Equilibrium Research
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Ocular Counter-Rolling in Patients with BPPV
Naoharu KitajimaAkemi Sugita-Kitajima
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2025 Volume 84 Issue 2 Pages 57-63

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Translated Abstract

Benign paroxysmal positional vertigo (BPPV) due to peripheral vestibular lesions is the most common type of vertigo encountered in clinical practice. The purpose of this study was to compare the otolith organ function of patients with BPPV with that in healthy volunteers, and evaluate otolith organ dysfunction.

Video-oculography goggles were used to measure ocular counter-rolling (OCR) in 15 patients with BPPV and 21 healthy volunteers. For all subjects, the otolith-ocular function of both ears was tested separately by the measurement of OCR under a 30° head tilt. The R-L side asymmetry ratio for OCR values (%OCRA) was compared with the patients’ OCR values under static conditions. We also performed subjective visual vertical (SVV) testing in both groups of subjects.

The %OCRA differed significantly between patients with BPPV and the healthy volunteers (p < 0.01). However, there was no significant difference in the SVV value between the two groups. In most of patients with BPPV, when the head was tilted toward the healthy ear side, the OCR value tended to become lower.

It has been reported that in patients with utricular organ dysfunction, a head tilt toward the healthy ear side leads to a decrease of the OCR value. In general, BPPV is considered as being caused by detachment of the otolith from the utricular macula. We consider measurement of OCR as a useful testing method to evaluate otolith organ, especially utricular organ function, in patients with BPPV.

 はじめに

良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo: BPPV)は,特定頭位で誘発されるめまい(頭位誘発性めまい)を主徴とし,これに随伴する眼振を特徴とする。BPPVは,1952年,Dix & Hallpikら1)によって耳石器の障害として報告された。さらにSchuknechtによって,耳石器(卵形嚢)から剥離した耳石が後半規管感覚器(クプラ)への付着(クプラ結石:cupulolithiasis)2),Hallらによって後半規管内に生じた浮遊耳石(半規管結石:canalolithiasis)3)が,その病因として報告されている。

耳石器機能検査のひとつの眼球反対回旋(ocular counter-rolling; OCR)は耳石器,主に卵形嚢機能評価に用いられる4)。我々はこれまでにOCRを用いて動揺病患者の耳石器機能について報告してきた5)。今回BPPV症例に対してOCRを施行し,興味深い結果を得たので報告する。

 対象と方法

対象は,当院を受診したBPPV患者15名(53.1 ± 14.9歳;男性:女性=4:11)である。診断には,日本めまい平衡医学会診断基準化委員会による「良性発作性頭位めまい症診療ガイドライン(医師用)」を用い6),患側が不明確な症例やクプラ結石症を除いた,半規管結石症患者のみを検討に用いた。健康成人21名(45.2 ± 15.0歳;男性:女性=9:12)をcontrolとした。両群に対し,初診時,OCRおよび自覚的視性垂直位(subjective visual vertical: SVV)検査を施行した。

OCR検査は,我々がこれまでに報告してきた手技と同様に施行した5)図1)。分銅をつけた糸をつるした分度器を赤外線CCDゴーグルに貼り付けて頭部傾斜角度を計測しながら,被験者頭部を左右30°交互に傾斜させた。2秒程度で傾斜させ,各傾斜位置で10秒から20秒間頭部固定し,その間に生じた眼球回旋を動画記録した。OCR測定は左右1回のみとし,左右傾斜時ともに左眼のみから記録した。測定中は瞬目(まばたき)を控えさせているが,眼球の不快感から瞬目してしまうこともあるため,一方側を測定後は正中位にて30秒以上休憩をとり,不快感が改善したのちに反対側を計測した。順序効果を避けるため,患者が受診した月ごとに傾斜開始の頭位を左右変えて行なった。眼球運動の動画記録後,PC(windows 7/10)にて3次元画像解析をおこなった。画像解析には池田ら7)の開発したアプリケーションを用い,回旋成分の結果のみをExcelに取り込んで統計処理した。

図1  当院におけるOCR計測方法(文献5より引用・改変)

分銅をつけた糸を分度器につなぎ,それを赤外線CCDゴーグルに貼り付けて頭部傾斜角度を測定した。左右ともに,2秒程度で30度傾斜し,10秒間以上,眼球運動を記録した。記録中は瞬目を控えさせた。

図2に健常成人,図3にBPPV患者のOCRデータを示す。左頭部傾斜した場合をleft ear down(LED),右頭部傾斜した場合をright ear down(RED)と表記している。評価には耳石器機能を反映するとされるstatic OCRを用い,LED・RED計測時の最大値を用いて解析した。これを,八代ら8)の報告をもとに,最大OCR左右比(percent OCR asymmetry; %OCRA)を算出して評価した。

図2  健康成人のOCR結果

左右のOCRのうち,Static OCRの最大値を解析に用いた。左頭部傾斜した場合をleft ear down(LED),右頭部傾斜した場合をright ear down(RED)と表記した。

