Japan Journal of Food Engineering
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Implementation of Unfrozen Preservation Technology Using Some Natural Extracts with Supercooling-promoting Activity
Hidehisa KAWAHARAKoichi OISHIHisatoshi KAWAMOTO
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2024 Volume 25 Issue 1 Pages 9-14

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Abstract

耐凍性を獲得のために,生物は様々な氷結晶制御物質を生産している.その氷結晶制御物質には,異物で起きる不均質核形成を阻害する過冷却促進物質と微小な氷結晶の成長を抑制する氷再結晶化抑制物質などがある.我々は,食品加工生産時に産生される未利用資源から過冷却促進活性を有する複数のエキスの製造に成功した.それらエキスのうち,最も活性が高いエキスはコーヒー粕エキスであった.さらに,食品加工で生成されるメラノイジン由来の同活性も見出した.エキスの実装化として,果実や野菜の未凍結保存技術の確立を試みた.イチジクの圃場散布により,収穫したイチジクは,-2°C下での15日間保存で,未凍結状態となり,小売り限界が5日間から15日間に延長された.さらに,レタス水耕栽培において,コーヒー粕エキスと味噌エキスの混合液を吸収させると,収穫したレタスは0°C以下で2週間ほど未凍結保存できることに成功した.

Translated Abstract

In order to acquire frost resistance, various organisms produce various ice crystal-controlling materials. Ice crystal-controlling materials include the supercooling-facilitating materials that inhibit heterogeneous nucleation caused by foreign materials, and ice recrystallization suppressing materials that suppress the growth of minute ice crystals in water. We have successfully produced multiple extracts with supercooling-facilitating activity from unused resources produced during food processing production. Among these extracts, the extract with the highest activity was coffee refuse extract. Furthermore, they also discovered the same activity derived from melanoidin, which is produced during food processing and cooking. As part of the implementation of extracts, we attempted to establish an unfrozen preservation technology for fruits and vegetables. Through field spraying of figs, harvested figs become unfrozen after being stored at -2°C for 15 days, extending the retail restrictions from 5 days to 15 days. Furthermore, by absorbing a mixture of coffee refuse extract and miso extract during hydroponic lettuce cultivation, the harvested lettuce could be stored unfrozen at temperatures below 0°C for about two weeks.

1. 緒言

生物によって,低温環境下として認識する温度域が異なるが,年間を通してこの低温域に一度は晒される地域は,現地球上でもかなりの広範囲である.哺乳類のような恒温性動物は体温が一定であるが,変温性動物は,環境の温度変化によって,体温も変化し,その変化に対応した体内応答を起こしている[1-4].

この低温環境下のうち,さらに0°C以下での凍結する状態は,生物にとって死活問題である.多くの生物は,この凍結から身を守るために,様々な適応機構を進化の過程で獲得している[1-3].越冬する昆虫の幼虫などは,細胞内に糖やポリオールを蓄積し,体内の体液を凝固点降下によって,未凍結の状態の温度域を拡大し,耐凍性を獲得している[4].この戦略は,原核生物である細菌から植物(例えば,ニンジンなど),昆虫までもっており,生物にとっては普遍的であると言っても過言ではない.一方,細胞外凍結による氷結晶形成によって起きる細胞破壊は生物にとっては脅威である.この細胞外凍結を回避する戦略として,植物の細胞外のアポプラスト画分に分泌される不凍タンパク質などがある[1-4].この不凍タンパク質以外の氷結晶制御物質としては,氷核タンパク質,過冷却促進物質,不凍多糖(氷再結晶化抑制物質)などであり,これらの物質は,多くの生物種よりすでに発見され,その構造および機能が明らかにされている[1-4].

1.1 氷結晶制御物質とは

自然界の液体の水が氷結晶の固体となる過程は,まず不均質核形成とよばれる水以外の異物(水溶液中の無機物,ほこり,有機物)が氷核として作用することである.Fig. 1に示すように,この無機物のような異物となる不均質核形成を促進する天然物質は,霜害を引き起こす氷核形成細菌が細胞表面に表面に形成する瘤状のものは氷核タンパク質である.このタンパク質は疎水性タンパク質で,立体構造が氷結晶の形に類似し,水に溶けなく,糖および脂質が結合した複合物質である[5].また,一旦形成された氷結晶は,凝固点降下がない場合では,0°C付近で氷結晶が成長する.氷形成時に氷の表面に結合した不凍タンパク質・ペプチド[6]や不凍多糖[7]などが結晶の成長を抑制する.これら物質は0°C付近での成長を抑制するので,水全体をある一定温度まで不凍状態にすることができる[8].不凍状態にする機能は熱ヒステレシス活性として知られているが,植物由来の天然物の一部にこの機能が欠落し,氷再結晶化抑制活性のみを含有しているものもある[9].氷再結晶化抑制活性の機能は,0°C以上での凍結保存中に起きる氷再結晶化を抑制し,食品中の氷結晶を巨大化させないので,様々な冷凍食品の品質保持効果に対して期待されている.

