2025 Volume 84 Issue 4 Pages 219-225
To differentiate dizziness of central origin, it is necessary to focus on neurological signs and symptoms other than dizziness. However, the pathology of dizziness cannot be determined from neurological signs/symptoms other than dizziness.
Like peripheral dizziness, central dizziness is often caused by vestibular imbalance, more precisely, a disruption of the central vestibular pathway, which includes not only the horizontal, but also vertical and rotational directions. Vestibular imbalance is reflected in eye deviation and nystagmus. Therefore, even in cases of central dizziness, the pathology causing the dizziness can be identified by using Frenzel glasses to evaluate eye deviation and nystagmus. Actually, in clinical practice, it is much more useful to use Frenzel goggles to correctly evaluate vestibular imbalance, the main cause of dizziness, rather than engage in a systematic differential diagnosis of dizziness in a broad sense, including circulatory insufficiency and anemia.
When differentiating central dizziness, it is not sufficient to look for neurological signs/symptoms other than dizziness. It is also necessary to identify the underlying pathology of the dizziness using Frenzel goggles.
めまいは極めて一般的な訴えであり,患者数も多い.しかしながら,めまいをわかり難いと感じている医師が多いのは何故なのであろうか.
めまい診療では,最初に脳卒中などが原因で生じる中枢性めまいを鑑別しておく必要がある.そして,通常中枢性めまいの鑑別は,「めまい以外の神経症候を見つけ出す」ことにより行う.もちろん,めまい以外の神経症候を探すことは,中枢性めまいの鑑別の王道であり,全てのめまい患者に行わなければならない.しかしながら,いくらめまい以外の神経症候を見つけ出しても,めまいを生じさせている病態の理解には結び付かない.もし,めまい以外の神経症候という「傍証」ばかりを取り沙汰し,肝心のめまい自体の病態を把握しようとしないのであれば,中枢性めまいに限らず,全てのめまいがわかり難いのも当然である.
実は,中枢性めまいも,末梢性めまいと同様に,ほとんどが前庭の不均衡に起因する(前庭感覚情報の中枢伝達経路の障害).有難いことに前庭の不均衡は,ほぼ必ず眼球偏倚や眼振に反映される.従って,中枢性めまいにおいても,Frenzel眼鏡を用い,眼球偏倚や眼振の評価をすれば,めまいを引き起こしている病態は比較的簡単に把握できる.
前庭系は,安静時にも一定の自発放電をしている.この前庭系(の自発放電)に何らかの不均衡が生じると,眼球が偏倚して自発眼振が出現する.半規管は,頭部の回転加速度(角加速度)を感知する器官であり,互いに直行する3つの半規管,即ち前半規管,外側半規管,後半規管から成る.半規管眼反射は,頭部の回転に対し,眼球を反対方向に動かすことで,網膜像のブレを防ぐ働きを持つ.このため,頭部の動きに対する半規管内の内リンパの動き(慣性により頭部の動きと反対方向に流れる)がそれぞれの半規管眼反射の眼球の動きと考えると理解しやすい(図1A,B).この内リンパの動きを反映した眼球の運動を正面から見ると,前半規管眼反射は眼球の対側回旋偏倚と上方偏倚を,外側半規管眼反射は眼球の対側偏倚を,そして後半規管眼反射は眼球の対側回旋偏倚と下方偏倚を担うことになる(図1C).それぞれの半規管眼反射による眼球偏倚を理解しておくことは,末梢のみならず,中枢性の眼振の理解に不可欠である.

A.垂直方向から見た半規管の解剖
B.垂直方向から見た各半規管刺激による眼球運動
C.正面方向から見た各半規管刺激による眼球運動のベクトル
AC=前半規管,LC=外側半規管,PC=後半規管.
水平方向の半規管眼反射由来の眼球運動は,外側半規管眼反射が担う(図1C).外側半規管からの信号は同側前庭神経核に入り,そこから交差して反対側の外転神経核に至る.この経路は,眼球を前庭神経核と反対側に偏倚させる作用を持つ(図2A).従って,内耳や延髄(前庭神経核)の障害では,眼球は患側に偏倚し,健側向き眼振が生じる(図2B).延髄の前庭神経核は,同側の小脳から抑制制御を受けている.従って,小脳の障害では,前庭神経核が脱抑制されるため,延髄障害と逆に眼球は健側に偏倚し,患側向き眼振が生じる(図2C).

