Equilibrium Research
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Clinical Considerations in the Diagnosis of Intractable Vertigo/Dizziness
Akiko UmibeTadashi KitaharaYasuhiro Tanaka
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2024 Volume 83 Issue 4 Pages 223-228

Details
Translated Abstract

In this study, we evaluated the diagnosis and factors underlying the development of intractable dizziness/vertigo in patients managed at a university hospital by retrospective analysis of patients’ medical records. The participants included 78 patients, comprising 35 men and 43 women, who visited our outpatient department on account of intractable dizziness between April 2021 and December 2022. The associations between the duration of illness and 10 different variables were evaluated. The median age was 65.5 years, and the median duration of illness was 305.5 days. Among the patients, 60% were referred from otorhinolaryngology departments. Other peripheral vertigo conditions associated with vestibular dysfunction formed the most commonly diagnosed conditions, followed by benign paroxysmal positional vertigo, dizziness of unknown cause, Meniere’s disease, vertigo-associated primary headache, persistent postural perceptual dizziness, central vertigo, and orthostatic dizziness. Among the other peripheral vertigo conditions associated with vestibular dysfunction, compensatory vestibular insufficiency was suggested to be present in 12 patients. Ten of these patients were aged. In most cases of unknown cause, lack of characteristic findings or additional investigations underlie the lack of a known cause. Multivariate analysis revealed that age and comorbidity of multiple dizziness disorders are factors associated with the duration of illness. In diagnosing refractory vertigo, loss of characteristic findings, prolonged vestibular decompensation, necessity of examination in other departments, comorbidity of multiple dizziness disorders, and repetitive nature of the disease should be considered. In older patients with multiple episodes of dizziness, diagnosis and treatment should be made with consideration for the prolonged duration of illness.

 緒言

めまいの有訴者数は2022年度の国民生活基礎調査によると人口1000人に対し20.3人で65歳以上では30人(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/06.pdf)と言われている。これは平成28年の調査時(13.2人/25人)と比較し増加傾向であり(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa16/dl/16.pdf),めまいが比較的身近に存在する疾患であることを示唆するが,中には治療を行っても改善しない場合や反復して治療に難渋したり,難治性めまいとして診断がつかない状態で専門施設に紹介されるケースも少なくない。診断の遅延は患者のADLやQOLの低下につながる可能性があり早期診断が重要である。今回我々は当院におけるめまい外来患者の現状把握のため,難治性めまいとして当院へ紹介された後に下された診断や難治性となりうる要因や理由について検討したため文献的考察を含めて報告する。

 方法

2021年4月1日から2022年12月31日までに当院を受診した難治性めまい患者78例を対象とし,診断病名,病悩期間,紹介元の診療科について診療録を用い後方視的に検討した。難治性めまいとは3ヶ月以上めまいの自覚症状が改善しない又は反復するめまいと定義した。また,病悩期間とは初回のめまい症状出現時から当院初診時までの期間と定義した。

さらに病悩期間と以下10項目(①年齢,②性別,③既往歴(高血圧症/精神疾患),④頭痛/肩こりの有無,⑤初診時の眼振の有無,⑥Dizziness Handicap Inventory(以下DHI)スコア,⑦Hospital Anxiety and Depression Scale(以下HADS)スコア,⑧半規管麻痺1)(canal paresis以下CP)の有無,⑨前庭誘発筋電位2)(Vestibular Evoked Myogenic Potential以下VEMP)異常の有無,⑩複数のめまい診断病名の有無)との関連を統計学的に検討した。

ここで,前庭機能低下を伴うその他のめまい症とは中枢性が否定かつ前庭機能検査(温度刺激検査,VEMP)で異常があるが病名が特定できないもの,原因不明とは中枢性が否定かつ前庭機能検査で異常がなく病名が特定できないもの,一次性頭痛に伴うめまい(Primary headaches associated vertigo,以下PHAV)3)4)とは片頭痛又は緊張型頭痛を持ち頭痛がめまい症状に関与すると考えられるもの,中枢性めまいとは神経学的検査及び画像検査によって脳神経内科または脳神経外科診察によりめまいの主座が中枢であると判断されたもの,起立性めまいはシェロングテストが陽性または文献5に準じるものと定義した。文献5ではA:立ち上がりや立位時に誘発され,座位か臥位で改善するめまい・ふらつき・立ちくらみのエピソードが5回以上あり,B:起立時ないしhead-up tilt試験のときに起立性低血圧や体位性頻脈症候群や失神が記録されており,C:他疾患が否定される場合のA〜C全て満たす場合は起立性めまい確定例,A及びCとともに脱力・疲労感や集中力の低下,目のかすみ,頻脈・動悸のうちいずれか1つを満たす場合疑い例とされている。

本検討では温度刺激検査はエアーカロリック検査の冷風刺激法(15°C,6 L,60秒)で行い最大緩徐相速度が10°/sec未満をCPとした。VEMPは気導音刺激で500 Hz,105 dBpSPLトーンバースト刺激を用い,cVEMPではp13-n23頂点間振幅の左右比,oVEMPではn10-p15頂点間振幅の左右比が50%以上又は無反応のものをいずれか片方または両方該当する場合を異常ありと判定した6)。頭位眼振及び頭振り眼振検査はフレンツェル眼鏡又は赤外線CCD付きフレンツェル眼鏡を用い,10往復/10秒で頭振りを行い水平方向の眼振を認めた場合前庭不均衡ありと判定した7)

