2025 Volume 5 Issue 1 Pages 73
【背景】先行研究は,体温 (Tb),ひいては脳温がアルツハイマー病 (AD)におけるタウ病理と双方向に相互作用する可能性があることを示唆している。タウのリン酸化は,ヒトの生理学的範囲内でのわずかな (1℃未満)体温低下によって大幅に促進され,ADの進行初期において体温調節核がタウ病理の影響を受ける。本研究では,認知機能が正常な高齢者において,Tb (脳温の代理指標)が臨床的に用いられるタウ病理マーカーと横断的に関連するかどうかを評価した。【方法】摂取型テレメトリーセンサーを用いて,Tbを48時間連続測定した。この測定期間には,覚醒時と睡眠時のTbがタウ病理との関連に差があるかどうかを明らかにするために,2晩の夜間睡眠ポリグラフ検査も含めた。タウのリン酸化は,Tb測定の翌日に採取した血漿および脳脊髄液中のトレオニン181がリン酸化されているタウ (p-タウ)を用いて評価した。さらに,平均1ヶ月後に[18F]MK-6240放射性トレーサーを用いてPET-MRにより,早期ブラーク病期領域における神経原線維変化 (NFT)量を画像化した。【結果】Tbの低下は,NFT量の増加,ならびに血漿および髄液中のp-タウ濃度の上昇と関連していた (p < 0.05)。NFT量は,覚醒時のTbの低下と関連していた (p < 0.05)が,睡眠時には関連していなかった。血漿および髄液中のp-タウ濃度は互いに高い相関関係にあり (p < 0.05),両変数ともタウタングルの放射性トレーサー取り込みと相関していた (p < 0.05)。【結論】ヒトにおける初めての研究結果であるこれらの結果は,高齢者における低Tbがタウ病理の増加と関連している可能性を示唆している。本研究の結果は,体温および脳温の低下とタウの過リン酸化との関連を示す多くの文献に新たな知見を付け加えるものである。
本研究は,健常高齢者における体温の低下とアルツハイマー病に関連するタウ病理との関連を検討した初のヒト研究である。これまで体温と認知機能・脳病理との関連は主にラットを用いた動物実験で示されており,ヒトを対象とした検討は非常に新規性が高い。本研究結果より,体温の低下がタウ病理マーカーの上昇および神経原線維変化の増加と関連しており,体温変化がタウ病理進行の新たな指標となる可能性が示唆された。
体温は脳の代謝や神経伝達,酵素活性に深く関与しており,わずかな体温の低下でも脳内で異常なタウタンパク質のリン酸化が促進される可能性がある1)。特に高齢期には体温調節機能が低下しやすく,慢性的な低体温が認知症のリスクを高める一因となることが示唆されている。したがって,体温を適切に維持することは,加齢に伴う神経変性を抑え,認知症を予防するうえで重要な生理学的視点であると考えているため。