A.水平方向の半規管眼反射経路のシェーマ.外側半規管眼反射は眼球を対側に偏倚させる作用を持つ.
B.内耳や延髄の前庭神経核が直接障害されると,眼球は患側に偏倚し,健側向き眼振が出現する.
C.延髄の前庭神経核は小脳により抑制制御されている.従って,小脳が障害されると前庭神経核が脱抑制されるため,眼球は逆に健側に偏倚し,患側向き眼振が出現する.
VN=前庭神経核,VI=外転神経核,MLF=内側縦束,III=動眼神経核.
回旋方向の半規管眼反射由来の眼球運動は,前半規管眼反射と後半規管眼反射が担う(図1C).前半規管からの信号も後半規管からの信号も,回旋成分に関しては駆動する方向は同じであり,眼球を反対方向に回旋させる作用を持つ.前半規管および後半規管からの信号は同側の前庭神経核に入り,そこから交差して主として内側縦束(MLF)を上行し,反対側の滑車神経核や動眼神経核に至る(図3A).従って,延髄(前庭神経核)の病変では,眼球は患側に回旋偏倚して健側向き回旋性眼振が生じ,交差後の橋や中脳の病変では,眼球は健側に回旋偏して患側向き回旋性眼振が生じる(図3B).

A.回旋および垂直方向の半規管眼反射経路のシェーマ.一側の末梢前庭および前庭神経核は,眼球を反対方向に回旋させる作用を持つ.この作用は,前半規管眼反射および後半規管眼反射に由来する.前半規管眼反射は眼球の上転方向(上眼瞼方向)への偏倚作用,後半規管眼反射には眼球の下転方向(下眼瞼方向)への偏倚作用も併せ持つ.垂直/回旋成分の経路は前庭神経核を出た後で交叉し,内側縦束などを上行して対側の滑車神経核や動眼神経核に至る.
B.末梢前庭から延髄(前庭神経核)までの病変では,眼球は患側に回旋偏倚し,健側向き回旋性眼振が出現する.一方,前庭神経核を出て交差した後の橋から中脳までの病変では,眼球は健側に回旋偏倚し,患側向き回旋性眼振が出現する.
IR=下直筋,cSR=対側上直筋,IO=下斜筋,cSO=対側上斜筋,VTT=腹側被蓋路,MLF=内側縦束,III=動眼神経核,IV=滑車神経核,VN=前庭神経核.
垂直方向の半規管眼反射由来の眼球運動も,回旋成分と同様前半規管眼反射と後半規管眼反射が担う(図1C).ただし,上転方向(上眼瞼向き)と下転方向(下眼瞼向き)は前半規管と後半規管で異なり,上転方向への偏倚は前半規管に由来し,下転方向への偏倚は後半規管に由来する(図3A).
垂直方向の半規管眼反射の小脳の関与は,前半規管と後半規管で全く異なり,前半規管眼反射は小脳からの抑制制御を受けているが,後半規管眼反射は小脳からの抑制を受けていない(図4A).ちなみに前半規管眼反射を抑制制御している小脳は,さらに延髄や橋による制御を受けている(図4A)1).このため,中脳から橋上部の病変により前半規管眼反射経路が両側性に障害されたり,延髄病変により前半規管眼反射経路が過抑制されたりすると,眼球は下眼瞼方向に偏倚し,上眼瞼向き眼振が出現する(図4B).一方,橋病変により後半規管眼反射経路が直接障害されたり2),小脳病変により前半規管眼反射経路が脱抑制されたりすると(後半規管眼反射経路は小脳抑制がないため小脳病変でも脱抑制されない),眼球は上眼瞼方向に偏倚し,下眼瞼向き眼振が生じる(図4C).

A.眼球上転作用を持つ前半規管眼反射は,小脳による抑制制御を受けており,小脳はさらに延髄や橋による制御を受けていると考えられている.一方,眼球下転作用を持つ後半規管眼反射は,小脳による抑制制御を受けていない.
B.前半規管眼反射経路の直接障害(中脳/橋病変)や過抑制(延髄病変)では,眼球は下眼瞼方向に偏倚し,上眼瞼向き眼振が出現する.
C.後半規管眼反射経路の直接障害(橋MLF病変)や前半規管眼反射の脱抑制(小脳病変)では,眼球は上眼瞼方向に偏倚し,下眼瞼向き眼振が生じる.
自発眼振を観察する際は,末梢前庭障害由来の眼振のみならず,中枢前庭障害由来の眼振においても,Frenzel眼鏡を用いたほうが良い.半規管眼反射の不均衡を念頭に置いた中枢性及び末梢性の自発眼振の考え方を図5にまとめた.

他覚的に捉えられる指標があるという点では,めまいは,痛みやしびれといった他の感覚異常よりもわかりやすいと言えよう.循環不全や貧血まで網羅する広い意味でのめまいの系統的な鑑別法も重要ではあるが,めまいの中核をなす前庭不均衡を,Frenzel眼鏡を用いて正しく評価できるようになることの方が,めまいの苦手意識の払拭にはよほど役立つ.中枢性めまいの鑑別を行う際には,王道たるめまい以外の神経症候を探すのみにとどまらず,めまいの病態の把握にまで診察を進めることを,是非ともお勧めしたい.病態把握ができれば,めまいは急にわかり易いものになり,また学問的興味の対象にもなる.
利益相反に該当する事項はない。