2024 Volume 83 Issue 6 Pages 479-489
One of the most typical symptoms of patients encountered in outpatient otorhinolaryngology clinics is dizziness. We conducted a study on the real-world outpatient practices for first-time otorhinolaryngology patients presenting with the chief complaint of dizziness, in order to improve the clinical practices and support the education of otorhinolaryngology majors. The subjects of the study were a total of 254 patients who first visited the outpatient otorhinolaryngology departments of one of the eight participant hospitals between August 2018 and July 2019 with the chief complaint of dizziness or related symptoms, such as rotatory vertigo, disorientation, or a floating sensation. Data of the outpatients at their first visit were extracted by a retrospective chart review and using the Dizziness Checklist that was created prior to the data collection.
The patients ranged in age from 6 to 92 years, with a mean age of 61 years. The ratio of men to women was approximately 2:3. Of the patients, 43% had another outpatient otorhinolaryngology visit, while the remaining patients visited only once. The likelihood of a second outpatient visit was significantly higher in patients with nystagmus.
The rates of performance of the equilibrium function tests of stabilometry, VOR (to manual rotation stimulation of the examination chair), caloric test, vHIT, and VEMP were 45.7%, 30.7%, 5.1%, 4.7%, and 2.0%, respectively. In contrast, the rates of performance of nystagmus testing and conventional pure tone audiometry were 98.4% and 93.7%, respectively. To determine the relationship between the presence of dizziness consultant physicians certified by the Japan Society For Equilibrium Research and the rates of performance of equilibrium function tests, we compared the rates in cases that visited hospitals with (151 cases) and without (103 cases) dizziness consultant physicians; the results revealed higher rates of performance of equilibrium function tests in the hospitals with dizziness consultant physicians.
