2026 Volume 85 Issue 4 Pages 199-203
Advances in vestibular function testing, particularly the development of vestibular evoked myogenic potentials (VEMP), have enabled assessment of the otolith organ function in clinical settings. Although findings from otolith organ function tests are not currently incorporated into the diagnostic criteria in the International Classification of Vestibular Disorders, recent studies have suggested that physiological characteristics derived from these tests may reflect the pathophysiology of certain vestibular disorders. In the affected ear of patients with Meniere’s disease, a tuning shift is observed in which the optimal VEMP frequency shifts toward higher frequencies, and this phenomenon has been shown to be associated with endolymphatic hydrops. In vestibular migraine, the rate of oVEMP abnormalities is significantly higher in definitively diagnosed cases than in probable cases, suggesting that dysfunction of the utriculo-ocular reflex pathway may become more apparent as the clinical phenotype becomes more clearly expressed. Furthermore, selective dysfunction of the otolith organs despite normal semicircular canal function has attracted increasing attention. This condition has been categorized as isolated otolith dysfunction (iOD), and efforts are underway to establish diagnostic criteria. Definite iOD is defined by the coexistence of laboratory evidence of abnormal otolith organ function and preserved semicircular canal function, together with symptoms suggestive of otolith organ dysfunction, including “non-spinning,” “translation,” “tilt,” “floating,” and “flipping-over”. Studies have also shown that among patients with abnormal otolith organ function, preserved semicircular canal function, no sensorineural hearing loss, and no established vestibular diagnosis, recurrent rotatory vertigo is the most common clinical presentation.
前庭機能検査の発展によって,半規管および耳石器を含めた前庭終末器の全機能を包括的に評価することが可能となった。特に前庭誘発筋電位(vestibular evoked myogenic potential, VEMP)の開発・臨床応用は,実臨床における耳石器機能評価に大きな変革をもたらした。これらの普及に伴い,耳石器障害の臨床的特徴に関する知見が蓄積されている。
本稿では,現在のめまい疾患の国際的な診断基準における耳石器検査の位置づけを整理するとともに,主要なめまい疾患の病態と耳石器機能との関係,および,耳石器障害の臨床像について概説する。
国際的なめまい疾患分類であるInternational Classification of Vestibular Disorders(ICVD)は,Bárány Societyにより策定された前庭疾患の分類体系であり,各疾患の診断基準はコンセンサス文書として公表されている。これらのうち,前庭機能検査の異常が診断基準の項目として組み込まれているのは,急性一側前庭障害(Acute Unilateral Vestibulopathy, AUVP)/前庭神経炎(Vestibular Neuritis,VN),両側前庭障害(Bilateral Vestibulopathy, BVP),加齢性前庭障害(Presbyvestibulopathy, PVP)の3疾患である1)~3)。しかし,現時点の基準に含まれる検査は温度刺激検査やhead impulse test(HIT)などの半規管機能検査のみであり(表1),主に球形嚢の機能を反映する前庭誘発頸筋電位(Cervical VEMP, cVEMP),主に卵形嚢の機能を反映する前庭誘発眼筋電位(Ocular VEMP, oVEMP)といった耳石器機能検査の異常は(図1),診断基準に組み込まれていない。この背景には,耳石器機能検査の標準化が半規管機能検査に比べて十分でないという指摘がある3)。
| 急性一側前庭障害/前庭神経炎 | 両側前庭障害 | 加齢性前庭障害 | ||
|---|---|---|---|---|
| 温度刺激検査 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 回転検査 | 〇 | 〇 | ||
| HIT | サーチコイル | 〇 | ||
| ビデオ(vHIT) | 〇 | 〇 | 〇 | |
| ベッドサイド(bHIT) | △ | |||
〇:含まれている,△:経験豊富な検者が眼振とは明らかに異なる大きな振幅のサッケードを観察した場合,VOR 機能低下の明確な臨床的証拠とみなす。ICVD = International Classification of Vestibular Disorders,HIT = head impulse test,vHIT = video HIT,bHIT = bedside HIT

cVEMPは,主として球形嚢から下前庭神経を介して前庭神経核に入力され,同側の内側前庭脊髄路を下行する抑制性経路を介して胸鎖乳突筋活動が抑制されることにより記録される。oVEMPは,主として卵形嚢から上前庭神経を介して前庭神経核に入力され,脳幹内で交叉した後,対側の動眼神経核を介して対側の下斜筋へ伝達され,その筋電位が記録される。cVEMP = cervical vestibular evoked myogenic potential,oVEMP = ocular vestibular evoked myogenic potential.
ICVDの診断基準において,耳石器機能検査は組み込まれてはいないのが現状であるが,近年,耳石器機能検査から得られる生理学的特性が疾患の病態を反映するという報告がなされている。
音刺激を用いたVEMPは,健常者において500 Hz近傍が最も有効な刺激周波数とされているが,メニエール病の患側耳では,この最適周波数が高周波側にシフトするtuning shiftが認められる(図2)4)5)。このtuning shiftについては,近年,システマティックレビュー・メタアナリシスが報告されており6),1000 Hzの振幅を500 Hzの振幅で除したInter-frequency amplitude ratioは,メニエール病の患側耳において,同一患者の健側耳および健常対照群と比較して,cVEMPおよびoVEMPのいずれにおいても有意に高値を示した。一方,健側耳と健常対照群の間には,有意差は認めなかった。Tuning shiftと内リンパ水腫との関連については,内耳造影MRIによる画像診断との比較研究が行われている。メニエール病患側耳については,oVEMPのtuning shiftは前庭内リンパ水腫および蝸牛内リンパ水腫と関連し,cVEMPのtuning shiftは蝸牛内リンパ水腫と関連することが報告されている7)。一方,健側耳においては,oVEMPおよびcVEMPのいずれにおいても,蝸牛内リンパ水腫および前庭内リンパ水腫との明らかな関連は認められていない。

(A)500 Hzショートトーンバースト刺激を用いた気導cVEMP。左耳刺激にて無反応である。(B)1 kHzショートトーンバースト刺激を用いた気導cVEMP。両耳刺激で反応を認める。cVEMP = cervical vestibular evoked myogenic potential,oVEMP = ocular vestibular evoked myogenic potential,SCM = sternocleidomastoid muscle(胸鎖乳突筋),EMG = electromyography(背景筋電図),Stim. = stimulation.
