Japanese Journal of Visual Science
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2022 Volume 43 Issue 2 Pages 52-53

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本の紹介

齋藤勝裕:光と色彩の科学―発色の原理から色の見える仕組みまで ブルーバックス 講談社.2010年10月

「光と色に関する科学的,生理的,心理的な側面全般を網羅した一冊」

平易なところから幅広くまとめてある。例えば,色相の表し方がニュートンの混色を予測するための色円,感情的な要素を取り入れたゲーテの色環,中心からの彩度が等しいマンセルの色相円・色立体,主波長(色相)と刺激純度(鮮やかさ)を表すCIE色度図など,目的によって種々ある。眼の色を感じるための生理学,身近なものが色を生じる理由,発光を利用した真空度,細菌汚染,亀裂の検証などの利用法など,色彩に関する馴染みのある内容が種々書かれていて読みやすい。また心理学の面からの色とのかかわりについて,色彩が血圧,食欲,睡眠,時間とのかかわりなどもさらっと書かれていて興味深い。一見科学的ではなさそうであるが,色による神経活動は波長の違いによる反応物質等の違いにより起きていることも考えられ,解明できている部分,できていない部分と興味を持ったところを勉強,研究していくと面白いと思われる。

普段専門的なことに特化して深く読み込むことが多いと思われるが,一般的なことに近いところの知識をまとめたものをたまに読むことで,つながりのある幅広い下地ができるような気がする。

(広原陽子)

論文紹介

Joseph L. Demer, Sei Yeu Oh, Vadims Poukens: Evidence for Active Control of Rectus Extraocular Muscle Pulleys. IOVS, May, Vol.41, No.6, 2000. p1280-1290.

眼球は4直筋と2斜筋でコントロールされていることは古くから分かっていたが,眼球を支える構造は謎のままであった。本論文は眼窩内をMRIで観察し,プリーと呼ばれるコラーゲンを主体とする結合繊維が眼球と眼筋を包み込んで,眼窩内にすっぽりと収まり,眼球を宙づりの状態で安定させていることを明らかにした。

急激な複視の出現を訴えて受診した症例の臨床経験から,25歳以降で生じる例,45歳くらいから生じる例,それに70歳を過ぎて白内障術後に発症する例が特徴的だと感じていたが,その理由を推測できないでいた。この論文を一読して,恐らく早期に発現するのは生来の斜位,中年以降に生じるのはプリーの萎縮,そして術後に生じるのは眼球内容積が減少してこれまでのプリーでは十分に眼球を包め込めなくなったことによる(後者2つがサギングアイ症候群)と考えると合点が行く。最近話題になっているスマホ斜視や,眼球の形状変化にもプリーが強く関与しているように思われる。

屈折や眼位などの視機能を考える上で,プリーの構造をイメージすることはとても大切であり,眼精疲労や視機能に異常を訴える患者さんにより快適な眼鏡やコンタクトレンズを処方するのに役立っている。

(梶田雅義)

永田浩太郎,江藤太亮,大橋路弘,申 㽋敬,元村祐貴,樋口重和,“照度の違いが子どもの主観的明るさ感と快適感に及ぼす影響:水晶体の分光透過率の年齢差に着目した検討”,日本生理人類学会誌,Vol.26,No.3,pp.63-72,2021.

本論文は,照度と明るさ感等の主観評価の関連性を検証している。着目すべき点は,著者らが水晶体の分光透過率を簡単に短時間で測定する装置を開発し,その結果を考慮している点である。この装置を用いて個人の水晶体分光透過率を測定しているために,網膜に到達する光束と明るさ感等主観評価との関連性をより詳細に検討することが可能である。水晶体の加齢モデルはすでに提案されているが,観察者個人の水晶体分光透過率で補正することによって,より正確な視覚系機能の測定が可能ではないかと考えられる。

(辻村誠一)

Kuniko Tachibana, Naoyuki Maeda, Kosuke Abe, Shunji Kusaka: Efficacy of toric intraocular lens and prevention of axis misalignment by optic capture in pediatric cataract surgery. J Cataract Refract Surg. 2021;47(11):1417-1422

角膜乱視のある3歳から16歳の白内障患者に対し,トーリック眼内レンズ(T-IOL)を挿入した群と非トーリックIOL(N-IOL)を挿入した群で矯正視力を比較し,さらにT-IOL群でoptic captureあり群となし群で術後軸ずれを比較した.T-IOL群の術後角膜乱視平均3.33Dに対し自覚乱視量は1.38DとT-IOLによる乱視矯正効果が得られ,術後矯正視力(logMAR)はT-IOL群0.003,N-IOL群0.09と同等で,術後1週のIOL軸ずれはoptic captureあり群(平均2.6度)が,なし群(13.3度)より有意に小さかった.小児白内障においてもT-IOLが有用であると証明した論文です。

(長谷川優実)

Jiang X., Pardue MT., Mori K., Ikeda S., Torii H., D’Souza S., Lang RA., Kurihara T., Tsubota K.: Violet light suppresses lens-induced myopia via neuropsin (OPN5) in mice. Proc Natl Acad Sci U S A. 2021; Vol. 118: Issue 22

バイオレットライトが近視進行抑制効果を発揮するメカニズムの1つを解明した論文。

網膜神経節細胞特異的にOpn5(網膜神経節細胞に発現する非視覚光受容体,バイオレットライト[360~400 nmの可視光。以下,VL]領域内の380 nmを最大吸収波長)遺伝子を欠損させた遺伝子改変動物(OPN5ノックアウトマウス)を用いた研究の結果,VL照射は近視誘導による脈絡膜厚菲薄化を抑制し眼軸長伸長を抑制するが,網膜特異的OPN5ノックアウトマウスではその両方の抑制効果が失われた。以上より,OPN5でVLが受光されることにより脈絡膜厚が維持され,VLが近視進行を抑制するメカニズムの1つが解明された。この知見はVLの近視抑制効果を理論付けるだけでなく,近年新たに発見されたOPN5の機能解明にも繋がることが期待されている。

(鳥居秀成)

 
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