Fig. 1

Overview of ice crystal controlling materials.

生物が細胞外凍結を避するためには,凝固点降下によって未凍結状態にするか,不均質核形成の異物を異物とさせない氷核形成を阻害する能力を有しているかである.この作用はFig. 1の氷核タンパク質の真逆な作用である.この阻害が強ければ,氷核が形成される温度まで水は過冷却状態で維持される.このような作用する物質は過冷却促進物質として知らており,次項で詳しく解説する.一旦凍結した場合,生物の場合でも全ての水分子が自由水でなく,結合水として存在している.この結合水は再度解凍された後に重要な役目を果たす.このような結合水を形成する物質は,単糖類,糖アルコールおよびトレハロースである[4].このような物質が大量に蓄積されて入れば,-20°C以上での凍結時での昇華現象を抑制できる可能性がある.昇華抑制を見出す物質に必要な機能としては,結合水として維持する能力より,水分子の氷中の移動を妨げる作用であると考えている.

1.2 過冷却促進物質とは

生物が細胞外凍結を回避するためには,凝固点降下によって未凍結状態にするか,不均質核形成の異物を異物とさせない氷核形成を阻害する能力を獲得する必要がある.針葉樹が寒い冬季に凍結せずに存在できるのは,氷核阻害能力を獲得しているからである[10].この能力のある物質は,過冷却促進物質とよばれている.一般的に,Fig. 2に示すように,試験管内の水溶液は一定の温度の冷媒中に置いた場合,水溶液温度は徐々に低下し,一旦過冷却状態となる.氷核が発生した時点A(過冷却温度,または核形成温度)で,水溶液の温度は0°Cまで(B点)上昇し,その温度で水溶液中の氷結晶(C期間)が成長する.過冷却促進物質を含む溶液では,無添加より過冷却温度が低下し,その低下によって過冷却状態が拡大する.北海道大学の藤川らは,針葉樹の木部中に存在するフラボノール糖配糖体類が同活性を示すことを発見した[11].さらに,樹木中のタンニン重合体も同様の活性があることも明らかにしている[12].これらの化合物の蓄積の作用により,針葉樹は極寒の寒冷地域でも凍結せずに,青々とそびえたっていると考えられている.この針葉樹での過冷却に関わるポリフェノール配糖体の報告以前に,我々は,氷核活性細菌の霜害防除として,細菌の氷核活性に対する阻害物質の検索を進めた.紅葉の葉から分離した細菌の多糖類[13],クローブ中に存在するオイゲノール[14],檜の木に存在するヒノキチオール鉄錯体[15]が,複数の氷核活性細菌の氷核形成の阻害に効果があることを明らかにした.多糖類以外は水に溶けにくい物質という共通な物性であること,全ての活性物質の共通として,必ず水酸基を有しており,比較的疎水性であるという性質がある.

Fig. 2

Typical water supercooling curve.

2. 食品未利用資源からの過冷却促進物質の検索

これまでの氷核活性細菌の氷核活性に対する阻害活性物質は,以前は古タイヤやオガ屑に重油や灯油などの燃料油をまぜ,これを燃やして製造されていた.この古タイヤを用いた燃焼処理は環境汚染などの問題で禁止となり,灯油などを燃やす方法などに限定して今でも行われいる[16].この燃焼法は果樹の樹木近辺の温度の上昇させることによって遅霜の予防に効果的といわれている.古タイヤ燃焼や木酢液などでの防除効果は,煙や液体の成分中に含まれるポリフェノール様の芳香族化合物による氷核活性の阻害効果であることを確認している(研究室での確認,未発表).そこで,ポリフェノールに着目したところ,植物中に多様なポリフェノール類が存在し,とくに,食品加工工程の残渣である未利用資源中にも存在している.そこで,様々な未利用資源より熱水抽出で溶出してくる(水に可溶であることも必須)ポリフェノール含有エキスや他の若干疎水性のある活性成分を含むエキスの抽出を試みた.

