Japanese Journal of Visual Science
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Knowledge of eyeglasses prescription required for ophthalmologist
Yasuharu Oguchi
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2022 Volume 43 Issue 4 Pages 91-98

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要旨

臨床における眼鏡処方は眼科学の基本である。しかし,様々な屈折矯正方法が出てくる中で眼科医が眼鏡処方に携わる機会は減少している。眼鏡は眼光学に基づいて処方するだけでなく眼疾患や加齢などによる眼の変化を見極めながら処方する必要がある。全ての矯正方法の基本は眼鏡に尽きる。眼鏡処方が出来なければ他の屈折矯正方法を正しく選択することは出来ない。眼鏡処方を行うために必要な眼科臨床の基礎を解説した。

Abstract

Prescribing eyeglasses in clinical practice is fundamental to ophthalmology. However, with the advent of various refractive correction methods, ophthalmologists have fewer opportunities to be involved in prescribing eyeglasses. It is necessary to prescribe eyeglasses not only based on ophthalmological optics, but also with an eye for ocular changes due to ocular diseases and aging. The basis for all corrective measures is eyeglasses. Without the ability to prescribe eyeglasses, it is impossible to correctly select other refractive correction methods. This article explains the basics of clinical ophthalmology necessary for prescribing eyeglasses.

はじめに

人生80年時代から100年時代と言われる昨今,生涯にわたって屈折矯正用具を全く使用しないで人生を終えられる人は極めて稀である。このような時代において10年,20年先を見据えた眼科医による眼鏡処方が求められている。現在はインターネット上で度数を入力すれば,家に眼鏡が届く時代でもある。その中で我々眼科医は個々人にあった快適な見え方を提供する必要がある。その処方のためには眼鏡の特性を理解した上で加齢とともに変化しうるヒトの屈折,調節,眼位の変化を捉え眼鏡処方を行う必要がある。

眼鏡処方にあたって必要な臨床の知識

臨床における眼鏡処方にあたっては屈折,調節,眼位の3者を常に意識しながら処方を行うことが必要である(図1)。屈折は主に球面レンズや乱視レンズ,調節は累進屈折力レンズ,眼位はプリズムレンズで矯正を行う。3者は互いに影響し合うため屈折のみを矯正しても快適な眼鏡処方とはならない。

図1

眼鏡レンズにより矯正可能な屈折,調節,眼位

3者は相互に関連する。

また,屈折,調節,眼位は成長や加齢に伴い変化していく1-5。主な変化を表1に挙げる。

表1 屈折,調節,眼位の加齢による変化
主な構成要素成長,加齢による変化
屈折角膜,水晶体,眼軸長角膜:直乱視から倒乱視化
水晶体:倒乱視増加,核白内障による近視化
眼軸長:成長に伴う延長,網脈絡膜疾患に伴う延長
29歳以下近視化,30歳以上遠視化の傾向
調節毛様体筋年齢による調節力の低下
調節異常(調節緊張症,調節痙攣,IT眼症,調節衰弱,スマホ眼)
眼位外眼筋,眼窩プリー,眼窩容積,眼球容積プリーの位置異常,不安定性,可動性の障害,加齢変化
眼窩容積と眼球容積の不均衡
斜位,斜視の出現

眼鏡処方時には3者の関連とその変化を適切に捉えながら処方を行っていく必要がある。3者を臨床的に捉えていく方法について以下にポイントとなることを挙げる。

屈折

屈折は主にオートレフラクトメータによる他覚的屈折値を参考にして自覚的屈折値を求めるが,その際ポイントとなることは遠視が隠れていないか,近視過矯正となっていないかを必ず確認することである。屈折は常に調節や眼位の影響を受けて変動している。他覚的屈折値で球面度数が−0.25D~−0.75Dと軽度の近視を示しているときは,必ずプラスレンズを用いて遠視が検出されないか確認する必要がある。この手順を省略すると本来プラスレンズで矯正する必要がある遠視眼をマイナスレンズで矯正し,遠視低矯正,近視過矯正の状態となる。この状態で累進屈折力眼鏡による調節補助をおこなえば,高加入度のレンズが必要となり快適さが損なわれる。これは調節安静位が関与している6(図2)。