めまいは頻度の高い症状であり,2022国民生活基礎調査の概況(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf)によるとめまい有訴者率は人口1000人に対しての20.3人である。めまいは耳鼻咽喉科外来においても頻繁に遭遇する症状の一つであり,日常の耳鼻咽喉科外来診療においてめまい患者にどのような検査が行なわれ,どのような診断がなされているのかを知ることは,めまい患者の診療の質向上や標準化,耳鼻咽喉科専攻医の教育のために重要と考えられる。我々はめまい疾患の外来診療の実態を知るため,めまいを主訴とする耳鼻咽喉科初診患者の外来診療について多施設で調査を行った。本研究では,再診の有無,中枢性めまいの診断,平衡機能検査の実施状況,めまい相談医在籍の有無の4つの点につき着目して調査結果の解析をおこない,日本めまい平衡医学会が認定するめまい相談医の役割につき示唆が得られたので報告する。
本研究の対象は回転性めまい,ふらつき,あるいは浮動感のうちいずれかを主訴とし,8つの医療機関(著者所属2,4~8,11,12)の耳鼻咽喉科外来を初診した患者である。調査期間は2018年8月から2019年7月までの1年間とした。本研究に先立ち,8医療機関含む耳鼻咽喉科めまい診療担当医グループの数次にわたる合議により,「めまいチェックリスト」(表1)の策定が行なわれた。
対象となる耳鼻咽喉科外来はめまい専門外来だけでなく,すべての初診時外来とし,初診担当医はめまい診療担当医に限定せず耳鼻咽喉科に所属する全ての医師を対象とした。初診担当医が1回目の「めまいチェックリスト」の記入をおこない,この初診時診断を「暫定診断」とした。初診から1か月以上経過した時点でカルテの外来診察内容確認および2回目の「めまいチェックリスト」記入がおこなわれ,その時の診断を「後日診断」とした。
なお,本研究は8医療機関全てにおいて,臨床研究倫理審査委員会の承認を得て施行した。データは匿名化され,AcrobatTMのPDF集計機能を用いてExcelファイルに統合された。統計解析はカイ二乗検定あるいはYatesのカイ二乗検定を用い,p < 0.05を統計学的に有意と判定した。
眼振所見は「方向固定性水平性眼振・水平回旋混合性眼振」「垂直回旋混合性眼振・水平性方向交代性眼振」「注視誘発眼振・純垂直性眼振・純回旋性眼振・その他」「眼振なし」の4群に分けて検討した。チェックリスト上の眼振所見としては,メニエール病や前庭神経炎などによる一側性末梢前庭障害の場合は「方向固定性水平性眼振,水平回旋混合性眼振」,BPPVでは「懸垂位垂直回旋混合性眼振」あるいは「水平性方向交代性眼振」をチェックされることが多いと考えられる1)2)。また,「注視誘発眼振・純垂直性眼振・純回旋性眼振」における注視眼振は裸眼で左右・上下30度の固視点を注視した時の眼振であり,「注視誘発眼振・純垂直性眼振・純回旋性眼振」「その他」は内耳性めまいとしては非典型的であって中枢性めまいの可能性を示唆すると考えられる3)。つまり「方向固定性水平性眼振・水平回旋混合性眼振」はメニエール病などの一側性末梢前庭障害,「垂直回旋混合性眼振・水平性方向交代性眼振」はBPPVに典型的な眼振であり,「注視誘発眼振・純垂直性眼振・純回旋性眼振・その他」は内耳性めまいとして非典型的な眼振を意図している。
平衡機能検査のうちめまいチェックリストには温度刺激検査,ビデオヘッドインパルス検査(vHIT),前庭誘発筋電位検査(VEMP),重心動揺検査,前庭動眼反射検査(VOR)が含まれていたが,本調査におけるVORは船曳らによって報告された振子様手動回転によるVORであった4)。8医療機関に対する事前アンケートでは,温度刺激検査は8施設(温水/冷水5施設,温気/冷気3施設),ビデオヘッドインパルス検査(vHIT)は2施設,前庭誘発筋電位検査(VEMP)は3施設,重心動揺検査は7施設で実施可能という回答を得た。
2018年8月から2019年7月までの1年間に回転性めまい,ふらつき,あるいは浮動感を主訴として初診となった患者254例の診療内容データが収集された。
患者年齢は6~92歳,平均61.0歳,中央値68歳であり,年代別では70代でピークを示し最も多かった(図1A)。男女比は約2:3で,女性が男性よりやや多くみられた(図1B)。
A.年代別の患者数。縦軸は患者数,横軸は10歳毎の年代を表す。70代でピークを示し最も多かった。B.性別の患者数。数字は患者数を表す。男女比は約2:3で,女性が男性よりやや多くみられた。
