Equilibrium Research
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A Case in Which Wideband Tympanometry Was Useful for the Diagnosis of Superior Semicircular Canal Fissure Syndrome
Shoji KanedaFumiyuki GotoKoichiro WasanoAi YamamotoKenji Okami
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2025 Volume 84 Issue 3 Pages 135-140

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Translated Abstract

Superior semicircular canal fissure syndrome (SCDS) was first reported by Minor in 1998. The main complaint in patients with SCDS is chronic vertigo. Many cases remain undiagnosed. Increasing amplitude in the oVEMP test is a useful finding.

Wideband tympanometry (WBT) exhibits absorbance in the frequency range of 226 to 8,000 Hz using a broadband click sound and is said to be useful for the diagnosis of the otitis media with effusion.

In this report, we describe a case in which WBT was useful for the diagnosis of SCD.

The patient was a 39-year-old woman who presented with a history of chronic vertigo. She had been suspected as having Meniere’s disease since she was 20 years old. She reported suffering from dizziness when descending stairs and running, a floating sensation every day, and sometimes rotational dizziness. Both cVEMP and oVEMP showed increasing amplitude on the left, and vHIT showed abnormalities in the left anterior semicircular canal. WBT showed findings of SCD mark. CT showed a superior semicircular canal fissure, confirming the diagnosis of SCD.

CT is necessary for the diagnosis of SCDS. However, presence of a canal fissure has been reported in 12% of normal patients. Therefore, other functional tests would be needed for the diagnosis of SCDS in addition to CT. WBT may be a useful functional test for the diagnosis of SCD.

 はじめに

上半規管裂隙症候群(以下superior canal dehiscence syndrome:SCDS)は1998年にMinorによって報告された疾患である1)。半規管を覆う頭蓋骨が欠損するために圧変化(咳,くしゃみ,怒責)や強大音により誘発されるめまい,自声強聴,耳閉感,耳鳴なとの臨床症状を呈する病態である2)。発症機序は,いくつか提唱されている説は存在するも依然として不明のままではある。機能検査として,oVEMPや標準純音聴力検査の有用性が報告されている3)4)。しかし,慢性めまいを主訴とし,診断がつかずに治療に結びつかないままとなっている症例も多く存在すると考えられる。

ワイドバンドティンパノメトリ(Wideband tympanometry: WBT)はアブゾーバンスを広帯域クリック音により226~8,000 Hzについて測定,表示するもので,滲出性中耳炎を高い精度で診断できると近年報告されている新しい検査法である5)。今回我々はこのWBTを用いて,SCDの診断に有効であった症例を経験したので報告する。

 症例

症例は39歳の女性,主訴は慢性めまいで,20歳頃よりメニエール病疑いと言われていた。階段を降りる際,走る時にめまいがあり,毎日浮遊感があり,時に回転性めまいもあった。また左耳鳴と耳閉感を訴えることもあった。めまいの質問紙であるDHI(Dizziness Handicap Inventory)は28点であり,不安,うつの質問紙であるHADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)はAnxietyが7点,Depressionが1であった。赤外線CCDカメラ下で瘻孔症状検査を行ったところ患側耳の陽圧刺激で健側向き水平回旋混合性眼振が誘発されめまい感を訴えた(自覚的,他覚的瘻孔症状陽性)。また巨大音でめまい誘発の自覚はあった(自覚的Tullio現象陽性)。標準純音聴力検査では右の低音域の骨導閾値の軽度上昇と,左の低音域の気導閾値の上昇を認めた(図1)。cVEMP(cervical Vestibular Evoked Myogenic Potential),oVEMP(ocular Vestibular Evoked Myogenic Potential)(MEB-9404:日本光電社)では,刺激強度105dBSPLで行い,cVEMP500ではCA(Corrected amplitude:補正振幅値)値が左3.55,右2.23,AR(asymmetry ratio)23%であり,正常範囲内ではあるが,わずかに左増大傾向を認めた。oVEMP500では振幅絶対値が左63.39[μV],右6.04[μV]と左振幅の増大を認め(図2),vHIT(video head impulse test)(EyeSeeCam:Interacoustics社)では左上半規管に異常を認めた(図3)。WBT(Titan:Interacoustics社)ではSCDマークの所見を認めた(図4)。左SCDSを疑いCTを撮影したところ,左上半規管の頭蓋底の菲薄化を認めた(図5)。手術治療を勧めるも,手術希望はなく,経過観察となった。家庭の事情もあり,現在は通院終了となり,有事再診となっている。

図1  標準純音聴力検査

標準純音聴力検査では右低音域の軽度感音難聴と左低音域の伝音難聴を認めた。

図2  VEMP所見

cVEMPとoVEMPともに,左の振幅の増大を認めた。

図3  vHIT所見

左上半規管にcatch up saccade(CUS)を認め,機能低下が疑われた。

図4  WBT所見

両側1 KHz付近にアブソーバンスでpeakを認め,アブソーバンス差でSCDマークを認めた。(size: minimum notch size, depth: minimum notch depth, range: notch frequency range)