統計学的検討にはSPSS version 27(IBM, Armonk, NY)を使用し,単変量解析はMann-WhitneyのU検定,Spearmanの順位相関係数を,多変量解析には重回帰分析を用い,有意水準は5%とした。

本研究は獨協医科大学埼玉医療センター倫理委員会の承認を得て実施された(No. 21021)。

 結果

結果を表1に示す。対象者の内訳は男性35例,女性43例であり女性の方が多かった。年齢は22–90歳で中央値は65.5歳であった。病悩期間は90–6300日で中央値は305.5日であった。年齢分布は70代が22例(28%)で最も多くみられた(図1)。紹介元の診療科は耳鼻咽喉科が最も多く,続いて内科,外科という結果であった(表2)。診断病名の分布とそれぞれの病悩期間を表3に示す。それぞれの病悩期間については患者数が3例以上の疾患で病名別にShapiro-Wilk検定を実施しPHAV,PPPDは正規分布にあり(P = 0.053, P = 0.382),BPPV,原因不明,MD,中枢性めまい,起立性めまいは非正規分布にあることがわかったため(P < 0.05),正規分布の病名は平均値を,非正規分布及び患者数が2例以下の病名は中央値を算定した。診断病名は前庭機能低下を伴うその他のめまい症が最も多く,続いて良性発作性頭位めまい症8)(Benign Paroxysmal Positional Vertigo以下BPPV),原因不明,メニエール病9)(Meniere disease以下MD),PHAV,持続性知覚性姿勢誘発めまい10)(Persistent Postural Perceptual Dizziness以下PPPD),中枢性めまい,起立性めまいの順に多くみられた。

表1 症例の内訳

項目 中央値
性別 男性35例/女性43例
年齢 22–90歳 65.5歳
病悩期間 90–6300日 305.5日
図1  年齢分布
表2 紹介元の診療科

科名 症例数
耳鼻咽喉科 47例
内科 14例
外科 6例
脳神経内科/外科 5例
なし 6例
表3 診断病名と病悩期間

診断名 その他
めまい
BPPV 原因不明 MD PHAV PPPD 中枢性
めまい
主病名数 19 12 12 11 9 5 2
病悩期間(平均又は中央値;日) 220.0 180.0 547.5 365.0 291 238.4 905
診断名 起立性
めまい
SD VN 心因性 Hunt
症候群
DEH 脳脊髄
圧減少
主病名数 2 1 1 1 1 1 1
病悩期間(平均又は中央値;日) 195 120 138 1095 300 730 150

BPPV:Benign Paroxysmal Positional Vertigo,MD:Meniere disease,PHAV:Primary headaches associated vertigo,PPPD:Persistent Postural Perceptual Dizziness,SD:Sudden deafness,VN:Vestibular Neuritis,DEH:Delayed endolymphatic hydrops,その他めまい:前庭機能低下を伴うその他のめまい症

症例数が2例以上の疾患のうち病悩期間の中央値が長かったのは中枢性,原因不明,MDなどであった。なお,PHAV・中枢性めまい・心因性めまいの診断ついては当科で診断を行い更に脳神経内科または脳神経外科及び精神科へコンサルトを行い判断した。

前庭機能低下を伴うその他のめまい症症例19例のうち温度刺激検査でCPまたは頭振り眼振検査で眼振を認め前庭不均衡が示唆された症例は12例であった。12例のうち10例(83.3%)は65歳以上の高齢者であった。

原因不明症例の内訳は,当科受診後に患者が更なる検査を希望しなかった症例が5例,眼振など特徴的な所見がなく診断がつかなかった症例が4例,紹介時にめまいが改善している症例が2例,不明が1例であった。

78例のうち反復性めまいをきたした症例は47例でMD,BPPV,PHAV,前庭機能低下を伴うその他のめまい症に多く見られた。診断病名が2種類ついた症例が8例に見られた。主病名がBPPVであった症例ではMDやPPPDの併発を認めた。主病名がMDであった症例ではBPPV,心因性めまい,起立性めまい,中枢性めまいの併発を認めた。主病名がPHAVであった症例では前庭機能低下を伴うその他のめまい症や起立性めまいの併発を認めた(表4)。

表4 複数のめまい病名がついた症例

主病名 併発又は後発病名
BPPV

MD

PPPD

MD

BPPV

心因性めまい

起立性めまい

中枢性めまい

PHAV

前庭機能低下を伴うその他のめまい症

起立性めまい

病悩期間と各項目の関連についての単変量解析結果を表5に示す。全ての項目において明らかな有意差は認めなかった。

表5 単変量解析結果

P
年齢 0.101
性別 0.208
高血圧症 0.605
精神疾患 0.153
頭痛/肩こり 0.438/0.454
注視/頭位眼振 0.275/0.258
DHI 0.218
HADS(A/D) 0.607/0.983
CP 0.73
VEMP異常 0.375
複数のめまい病名 0.338