暫定診断別の症例数,再診の有無,再診時の診断変更の有無,後日診断別の症例数につき,表2に示す。暫定診断・後日診断とも,診断名は「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」,「診断つかず」,「メニエール病」,「代償不全」,「自律神経失調と血圧異常」の順に多かった。暫定診断BPPV(83例)中,後半規管型32例(38.6%),水平半規管型21例(25.3%),記入無し30例(36.1%)であった。再診率は全体で43.3%であり,暫定診断で「メニエール病」70.8%,「前庭神経炎」88.9%が比較的再診率が高かった。また,暫定診断で「診断つかず」の再診率は31.7%で,全体の再診率より低かった。「暫定診断として何らかの診断あり」と「診断つかず」で比較すると,有意に「診断つかず」の再診率が低かった。再診時に診断変更されたのは19例であり,診断変更率は20.4%であった。「診断つかず」は再診時に52.6%が診断変更されていた。
暫定診断名 | 暫定診断 | 再診の有無 | 再診時の診断変更 | 後日診断 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(例) | 全体に占める割合% | なし(例)(a) | 不明(例) | あり(例)(b) | 再診率%(a/a + b %) | なし(例)(c) | あり(例)(d) | 診断変更率(d/c + d %) | (例) | 全体に占める割合% | |
BPPV | 84 | 33.3 | 41 | 14 | 29 | 41.4 | 26 | 3 | 10.3 | 85 | 33.7 |
メニエール病 | 28 | 11.1 | 7 | 4 | 17 | 70.8 | 15 | 2 | 11.8 | 28 | 11.1 |
代償不全 | 21 | 8.3 | 13 | 1 | 7 | 35.0 | 7 | 0 | 0.0 | 25 | 9.9 |
前庭神経炎 | 9 | 3.6 | 1 | 0 | 8 | 88.9 | 7 | 1 | 12.5 | 8 | 3.2 |
めまいを伴う突発性難聴 | 4 | 1.6 | 0 | 2 | 2 | 100.0 | 2 | 0 | 0.0 | 5 | 2.0 |
遅発性内リンパ水腫 | 1 | 0.4 | 0 | 0 | 1 | 100.0 | 1 | 0 | 0.0 | 2 | 0.8 |
その他の耳性めまい | 7 | 2.8 | 3 | 1 | 3 | 50.0 | 2 | 1 | 33.3 | 6 | 2.4 |
自律神経失調と血圧異常 | 19 | 7.5 | 13 | 2 | 4 | 23.5 | 4 | 0 | 0.0 | 20 | 7.9 |
その他の全身性疾患 | 5 | 2.0 | 2 | 2 | 1 | 33.3 | 1 | 0 | 0.0 | 5 | 2.0 |
聴神経腫瘍 | 1 | 0.4 | 1 | 0 | 0 | 0.0 | 0 | 0 | 3 | 1.2 | |
中枢性めまい | 4 | 1.6 | 0 | 2 | 2 | 100.0 | 0 | 2 | 100.0 | 6 | 2.4 |
診断つかず | 69 | 27.4 | 41 | 9 | 19 | 31.7 | 9 | 10 | 52.6 | 59 | 23.4 |
計 | 252 | 100 | 122 | 37 | 93 | 43.3 | 74 | 19 | 20.4 | 252 | 100 |
(診断名記載なし2例除く)
暫定診断名別に,症例数と全体に占める割合(%),再診の有無別の症例数と再診率(%),再診時の診断変更の有無別の症例数と診断変更率(%),後日診断時の症例数と全体に占める割合(%)を示す。なお,総数には診断名記載のなかった2症例は含まれていない。暫定診断・後日診断とも,診断名は「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」,「診断つかず」,「メニエール病」,「代償不全」,「自律神経失調と血圧異常」の順に多かった。再診率は全体で43.3%であった。
めまいの発症時期・性状・持続時間毎の再診の有無を表3,眼振所見毎の再診の有無を表4Aに示した。Yatesのカイ二乗検定により,再診の有無に関してめまいの発症時期・性状・持続時間のいずれも有意な偏りは認められなかったが,眼振と再診の有無には有意な偏りが認められた。「眼振あり/なし」「再診あり/なし」で比較すると「眼振なし」の方が「再診なし」が多かった(カイ二乗検定)。暫定診断のうち高頻度の「BPPV」「診断つかず」「メニエール病」につき,眼振所見を「方向固定性水平性眼振・水平回旋混合性眼振」「垂直回旋混合性眼振・水平性方向交代性眼振」「注視誘発眼振・純垂直性眼振・純回旋性眼振・その他」「眼振なし」の4群に分けて再診の有無を調べた(表4B)。「BPPV」と「診断つかず」は「眼振なし」の場合に「再診なし」が多く再診率はそれぞれ26.7%,17.5%であったが,「メニエール病」は「眼振なし」でも再診率66.7%であった。また,少数であるが「注視誘発眼振・純垂直性眼振・純回旋性眼振・その他」とされる症例があり,それらは再診が多い傾向にあった。