図2

調節安静位

安静時,生理的な緊張状態で,約1 mの距離にピントがあっている。

調節安静時には生理的緊張による調節のため正視眼でおおよそ1 m(1D)くらいの距離にピントが合っている。視力表は5 m(0.2D)の距離にあるため,調節安静位から視力表にピントを合わせるためには約1Dのマイナスレンズが必要となり,自覚的屈折値は約1Dは容易に過矯正となりうる。この生理的緊張の関与を最小限に抑える検査方法として両眼同時雲霧法がある7。これは両眼開放で見ながら視力検査を行うことで距離情報を得ながら脳内の両眼視細胞を活用して両眼視時の矯正度数を求める方法である。また,この方法は後述する調節異常や眼位異常に気づくきっかけとなることもある。参考として著者の両眼同時雲霧法の手順を記載する。

両眼同時雲霧法の実際

1.両眼ともに矯正視力値が1.0以上出ることを確認。

2.自覚的屈折検査で得られた円柱レンズ度数および軸で検眼枠に準備(図3B)。

3.自覚的屈折検査の球面レンズ度数に両眼+3.00Dを加え検眼枠に準備(図3A)。

4.雲霧時間は設けず,すぐに検査を開始する。

5.両眼視で視力値を確認しながらレンズ交換法に従って両眼の球面度数に−0.50Dずつ加えた値の球面レンズに交換しながら視力値が0.5~0.7に達した時点で左右眼を交互に遮蔽しバランスを確認(図4A)。

6.見やすいと答えた方の眼を−0.25D減じる。これでも同じ眼が見やすい場合は見づらいと答えた方の眼を−0.25D増してバランスを取る。

7.バランスがとれたら両眼同時に−0.25Dずつレンズ交換法を継続し,両眼視で最良矯正視力が得られる最弱屈折値を求める(図4A)。

8.一連の操作は1分30秒以内に行う。

9.斜位が影響していると考えられる場合は適切なプリズムレンズを追加し再度同様に両眼同時雲霧法を行う。

図3

両眼同時雲霧法時のレンズの固定

A:検眼枠表面。レンズ交換を行う球面レンズを挿入している。

B:検眼枠裏面。円柱レンズをテープで検眼枠に固定している。

図4

両眼同時雲霧法終了時の検査台

A:左右バランスとるまでは0.50D間隔,バランス後は0.25D間隔でレンズ交換を行う。

B:両眼同時雲霧法終了時の机。

実施時のポイントとして,筆者は円柱レンズを検眼枠の顔側の枠に準備しテープで固定している(図3B)。両眼同時雲霧は手早く行う必要があるため途中で円柱レンズに触れてしまい外れたり軸がずれたりしないようにするためである。

また,もう一つのポイントとして検査中レンズを片付けていると1分30秒以内には終われないため,使用したレンズは戻さず机の上に置いて後で片付けるようにしている(図4B)。

片眼ずつ測定した矯正度数を超えてしまった場合や,両眼同時雲霧法を実施している際にマイナス側にレンズ交換しているにも関わらず視力値が低下したりなど変動する際は,後述する調節緊張症や調節痙攣を疑い,処方を見送る方が安全である。また検査前の診察においてAlternative cover testで外斜位などを認めた際は,プリズムレンズを用いて両眼同時雲霧法を行うと屈折値がプラス側に変化することがあり,斜位近視による過矯正を防ぐことが可能である。