続いて医学的観点及び先行文献を参考に11)12)年齢,頭痛,複数のめまい病名の有無を独立変数とし多変量解析を行ったところ(表6),年齢と複数のめまい病名の併存で有意差を認め(p = 0.048, 0.047),病悩期間に影響を与える因子は年齢と複数のめまい病名の併存であることが明らかとなった。

表6 重回帰分析結果

標準化係数β P
年齢 0.224 0.048
頭痛 0.0079 0.479
複数のめまい病名 0.224 0.047

 考察

めまいは生涯有病率の高い疾患の1つである。本検討では女性,高齢者に多く見られたが過去の文献では高齢者では約30%にめまいの訴えがあるとも報告されている13)

高齢者のめまい・平衡障害患者では前庭代償が遅れたり,うつや不安などの精神症状や起立性低血圧の併存が多いという報告があり難治性となりうる可能性が高いと考える11)。本症例でも前庭不均衡をきたす前庭機能低下を伴うその他のめまい症症例のうち83.3%が高齢者であり,前庭代償が遅れている可能性が考えられた。

また,めまい,立ちくらみ患者のうち診断がつかない症例の患者は10–15%という報告があり当院でも同様の結果であった12)14)。Nishikawaらの報告では原因不明例に対してめまい検査入院を実施したところBPPV,起立性低血圧,末梢性めまい,MDなどの診断となったと言われており14),本検討でも原因不明症例の一部は追加検査や経過観察を継続した場合に何らかの既出の確定診断病名がついた可能性が予想される。BPPVは通常自然治癒が期待でき更に頭位治療もある疾患だが,症例数としては2番目に多く病悩期間も長い症例があった原因として,BPPVが高齢者に多く反復性の疾患であるため罹病期間が長くなりやすいこと,1回の発作消失が早い場合病院受診時には眼振が消失しており具体的な診断がつかなかった可能性があること,発作が改善しても前庭代償不全やPPPDへ移行してしまうケースがあることなどが考えられる。

また,今回は前庭機能低下を伴うその他のめまい症症例が最も多く,このうち頭振り眼振検査や温度刺激検査で異常を認めた症例が19例中12例見られたが,中でも頭振り眼振検査は末梢前庭病変の検出に有用であり15)外来でも簡便に実施ができるため通常の眼振検査で眼振が出ない場合も併用することで診断の一助となりうる。頭振り眼振はMDや前庭神経炎やBPPVなど末梢前庭障害を来たしうる疾患で広くみられる所見であり,本検討の原因不明症例と同様に,前庭機能障害を伴うその他の末梢性めまい症においても今後の経過次第では確定病名がつく可能性があると考える。

病悩期間に影響を与える因子として年齢と複数のめまい病名の併存であることが明らかとなった。年齢については先の記述の通り高齢者のめまいが難治性となる要素が多いことが理由として考えられる。複数のめまい病名の併存については耳鼻咽喉科領域のめまい疾患以外に頭痛や心因性,起立性めまいなど他科の介入が必要となる疾患の合併がある場合,診断に難渋するためと考える。また,BPPVとMDなど単独では1回の発作は比較的短時間であっても反復性のめまい病名が複数併存する場合に病悩期間が遷延する可能性が示唆された。

先行文献を参考に今回の検討においてまず難治性めまい患者の病態には,①診察時に疾患に特徴的な診察所見が消失している,②前庭代償不全が遷延している,③除外診断や他科診察を必要とする,④複数のめまい病名が併存している,⑤反復性であるといった5つのパターンがあり12)16),これらのパターンを意識して診療を行うことでできるだけ迅速な診断や治療につなげていくことが重要であると言える。

例えば①においては診察時に特徴的な所見が消失していると具体的な診断が下されず治療介入が遅延する可能性があり,経過によってはめまい症状が遷延しうるため,原因となるめまい疾患の発症時の診察所見をできるだけ見逃さないようにし初期に迅速な治療介入ができるよう努める,②においてはPPPDへ移行しないよう前庭リハビリテーションや生活指導の介入を行う,③では必要時他科介入を早めに依頼する,④ではHADSや頭痛問診票などを用いて身体所見以外の問題点がないか注意する,⑤ではめまい症状が安定しても一定のフォロー期間を作るなどである。

さらに上記を踏まえ,特に高齢で複数のめまい病名を持つ患者については病悩期間に影響する可能性があり注意が必要と考える。

めまいが難治化をした場合,例えば突発性難聴や片頭痛に関連しためまいの場合に後遺症として発生した抑うつ障害の割合が高いこと17),前庭疾患に二次的に精神疾患が引き起こされ得ること15),フレイルの合併率が多いことなどが報告されている18)ため,診断や治療が遅れるとさらに難治化する恐れがある。限られた外来時間の中で全てを実施することは難しいかもしれないが少しずつ注意を払うことで難治化を防ぐことが重要である。

利益相反に該当する事項はない。

Notes

別刷請求先:海邊昭子

文献
 
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