Equilibrium Research
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Response to Carbamazepine in Two Patients with Vertigo
Dai FujiwaraYasuyuki NomuraIkuo MikoshibaWataru KonoNaoto KoikeShun TakigamiTakeshi Oshima
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2024 Volume 83 Issue 4 Pages 208-214

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Translated Abstract

Response to treatment with carbamazepine or oxcarbazepine is a criterion for the diagnosis of vestibular paroxysmia (VP). In this report, we describe two suspected cases of VP based on their clinical symptoms and response to carbamazepine. Although these patients responded to carbamazepine, they did not meet the diagnostic criteria for VP. Therefore, based on our clinical findings from these cases, carbamazepine may be effective in treating patients with vertigo just as it is in patients with VP. In VP, carbamazepine regulates pathological neurotransmission by controlling sodium metabolism in the cerebellar pontine angle and inner ear canal. Additionally, it may be effective for treating conditions similar to VP, such as neurovascular compression syndrome and vertebrobasilar artery circulatory disorders. In the first case, the patient was a 70-year-old man who frequently presented with dizziness. An MRI of the head revealed vascular compression in the inner ear canal. The second case was that of a 59-year-old man who repeatedly had episodes of vertigo. Investigations, including MRI and MRA, showed a vertebral artery insufficiency. Both patients responded to carbamazepine but did not fully meet the diagnostic criteria for VP.

 はじめに

近年,前庭性発作症(vestibular paroxysmia:以下VP)の診断基準がバラニー学会から示され1),日本めまい平衡医学会からも表1のようにその和訳が示されている2)。その診断基準の中には,VPに対してはカルバマゼピン(テグレトール®)やオクスカルバゼピンの投与がめまい症状に奏功するという診断的投与の項目も含まれている。今回我々は臨床症状からVPを疑ってカルバマゼピンを投与してめまい症状の改善効果は得たものの,最終的にはVPの診断基準には合致しなかった2症例を経験した。たとえ前庭性発作症の診断基準には満たなくともカルバマゼピンがめまい治療に奏効する可能性も示唆されたので報告する。

表1 本邦の前庭性発作症診断基準

1.前庭性発作症(vestibular paroxysmia)
診断にはA–Eの基準全てを満たすことが必要である。
A.少なくとも10回の自発性の回転性あるいは非回転性のめまい発作を認める。
B.めまい発作の持続時間は1分以内である。
C.めまい発作に伴う特徴的な脳神経症状が存在する。
D.カルバマゼピン,オクスカルバゼピンが奏功する。
E.他の疾患ではうまく説明できない。
2.前庭性発作症疑い(probable vestibular paroxysmia)
診断にはA–Eの基準全てを満たすことが必要である。
A.少なくとも5回の回転性あるいは非回転性のめまい発作を認める。
B.めまい発作の持続時間は5分以内である。
C.めまいは自発的に,もしくは特定の頭部運動により生じる。
D.めまい発作に伴う特徴的な脳神経症状が存在する。
E.他の疾患ではうまく説明できない。

文献2より

 症例の呈示

症例1・70歳男性:2週間前からめまい症状が増悪して改善しないために精査加療目的で近医内科から当科に紹介受診された。もともとのめまいの症状としては,1分間以内の非回転性めまい発作として身体の揺れる感じや浮動感を数か月間に10回以上生じていたとのことであった。既往歴として腎機能障害,高血圧症,高脂血症,総胆管結石除石後,前立腺癌で前立腺全摘術(50歳代),鼻中隔弯曲矯正術(50歳代)があった。内服歴としてはアダラート®,タケキャブ®,ベタニス®,メリスロン®,アデホスコーワ®を服用中であった。

初診時所見(20XX年6月9日):耳鼻咽喉頭に視診上の特変は無かった。眼振所見は赤外線CCD眼鏡下で図1のように右向きのほぼ水平性の小さな眼振が持続してみられた。標準純音聴力検査,足踏み検査. 重心動揺検査に特変はなかった。ディアドコキネーシス,指鼻試験も陰性で正常であった。Dizziness Handicap Inventory score(DHI)52点,The Activities-specific Balance Confidence Scale(ABC)98%であった。同日撮影のMRIでは右小脳橋角部に前下小脳動脈(AICA)ともみられる血管の屈曲した陰影が認められた(図2)。2日後の6月11日に電気眼振図検査(ENG)と前庭誘発筋電位検査(VEMP)を施行した(図3)。ENGでの自発眼振は右方注視でわずかに記録される程度であった。視運動性眼振パターン検査(OKP)には自発眼振の影響も反映されているようであった。そして左右両方向ともに解発,黒化度は不良であった。視標追跡検査(ETT)や温度刺激検査(12°C 60秒刺激エアーカロリック検査)に特変はなかった。

図1  症例1の初診時眼振所見

赤外線CCD眼鏡下で自発および頭位誘発性に右向きのほぼ水平性の眼振を認めた。

図2  症例1のMRI所見(T2強調画像)