2.1 過冷却促進活性の測定方法および検索結果

過冷却促進活性は,ヨウ化銀を異物とした不均質核形成を基準にし,その氷核形成温度を指標にして測定をした.氷核形成活性は,Valiらの式に従って算出したが[17],測定には微水滴測定装置(Fig. 3)を使用した.ペルチェ素子を使用して温度制御し,電流の大きさによって,温度制御をする装置で,Fig. 3の(b)の銅板の表面を温度制御した.サンプルは,Fig. 4に示す銅板(格子状の升目)上に,シリコーングリースを塗り,アルミホイルを被せた.そのアルミ上にはシリコーングリースで,撥水性をもたせた後,ブランク(ヨウ化銀5 mg/ml:脱イオン水=1:1,v/v)の懸濁液の10μLずつの水滴30個とサンプル(ヨウ化銀5mg/ml:サンプル=1:1,v/v)懸濁液の10μLずつの水滴30個を滴下した(Fig.4).温度を1°C/minの速度で低下させ,水滴が凍った(白濁,目視)数を測定する.50%の水滴が凍った温度をブランク及びサンプルで比較し,その温度差は過冷却促進活性(°C)として算出した.この測定は1サンプル毎で最低3回以上を行い,平均と標準偏差を算出した.その結果をTable 1に示す,未利用資源を原料として調製したエキスは,実用化に適したエキスであった.その他,日本酒のアルコール分を除いた後のエキス成分[18],バナナの皮の白い部分から抽出したエキス成分[19],漉し餡の粕から抽出したエキス[20]も過冷却促進活性を示した.これらエキスの生産性の問題などから,他の未利用資源も検討し,SDGs対策としての取り組みの一環とした.その結果,Table 1に示すように,缶コーヒー製造で産生されるコーヒー粕から抽出したコーヒー粕エキスが最も活性が高く,3.9°Cを示した.コーヒーエキスは,インスタントコーヒー製造に発生するコーヒーエキスであり,粕由来より活性が低かった.さらに,アミノ酸とグルコースの加熱処理により生成されるメラノイジンにおいて,過冷却活性が高く(3.3°C),とくにグルコースとグリシンの組み合わせが最も良かった[21].その結果を踏まえて,メラノイジンが含まれている味噌(褐変して商品価値が落ちたもの)から抽出したエキス(1.0°C)と脱塩処理して希釈した醤油(塩分濃度が0.1%以下)(1.2°C)も過冷却活性を示した.これまでに醤油漬け商品が-18°Cの冷凍庫保存で,未凍結で保存できることは一般に知られているが,この未凍結保存には食塩の凝固点降下とこの過冷却活性が関与している可能性も考えられた.

Fig. 3

Micro-droplet freezing system equipment for the assay of supercooling-facilitating activity.

(a) Automatic temperature controlling system.

(b) Temperature-controlled copper plate onto which sample water droplets are dropped.

Fig. 4

Freezing of microwater droplets (10μL) when measuring supercooling-facilitating activity.

● Water drops ○ Frozen water drops

Table 1 Screening of supercooling-facilitating material from various food refuse.

Extract Supercooling-facilitating
activity (℃)1)
Coffee refuse 3.9
Coffee2) 2.6
Desalted miso 1.0
Desalted soy sauce 1.2
Melanoidin 3.3

1) The activity was examined at a final concentration of 0.5 mg/ml.

2) This extract was prepared from the residue of instant coffee production.

2.2 コーヒー粕エキスの活性成分

最も活性の高かったコーヒー粕成分のポリフェノール成分について分析を行った[22].その結果,Table 2に示すように,コーヒー粕の固形分濃度1 ㎎/mL中の各種ポリフェノールの濃度を分析した.その結果,クロロゲン酸が最も多く,その構成成分であるカフェ酸とキナ酸も若干含まれていた.微量ではあるが,クマル酸とフェルラ酸も含まれていた.ポリフェノールではないが,カフェインを173μg/mLも含んでいた.各試薬を最終濃度0.1 mg/mLに調製して過冷却促進活性を測定した.その結果,含量が少ないフェルラ酸,クマル酸が高い活性を示す.ポリフェノールではないが,カフェインも弱いながらも活性があることを示した.Table 2に示す各化合物の濃度で混合したサンプルは,3.9°Cの過冷却活性を示さず,1.0°C以下の活性となった.データを示していないが,ゲルろ過分画したエキス画分のうち,分子量3,000付近の化合物の活性が高いことも明らかになっている.これらの結果から,コーヒー粕エキスの過冷却促進活性においては,ポリフェノールである低分子化合物から分子量3,000付近のポリフェノールがタンパク質などに結合した成分やコーヒーメラノイジンなどが重要な役割を果たしていることが判明した.

