Equilibrium Research
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Review article
How to Cope with Pediatric Patients Suffering from Dizziness
Fumiyuki Goto
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2024 Volume 83 Issue 3 Pages 141-148

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Translated Abstract

Dizziness in children is said to be uncommon, occurring at a frequency of about 1/100th that in adults. Until now, the most commonly reported type of dizziness is orthostatic dysregulation (OD). We examined the statistical prevalence of dizziness, and identified four common conditions, designated as VROP, that cannot be treated with knowledge of dizziness in adults alone. VROP comprises VMC (Vestibular Migraine of Childhood), RVC (Recurrent Vertigo of Childhood), OD, and PD (Psychogenic Dizziness). VMC is a pediatric version of vestibular migraine, and its diagnosis and treatment are similar to those of vestibular migraine in adults; RVC is an acute rotatory vertigo attack that occurs most frequently in children under 5 years of age and lasts from a few minutes to several hours; OD is not an otorhinolaryngological disorder, but a pediatric disorder, so collaboration with a pediatrician to manage it is important. Psychogenic gait disturbance is sometimes observed in psychogenic vertigo. This disorder requires to be managed in collaboration with a child psychiatrist. Particularly useful for the diagnosis are diaries of dizziness and headache and video recordings of nystagmus made by a parent or guardian during a vertigo attack.

 はじめに

小児に見られるめまいの頻度は成人の100分の一程度と言われておりそれほど頻度の高いものでは無い。本邦ではこれまでOD(orthostatic dysregulation:起立性調節障害)が最も多いという報告が多かった。筆者は統計的にどのようなめまいが多いのかについて検討した結果,小児のめまい診療において頻度が高くかつ,成人のめまい疾患の知識では対応できない疾患を含めた4疾患であるVMC(vestibular migraine of childhood)(表1),RVC(Recurrent vertigo of childhood)(表2),OD,PD(Psychogenic dizziness)が重要であると考えた。それぞれの疾患の特徴と実際の症例をあげ,最後に診断のポイントを呈示する。

表1 診断基準 小児前庭性片頭痛(VMC: vestibular migraine of childhood)とVMC疑い

小児前庭性片頭痛(VMC) VMC疑い
A.5分から72時間続く中等度から重度の前庭症状発作が少なくとも5回以上 A.5分から72時間続く中等度から重度の前庭症状の発作が少なくとも3回以上
B.前兆を伴う伴わない片頭痛を現在有しているか過去に有していた B.VMCのB)またはC)の一つを満たす
C.少なくとも半数の発作は少なくとも一つの片頭痛兆候と関連して起きている。 C.18歳未満
 1.少なくとも以下の2個の特徴を有する頭痛 D.他の頭痛疾患前庭疾患などが該当しない
  a.片側性
  b.拍動性
  c.中等度から高度の痛み
  d.日常動作で増悪する
 2.光過敏,音過敏
 3.視覚性前兆
D.18歳未満
E.他の頭痛疾患前庭疾患などが該当しない
表2 診断基準 小児反復性めまい(RVC: Recurrent Vertigo of Childhood)

A.少なくとも3回の中等度から高度の1分から72時間続く前庭症状
B.小児前庭性片頭痛のBとCを満たさない
C.18歳未満
D.他の頭痛疾患,前庭疾患に該当しない

1  小児めまいの統計

近年の論文から小児めまいの統計を紹介する。2020年のシステマチックレビュー1)では18歳以下の小児のめまいではVMCが最も多く23.8%で,それに続いてRVC13.7%としている(表31)。また筆者は成育医療研究センター病院にて15歳以下の小児めまいの疾患統計を報告した(表42)。その統計でもVMC,RVCが高頻度に見られた。前庭神経炎や遅発性内リンパ水腫も認められたが,これらは成人のめまい疾患の知識で対応可能である。この二疾患に加え,ODとPDは頻度が高く小児特有の症状を示すため特徴を知っておく必要があると考えている。

表3 小児めまい(18歳以下)の統計(海外論文より)

Disorder Rate Estimate (%)
VM 23.8
RVC 13.7
idiopathic 11.7
Labyrinthitis/vestibular neuronitis 8.47
Posttraumatic vertigo 8.36
Syncope/orthstatic hypotensiton 6.79
Psychogenic 6.27
Meniere disease 3.01
表4 小児めまい(18歳以下)の統計