めまいの発症時期 | 再診なし | 再診あり | 再診率% |
---|---|---|---|
今日 | 10 | 7 | 41.2 |
数日以内 | 34 | 20 | 37.0 |
1週間以内 | 26 | 10 | 27.8 |
1か月以内 | 17 | 25 | 59.5 |
1年以内 | 18 | 13 | 41.9 |
1年以上前 | 15 | 17 | 53.1 |
(記載なし例除く)
めまいの性状 | 再診なし | 再診あり | 再診率% |
---|---|---|---|
回転性 | 66 | 51 | 43.6 |
ふらつき | 52 | 41 | 44.1 |
気が遠くなる | 3 | 0 | 0.0 |
(記載なし例除く)
めまいの持続時間 | 再診なし | 再診あり | 再診率% |
---|---|---|---|
数秒 | 11 | 9 | 45.0 |
数十秒 | 11 | 9 | 45.0 |
数分 | 39 | 13 | 25.0 |
数時間 | 18 | 19 | 51.4 |
ずっと | 21 | 26 | 55.3 |
(記載なし例除く)
A めまいの発症時期。めまいの発症時期別に,再診の有無と再診率(%)を示した。有意な偏りは認められなかった。
B めまいの性状。めまいの性状別に,再診の有無と再診率(%)を示した。有意な偏りは認められなかった。
C めまいの持続時間。めまいの持続時間別に,再診の有無と再診率(%)を示した。有意な偏りは認められなかった。
なおA–Cとも記載のなかった症例は含まれていない。
眼振の性状 | 再診なし | 再診あり | 再診率% |
---|---|---|---|
方向固定性水平性・水平回旋混合性眼振 | 17 | 25 | 59.5 |
垂直回旋混合性・水平性方向交代性眼振 | 26 | 25 | 49.0 |
注視誘発 純垂直性 純回旋性 その他 | 5 | 7 | 58.3 |
眼振なし | 73 | 34 | 31.8 |
(記載なし例除く) | 121 | 91 |
暫定診断 | 眼振の性状 | 再診なし (a) |
再診あり (b) |
再診率% (a/a + b %) |
再診不明 (c) |
計 (a + b + c) |
---|---|---|---|---|---|---|
BPPV | 方向固定性水平性・水平回旋混合性眼振 | 2 | 1 | 33.3 | 1 | 4 |
垂直回旋混合性・水平性方向交代性眼振 | 26 | 21 | 44.7 | 9 | 56 | |
注視誘発 純垂直性 純回旋性 その他 | 2 | 3 | 60.0 | 1 | 6 | |
眼振なし | 11 | 4 | 26.7 | 3 | 18 | |
診断つかず | 方向固定性水平性・水平回旋混合性眼振 | 0 | 2 | 100.0 | 1 | 3 |
垂直回旋混合性・水平性方向交代性眼振 | 3 | 2 | 40.0 | 5 | ||
注視誘発 純垂直性 純回旋性 その他 | 0 | 3 | 100.0 | 3 | ||
眼振なし | 33 | 7 | 17.5 | 9 | 49 | |
メニエール病 | 方向固定性水平性・水平回旋混合性眼振 | 4 | 8 | 66.7 | 3 | 15 |
垂直回旋混合性・水平性方向交代性眼振 | 1 | 1 | ||||
注視誘発 純垂直性 純回旋性 その他 | 1 | 100.0 | 1 | |||
眼振なし | 3 | 6 | 66.7 | 9 |
A 眼振所見と再診の有無。眼振所見を「方向固定性水平性眼振・水平回旋混合性眼振」「垂直回旋混合性眼振・水平性方向交代性眼振」「注視誘発眼振・純垂直性眼振・純回旋性眼振・その他」「眼振なし」の4群に分けて集計し,再診の有無と再診率(%)を示した。眼振所見の記載がなかった症例は含まれていない。「眼振なし」の再診率が低かった。
B 暫定診断と再診の有無。暫定診断「BPPV」,「診断つかず」,「メニエール病」の症例につき,それぞれ眼振所見毎に再診の有無と再診率(%)を示した。再診の有無につき記載がない再診不明の症例数も示した。「BPPV」と「診断つかず」は「眼振なし」の場合に再診率が低かった。
検査の施行状況を表5に示す。施行された検査は,眼振検査98.4%,標準純音聴力検査93.7%の2つが最も多かった。眼振検査に関して,注視眼振・頭位眼振・頭位変換眼振それぞれの所見記入率を図2に示す。注視眼振は正面視で65.4%,それ以外の方向で約60%,頭位眼振は50~60%,頭位変換眼振はStenger法が約50%でDix-Hallpike法が15%前後であった。
検査 | (例) | (%) |
---|---|---|
眼振検査 | 250 | 98.4 |
標準純音聴力検査 | 238 | 93.7 |
重心動揺検査 | 116 | 45.7 |