右小脳橋角部,内耳道付近にAICAかその分枝らしき屈曲した血管陰影がみられた。

図3  症例1の電気眼振図検査(ENG)所見

a)暗所開眼:右向き注視の際にわずかな右向き眼振を認めた。b)OKP:左右両方向ともに解発不良であった。

治療経過:上記の諸検査を施行し,前医から処方されていたメリスロン®,アデホスコーワ®を服用継続とした。6月30日の再診時にはひどい揺れのめまい症状は無くなったものの浮動感は残っているとのことであった。そこで,前庭性発作症のような病態も疑ってカルバマゼピン(テグレトール®)を200 mg/日から投与開始した。7月14日の再診時には自発眼振は認めず,浮動感もほぼ無くなった。カルバマゼピンを100 mg/日に減量し継続とした。8月4日にはめまい症状はさらに改善したとのことであった。9月22日には眼振は認めず,DHIも0点まで改善したため通院終了とした。処方,症状所見の経過を表2に示す。

表2 症例1の処方と眼振,DHI,ABCの経過(DHI,ABC数値の小数点以下は切り捨てとした)


症例2・59歳男性:5か月ほど前から立位や歩行時でふらつき感があった。4か月前にはコンビニエンスストアの駐車場で車から降りた時に10分間弱の回転性めまいが出現し,頭痛や冷汗も伴った。その後もふらつきと回転性めまいを呈することが合わせて10回以上はあった。前医耳鼻咽喉科で内服処方(アデホスコーワ®,セファドール®,メチコバール®)を開始されたが症状は増悪し1日1回ほどの頻度で呈するようになり,精査加療を希望され当科紹介受診となった。近頃のめまい発作時には,景色は回らないが右方向にぐらついて偏倚するという症状であった。

既往歴:胆嚢炎手術(56歳時),高血圧症(カルデナリン®,ノルバスク®内服中)

初診時所見(20XX年10月13日):耳鼻咽喉頭に視診上の特変なし。診察時に眼振や平衡障害,脳神経症状は認めなかった(図3)。標準純音聴力検査を図4に示すが難聴の自覚はなかった。血液検査所見(10月13日)で総コレステロール:235 mg/dl,中性脂肪:462 mg/dlと軽度上昇を認めた。DHI:70点,ABC:69%であった。

図4  症例2の初診時検査所見

a)眼振所見:赤外線 CCD 眼鏡下でも眼振は認めなかった。b)標準純音聴力検査:両耳の感音難聴を呈していたが本人に難聴の自覚はなかった。

治療経過:聴覚症状はともなわず,繰り返すめまい発作などの症状に加え,前医から持参したMRI,MRA検査所見(図5)では右椎骨動脈の描出不良があったため椎骨脳底動脈循環不全(vertebro -basilar insufficiency: VBI)を疑った。また,VPも鑑別に考えて診断的治療目的でカルバマゼピン400 mg/日の処方を開始した。血流改善目的でジフェニドール(セファドール®)なども併用した。VBI疑いに関して当院神経内科への後日の診察依頼も行った。神経内科からは右椎骨動脈の低形成が考えられるものの特に治療に関する指示はなく経過観察とのことで,引き続き当科での加療となった。10月27日に施行したENGに特変は無かった。11月17日の再診時には,ふらつきも改善していたためカルバマゼピンを100 mg/日に減量した。しかし20XX + 1年1月に仕事が多忙となり,再び回転性めまいを呈したためカルバマゼピン200 mg/日に増量した。その後20XX + 1年3月16日に再診した際にはめまいの発作は無くなっていたためカルバマゼピンを100 mg/日に減量した。20XX + 1年5月18日にはさらに50 mg/日に減量した。その後は50 mg/日を隔日の内服としてさらに減量したが大きなめまい発作は生じなかった。その後は カルバマゼピンはご本人がめまいの前兆のような頭重感などを感じた時に頓用している。血液検査でカルバマゼピン血中濃度も測定しているが上昇は認めていない。処方,症状所見の経過を表3に示す。当科の診察時にはいずれも赤外線CCD眼鏡下での眼振は認められなかった。

図5  症例2のMRI,MRA所見

前医から持参されたMRI(図5a),MRA(図5b)(ともに20XX年8月16日撮影)では右椎骨動脈の描出不良を認めた。

表3 症例2の処方とDHI,ABCの経過(DHI,ABC数値の小数点以下は切り捨てとした)

カルバマゼピン
(mg/日)
ジフェニドール
(50 mg/日)
ビラスチン
(20 mg/日)
エチゾラム
(0.5 mg/日)
モンテルカスト
(10 mg/日)
20XX年10月13日 400
20XX年10月27日 200
20XX年11月17日 100
20XX年12月15日 100
20XX + 1年1月26日 200
2月16日 200
3月16日 100
5月18日 50