調節

調節は40歳で約5ジオプトリとなる8。スマートフォン通常文字の平均視距離が19.3 cmと報告9されており,現代においては40歳を超えると日常生活に支障を来すことになる。現代社会は自動車の運転(遠方)からパーソナルコンピュータ(中間),スマートフォン(近方)とあらゆる距離を明視する必要がある。全ての距離を明視でき,かつ眼精疲労を起こさない快適な矯正のためには,単焦点の老眼鏡併用ではなく,遠近両用累進屈折力眼鏡による調節補助が必要となる。最近の遠近両用累進屈折力レンズの進歩は著しく,中近や近近両用屈折力眼鏡の併用を必要とする場面が減り,レンズの種類によっては遠近両用累進屈折力眼鏡1本で通常の日常生活を送れる時代となっている。表2に必要加入度数の目安を示す。ただし,実際の眼鏡処方では遠方度数の設定や使用場面,眼の使い方,体格などでも違ってくるためあくまで目安である。

表2 年齢と必要加入度数の目安
年齢必要加入度数
30歳台+1.00D
40歳~45歳+1.25D
46歳から60歳+1.50D
61歳以降+1.75D

加入度数の設定の注意点として+1.75Dを超える累進屈折力眼鏡を初めて使用するのは収差が大きく困難という点である。加入度数が+1.75Dを超える度数が必要な際は1~3ヶ月ほど+1.50Dの累進屈折力眼鏡に慣れてから加入度数を増やす方がなじみやすい。処方の際は眼の使い方を指導することが必須である。累進屈折力眼鏡では縦の眼の動きは必要だが,横の眼の動きは収差が比較的大きい部位で見ることになり不快となる(図5)。これまで眼鏡を使用していなかった正視や遠視の人,あるいは眼鏡を使用したことがある人でも単焦点眼鏡から初めての累進屈折力眼鏡に変更となる人には指導が必須である。

図5

累進屈折力眼鏡での眼の使い方

A:縦の眼の動きで遠方,中間,近方をみる。

B:横の眼の動きはレンズの収差が大きくなる部分(灰色)で見ることになる。

縦の眼の動きとともに顎を引いて遠くを見る,顎を上げて近くを見るという指導も必要である。この眼や顎の使い方を指導しないと遠くも近くも見づらい,像が歪み使いづらいと言った苦情となり処方に失敗する。またレンズの光学的な性質上,縦の眼の動きでも歪みは発生するがあらかじめ像が膨らんで見えること,下り階段で注意が必要であるが数日~数週間で慣れることを説明しておくことで適応を助けることが出来る。調節は年齢による調節力低下の他に調節異常がある。調節機能解析装置AA-2で見られる代表的な異常を図6に挙げる。

図6

代表的な調節異常

文献6より引用

A:正常の調節 B:IT眼症 C:調節緊張症 D:調節痙攣

正常の調節(図6A)やIT眼症(図6B)では遠方視時の調節に異常はないため,眼鏡処方が可能である。しかし,調節緊張症や調節痙攣では図6C,Dのように屈折値が不安定で処方時の見え方が眼鏡店で作製された眼鏡では再現されず苦情となることがある。従って眼鏡処方前には調節検査を行った方が眼鏡作製後の苦情を減らすことができる。調節緊張症や調節痙攣では低濃度アトロピンや低濃度サイプレジンを用いた治療10を行った後に眼鏡処方を行う方が無難である。調節機能解析装置がなくても両眼同時雲霧法を行うと,調節緊張症や調節痙攣では図6C,Dのように調節が一定しないためレンズ交換をおこなっている最中に得られる視力値が不安定なことで調節の異常に気づくことが可能である。

