2025 Volume 84 Issue 1 Pages 10-14
The risk factors for recurrent benign paroxysmal positional vertigo (BPPV) include female gender and underlying hypertension, diabetes mellitus, dyslipidemia, osteoporosis, and vitamin D deficiency. In this study, we investigated serum-active vitamin D levels in patients with recurrent BPPV. We statistically examined the age, sex, BPPV attack frequency, and serum 25-hydroxyvitamin D (serum 25(OH)D) levels in 60 patients (17 males and 43 females) with recurrent BPPV between October 2015 and February 2023. All the subjects had been diagnosed as having definite BPPV (based on diagnostic criteria).
RESULTS: The ages of the patients with recurrent BPPV ranged from to 9–90 years (median age: 66 years). Women aged 65–74 years constituted the largest proportion of patients. The median serum 25(OH)D level was 18.9 ng/ml. Insufficiency or deficiency of the levels was detected in 59 of the 60 patients (98.3%). The serum 25(OH)D levels were significantly lower in the female subjects (p = 0.015).
Low vitamin D levels have been reported to affect the severity of dyslipidemia, osteoporosis, and migraine headaches, all of which are risk factors for BPPV recurrence. Given the recent reports of numerous healthy individuals in urban areas of Japan with low serum vitamin D levels, we conclude that this study provides an opportunity to focus on vitamin D and its direct and synergistic effects on BPPV onset and recurrence in the Japanese population.
良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo,以下BPPV)は末梢めまい疾患の中で頻度が高く,再発する症例は13–50%と言われている1)~3)。再発のリスクファクターとして女性,高血圧,糖尿病,脂質異常症,骨粗鬆症,ビタミンD欠乏などが挙げられている4)5)。中でもビタミンD(Vitamin D,以下VD)はカルシウムとリン酸塩の代謝を調節し,耳石の機能維持に関連している可能性がありVD値の低下症例に対してVDの投与を行うことにより再発率が減るといった症例も近年報告されている5)~8)。しかしながら,本邦におけるBPPV再発例のVD値に関してはこれまでに報告がなく明らかにされていない。そこで今回我々は主にBPPV再発例におけるVD値の評価として血清25(OH)D値を測定し,BPPV発症回数とVD値の関係について検討した。
2015年10月~2023年2月までに目白大学耳科学研究所クリニックに受診し,診断基準によりBPPV確実例と診断された183症例のうち採血を実施した60例(男性17例,女性43例,32.8%)の年齢・性別・BPPV発作回数,血清25(OH)D値を電子カルテにて後方視的に調査した。血清25(OH)D値の採血は主に発作が2回以上出現した症例で同意を得られた症例におこなった。年齢はBPPV最終発作時の年齢とした。責任半規管は複数回発作が出現し,発作ごとに責任半規管が外側半規管であったり後半規管であったりした場合は,回数が多かった方を責任半規管とした。BPPVの診断はめまい相談医がBPPV診療ガイドライン4)に基づいて実施した。BPPV再発は1回目の発作から1ヶ月以上経過して本研究対象期間中に再度BPPVの診断に合致するめまい発作が出現し,診察時にそれが確認できたものと定義した。VDは生体内で最初の水酸化によって25(OH)Dに変換され,2回目の水酸化によって活性型である1,25-ジヒドロキシビタミンD 1,25(OH)2Dが形成される。生体内でのVD値の評価には前者が用いられている9)。血清25(OH)D値は30ng/ml以上を正常範囲,20ng/ml以上-30ng/ml未満を不足,20ng/ml未満を欠乏とした9)。