図3  BPPV症例のOCR結果

OCRに左右差を認める。左右それぞれのStatic OCRを測定し,これを解析に用いた。

%OCRA(%)=[|(最大OCR(LED)− 最大OCR(RED))| /(最大OCR(LED)+ 最大OCR(RED))]× 100

SVV検査は独自に開発した検査ソフト(Windows)を用いて行われた9)。頭部を顎台にのせて垂直位に保ち,検査中は部屋を暗くしさらに頭の上から遮光布を被せた (図4)。装置内のモニター上に表示される縦棒線を,左右ランダムに傾いた位置から被験者が垂直と感じる位置に,ジョイパッドを用いてあわせさせる。ジョイパッドの決定ボタンを押すと真の重力の方向からの誤差角度がPCに記録され,これを10回繰り返してその平均値をSVV測定値とした。左方向への傾きを−,右方向の傾きを+とした。このような方法で検査を行った場合,健常人ではSVV値は絶対値で2度以下であり,ほとんどの場合1度以下といわれ10),当院では2度以上を異常値とした。

図4  当院におけるSVV計測方法

頭部を顎台にのせて垂直位に保ち,検査中は部屋を暗くし,さらに頭の上から遮光布を被せた。計測を10回繰り返し,その平均値を測定値とした。左方向への傾きを−,右方向の傾きを+とし,絶対値で2度以上を異常値とした。

統計計算にはStat Mate IV software(Atoms, Japan)を使用し,Mann–Whitney U検定,およびPearson相関係数検定を行ない,p < 0.05を有意差ありとした。本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,治療指針や目的など十分説明し文書による承諾を得た上で行い,利益相反行為の関与なく施行された。なお,本研究は日本医師会倫理審査委員会(R1-12)の承認を受けている。

 結果

表1にBPPV15名の各検査データを示す。BPPV患者と健康成人とで,年齢に有意差を認めなかった。BPPV発症から検査までの日数は26.0 ± 26.0日で,%OCRAとの相関は認めず(r = 0.0992, p = 0.7998),外来初診日からは13.1 ± 15.4日で,同様に相関しなかった(r = 0.0060, p = 0.9877)。

表1 BPPV症例における検査結果

No 年齢 性別 発症から検査までの日数 患側 SVV OCR タイプ
RED LED %OCRA
1 74 f 9 r 1.29 ± 1.65 2.8 0 100.0 HSC
2 47 f 不明 r −0.52 ± 0.35 2 0.1 90.5 HSC
3 39 f 不明 l −1.06 ± 0.52 0.4 2.6 73.3 HSC
4 58 f 不明 l −0.40 ± 0.31 3.1 5.6 28.7 HSC
5 72 f 2 l −0.31 ± 1.02 2.2 3.8 26.7 HSC
6 24 f 5 r −1.85 ± 0.24 4.9 3 24.1 HSC
7 59 f 11 l −1.61 ± 0.30 3.1 4.9 22.5 HSC
8 62 f 48 l −1.11 ± 1.16 7.8 11.1 17.5 HSC
9 36 m 不明 r 0.65 ± 0.65 2.4 11.5 65.5 HSC
10 45 m 不明 l −1.12 ± 0.66 1.5 0.6 42.9 HSC
11 57 m 0 l −1.87 ± 0.56 5 4.9 1.0 HSC
12 78 f 77 l −2.52 ± 0.41 7.1 15.8 38.0 PSC
13 44 f 8 r −0.97 ± 0.50 5.2 4.1 11.8 PSC
14 50 f 29 l 13.4 2.8 65.4 PSC
15 51 m 不明 r −0.92 ± 0.43 4.6 1.6 48.4 PSC

10名にて健側傾斜でのOCR値が低下し,残る5名が患側傾斜で低下した。SVV値は1名を除いて正常値で,OCR値,%OCRAとの相関は得られなかった。

HSC:外側半規管型BPPV,PSC:上半規管型BPPV,UT:卵形嚢,SAC:球形嚢

BPPV患者11名において健側への頭部傾斜でOCR値が低く,残る4名が患側傾斜で低かった。BPPV患者のOCR値は4.9 ± 3.8度,健康成人のOCR値は5.2 ± 3.4度で,両群間に有意差を認めなかった(p = 0.9744)。

健康成人における%OCRAは19.3 ± 12.9,SVV値は0.9 ± 0.6度であった。対してBPPVにおける%OCRAは43.7 ± 25.9,SVV値は1.16 ± 0.63度であり,%OCRAは有意に健康成人と比して高く(P = 0.0103),SVV値はBPPV患者群で2度を超えた1例以外は共に正常域で有意差を認めなかった(p = 0.3421)。%OCRAとSVV値との間に,健康成人(r = −0.2251, p = 0.2904)・BPPV(r = −0.2696, p = 0.3512)ともに,相関を認めなかった。

 考察

今回の検討で,BPPVは健康成人と比して有意に%OCRAが高く,BPPVにおいて耳石器機能の顕著な左右差があることが確認された。一般にBPPVは2~6週間程度で自然治癒することが知られているが11),発症からの期間と%OCRAとは相関せず,全例,眼振を伴う急性期に検査をしていることもあり,今回の検討では自然治癒による影響は少ないと思われた。