前庭性片頭痛では,前庭機能検査異常がしばしば認められるものの,ICVDにおける前庭性片頭痛の診断基準には前庭機能検査所見は含まれていない。その理由として,現時点では診断指標として十分な特異性を有していないことが挙げられている8)。一方,前庭性片頭痛と前庭性片頭痛疑いとの間で前庭機能検査所見を比較した検討では,温度刺激検査,video head impulse test(vHIT),cVEMP,oVEMPのうち,oVEMPにおいて前庭性片頭痛群が前庭性片頭痛疑い群よりも有意に異常率が高かった9)。前庭性片頭痛と前庭性片頭痛疑いは同一スペクトラム上の病態と考えられているが,前者は診断基準を構成する複数項目をすべて満たすのに対し,後者はその一部のみを満たす。したがって,前庭性片頭痛群においてoVEMPの異常率が高かったことは,病態の進展あるいは表現型の明瞭化に伴って,卵形嚢眼反射系の機能異常がより顕在化する可能性を示唆している。
近年の前庭機能検査の発展により,半規管機能が正常でありながら,耳石器(卵形嚢および球形嚢)に選択的な障害を認める症例が注目されている。このような病態は,isolated Otolith Dysfunction(iOD)として整理され,診断基準の確立に向けた議論が進められている10)。iODの診断において最も重要な点は,客観的な検査による耳石器機能障害を証明し,耳石器の生理的役割を反映した特有の症状(並進感や傾斜感など)を併せ持つかどうかを確認することにある。最新の提案(表2)では,VEMPによる耳石器機能障害を証明し,さらに温度刺激検査およびvHITによって水平半規管および垂直半規管を含むすべての半規管機能が正常であることが,確定診断(Definite iOD)の必須条件とされている10)。一方,耳石器機能検査異常または特徴的症状のいずれか一方のみを満たす場合は,疑い例(Probable iOD)として分類される。病因に基づくと,原因が明らかでない特発性と,メニエール病や前庭性片頭痛などの既存の前庭疾患に続発して生じる二次性に分類される。二次性iODでは,診断に際して背景疾患が活動期にないことが前提条件とされている。また,iODとPersistent postural-perceptual dizziness(PPPD)との関連も注目されている。iODはPPPDの先行疾患として,前庭神経炎に次いで高頻度であったことが報告されており,耳石器機能障害が慢性的な姿勢知覚異常の形成に関与する可能性が示唆されている11)。
| 診断項目 | 内容 |
|---|---|
| A.客観的検査所見 | 耳石器障害を示すが,半規管機能は正常である客観的所見 |
| 1.cVEMP および/または oVEMP 検査によって耳石器障害が証明されていること。 | |
| 2.温度刺激検査および vHIT(すべての垂直および水平半規管)の結果が正常であること。 | |
| B.臨床症状 | 耳石器障害を示唆する症状 |
| 非回転性,並進感,傾斜感,浮遊感,またはひっくり返るような感覚。 | |
| C.除外規定 | 他の疾患や障害によって説明がつかないこと。 |
cVEMP = cervical vestibular evoked myogenic potential,oVEMP = ocular vestibular evoked myogenic potential,vHIT = video head impulse test,Suh ら(参考文献10)をもとに改変・翻訳(CC BY-NC)
一方,温度刺激検査が正常であり,vHITにおいてすべての半規管機能が正常で,かつcVEMPまたはoVEMPの少なくともいずれかに異常を認めた症例を対象とした検討がある。このうち,既存のめまい疾患に該当せず,かつ感音難聴を伴わない症例に限定した解析では,めまい症状の性状として回転性めまいを呈する症例が54%と最多であった。一方で,傾斜感,浮遊感,ひっくり返るような感覚といった耳石器障害を疑わせる症状を呈した症例は21%であったことが報告されている12)。すなわち,耳石器に選択的な機能障害が存在しても,その臨床症状は必ずしも耳石器の生理的役割から想定される症状に限られないことが示唆される。
本稿で概説したように,VEMPを中心とした耳石器機能検査は,主要なめまい疾患の病態理解やiODの臨床像の把握において重要な役割を果たしつつある。しかし,現行のICVDにおける耳石器機能検査の位置づけは限定的であり,今後は検査法のさらなる普及とエビデンスの蓄積を通じて,その臨床的意義を整理していく必要がある。
また,VEMPの周波数特性に着目した評価は,耳石器障害の病態理解を深める可能性があり,今後さらなる症例の蓄積が望まれる。さらに,フロセミド負荷VEMPなどの負荷試験を組み合わせることで,内リンパ水腫に伴う耳石器機能変化を機能的に評価し,病態理解の深化につながる可能性がある。
本論文の要旨は第84回日本めまい平衡医学会総会・学術講演会(2025年12月,横浜)にて発表した。
利益相反に該当する事項はない。