眼位

眼位は斜視と斜位に大きく分けられる。斜視は眼精疲労を起こさないが,斜位は眼精疲労を起こす。斜視は一見して異常が分かり,眼位矯正の目的でプリズム眼鏡や老視対策として左右眼を交代視となるように矯正することがある。斜位は一見すると正常に見えるため見落とすことが多いが,斜位があると斜位近視や輻輳性調節など屈折や調節に影響を及ぼすため,眼鏡処方においては重要な評価項目である。しかし斜位を正確に評価することは難しい。理由はその時の輻湊や調節の程度によって屈折が変化しうるためである。眼鏡処方時は必ずAlternative cover testを行う必要がある。通常はこれにより容易に眼位異常が検出可能であるが,Alternative cover testのみでは検出できないこともある。そのためプリズム矯正が必要となる斜位の検出のためには問診,視診,他覚的屈折値や自覚的屈折値,調節などから総合的に判断する必要がある。問診ではこめかみや眉間の痛みの有無,長時間の遠方あるいは近方視後の症状の悪化の有無,症状時に片眼を閉じると楽になるか,視診ではAlternative cover testの他に首のかしげや眼の高さの左右差がないかを確認する11。所持眼鏡が過矯正になっていないかの確認も必要である。その他,数プリズムの内斜位や外斜位,上下斜位の検出にはビノキュラーセパTN-3000(田川電気研究所)が簡便で検者間での差が少なく参考になることもある(図7)。

図7

ビノキュラーセパTN-3000

眼位異常を簡便に定量可能な装置である。

眼位は生涯一定ではなく,表1に示したプリーの位置異常,不安定性,可動性の障害,加齢変化や眼窩容積と眼球容積の不均衡などで変化する。また近年増加しているのは長時間のスマートフォンの操作によると考えられる眼位異常である。スマートフォンの平均視距離および輻湊角はそれぞれ19.3 cm,31プリズムと報告9されており,書籍の33.7 cm,18プリズムに比べて近距離で輻湊にかかる負担が大きいことが分かる。視距離20 cmでは50 cm,30 cmにくらべて有意に固視ずれが大きくなったという報告12もされており,スマートフォン画面を注視することは視覚負荷が大きい。スマホ斜視13やプリズム眼鏡処方の割合の増加2が報告されており,眼鏡処方を行うにあたってはこれらのデジタルデバイスの使用状況の確認とその影響を評価する必要がある。

上記の屈折,調節,眼位を捉えながら実際の臨床での眼鏡処方について述べる。臨床での眼鏡処方では問診や診察が大切である。問診の内容としては,眼鏡が初めてか否か。今までの眼鏡は掛けていられたか。遠くがみえるか,近くがみえるか。自動車の運転をするか。仕事内容は何か。眼の疲れ,眉間やこめかみ,眼の奥の痛みの有無。肩こりの有無などである(表3)。

表3 眼鏡処方に際しての問診事項
問診内容眼鏡処方における注意点
眼鏡の有無初回の眼鏡か2回目以降か。
眼鏡を常用しているかどうか。
今までの眼鏡の種類(単焦点,累進屈折力眼鏡)と度数。2回目以降なら,今までの眼鏡に不満があるかないか。常用していない時はその理由を探る。
見え方視力値ではなく,遠方や近方の見え方に不満がないか確認する。見え方の不満を確認し,眼精疲労を生じず快適に掛けられる範囲で矯正に反映する。試し装用で視力値は確認しない。
運転の有無運転しない。
普通免許,大型免許を有する。
日常的に運転するかどうかの確認。運転しない場合は遠くを若干妥協可能か否か。
仕事の内容運転など遠くを見る仕事。
事務仕事など数字を見る仕事。
縫製作業など細かい仕事。
乱視矯正や近々両用累進屈折力眼鏡併用の考慮。
眼の疲れや奥の痛み眼精疲労の有無。
眼の奥の痛みの有無。
針で刺されるような痛み。
調節機能検査で眼鏡が処方出来る状態かどうかの確認。
眼のまわりの痛みや肩こりの有無眉間やこめかみの痛みの有無,肩こりの左右差の有無。眼位異常の有無に注意が必要。