統計学的検討にはSPSS version 28(IBM, Armonk, NY)を使用し,単変量解析はMann-WhitneyのU検定,χ2検定,Kruskal-Wallis検定を用い,有意水準は5%とした。
本研究は目白大学耳科学研究所クリニック倫理委員会の承認を得て実施された(No.医23-005)。
BPPV確実例183症例の年齢分布は9–90歳(中央値66歳)であった。年代別では65–74歳の女性が最も人数が多かった(図1)。続いてBPPV発作回数を図2に示す。183症例のうち発作回数1回が117例(男性39例,女性78例),2回が35例(男性8例,女性27例),3回が13例(男性5例,女性8例),4回以上が18例(男性6例,女性12例)であった。BPPV発作回数に関し男女間に差は認めなかった(p = 0.636)。
BPPV発作回数に関し男女間に差は認めなかった
責任半規管は外側半規管型101例(半規管型48例,クプラ結石型53例),後半規管型82例であった。責任半規管に関し男女間に差はなく(p = 0.533),責任半規管が後半規管か外側半規管かによって発作回数に違いはなかった(p = 0.715)。
採血実施群60例の血清25(OH)D値と発作回数の分布を図3に示す。発作回数1回が13例,2回が17例,3回が12例,4回以上が18例であった。
発作回数と血清25(OH)D値の群比較において明らかな有意差はなかった
血清25(OH)D値の中央値は18.9ng/ml(5.8–42.9ng/ml)だった。60例中59例(98.3%)で血清25(OH)D値は欠乏又は不足であった。発作回数が増えるにつれて血清25(OH)D値の欠乏の割合が高い傾向であったが,発作回数群と血清25(OH)D値群に明らかな有意差はなかった(χ2(6) = 5.438, P = 0.489)。採血実施群60例の血清25(OH)D値と性別の分布を図4に示す。男性の血清25(OH)D値の中央値は22.4ng/ml(13.7–42.9ng/ml),女性の中央値は17.4ng/ml(5.8–28.6ng/ml)だった。血清25(OH)D値群と性別との関係では女性において有意な低下を認めた(χ2(2) = 8.381, p = 0.015)。
性別と血清25(OH)D値の群比較において女性の有意な低下が認められた
本研究はBPPV再発例の血清25(OH)D値を調査した本邦初めての報告である。BPPVは半規管から耳石片が脱落することで誘発される10)。耳石は主に炭酸カルシウムで構成されており,カルシウムは耳石のターンオーバーを維持し耳石を硬化するために必要である11)12)。そのためカルシウムの代謝障害がBPPVの発症や再発に関与している可能性が報告されており13)14),特に内リンパ中の遊離カルシウム濃度の上昇により,浮遊耳石を溶解する能力を低下させる15)。
半規管には上皮性Ca2+輸送系やVD受容体が存在しており,上皮性Ca2+輸送系の存在により前庭における内リンパのカルシウム濃度を保つことができる。活性型である1,25(OH)2Dは上皮性Ca2+輸送系を上方制御することが報告されている16)17)。そのためVD欠乏によって上皮性Ca2+輸送系が下方制御を起こし耳石の生成と修復障害をきたすことで耳石剥離,耳石溶解能力が低下することが示唆される18)~20)。これらの機序からはVD欠乏がBPPV発症リスクとなる可能性が予想される。近年日本の都市部に住む健康な人においてVD値の低下症例が多く報告されている21)~24)。海外では高緯度の地域の住人や中東,地中海東部の地域でVD低下症例が多いとされ,VD値は日照時間や服装など皮膚露出を含めたライフスタイルが影響するといわれている24)25)。本検討では発作回数に関わらず大多数が不足あるいは欠乏を示した。発作回数が増えるにつれてVDの欠乏の割合が高い傾向であったが,発作回数とVD値に統計学的な有意差はなかった。今回比較した発作が1回の群の採血サンプル数は少なくVD値の低下とBPPV発症・再発リスクの関係については症例数を増やして更に検討する必要があると考える。
BPPV発症・再発リスクは,VD値低下の他,高齢,女性,骨粗鬆症,片頭痛,頭部外傷,総コレステロール高値などが報告されている4)26)27)。本症例ではBPPV初発例・再発例ともに特に女性の症例ではVD値低下を男性と比較し有意に認めた。日本ではVD値は女性に少ない傾向が言われているが24),非BPPV症例のVD値との関連については今後検討を要する。
本研究を契機にBPPV症例と非BPPV症例のVD値との比較,BPPVの再発とVD値・既往歴との関連をVDの投与によるBPPVの再発リスクとの関連性を含めて検討したい。
利益相反に該当する事項はない。