シェロングテスト | 87 | 34.3 |
VOR(回転椅子) | 78 | 30.7 |
温度刺激検査 | 13 | 5.1 |
vHIT | 12 | 4.7 |
cVEMP/oVEMP | 5 | 2.0 |
DHI | 61 | 24.0 |
CT | 69 | 27.2 |
MRI | 89 | 35.0 |
検査毎の施行症例数と施行率(%)を示した。施行された検査は,眼振検査,標準純音聴力検査の2つが最も多かった。
全患者のうち,それぞれの眼振が記入されていた割合(%)を,A.注視眼振,B.頭位眼振,C.頭位変換眼振につき,眼振を記載するボックスに示す。注視眼振は正面視で65.4%,それ以外の方向で約60%,頭位眼振は50~60%,頭位変換眼振はStenger法が約50%でDix-Hallpike法が15%前後であった。
平衡機能検査の施行率は温度刺激検査5.1%(全例温気/冷気による刺激),vHIT 4.7%,VEMP(cVEMPかoVEMPのいずれか)2.0%,重心動揺検査45.7%,VOR 30.7%であった(表5)。暫定診断別の平衡機能検査とシェロングテストの施行状況を表6に示した。VOR,温度刺激検査,VEMP,vHITの4つの平衡機能検査のうちの少なくともいずれか1つが施行された症例数とその施行率も計算した。いずれかの平衡機能検査を施行している割合は,「代償不全」で90.5%,「自律神経失調と血圧異常」で52.6%であり他の疾患よりも施行率が高かった。日本めまい平衡医学会の前庭神経炎診断基準(2017年)では前庭神経炎確実例とするには温度刺激検査が必要であるが1),暫定診断「前庭神経炎」症例のうち平衡機能検査のいずれかを施行されているのは33.3%であり,温度刺激検査は11.1%しか施行されていなかった(表6)。
暫定診断名 | 症例数 (例) |
VOR (回転椅子) |
温度刺激検査 | VEMP | vHIT | 平衡機能検査 いずれか |
シェロング テスト |
||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
(例) | (%) | (例) | (%) | (例) | (%) | (例) | (%) | (例) | (%) | (例) | (%) | ||
BPPV | 84 | 21 | 25.0 | 21 | 25.0 | 15 | 17.9 | ||||||
メニエール病 | 28 | 4 | 14.3 | 2 | 7.1 | 1 | 3.6 | 7 | 25.0 | 5 | 17.9 | ||
前庭神経炎 | 9 | 3 | 33.3 | 1 | 11.1 | 1 | 11.1 | 1 | 11.1 | 3 | 33.3 | 1 | 11.1 |
代償不全 | 21 | 18 | 85.7 | 3 | 14.3 | 2 | 9.5 | 5 | 23.8 | 19 | 90.5 | 18 | 85.7 |
自律神経失調と血圧異常 | 19 | 10 | 52.6 | 1 | 5.3 | 10 | 52.6 | 17 | 89.5 | ||||
中枢性めまい | 4 | 1 | 25.0 | 1 | 25.0 | ||||||||
診断つかず | 69 | 16 | 23.2 | 7 | 10.1 | 2 | 2.9 | 3 | 4.3 | 18 | 26.1 | 19 | 27.5 |
暫定診断「BPPV」「メニエール病」「前庭神経炎」「代償不全」「自律神経失調と血圧異常」「中枢性めまい」「診断つかず」の症例につき,それぞれの症例数,VOR(回転椅子),温度刺激検査,VEMP,vHITの施行例数と施行率(%),上記4種の平衡機能検査いずれかの施行例数と施行率(%),シェロングテストの施行例数と施行率(%)を示した。「代償不全」,「自律神経失調と血圧異常」の平衡機能検査施行率が高かった。
神経学的所見のうちめまいチェックリストではバレー徴候,体幹失調,構音障害,鼻指鼻試験,知覚異常につき調査しており,所見の有無につき記載のあった症例の中で所見ありとされた症例はバレー徴候0%,体幹失調2.1%,構音障害0.6%,指鼻試験異常1.5%,知覚異常4.6%であった。また,それらのうちいずれかの所見ありとされた症例の中で,後日診断で中枢性めまいと診断された症例はなかった。後日診断で中枢性めまいと診断された症例は2例あり,いずれもMRI所見より診断された。一方,暫定診断で中枢性めまいとされた症例も2例あったが,いずれもMRIではめまい・ふらつきの原因となりうる所見なく,後日診断では診断名が変更されて1例は「BPPV」,1例は「診断つかず」とされていた。