眼鏡が初めての場合,近視では矯正度数が強いと最初から適正度数の眼鏡では歪みを強く感じて装用出来ないことがある。その際は1~2ヶ月程度歪みの違和感がない低矯正の度数に慣れてもらってから適正な度数にレンズ交換するとよい。2回目以降の処方の場合,今までの眼鏡が快適に装用できていたか否かは重要である。もし,快適に装用できていなかった場合はその眼鏡に必ず問題があるはずである。度数の確認はもとより頂点間距離や装用しているアイポイント位置が適切かを見る必要がある。特に累進屈折力眼鏡の場合はレンズの度数が適正であれば頂点間距離やアイポイント位置を数mm調整するだけで快適な装用感が得られる場合がある(度数が適切であってもフィッティングが不良であれば快適さがない)。また遠視の場合は遠くを見る際に,近視の場合は近くを見る際に眼鏡を外してみていないかの確認も必要である。習慣的に外して見ている時間があると屈折・調節・眼位のバランスが崩れていることも少なくない。

快適に遠くが見えることと遠方視力,快適に近くがみえることと近方視力は必ずしも一致しない。いくら視力値が良くても見え方に満足が得られないケースがある。運転する場合は免許の種類にもよるがそれに適した矯正視力が要求される。しかし,日常視においては1 m前後が見えやすい矯正が最も快適である。近方視において仕事内容は重要である。パーソナルコンピュータを使用し特に数値を見る作業をする際は適切な乱視矯正により数値の見間違いを防ぐ必要がある。図面の作製や縫製作業など非常に細かい作業を行う際は遠近両用累進屈折力眼鏡では近方の見え方に満足が得られないことがあり,その際は近々両用累進屈折力眼鏡の併用を考慮する。

眼の疲れや眼の奥の痛みがある際も含めて眼鏡処方においては前述のように調節検査が必須である。AA-2(ニデック社)やアコモレフ2(ライト製作所)による調節検査により調節緊張や調節痙攣などを認める際は矯正視力が安定せず眼鏡処方は困難である。その際は点眼薬を用いて治療を行った上で後日に眼鏡処方を検討する。過矯正の眼鏡を装用していた場合で疲れなどを認める際や,眉間やこめかみの痛み,肩こりがある際も含めて眼鏡処方においては眼位の評価が推奨される。

診察では一般的な細隙燈顕微鏡検査や眼底検査など眼科検査で問題なければ,眼鏡処方に必要な情報を取得する。年齢,眼位異常の有無,瞳孔間距離(Pupillary Distance),優位眼,眼の高さの左右差,首のかしげの有無である(表4)。

表4 眼鏡処方における診察
診察内容眼鏡処方における注意点
年齢生年月日から年齢の計算調節力に関わるが,可能なら調節検査の参照が必要。高齢になってから初めての累進屈折力眼鏡の装用は難しい。
眼位異常外斜位,内斜位,上下斜位の有無眼精疲労や過矯正の原因となる眼位異常の有無を確認する。
眼の高さの左右差左右差の有無眼鏡作製に関わる眼の高さの左右差の有無を確認する。首のかしげに関連しているかどうかを確認する。
首のかしげ首のかしげの有無肩こりなどの原因になっており,プリズムレンズで矯正されるなら矯正を試みる。
瞳孔間距離瞳孔間距離計や定規を用いて測定正確な瞳孔間距離の測定が必要。数mmのずれでプレンティスの式に従いプリズム効果が生じうる。
優位眼右眼か左眼かを確認優位眼を若干遠方寄りに矯正することもある。モノビジョン矯正時は優位眼を遠方寄りにする。
優位眼と利き目が異なる場合もあるので,注意する。

