができるし,乱視も1度刻みで0.01 Dにできます。極端な話,白内障がある人であればどんな多焦点レンズでも満足されるんですけれども,眼鏡さえかければ見えるという白内障のない人に対して,老視矯正+屈折矯正としてやる多焦点っていうのは,コントラスト感度も大事ですし,手術をする方からいうと見え方のQualityが非常に大切ですので,入れるなら絶対にLENTIS Mplus X Toricでしょうね。X Toricというのは近くの面積が大きいLentisですが,それを入れたわけです。レーシックの時もそうでしたが,手術を受けながら,次にこうなるのか,と自分自身が非常に楽しんでいました。レンティスを入れたときに驚いたのが,レンズの中にある小さな,近方を見るところのUの字になっているところがあるんですが,それがまっすぐにグッと見えたんです。これは,レンズが完璧にまっすぐ入っているというのがその瞬間わかりました。

2週間後の12月6日に左眼をやっていただいたわけですが,手術の直後,本来は一日眼帯をしていないといけないんですが,直後に眼帯を取ってみたら,「見えてる!」と思いました。もちろん散瞳している状態ですけれども,遠くから近くまで見えてる,という感動がありました。それに,すごいグレアとハロー,光の散乱というのが体感できまして,片方やったときは,反対の目である程度見えるから,グレアハローはなかなか減らないんですが,両方やると割とすぐに慣れてくる,なので,両眼続けてやらないといけない,というのが患者さんにも説明できるし,グレアとハローがどういう状況か,というのも説明できます。非常に説明しやすくなりました。患者さんが言ってたことに対しても,それは慣れますよとか,治りますよとか断定的には言えなかったわけですが,自分自身の体験を通して言える,そういう意味では非常にいい体験をさせていただいたと思います。

Q: すごく説得力のあるお話ですね。眼光学の話に戻りますと,患者として・術者としてレーシックや多焦点の臨床をする中で,眼光学はどのような役割を果たしていると思いますか。

A: 光学の話と屈折調節はやはり基本だと思います。視機能に関していえば,眼鏡,コンタクトレンズ,水晶体疾患,角膜疾患,緑内障,網膜硝子体,すべて,光学のこと屈折調節のことがわかっていなければ,理論的に考えられない。ですからこれは基礎なんです。よりもっと皆さんに眼光学,屈折調節っていうものを知ってもらいたい。実際問題として大学教育で屈折調節や眼光学のことをしっかりやってもらっているかというとそうではない。以前に稗田先生とお話ししたこともありますが,自分が眼鏡店に生まれたということもあって,昔は眼鏡店と眼科医とは密接に話合ったりレクチャ−したり交流もあったけれども今では無くなっている。眼光学学会は唯一,臨床と基礎とをやっている,もちろん日本眼科学会でも臨床と基礎やっているって言いますけれどもそれは眼科の中での臨床と基礎であって,眼科と光学/工学の考え方両方というのはすごく大切だと思います。

先日,眼光学学会のOCTのセミナーでしゃべらせてもらいましたが,実際,細かい光学理論っていうのは聞いていてもわからないわけですが,どうしてOCTの理論がわからなければ,臨床に応用していけないじゃないですか。なので,眼光学学会のように垣根を超えた学会というのは非常に良いと思っています。

光学が眼光学学会にとどまらず,緑内障や網膜硝子体,角膜とか,そういうところともっといろいろ協同してできることがあればいいなと思っています。

Q: 眼光学が基礎であって,そこからいろいろな分野に膨らんでいくというお話ですけれども,そんな中,渥美先生は今後,どのような形で眼光学的な活動をされて行こうと思われているのか,

A: 私も年ですから,いろいろなことはできないと思うんですが,自分はずっと臨床畑を歩いてきましたから,皆さんが余り気にしていないこと,例えばグレアとかハローを無くすためにM-POSレンズというのがありまして,自分が多焦点をやったときにはグレアやハロー,もちろんドライアイもありますけれど,かなりしんどい時がありました。夜間の高速の運転などですね。そういうときにM-POSをかけると非常にくっきり見えてすごく見やすい,なのでこういう眼鏡を増やしたい,ところが眼鏡店自体がそういうレンズのことをわかっていない,処方してくれない,というのがあります。

M-POSレンズというのは,もともとは八面体のようなフィルムが重なりあっていて,イエローレンズのように短波長可視光線をカットするようになっていて,コントラスト感度が良くなる。いまはフィルムを張るわけではなく,レーザーで削っていますが,透明で,ソフトコンタクトをかけたときのようなやわらかい見え方になります。目が疲れにくい,乾きにくいという特徴を持っているレンズです。ところが多くの眼鏡店では扱っていないので,うちで処方した患者さんにはフレームだけ買ってきてもらって,フィッティング済の状態で,それを工場に送るということをやっています。

あと,今問題になっているのは,コロナ禍の状況で学童の近視や,突然の内斜視が増えていることです。子どもは調節力があるから大丈夫ということではなく,やはり近くを長時間見ていると目は悪くなります。VDTの時もテクノストレスの時もそうだったんですが,今は携帯とかタブレット端末を授業として,仕事として1日中長時間見ることがある。そういうときに,目の疲れを他覚的に説明するデータが必要なんです。アコモドメーターを使っているというのは,視覚的に目がこんなに疲れているんですよということを説明するためです。

また,今,巷で言われている,20・20・20ルールというのがありますね。20分間近くのものを見たら,20秒でいいから,20フィート(5,6 m)先を見よう,という運動,これを広げていこうと,私ができることはそういうことくらいかと思いますが,そう思っております。眼光学学会は40年以上会員で,途中に開業してからブランクはありましたが,これからは眼光学学会にも演題を出して,そういった啓蒙活動もしていきたいと思っております。

Q: 基礎的な眼光学を修行されて,さらに実質臨床でたくさんの手術をされ,ご自身も手術を受けられて,という他の人にはない強みがたくさんおありですので,眼光学学会の発展のため,さらにご協力お願いできればと思います。

最後に,これだけは言っておきたいというメッセージは何かございますでしょうか?

A: 屈折調節を大学などで教えてもらいたいと思っています。大学の枠で教えることには無理があって,その大学専門のことはそこでできるんですが,若い人たちに眼鏡処方の基本を教えるシステム,屈折矯正手術特にレーシックについて知らない若い先生もたくさんいらっしゃる,そういうことを,大学ではなく研修プログラムで,勉強できることができればいいなと思っています。

QとAともに: ありがとうございました。

 
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