疾患名 全体 7歳未満 7歳以上
VM 21 1 20
RVC 16 14 2
前庭障害(前庭神経炎など) 12 3 9
心因性めまい 8 8
遅発性内リンパ水腫 4 4
習慣性嘔吐 2 2
頭部外傷後めまい 2 2
起立性調節障害 2 2
変性疾患 2 1 1
メニエール病 1 1
先天性眼振 1 1
腹部型片頭痛 1 1
滲出性中耳炎 1 1
ADHD(注意欠陥・多動性障害) 1 1
脳腫瘍 1 1
脳炎 1 1
ペンドレッド症候群 1 1
合計 77 22 55

2  VMC(vestibular migraine of childhood:小児前庭性片頭痛)

典型的な症状は月に数回片頭痛発作をみとめ,それに関連して様々なタイプのめまいが発作性に起きる。本疾患は成人のめまい疾患である前庭性片頭痛(VM; vestibular migraine)の小児版である。診断のためには片頭痛の診断基準を知っている必要がある。片頭痛には前兆のある片頭痛とない片頭痛があるが,頻度の高い小児の前兆のない片頭痛の診断基準をあげる(表53)。成人では片頭痛はその名の通り片側性であるが小児では両側性に見られることが特徴である。また頭痛の持続時間も成人に比べて短く2時間から72時間となっている。VMCは小児片頭痛患者に見られる反復性めまいであり,RVCとの鑑別が重要な疾患である。診断においてはめまいと頭痛の発作を確認する必要があるので,成人の前庭性片頭痛で使用されている“めまいと頭痛のダイヤリー”(五島史行.めまいと頭痛のダイヤリー2023(cited; Available from: http://www.memaika.com/)を活用すると良い(図14)。現時点で確立された治療法はない。経験的に成人同様,片頭痛予防治療として生活指導,薬物治療が行われれる。非薬物治療として小児においてはまずは本人家族に対する頭痛教育が重要である。薬物では塩酸ロメリジン,バルプロ酸,アミトリプチリン,漢方薬(呉茱萸湯),シプロヘプタジンが用いられる(表6)。この中で特にバルプロ酸ナトリウムは注意が必要な薬剤であり,小児においては,生活支障度が高く他の薬剤が無効の場合,脳波上にてんかん波がある片頭痛(あるいはてんかん関連頭痛)の場合に限定し,かつ慎重に投与することが勧められるとなっている5)。著者は実際に小児患者にとってめまい発作中はどのような状態なのか疑問に感じ,11歳のVMCの女児にめまい発作の最中の様子をスケッチさせた。このスケッチ(図2)からは患児が非発作時(A)には室内のテレビなどが地面と垂直にみえているが,発作時(B)にはそれらが傾いて見えている様子が描かれていることがわかる。

表5 1.1 前兆のない片頭痛(小児)の診断基準

A.B~Dを満たす頭痛発作が5回以上ある
B.頭痛の持続時間は2~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
C.頭痛は以下の特徴の少なくとも2項目を満たす
 1.両側性(前頭/側頭)あるいは片側性
 2.拍動性
 3.中等度~重度の頭痛
 4.日常的な動作(歩行や階段昇降などの)により頭痛が増悪する,あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける
D.頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす
 1.悪心または嘔吐(あるいはその両方)
 2.光過敏および音過敏
E.その他の疾患によらない
図1  めまいと頭痛のダイヤリー
表6 小児に対する片頭痛予防薬

塩酸ロメリジン バルプロ酸ナトリウム アミトリプチリン 漢方薬(呉茱萸湯) シプロヘプタジン
保険適応の有無 成人ではあり あり 無し 成人ではあり 無し
作用機序 血管収縮抑制,血管透過性改善
5-HT2受容体遮断による血小板凝集抑制
グルタミン酸脱炭酸酵の活性化
GABAアミノ基転移酵素阻害
神経終末でノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害,脳内のセロトニンを上昇 体温維持作用,脳血流増大作用 セロトニン抑制
服用方法 5 mg/日,分1 10 mg/kg,分1 5 mg/日,分1 2.5 g,分2 就寝前1回投与.0.1 mg/kg/日
最大4 mg/日
有害事象 心伝導遅延作用による徐脈,心不全に注意
不眠,食欲不振,体重滅少,徐脈,洞房・房室ブロック,血圧低下,ほてり,めまい
肝障害,意識障害など 傾眠,便秘,口渇,食欲亢進 発疹,蕁麻疹,倦怠感 眠気,眩暈,もうろう感,倦怠感