 考察

前庭性発作症は2016年にBarany SocietyがVestibular Paroxysmia(VP)としてその診断基準を示し1),それをもとに本邦でも表1の診断基準が用いられている2)。VPは短時間の回転性あるいは非回転性めまい発作を反復する疾患で,診断基準にも記されるようにカルバマゼピン,オクスカルバゼピンの投与による診断的治療も行われる。症候的には従来の神経血管圧迫症候群に類似するともいえるが,VPの病態生理としてはStruppら1)によると第8脳神経領域に近傍しているオリゴデンドロサイトで覆われた箇所がデミエリン化され軸索間の病的発作性伝達によって引き起こされると推定されている。その箇所としては“transition zone”と呼ばれる神経出口から15 mmまでの領域が考えられており,神経損傷の潜在的な原因は血管による局所刺激,腫瘍または嚢胞,圧迫,脱髄,外傷などが考えられている。鑑別診断として椎骨脳底動脈領域の一過性虚血発作等も挙げられている。

 カルバマゼピンについて

カルバマゼピンは向精神作用性てんかん治療剤・躁状態治療剤として知られている。もともと本邦でカルバマゼピンの適用疾患は「三叉神経痛」「てんかんの痙攣発作」「躁鬱病」である。よってVPに対する処方はその適応に関して留意せねばならない。その薬理作用は,神経伝達を受容する後シナプスニューロンの電位依存性Na+チャネルを抑制することで神経細胞の発火を制御するといわれている3)。カルバマゼピンは疼痛発現にかかわる様々な生体機能に関与するすべてのNa+チャネルを等しく抑制するといわれ,そのため有効治療域が狭く,Stevens-Johnson syndrome,中毒性表皮壊死融解症候群,薬剤過敏症症候群といった重篤な薬疹4),低Na血症5)などの副作用が発現しやすいことが臨床上の問題となっている6)。また,カルバマゼピン内服加療などで下眼瞼向き眼振をきたした報告もあり,特に有効血中濃度が急激に上昇した際に症状が出現するといわれている7)

 今回の2症例について

今回,カルバマゼピンでめまい症状の改善した2症例を経験した。発症の経緯や検査所見からVPも疑ってカルバマゼピンを内服処方したわけであるが,結果的には診断基準には合致しなかった。合致点,相違点を表4に示した。

表4 表1に則した前庭性発作症の診断基準と2症例の相違点

症例1 症例2
1.前庭性発作症(確定)
A
B ×
C × 〇(頭痛)
D
E
2.前庭性発作症疑い
A
B ×
C
D ×
E

症例1はVP診断基準のうちのCを満たさず,疑い例としてもDを満たさなかった。よって最終診断としては「神経血管圧迫症候群疑い」などになってしまうのかもしれない。初診時に右向きの注視眼振が認められていたが,その機序は不明であり,もしかすると前庭神経へのAICA圧迫などによる刺激性の眼振が生じていたのかもしれないとか考えた。

症例2は当初の病態としてはまずはVBIを疑ったが治療への反応や経過からはVBIが否定された。そしてVP疑いの診断基準の幾つかを満たしていたので,VPとも考えカルバマゼピンを処方したところ著効した。しかしながら最終的にVPの診断基準には合致しなかった。今回の2症例でカルバマゼピンがめまい症状の改善をもたらした理由として,症例1ではカルバマゼピン内服によってAICAなどの血管による第8脳神経transition zoneへの局所刺激による病的発作性伝達が緩和されたのかもしれないと考えた。また,症例2でカルバマゼピンが著効した理由としては,セファドール®も併用処方していたものの,椎骨動脈領域の慢性的な虚血によって生じていた病的発作性軸索間伝達を制御したかもしれないと考えた。ただし2症例とも,カルバマゼピンの有効性について「投与の開始後に,繰り返していた発作が消失した」という発作抑制効果ではない可能性も考えられる。また症例2のMRAにおいては左椎骨動脈と脳底動脈の径がほぼ同じことから,描出が悪い右の椎骨動脈はもともとの低形成で脳幹小脳の還流にはほとんど関与しておらずVBIなどを含めた脳幹小脳虚血では無かったのかもしれない。しかし結果的にカルバマゼピンの服用によって患者たちのめまい症状は改善し,患者たちの恩恵となった。

 まとめ

めまい症状がカルバマゼピン内服で改善した2症例を経験した。2症例ともにVPの診断基準は当てはまらなかったため,VPの診断基準に当てはまらずともカルバマゼピンの内服効果が認められるめまい病態があるのではないかと経験した。

症例1は神経血管圧迫症候群のような病態も考えられ,カルバマゼピン内服によって徐々に症状・所見は改善した。症例2では当初,右椎骨動脈のVBIのような病態も考えられた。血管攣縮などによるめまい発作も考えてカルバマゼピンも処方し症状・所見は著明に改善した。一緒に処方していたセファドール®の血流改善作用効果も考えられたがその相互性は不明である。

利益相反に該当する事項はない。

 付記

本論文の要旨は第81回日本めまい平衡医学会総会・学術講演会(2022年11月,奈良)にて発表した。

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