各種の検査の施行に関して,日本めまい平衡医学会の認定するめまい相談医の在籍の有無が影響するのかどうか調査するため,めまい相談医が在籍する医療機関と在籍しない医療機関に分けて検討した。その結果を図3に示す。めまい相談医が在籍していない病院の症例は103例,在籍している病院の症例は151例であった。めまい相談医在籍の有無によって,検査施行は有意に偏りがあった(Yatesのカイ二乗検定)。眼振検査と標準純音聴力検査の施行率は,めまい相談医在籍なし/ありの場合それぞれ97.1%/99.3%,95.1%/92.7%であり,めまい相談医の有無により著変なかった。また画像検査の施行率はめまい相談医在籍なし/ありの場合それぞれCT 31.1%/24.5%,MRI 35.9%/34.4%であり,CTはめまい相談医が在籍しない病院でやや多く,MRIはほぼ同じであった。一方,これら以外のめまいに関する専門的検査はすべてめまい相談医が在籍している病院の方が検査施行率が高く,シェロングテストやDHIといった特殊な検査機器を要しない検査でも顕著な差があった(図3)。
縦軸は全患者のうちそれぞれの検査施行率(%)を示す。なお,「眼振検査施行あり」は,注視眼振,頭位眼振,頭位変換眼振のうち少なくともいずれか一つが施行されていたことを意味する。めまいに関する専門的検査は,めまい相談医が在籍している病院の方が検査施行率が高かった。
2016年4月より京都大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科および関連病院耳鼻咽喉科において,めまい診療の向上を目指して横断的にめまいワーキンググループを構築し,各施設から代表医師数名が定期的な話し合いを行って活動を続けている。その活動の一環として,めまい診療の実態調査および底上げを目的としてめまい初診時チェックリストを作成した。その際に,「①めまいの専門家でなくても漏れなく所見を取れること」「②めまいの診断の標準化」「③めまいの診断で特定の疾患の診断の鍵となる所見と非特異的な所見の重みづけ(洗練させて,よりシンプルな形のチェックリストで各疾患の鑑別を行う)」という3つの目標が設定された。のちにより洗練させることが想定されたために,チェックリスト項目は網羅的に盛り込まれることとなった。
・めまいチェックリスト回答量について多忙な外来業務の合間に数多くの項目につきチェックリストの記入を行なうことは外来担当医にとって負担であり,回答漏れが多くなることは危惧される。本研究においてチェックリストを1年間運用した結果が得られたが,やはり回答漏れは散見された。例えば,性別の記載なしが3例(図1B),暫定診断の記載なしが2例(表2)あった。また,初診から1か月以上あけてカルテで再診の情報につき抽出することになっていたが,再診につき記入がないために再診の有無が不明だった症例が37例(全体の14.6%)見られた(表2)。チェックリストが裏表にわたっていたために裏側の回答欄が気付かれなかった,あるいは忘れられた可能性がある。今後は,めまいチェックリストの回答量は,A4用紙1枚程度に収められるように最適化するべきと考えられた。また,記入漏れを防止するためには,各項目につき必ずいずれかの選択肢を選ばなければならないような仕様にするなどの工夫が必要である。
・対象症例の年齢・男女比・疾患について本研究の患者年齢・男女比・頻度の高い診断名の傾向は,中高年に多く,女性に多く,最多がBPPVである点で,これまでの報告と同様の傾向であった5)~7)。本調査のチェックリストの診断名には「めまい症」は含まれていない。また,本研究の計画は2016~2017年に立案され臨床研究倫理委員会に諮られたため,2017年以降に定義された持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)8),加齢性前庭障害9)といった比較的新しく診断基準が制定されためまい疾患は今回のチェックリストの診断名に含まれていない。これらのめまい疾患患者の多くは本調査においては「診断つかず」に含まれていると考えられる。一側前庭障害後の代償不全も感覚再重みづけが視覚・体性感覚シフトしていると,PPPDとの鑑別が難しい場合があり10),本調査においてはPPPDのうち先行するめまいが一側前庭障害であった場合には「代償不全」と診断されている可能性もある。
・初診の重要性と再診に影響する要因本研究では,めまいを主訴に初診した患者の約4割が初診のみで診療を終えている。めまい診療において,初診時の対応が鑑別診断の上でも患者教育の観点からも重要であると言える。また,「再診あり」と「眼振あり」の関連が認められたことから,初診担当医が精査あるいは経過観察するかどうかを決定する要因の一つとして眼振の有無が示唆された。