図5  CT所見(解像度:512 × 512,スライス幅:0.6 mm)

左上半規管に菲薄化を認めた(矢印)(a, b)。右上半規管には骨欠損を認めなかった(c, d)。(a,c:軸位断,b,d:冠状断)

 考察

長期間診断が未確定であった慢性めまい症例に対して外来で施行したWBTによる特徴的所見によりSCDSの診断に有用であった症例を呈示した。SCDS診断にWBTが有用である可能性がある。

WBTは本邦では2015年から市販されているが,周波数帯を広げるティンパノメトリというコンセプトは1970代より報告されていた6)。Liuらによって2008年に報告された現行の方法は非常に簡便であり,近年普及している方法である7)

従来のティンパノメトリではインピーダンスを測定する。インピーダンスとは,外耳道に入力された音が中耳から内耳に伝達される際の抵抗を,主に等価容積(cc)で数値化したもので,インピーダンスが大きいと外耳道内に反射されて残る入力音のエネルギーが大きくなる。ティンパノメトリでは,外耳道を密閉して外耳道内の圧を変化させながらインピーダンス測定を行い,横軸を外耳道内の圧(mmH2O)としたティンパノグラムを作成し,滲出性中耳炎や中耳疾患の診断に欠かせない検査となっている。ティンパノメトリでは一般に226 Hzのプローブ音(新生児では1000 Hz)が使用されている8)。しかし,高周波数での中耳特性をみるためにはインピーダンス測定では誤差が大きく生じること,また高周波数域では音の反射率を示すリフレクタンス(大きさと位相の複合量)を測定し,アブソーバンス(リフレクタンスの逆数;中耳に吸収される音響エネルギー)として評価することで正確な測定が可能となることが知られていた。WBTでは外耳道に装着したプローブから広帯域周波数の音エネルギーを発信させ,鼓膜で反射して戻ってくるエネルギー(reflected power:反射エネルギー)を測定することで,power reflectance(反射エネルギー率)を算出し,幅広い周波数に対する鼓膜,中耳の音響物理学的特性を測定する検査法が用いられている8)

このWBTを用いてSCDSを評価したMarchantらの報告によると,CTでSCDSと診断した32例,40耳に対して行い,1 kHz付近のnotchがSCDSと関連があるとし,notch frequency rangeを585–1876 Hz,minimum notch sizeを0.097,minimum notch depthを0.05とすると感度80〜93%,特異度69〜72%,陰性的中率84〜93%,陽性的中率67%であったと報告している9)

このNotchの発生機序は,正常耳との比較から,上半規管の裂隙によりSCDS耳の耳小骨の可動性を減少させている内耳の音響インピーダンスが低下し,アブミ骨の可動性が増すことにより生じると言われている10)

我々の症例でも,notch frequency rangeとminimum notch sizeとminimum notch depthで定義された1 kHzのnotchが見られた。このnotchは内耳の骨欠損と耳小骨の動きに影響され,発生すると考えられている。耳小骨の共鳴を増大させる効果がある,蝸牛の音の減衰作用が減少することにより発生する可能性があると報告されている9)。しかし我々の症例では両側耳ともこの定義されたnotchが見られている。原因としてはこの特異度がやや低いことが考えられる。疑陽性が一定の確率で含まれるので非SCDS側でも異常検出される可能性があることは常に考慮すべきである。

剖検例の検討では,上半規管の骨欠損は約0.5%,骨の菲薄化は約1.4%とする報告がある11)。実際の患者数とは乖離が見られ,無症状で検査されない症例が多数いると考えられる。要因としては先天性の異常,胎生期の上半規管の骨形成不全,加齢(血圧,頭蓋内圧,骨粗鬆症)の後天的要因,先天的要因にプラスして2次的に骨折等が生じやすくなる12)~14)などの報告があるが,はっきりしないのが現状である。

SCDSの症状としては,バルサルバ手技によりめまい・眼振が惹起される瘻孔症状15)や,巨大音聴取時にめまいを感じる現象であるTulio現象が知られている15)。診断にはCTが有効であることは周知の事実だが16),画像上裂隙があったとしてめまいの原因であるかの確定にはならず,機能検査の必要性も指摘されている。cVEMPにおける反応閾値の低下やoVEMPにおける振幅の増大が特徴的であり,特にoVEMPの振幅増大所見は検査の感度・特異度ともに高いとされている17)。低音域を中心とした難聴を呈し,気骨導差を認めることが特徴である16)。WBTにおけるSCDSの評価はまだごく少数である。新しい検査であるWBTを用いることがSCDSの補助診断になる可能性がある。

 まとめ

SCDS疑い症例に対し,WBTで評価を行った。1K Hz付近のnotchが観察され,WBTはSCDSの補助診断となる可能性がある。

利益相反に該当する事項はない。

文献
 
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