いずれの薬剤も小児の片頭痛予防としての保険適応は明確には示されていない。

図2  めまいの様子

11歳のVMCの患児にめまい発作の最中の様子をスケッチさせたもの

非発作時(A)には室内のテレビなどが地面と垂直にみえているが発作時(B)にはそれらが傾いて見えていることが描かれている。

3  RVC(Recurrent vertigo of childhood:小児反復性めまい)

典型的な症例では頭痛を認めず,短時間のめまい発作を反復するが,数か月の経過で自然治癒することが多い。この小児における反復するめまいについては1964年Basser6)が4歳前後で発症し,前庭障害や神経障害が持続することなく,8~10歳の間に発作が自然に改善する症候群を小児良性発作性めまい症(Benign Paroxysmal Vertigo of Childhood: BPVC)として報告したのがはじめである。同様の症状はその後,国際頭痛分類第2版7)で小児良性発作性めまい症(BPVC)として定義され,国際頭痛分類第3版8)では良性発作性めまい症(Benign Paroxysmal Vertigo: BPV)と名称を変えた。ここまでは頭痛学会の診断基準であったが,2021年にBárány Society(バラニー学会)と国際頭痛学会が協働してRVCの診断基準(表23)を定義した。これらはほぼ同一のものなので混乱を避けるために本稿では最新の国際基準に基づいた診断名であるRVCという名称におきかえて記載することにする。

海外の報告9)では発症年齢は発症は5.6 ± 3.4歳であり12歳以上での発症はなかった。発作時間は1分から4時間であった。併存する症状として11例で非片頭痛様の頭痛があったが7例が後に片頭痛となった。女児の方が発症年齢が高く,めまい頻度,持続時間ともに長い傾向を認めた。年齢とともに発作頻度は減少し3年半以上経過を見た24例中11例で発作は消失したとしている。

本疾患は一般的には予後良好であると考えられているが一部は難治でありVMCへ移行することが報告されている。これまでの報告では基本的には予後良好でVMCに移行しない10)というものがある一方で,10年間で15例中10例が移行11)。24例中2例が移行9)と様々で現時点では一定の見解をえていない。

本邦のRVCについて筆者は過去に報告を行っている12)。それによると5歳以下に好発,急性の回転性のめまい発作であり,持続時間は数分から数時間である。また疾患に特異的な検査はない。家族歴に片頭痛が認められること,乗り物酔いの合併が多いことも特徴である。発作の間欠期には神経耳科学的検査で異常を示ないため,本人家族に対する問診が重要である。治療については基本的には予後良好で,必須ではないが行動療法として前庭リハビリテーションを指導すると有効なことがある。一部の症例がVMCに移行する場合がある。

RVCからVMCへ移行したと考えられた自験例を呈示する。症例は3歳男児である。主訴は反復性めまいで2歳からめまい発作を反復していた。前医では検査異常なし,診断不明とのことで紹介初診となった。詳細な問診を行い経過よりRVCと診断した。さらにその後,4歳頃から頭痛,めまいが同期し月に1,2回発作を起こすようになった。発作は夕方が多く,頭痛と嘔気のため夕飯が食べられなかった。頭痛よりもめまいの頻度が多くめまいの苦痛度が高かった。家族歴として母に片頭痛があった。本人の頭痛は片頭痛であった。方針としてダイヤリー記録4)をおこなわせた。その結果,頭痛とめまいおよび嘔気が同期して反復していることがわかった。予防薬としてシプロヘプタジン4 mgを就寝前一回投与したが発作回数は変わらず(図3),バルプロ酸100 mg夕食後投与したところ発作回数が減弱した。その後,再度シプロヘプタジン投与に戻したが効果なく,バルプロ酸投与に戻したところ再度発作回数が減少している(図3)。本例はRVCからVMCへの移行例と考えられる。RVCからVMC,メニエール病への移行が報告されており長期の経過観察が必要であるといわれている。治療薬としてCokyaman13)によりシプロヘプタジンの有効性が報告されているが,本例ではバルプロ酸が有効であった。

図3  治療経過

月ごとのめまい発作回数を記した。シプロヘプタジン投与時にはめまい回数は月に3回以上と無効だが,バルプロ酸投与期間は1回と有効性が明らかである。当初より片頭痛発作時は嘔気のためイミグラン内服できずイミグラン点鼻を処方した。

4  OD(Orthostatic Dysregulation:起立性調節障害)

典型的な症例では朝起き不良,顔色不良,立ちくらみや動悸を訴え朝起きられず学校に行けないため不登校の原因となることが多い。ODは耳鼻咽喉科疾患ではなく,小児科疾患であると考え詳細は割愛するが,表78に示した診断手順14)に基づいて診断を行う。治療では軽症例では初期治療としての非薬物療法(生活指導),薬物療法では昇圧剤(ミドドリン)で改善することもあるが,改善しない場合には小児科依頼を行うべきである。精神的ストレスで悪化する心身症である。