「診断つかず」の再診率が全体の再診率よりも低かったが(表2),その理由は二つ考えられる。一つの理由として,暫定診断「診断つかず」の中でも「眼振なし」の再診率が低く(表4B),初診時には既に軽快していた軽症例が「診断つかず」に含まれていたことが考えられた。またもう一つの理由として,暫定診断で「メニエール病」「前庭神経炎」の再診率がそれぞれ約7割と約9割であり(表2)末梢性めまい症例は診療を継続する傾向がみられた一方で,PPPDなどの機能的な慢性めまいで所見に乏しい症例は末梢性の可能性が低いと判断され「診断つかず」として終診となっていた可能性もある。
・BPPVと前庭神経炎の疑い例について暫定診断「BPPV」の84症例のうち,BPPVの典型的な眼振(垂直回旋混合性眼振あるいは水平性方向交代性眼振)を呈したのが56例,それ以外の非典型的眼振を呈したのが10例,眼振なしが18例であった(表4B)。BPPVとBPPV診断基準の確実例に合致する可能性があるのは多くても56例(66.7%)ということになる。また,暫定診断BPPVの84例中半規管の位置について記入のないものが31例あり,記入漏れ,あるいは受診時には眼振を認めず症状についての問診のみでBPPV疑いとした症例が含まれていることが考えられる。
また,暫定診断「前庭神経炎」であった9例のうち温度刺激検査が行なわれていたのは1例,平衡機能検査いずれかを施行されていた症例は3例のみであった(表6)。「前庭神経炎」とされた症例の多くは疑い例であったということになる。
このような結果は,実臨床では確実例という診断に至らず疑い例のままとなっている症例が少なくないことを示す。今後のチェックリスト運用の際には,確実例か疑い例かどうかを区別できる方が望ましいと考えられる。
・平衡機能検査施行状況の課題本研究においては,めまいが主訴にもかかわらず平衡機能検査の施行率は温度刺激検査5.1%,vHIT 4.7%と低調であった(表5)。全体の再診率が43.3%と低いことから(表2),軽症例が多く含まれている可能性も示唆される。しかし,前庭神経炎の多くに温度刺激検査が施行されていなかったことから(表6),平衡機能検査を適切に用いためまい疾患の鑑別診断および確定診断がなされていなかった可能性もあり,今後の課題と考えられた。
温度刺激検査は8施設全てで施行可能とのことであったが,調査期間中に施行された全例がエアーカロリック検査であり,温水/冷水を刺激方法としている3施設では施行例がなかった。エアーカロリック検査は言語聴覚士・臨床検査技師も実施可能である一方で,注水法は医師が実施する必要があり,そのことが温度刺激検査施行率の低下に寄与したかもしれない。温度刺激検査に代わる検査としてvHITなどのより侵襲が小さく所要時間の短い検査法の普及が望まれる。
・本研究のめまいチェックリストの限界めまい初診時チェックリストの3つの目標「①めまいの専門家でなくても漏れなく所見を取れること」「②めまいの診断の標準化」「③めまいの診断で特定の疾患の診断の鍵となる所見と非特異的な所見の重みづけ」は,本研究では達成できていない。前述の通り,本研究のチェックリストでは項目が多すぎて回答漏れを誘発しやすいと考えられ,また,疑い病名かどうかを区別できず診断の確実性が不明であったため各所見の診断への寄与を十分には検証できなかった。本研究においては,耳鼻咽喉科外来における検査の実施状況や,再診の有無といった実態は浮かび上がってきたが,今後はめまいチェックリストの目標達成のため本研究で明らかになった問題点を改善し,チェックリスト項目をより洗練させる必要がある。
・平衡機能検査の実施とめまい相談医本研究において,めまい相談医在籍の有無によって,検査実施状況には有意な偏りがあることが明らかとなった。施設により各種の平衡機能検査の設置状況から異なり,めまい相談医が在籍する施設により多く設置されている傾向があるため,検査実施状況に偏りがあることは当然である部分もある。めまい相談医が在籍することと,平衡機能検査の設置と実施に正の関連があることが推察される。
めまい相談医が在籍している施設の方がめまいに関する専門的検査の施行率が高いため,より正確な診断が行なわれている可能性がある。めまい診療の向上と標準化のために,めまい相談医の果たす役割が大きいことが示唆された。
本研究の「めまいチェックリスト」調査にご協力いただき,多忙な診療業務の合間にめまいチェックリストのご記入をいただきました京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科,日本赤十字社和歌山医療センター耳鼻咽喉科,倉敷中央病院耳鼻咽喉科,大阪赤十字病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 ,神戸市立医療センター中央市民病院耳鼻咽喉科 ,滋賀県立総合病院耳鼻いんこう科,京都医療センター耳鼻咽喉科・頭頸部外科,高槻赤十字病院耳鼻咽喉科の先生方に,心より感謝申し上げます。また,本論文の作成にあたりご助言を賜りました船曳耳鼻咽喉科・めまいクリニックの船曳和雄先生に,厚く御礼申し上げます。
利益相反に該当する事項はない。