Table 2 Concentration and Supercooling-facilitating activity of each component from the coffee refuse extract.

Component Supercooling-
facilitating activity
(℃)1)
Concentration
(μg/mL)2)
Caffeic acid 1.84±1.16 3.6
Caffeine 0.70±0.06 173.0
Chlorogenic acid 1.06±0.30 62.3
Coumaric acid 2.35±0.25 0.3
Ferulic acid 3.40±0.63 0.4
Quinic acid 2.00±0.90 9.7

1) The concentration of components in the coffee refuse extract was 1 mg/mL in distilled water.

2) Each compound at a final concentration of 0.1 mg/mL were examined by the assay system (Fig. 3 and Fig. 4).

3. 氷結晶制御物質の実用化の範囲

過冷却促進物質として検索したTable 1のエキスは,Fig. 1に示す不凍タンパク質がもっている氷再結晶化抑制活性も有していることが判明した.このことから,これら氷結晶制御物質を含有するエキスは,氷結晶の発生から,その成長,さらに冷凍時での変化,昇華による減少などすべての機能を有していた.このように未利用資源から抽出して得られた過冷却活性を有するエキスは,Fig. 1に示す3つのステップの機能を全てもっているものや2つの機能を持っているものなど多種多様である.過冷却活性と氷再結晶化抑制活性を有するエキスを利用した場合,不凍タンパク質とは異なった効果が期待できる.そのため,このようなエキスは農業・食品分野,化成品分野(インフラ,熱交換器,看板,ガラスなど),ライフサイエンス分野(細胞保存,組織保存など)などにおける氷の形成を制御する製剤エキスとしての実用化が期待されている.現在,我々は冷凍食品などの品質改善への応用として,どのエキスが,効果があるかなど用途毎の機能比較の試験も試みている.一般に,氷結晶の発生は保存している容器の側面や水溶液中の界面から発生するといわれている.これらのエキスをうまく容器面にコーティングすることができれば,霜の付着防止などに効果が期待できる.たとえば,インフラ(コンクリートや看板など)や熱交換器のアルミ板などの表面の氷結晶制御も可能になる.現在,この分野での開発も進めている.さらに,ライフサイエンス分野では冷凍保存することができない臓器や組織などの保存において,より低い温度域で未凍結保存が可能になり,畜産分野や医療分野における保存に関する課題を解決する可能性もある.

4. 過冷却促進物質を利用した果実および野菜の未凍結保存

4.1 圃場散布後のイチジク未凍結保存

イチジクは8月初旬から10月半ばの収穫時期であるが,収穫して,スーパーなどで販売し,購入した場合,冷蔵庫保存で食味可能な品質は3日間ほどである.そこで,0°C以下で未凍結保存ができるように,過冷却促進物質エキスの圃場散布による評価を行った.この試験における圃場処理は,共同研究者(2017~2020年度)であった兵庫県立農林水産技術総合センター所属の小河拓也氏が実施した.桝井ドーフィン種のイチジクの樹木に,収穫2週間前から2日に1回の割合で,コーヒーエキスを250倍希釈した希釈液2.5 Lを散布した.合計17.5 L散布したことになる.未処理および処理したイチジクはN=10で評価した.Table 3に示す温度で20日間保存した.その結果,Table 3に示すように,未処理のイチジクの-2°C保管だけが8.3%が凍結した.一方,処理したイチジクは-2°C保管で全て未凍結(0%)であり,有意差があった.この結果から,保存に関してエキスの効果が確認できた.カビ果率も0%で,全くカビの発生はなく,硬度の値は測定誤差10%以内であった.収穫後は76.5 Nであったが,圃場でコーヒーエキスを散布した後,-2°Cで保存したイチジクの硬度は72.6 Nであり,追熟が抑制されていた.一方,2°C保存(通常冷蔵保存)のものは,カビ果率は16.7%で,硬度は38.9 Nに低下し,かなり柔らかくなっていた.エキス処理したイチジクの硬度は-2°C保存で凍結せず,その硬度において有意差がある結果であった.イチジクは小売りが可能かどうかは外観品質の基準で判断している.結果的に,未処理の2°C保存では,保存5日目で小売り販売限界以下となった.なお,この試験は次年度での試験も込みで3回行い,同様な結果が得られている.一方,コーヒーエキス処理して-2°C保存したイチジクは,保存15日目でも小売り可能な品質であると判断された.