年齢は調節力に関わってくる。以前は年齢から老視を考慮すれば良かったが,最近はいわゆるスマホ老眼と言われる若年者における調節衰弱も問題であり調節検査の結果も併せて調節補助の必要性を判断する。Alternative cover testで眼位異常が検出される場合はビノキュラーセパなどの結果を参考にしてプリズム矯正の必要性を判断する。スマートフォンが普及した現代においては読書距離よりもさらに近距離での作業が増加し,外斜位は輻輳量の大きさから眼精疲労の原因となっていることがあり矯正を要することがある。内斜位は縫製業,時計店,画家や彫刻家など近業を生業とする方に見られることがあるが,遠視の低矯正・未矯正による調節性の内斜位や,近視が未矯正でスマートフォン操作を行う習慣によって生じる内斜位もあり適切な矯正が必要である。また,眼の高さや奥行きの左右差,首のかしげの有無や肩こりの左右差などを勘案して上下斜位の矯正の必要性の判断を行う。斜位角は完全に矯正はせず正位を維持するのを補う程度に留めた方が,遠近感や立体感の不自然さが少なく快適な装用が得られる。プリズム矯正を行うことで首のかしげが改善する場合もある。

瞳孔間距離の測定は瞳孔間距離計や定規を用いて行うが眼の動きによって測定値がばらつくことがあるので数回測定し可能な限り正確な値を求めるようにする。レンズ度数が大きい場合は数mmのずれでプレンティスの式に従いプリズム効果が生じ不快な矯正となる可能性がある。優位眼の確認は度数決定時に0.25ジオプトリのわずかな調整やモノビジョン矯正時に優位眼を遠方寄りに矯正する上で必要な情報である。

装用テスト

以上の問診や診察,検査結果を踏まえて最適と考えられる眼鏡レンズを検眼枠にセットする。円柱レンズやプリズムレンズは回転してしまうとその効果が減弱するため装用テスト時は検眼枠にテープなどで固定する。装用した瞬間の患者の反応や累進屈折力眼鏡では下目の使い方が出来ているかを見逃さないようにする。テスト装用後の視力測定は免許更新などの必要性がなければ行わない。初回の眼鏡では装用テストに長めの時間をとることが必要である。特に初めての累進屈折力眼鏡の装用では前述のように遠方と近方を見る際の眼の使い方や側方視時の歪み,装用当初の下り階段での注意を装用テスト前に説明し確認してもらうことが大切である。これにより処方眼鏡が出来上がった際の見え方への苦情を減らすことが可能である。初めての眼鏡装用の場合,フレームや鼻当て,テンプルが不快と不満が出る場合があるが,快適に装用できる眼鏡であればいずれその不満は解消する。装用テストで使用した累進屈折力レンズの銘柄を処方箋に記載した方が良い。これは累進屈折力レンズがその銘柄により見え方がかなり異なるためである。

処方後

眼鏡処方後に眼鏡店で作製したあと再診して頂き装用状況を確認する。特に累進屈折力眼鏡ではアイポイント位置や頂点間距離で見え方や装用感が著しく異なるためその確認が必要である。調整可能なフレームであればその場で行うことで見え方を改善出来る。その場での調整が困難な場合には眼鏡店に依頼する。また,近方視時の眼の使い方が出来ているかは必ず確認した方が良い。処方時に説明し,眼鏡店でも説明されているはずであるが,実際に見て頂くと顎を引いてレンズの真ん中で見ており,下方視が全く出来ていないことをたびたび経験する。

現在,実際の臨床では屈折矯正の手段として眼鏡,コンタクトレンズ,photorefractive keratectomy,Laser in situ keratomileusis,Small incision lenticule extraction,有水晶体眼内レンズ,角膜インレー,角膜内リング,白内障手術時に挿入するトーリック眼内レンズや多焦点眼内レンズなど多種多様な方法が選択可能となっている。矯正のバリエーションが多く存在し,個々の症例毎に最適な矯正を探る必要がある。その中で眼鏡は唯一,累進屈折力レンズで視線を移動させることで調節を補助し,プリズムレンズによって眼位を改善させることが可能な屈折矯正用具である。快適な矯正を提供するために本稿が参考になれば幸いである。

利益相反

利益相反公表基準に該当なし

文献
 
© 2022 The Japanese Society of Ophthaimological Optics
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