これまでにも他の耳石器機能検査を用いて,BPPV症例における卵形嚢障害が報告されている。Sugita-Kitajimaら12)13)は,BPPV症例ではOVARにて耳石器障害,特に卵形嚢障害を認め,同じくNakaharaら14)はoVEMPで異常を示すことを報告している。また,同じ卵形嚢機能を表すとされるSVVにて,Faralliら15)はSVVで結果が患側に偏倚する傾向があることを報告している。今回の我々の検討においては,多くで異常値を示さなかったが,15名中10名で患側に偏倚していた。

OCRは卵形嚢の寄与が大きいとされている4)。古くは,卵形嚢神経の電気刺激でOCRが生じることでそのことが証明され16)17),以降,長らくOCRに関与する耳石器は卵形嚢のみと考えられていたが,1996年にGraafら18)によって球形嚢も関与していることが報告された。神崎ら19)20)によれば,球形嚢は同じ側へ傾斜する際のOCRに主に関与し,卵形嚢は反対側へ傾斜する際のOCRに主に関与するとされる。卵形嚢障害では健側傾斜,球形嚢障害では患側傾斜で低下し,卵形嚢・球形嚢の両者が障害されている場合は,球形嚢障害の影響がより大きく,患側傾斜でOCRが低下する(図520)

図5  耳石器障害とOCRとの関係(文献20より引用・改変)

OCRは卵形嚢障害では健側傾斜,球形嚢障害では患側傾斜で低下し,卵形嚢・球形嚢の両者が障害されている場合は,患側傾斜で低下する。

Otero-Millanら21)は,OCRが前庭機能障害の程度に従って有意に低下し,oVEMPの結果と有意に相関することを報告している。今回の検討において,健常成人とBPPV症例とのOCR値の比較で,わずかにBPPV症例が下回ったものの,有意差を得なかった。SVVの結果もまた,両群間に有意差を得ず,これはBPPVが他の前庭機能障害を生じる疾患と比して,耳石器機能障害,特に卵形嚢機能障害が小さいことを表している。しかしながら%OCRAではBPPV症例が有意に高く,この結果は,BPPVでは卵形嚢機能の左右比が大きいことを意味する。今回,眼振を伴うBPPV発作期の症例に的をしぼって検討を行なったが,この証明にはBPPV治癒後に再度OCR測定を行なう必要があるだろう。また,表1に示すように,BPPV症例の多くで健側OCR値の低下を認める。卵形嚢機能障害は軽度であっても,相対的な左右差の存在が母地となり,外傷や更年期などの要因が引き金となってBPPVが発症するのかもしれない。少数ながら患測OCR値の低下を認める症例もおり,これらの場合,球形嚢機能にもまた同様に障害や左右差が生じている可能性がある。Kanzakiら20)は,30度傾斜で5度以上,45度傾斜で4度以上のOCR値の左右差があれば耳石器機能障害が疑わしいと述べている。当院でも3例,5度以上の左右差を認めており,それらは耳石器機能障害に至っている可能性がある。BPPV発症と耳石器機能障害の関連性を証明するには,他の耳石器機能検査であるo,c-VEMPやHead tilt-SVVなどを併用し,検討していく必要がある。

一般に,OCR値は頭部の傾斜角度25度~50度で最大となり,その大きさは4.75度~7.75度であるとされ,健康成人でも左右差を示すとされる22)。今回の我々の検討でも,BPPV患者の患側OCR値は平均4.9 ± 3.8度と概ね当てはまっているが,その範囲を超える症例も認める。OCR値の低値は卵形嚢機能障害のためと考えられるが,高値を示すことは説明がつきかねる。考え得る原因として,頭部傾斜に伴う半規管刺激による影響(dynamic OCR)のコンタミネーションが考えられる。八代ら8)は,Dynamic OCRを排除するため,頭位傾斜速度を2度/秒と極めて緩徐に行なっている。対して,Diamondら23)は,30度/secでも半規管への影響はないと報告している。今回の検討を行なうにあたって,筆者らは事前検証を行なった。頸部傾斜速度を30度/秒~2度/秒まで変えて複数回OCR記録を行ない,15度/秒以下の傾斜速度で概ね同じstatic OCRを記録でき,現在の記録方法(30度/2秒)を決定した。しかしながら,外来診療中,徒手的に短時間で行なっているため,傾斜速度がわずかに早まってしまった可能性も否定できない。これらの手技的な問題の解決や,より精度の高い眼球運動解析アルゴリズムの開発,そして症例の集積が必要とされる。

 結語

OCRを用いてBPPV患者の耳石器機能について検討した。今回用いた画像解析を用いたOCR(video-OCR)は,先に挙げた耳石器機能検査と比べて簡便で場所も取らず,耳石器障害,特に卵形嚢障害,BPPV患者についてはその左右差の確認に有用と思われる。しかしながら,患者の眼振や瞬目の影響を受けやすいなどの問題点も多い。より多くの症例の集積と,画像解析アルゴリズムのさらなる精度向上が今後の課題となるだろう。

本論文の要旨は第79回日本めまい平衡医学会総会・学術講演会にて発表した。

利益相反に該当する事項はない。

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