表7 OD(orthostatic dysregulation 起立性調節障害)の診断手順

1)立ちくらみ,失神,気分不良,朝起床困難,頭痛,腹痛,動悸,午前中に調子が悪く午後に回復する,食欲不振,車酔い,顔色が悪いなどのうち,3つ以上,あるいは2つ以上でも症状が強ければ起立性調節障害を疑います。
2)鉄欠乏性貧血,心疾患,てんかんなどの神経疾患,副腎,甲状腺など内分泌疾患など,基礎疾患を除外します。
3)新起立試験を実施し,以下のサブタイプを判定します。
(1)起立直後性低血圧(軽症型,重症型)
(2)体位性頻脈症候群
(3)血管迷走神経性失神
(4)遷延性起立性低血圧
(近年,脳血流低下型,高反応型など新しいサブタイプが報告されているが,診断のためには特殊な装置を必要とする。)
4)検査結果と日常生活状況の両面から重症度を判定する(ガイドライン文献14を参照)
5)「心身症としてのOD」チェックリスト(表8)を行い,心理社会的関与を評価する。
表8 心身症としての起立性調節障害チェックリスト

・以下の項目のうち,週1~2回以上認められるものをチェックしてください。
・□学校を休むと症状が軽減する。
・□身体症状が再発・再燃を繰り返す。
・□気にかかっていることを言われたりすると症状が増悪する。
・□一日のうちでも身体症状の程度が変化する。
・□身体的訴えが二つ以上にわたる。
・□日によって身体症状が次から次へと変化する。

耳鼻咽喉科で加療した症例を呈示する。症例は11歳男児で主訴はふらふらするめまいである。5月頃より朝起きて朝食中ふらふらしており夜まで1日続くため学校に行けなくなった。学校を休むようになったため紹介初診となった。はじめはふらふらするめまいであったが,最近は歩行では問題が無く起き上がるときのふらつきを訴えた。前庭機能正常,シェロングテスト陽性でありODと診断した。早寝早起きを指導し,朝は散歩20分,水分摂取と食塩摂取をすすめ,メトリジンを処方したところ2週間ほどで症状改善し登校可能となった。

OD治療の問題点としては,ODは循環器疾患であり耳鼻咽喉科でどこまで介入するかや心因の合併,不登校が問題となるため小児科との連携が必須な点である。

5  PD(Psychogenic dizziness:心因性めまい)

典型的な症例では諸検査では異常を認めないものの立ち上がれず,歩くことが出来ないなどの訴えがあるが,患児がそれほど苦痛を感じているようには見えず,通常は転倒することはない。また,転倒することがたとえあってもけがをするような転倒を認めない。心因性めまいの診断は除外診断であり,上記したVM,RVC,ODの三疾患をしっかり除外して診断する。不安が認められるケースと不安がなく身体化したと考えられるタイプがある。小児では特に後者の身体化したと考えられる症例が多い15)。これらでは起立障害,歩行障害を訴えることが多い。詳細は他稿16)~18)を参照のこと。児童精神科との連携が必要である。

6  各疾患の診断のポイント

問診では患児から得られる情報は限られるが,可能であれば以下のような情報収集をする。まずはめまいの性状であり,回転性なのか浮動性なのか? そして次に,めまいは慢性なのか,急性なのかである。また頻度,誘発,随伴症状,共存症(動揺病,片頭痛,腹痛)の存在を問診する。重要なのは家族歴として家族に片頭痛歴が有るかどうかを確認することである。また成人同様にめまいで何が困っているのか?について問診を行うことが重要であり,特に学童では通学など問題について問診を行う。

検査では聴力検査,眼振検査,足踏み検査,必要に応じシェロングテストを行うが,小児ではシェロングテスト以外陽性になることは少ない。逆に異常が無いことがVMC,RVCを疑う根拠となる。診察室で得られる情報には限りがあるので,“めまいと頭痛のダイヤリー”の活用4),発作時の動画記録が有効(保護者に依頼)である。発作の動画記録を促すことで発作が消失することもある19)

 まとめ

図4に小児めまい診療で抑えておくべき4疾患をまとめた。示したようにVMC,RVCは耳鼻咽喉科で対応する必要があるが,ODとPDについては他科との連携が重要となる。早期に的確に診断し連携を行うことが必要である。

図4  小児のめまいまとめ

利益相反に該当する事項はない。

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