2024 Volume 83 Issue 4 Pages 185-189
The Niigata PPPD Questionnaire (NPQ) is a useful tool for screening and assessing the severity of Persistent Postural-Perceptual Dizziness (PPPD), the most common form of chronic dizziness encountered in practice. The NPQ is primarily a screening tool that allows PPPD to be suspected at the initial visit. A total score of ≥27 and/or a visual stimulation score of ≥9 are threshold values to identify 70%–80% of patients with PPPD. In patients diagnosed as having PPPD, use of the NPQ before the start of treatment and 1, 3, 6, and 12 months after the start of treatment may be recommended to assess the disease severity and treatment outcomes. Reduction in the total score by more than 13 points, in the score for upright posture/walking by more than 7 points, in the movement by more than 5 points, and in the visual stimulation factor by more than 5 points may be considered as reflecting significant improvement. Based on analysis of the responses to the NPQ, PPPD has been subdivided into three subtypes: the visual-dominant subtype, the active motion-dominant subtype, and the mixed subtype.
めまいはその発症様式から,前庭神経炎などの急性めまい,良性発作性頭位めまい症やメニエール病などの反復性めまい,持続性知覚性姿勢誘発めまい(Persistent Postural-Perceptual Dizziness, PPPD)などの慢性めまいに分類される。めまい診断においては,患者の病歴から発症様式を確認したのちに,それぞれ頻度の高い疾患から鑑別していく方法が効率的である。本稿では,慢性めまいの原因疾患として最多を占めるPPPDに対し,スクリーニングならびに重症度評価として有用な,新潟PPPD問診票(Niigata PPPD Questionnaire, NPQ)について解説する。
PPPDは,3か月以上持続する浮動感,不安定さ,非回転性めまいを主訴とし,常に存在するこれらの主症状を,さらに増悪させる3つの因子を持つことが特徴的である。3つの増悪因子として,①立位姿勢・歩行,②能動的あるいは受動的な体動,③動くものや複雑な視覚パターンがあげられ,いったん増悪すると短時間では収束しないことも特徴である。典型的な経過としては,一側前庭障害などの先行する急性めまいが生じた後に続発し,その先行疾患が治癒したと考えられる慢性期に,前述のような症状を訴える。
表1は,Barany Societyが2017年に策定したPPPD診断基準1)の和訳2)である。PPPDと診断するためには,A~Eの基準をすべて満たす必要があり,また診断基準には検査項目がなく,症状項目のみで構成されていることから,患者の症状や病歴を詳細に聴取することが重要である。しかしながら,時間に制約を伴う慌ただしい外来診療の中では,めまい患者全員に対して問診に十分時間をかけることは難しく,PPPDを見落としなく短時間で拾い上げるために,NPQをPPPDのスクリーニングとして使用することが有用である。PPPDは,めまいを中心に診療を行っている施設の統計において,全めまい疾患の15%程度とBPPVに次いで2番目に多いと推定され3)4),自施設における慢性めまいの原因疾患としては37%と最多であった(図1)。PPPDは自然軽快することが少なく,無治療の場合3/4は不安症やうつを続発し長期に症状が持続するとされており1),PPPDを漏れなく診断し治療へつなげることで,無治療のまま放置される患者数の軽減につながるものと考える。判定基準については後述するが,NPQ高値の慢性めまい患者はPPPDの疑いがあるものとして,スクリーニング後診断基準に則った詳細な問診を行う必要がある。
PPPDは以下の基準A~Eで定義される慢性の前庭症状を呈する疾患である。診断には5つの基準全てを満たすことが必要である。 |
A.浮遊感,不安定感,非回転性めまいのうち1つ以上が,3カ月以上にわたってほとんど毎日存在する。 |
1.症状は長い時間(時間単位)持続するが,症状の強さに増悪・軽減がみられることがある。 |
2.症状は1日中持続的に存在するとはかぎらない。 |
B.持続性の症状を引き起こす特異的な誘因はないが,以下の3つの因子で増悪する。 |
1.立位姿勢 |
2.特定の方向や頭位に限らない,能動的あるいは受動的な動き |
3.動いているもの,あるいは複雑な視覚パターンを見たとき |
C.この疾患は,めまい,浮遊感,不安定感,あるいは急性・発作性・慢性の前庭疾患,他の神経学的または内科的疾患,心理的ストレスによる平衡障害が先行して発症する。 |
1.急性または発作性の病態が先行する場合は,その先行病態が消失するにつれて,症状は基準Aのパターンに定着する。しかし,症状は,初めは間欠的に生じ,持続性の経過へと固定していくことがある。 |
2.慢性の病態が先行する場合は,症状は緩徐に進行し,悪化することがある。 |
