Japanese Journal of Visual Science
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2022 Volume 43 Issue 1 Pages 32-33

Details

本の紹介

Craig F. Bohren, Donald R. Huffman, Absorption and Scattering of Light by Small Particles. John Wiley & Sons, 1983.

光散乱理論の基礎を丁寧に解説した名著。

OCTに限らず眼科撮影装置の多くは,眼に光を照射して発生する光散乱を何らかの形で信号として取得することを出発点としている。従って,生体内の光散乱現象を理解することは,OCTの信号がそもそもどのような過程を経て得られるものであるかを理解するために必須である。本書は複雑な光散乱の基礎を解きほぐして解説した名著の一つである。とくにRayleigh散乱,Mie散乱の導出を丁寧に示している。また,Mie散乱の計算プログラムが添付されていることもあり,論文で頻繁に引用され現時点で引用回数は3万件を超える。他に,光散乱を記述するうえで欠かせない偏光の記述方法の基礎についても丁寧に解説している。本書の数学は決して易しいレベルではないが,光散乱に関する類書と比較すれば抜群に丁寧で分かりやすく,入門として必携と言って良いだろう。

個人的に本書を知ったきっかけは,大学の研究室に入って多重散乱について研究するにあたり,指導教官から鶴田匡夫「第3・光の鉛筆」(アドコム・メディア,1993)の第26章「多重散乱:濡れた砂と洗い髪の光学」を薦められたことである。この章で鶴田先生はBohrenによる多重散乱についての一般向け科学書や論文を紹介している。本件に限らず「光の鉛筆」の解説を勉強の取っ掛かりにすることは大変お薦めである。

話を戻すと,Bohren & Huffmanについては実に40年の月日を経て第2版が2023年に出版されることが予告されており,光散乱の本格的入門書としての評価がさらに確固たるものとなることは間違いない。白内障による光散乱を研究する方にはもちろんのこと,光散乱計測装置としてのOCTの基礎を学びたい技術者に,本書をぜひお薦めしたい。

(山成正宏)

「眼鏡学教本~眼鏡作製技能士を目指して~」(公益社団法人 日本眼鏡技術者協会発行,編集・編纂:「眼鏡学教本」編集委員会{魚里 博委員長},眼鏡光学出版(株),東京,2021年11月1日発行,@4,000円+税)

技能検定制度に基づく「眼鏡作製技能士」の資格制度が開始される見込みとなり,2022年より従来の民間資格制度から国家検定資格になる予定となりました。資格化に伴って,眼科専門医や視能訓練士などの眼科医療との連携推進が強化され,国民への最適で適切な眼鏡提供が出来うることを大いに期待したいところです。

技能検定制度の「眼鏡作製技能士」国家試験の出題基準に基づいた成書が現在までありませんでしたので,公益社団法人 日本眼鏡技術者協会および眼鏡技術者国家資格推進機構のご協力を頂き,昨年当初に「眼鏡作製技能士」に必要な知識や技能を内容とした標準的なテキスト(教科書)の作成企画がなされました。

執筆には,眼鏡学教育に造詣の深い先生方に分担執筆をお願いし,眼鏡学のみならず視覚科学,視能訓練士や日本眼科医会からも各分野の専門家に分担・編集等のご協力を頂きました。全体で8部構成とし,第1部視機能系,第2部光学系,第3部商品系,第4部眼鏡販売系,第5部加工作製系,第6部フィッティング系,第7部企業倫理・コンプライアンス,第8部眼科学の基礎と眼疾患をB5版330ページに納めています。従来には無かった眼科専門医との連携や連携における視能訓練士の役割も解説されています。執筆に当たっては,図表を活用すると共に検定試験の出題基準範囲を包括した基本的必須事項を簡潔に記載する方針とし,2022年から開始される「眼鏡作製技能士」技能検定試験用の標準テキストとして昨年11月に発行されました。

眼鏡技術者の教育だけでなく卒業後も座右の書として卒後教育に活用でき,我が国の眼鏡技術者のレベルアップはもちろん眼鏡学関連分野の発展に寄与することが期待されます。

(魚里 博)

論文紹介

Lam CSY, et al. Myopia control effect of defocus incorporated multiple segments (DIMS) spectacle lens in Chinese children: results of a 3-year follow-up study, Br J Ophthalmol 2021;0:1–5. doi:10.1136/bjophthalmol-2020-317664

(https://bjo.bmj.com/content/early/2021/03/17/bjophthalmol-2020-317664.long)

眼鏡レンズによる近視進行抑制臨床試験後の追跡調査

「視覚の科学」40巻第4号のこの欄で,多数のMD(myopic defocus)レンズをちりばめられたDIMS眼鏡レンズの2年間近視進行抑制臨床試験に関する論文を紹介した。今回は3年目の追跡調査に関する論文を紹介する。

香港における2年間近視進行抑制臨床試験で,DIMSレンズグループは単焦点レンズ(SV)グループより,近視度数の進行が52%,眼軸長伸長が62%遅い結果が得られた。3年目の追跡調査では,両グループともDIMSレンズを装用した。詳細は読んで確認されたいが,簡単にまとめると,DIMSグループの3年目継続装用でも,近視進行抑制効果は保持され,また,SVからDIMSレンズにかけかえたグループはSVを装用した前の2年と比較しても,膨大な研究蓄積データから抽出した同じ年齢,性別,近視度数構成のグループと比較しても,近視進行抑制効果がみられた,とのことである。

(祁 華)

Negishi I & Shinomori K: Suppression of Luminance Contrast Sensitivity by Weak Color Presentation. Frontiers in Neuroscience. 2021; 15: 668116. doi: 10.3389/fnins.2021.668116.

弱い色の呈示によって輝度コントラスト感度が抑制される

本研究は,fMRI(機能的核磁気共鳴画像法)による脳計測と被検者でのコントラスト弁別心理物理学実験を両方行い,コントラストの印象を決める明暗情報を伝える輝度信号は,周囲に高彩度色より低彩度色を出す方が,より強く抑制されること,つまり脳内においては強い色信号よりも弱い色信号の方が,輝度信号を抑制する効果が高いことを示した。この効果により色の強さと輝度が作る境界の強さのバランスを取っていると考えられる。その結果,全体が淡い色の写真では,ぼやける(コントラストが弱い)印象がもたらされる。

コントラスト感度検査においては通常,グレーティング,二重輪指標や感度チャート等の無彩色刺激が用いられるため,白内障等により色の見えの彩度が低下している場合において日常知覚される輝度コントラストは,感度検査結果からの予想よりも弱く感じられる場合もあることになる。

(篠森敬三)

Wang L, Koch DD: Intraocular Lens Power Calculations in Eyes with Previous Corneal Refractive Surgery: Review and Expert Opinion. Ophthalmology. 128: e121–e131, 2021.

Ophthalmologyに掲載された総説で,LASIKなど屈折矯正手術後の白内障手術での眼内レンズ(IOL)度数計算とLASIK眼に対する多焦点などのプレミアムIOLの適応に関して,原著を調べ,著者の意見が記載されている。

近視に対するLASIKやPRK後,RK後,遠視に対するLASIK後のIOL度数をASCRS(米国白内障屈折矯正手術学会)のWEBページに搭載されているIOL度数計算式で計算した場合にどの程度であるかが理解できる。また,更なる成績向上の必要性や,EDOF,多焦点IOL使用時の角膜形状解析の必要性など著者の意見が記載されている。白内障術者,屈折矯正術者,IOL度数計算に興味がある研究者にお勧めしたい。

(前田直之)

 
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