Table 3 Analysis after storage of figs at various temperatures.

Spray Store
temperature
(℃)
Mold fruit
rate (%)
Frozen rate
(%)
Hardness
(N)
Sugar content
(%)
Titratable
acid (%)
Coffee extract 2 16.7 0.0 38.9* 15.8 0.13
Coffee extract 0 8.8 0.0 58.8 17.6 0.10
Coffee extract -1 0.0 0.0 66.8 17.9 0.11
Coffee extract -2 0.0 0.0 72.6* 18.8 0.12
(Non-sprayed) -2 0.0 8.3 70.4 19.0 0.11

*t-test; Significant different, p < 0.05

収穫後にイチジク(N=17)の過冷却解除温度(氷核形成温度)を測定したところ,コーヒーエキス処理したイチジク(-4.21±0.73°C)は,未処理イチジク(-3.33±0.80°C)より0.88°C低下した結果となり,実際に,イチジク内の軸に活性成分が機能していることが判明した(p < 0.05,Welch T test).以上の結果より,イチジク樹木全体にコーヒーエキスを散布することにより,エキス成分がイチジクの軸部分(ここから氷核が形成する)に到達し,過冷却活性によって,-2°Cにおける氷核形成を阻害することで,未凍結保存を可能にしたと判断できた.

4.2 水耕栽培したレタスの未凍結保存

一般に水耕栽培で生産しているレタスやトマトなどは,氷結晶成長温度(凍結温度)は,各々-0.2および-0.5°Cである.両野菜とも0°C以下の一定温度以下での保存では,凍結していて,長期的に保存できない.そこで,過冷却活性を利用して未凍結保存ができるかどうかについてレタスを用いて試みた.水耕栽培装置はユーイング社製グリーンファームで,10,000ルクスで照射し,日照16時間で栽培した.過冷却促進用エキスは,コーヒー粕エキスKE,味噌エキスME,コーヒー粕エキスと味噌エキスの混合液(1:1)KMを使用した.実験では,レタス(コスレタス)の水耕栽培で種子より苗を発芽栽培し,播種の46日後に収穫した.収穫1週間前から上記各種エキスは,養液に添加し3回に分けて施用した.収穫後のレタスは,レタス一葉ずつを野菜保存袋(2重)中で4°Cに一晩保存し,低温順化させた.その後,温度低下速度を過冷却に適した1時間当たり0.83°Cにして,保存設定温度まで冷却して,過冷却の起きやすい条件にした.保存設定温度は-1~-2.5°Cの範囲とし,2週間保存した.保存後の凍害損傷度合いは,目視と電解質漏出量を測定して評価した.その結果,Fig.6に示すように,各レタス5個の凍害損傷度合いを測定した.エキスKMで処理したレタスからの電解質漏出量(1.5±0.5μm/cm)は,未処理のレタスからの濾出量(15.5±3.4μm/cm)の10分の1であり,有意差があった.レタスは全く凍結現象がない状態であった.データとして示していないが,リーフレタスでも同じ状態が得られ,1カ月保存した場合,約70%のレタスが新鮮なレタスと同じ結果となった.

Fig. 5

Comparison of freeze damage degree of lettuce after long-term storage.

※Significant test, t-test, p < 0.05

今回は,圃場散布したイチジクへの未凍結保存,水耕栽培時にエキス処理したレタスは,2週間程度,未凍結保存することができた.その他,野菜や果実においても低温障害が起きないものであれば,過冷却活性を利用して,未凍結保存ができる可能性があり,今後の研究においても試していく予定である.

謝辞

本研究成果の一部は,2017年~2020年度知の集積研究開発モデル事業「過冷却促進技術による農産物の保存・流通技術研究開発コンソーシアム」から助成を受けて得られたものである.

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