D.症状は,顕著な苦痛あるいは機能障害を引き起こしている。 |
E.症状は,他の疾患や障害ではうまく説明できない。 |
NPQは,①立位・歩行,②体動,③視覚刺激の3つの症状誘発因子に関して問う問診票であり,PPPD特有の自覚症状の強さの評価,すなわちPPPDの重症度評価にも有用である。NPQは,3つの増悪因子それぞれに対し4つの質問が設定されており,誘発の程度によって0点から6点を配点し,合計点数は0点から72点である。点数が高いほど症状が強く誘発されることを示し,治療前後に経時的なNPQスコアを記録することで,治療効果の判定にも活用することができる。世界的にも共通して利用され始めており,現時点でノルウェー,アメリカ,オランダ,インド,フランス,スペイン,トルコ,スイス,ドイツ,ブルガリア,イランなどの11か国から使用および翻訳許可が申請されている。スペイン語5)およびドイツ語6)へは実際に翻訳がなされ,問診票としての妥当性が論文として報告されている。
表2に,新潟大学で使用している実際の問診票を示す。Q3,Q6,Q7,Q11は立位・歩行項目である。Q6では丸椅子に座ったときの症状を問うているが,PPPDでは背もたれやひじ掛けのない丸椅子では,立位と同様に症状が誘発されるため,この質問が立位項目に含まれている。Q1,Q5,Q9,Q12は体動による悪化を問う項目である。体動は能動および受動の両方の運動が含まれ,Q1,Q9は能動運動に,Q5,Q12は受動運動に関する質問である。Q2,Q4,Q8,Q10は視覚刺激による誘発を問うている。
NPQは自記式質問紙であり,当科では診察前に患者へ用紙を配布し,その場で数字に丸をつけて記入してもらっている。初診時はめまい患者全例を対象としたスクリーニングとして使用し,PPPDの診断がついた患者に対しては,治療前,治療開始後1か月,3か月,6か月,1年を目安にスコアを取得し,重症度評価ならびに治療効果判定として使用している。
NPQの診断精度に関して,PPPDと他のめまい疾患とを鑑別するためのReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線を作成し,診断能を検討した結果を図2に示す7)。ROC曲線とは,ある検査において正常と異常とを区別する値(=カットオフ値)を変化させた場合に,それぞれのカットオフ値における感度と偽陽性率を算出し,グラフとしてプロットしたものである。ROC曲線の下の部分の面積はArea Under the Curve(AUC)と呼ばれ,AUCが1に近い値であるほど,その検査の診断能は高いとされる。NPQのトータルスコアおよび視覚項目のAUCは0.78および0.83であり,問診票としての精度が保証されるとともに,特に視覚項目による診断精度が高いことが示された。最もAUCの高い視覚項目の場合,24点満点中9点をカットオフ値とすると,その診断感度は82%,特異度は74%であった。すなわち,NPQの視覚項目が9点以上を基準としてめまい患者をスクリーニングした場合,PPPD患者の82%を拾い上げることが可能であり,またNPQの視覚項目が9点以上であるめまい患者の,74%はPPPDであると言える。また,次にAUCの高いトータルスコアの場合は,72点満点中27点をカットオフ値とすると,診断感度は70%,特異度は68%であり,トータルスコア27点以上もPPPDのスクリーニングの基準となる。ただしその後の検討において,対象をPPPD,心因性めまい,一側前庭障害後の代償不全,めまい症の4つの慢性めまい疾患に絞った場合,視覚項目のAUCは0.74,感度/特異度は68%/74%と,やや精度が低下する結果となっている8)。心因性めまいでは,多くの質問に非特異的に高得点をつける傾向があり,PPPDと心因性めまいとの間でスコアの差がなかったことが理由と考えられる。NPQはPPPDの診断に有用ではあるが,NPQの結果のみに頼った診断は避けるべきである。
治療効果判定の目安としては,Castillejosら5)が最小可検変化量(minimal detectable change, MDC)を算出しており,参考となる。MDCは,再テストなどの繰り返し測定により得られた測定値の変化量の中で,測定誤差の大きさを示したものであり,MDC以内の変化は測定誤差によるもの,それ以上の変化は測定誤差以上の変化であると判断される。図3は,NPQの各項目におけるMDCをまとめたものである。トータルスコアにおいては,MDCは12.99点となっており,治療前から治療後にかけてトータルスコア13点以上の低下がみられた場合,有意に症状が改善していると判定される。同様に,立位・歩行項目では7点以上,体動項目・視覚項目では5点以上の低下がみられた場合,有意に症状が改善していると判定される。
未治療PPPD患者118名のNPQ回答結果から,PPPD患者のグループ分けができるのか,すなわちPPPDにおけるサブタイプはあるのかについて解析を行ったところ,PPPDは視覚刺激誘発優位型(45%)・能動運動誘発優位型(19%)・混合型(36%)の3つのサブタイプにわかれる可能性が示唆された9)。3つのサブタイプのうち,能動運動誘発優位型は有意に高齢であったが,その他の患者背景(性別,罹病期間,先行疾患),DHI(Dizziness Handicap Inventory),HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale),平衡機能検査(重心動揺検査,CP%,vHITの利得,VEMPの左右差率)において,有意な差はみられなかった。したがって,現時点で患者のサブタイプを判別する明確な検査基準は存在しないが,患者によって視覚刺激で症状が誘発されやすい群,能動運動で誘発されやすい群,その両者の特徴を持つ群に分かれることは実臨床での経験と一致しており,サブタイプ別に治療を至適化できる可能性が考えられる。例えば,視覚刺激誘発優位型では視覚刺激(陳列棚の間を歩く動画やドローンで撮像された映像など)に対する慣れを,能動運動誘発優位型では体性感覚刺激(歩行や軽い運動など)に対する慣れを促進するリハビリテーションを推奨するなど,患者ごとに適した治療へとつなげる目安として,NPQスコアが参考になるものと考える。
本研究は科研費の補助により行われた。(八木千裕23K08979,堀井新21H03084)
利益相反に該当する事項はない。