Japan Journal of Food Engineering
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A Study on the Use of Superheated Steam in Food Processing
Hiroyuki IYOTA
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2024 Volume 25 Issue 1 Pages 1-7

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Abstract

高温空気からの対流伝熱を利用した加熱は,オーブンや乾燥工程など,食品加工において広く用いられる.その際の空気は,わずかに水蒸気が含まれた湿り空気中で操作されることが多い.空気に含まれている水蒸気量が多く露点温度が食品の温度よりも高い場合は,食品の表面で水蒸気の凝縮(結露)が生じる.さらに装置の庫内温度が沸点温度(大気圧下で100°C)よりも高い場合,空間内は過熱水蒸気のみで満たされた状態にすることができる.この沸点よりも高い温度の水蒸気を過熱水蒸気とよぶ.本報告では,過熱水蒸気とその利用について,熱力学,機械工学と食品工学の学際的な視点から記述する.また,筆者の研究報告から,加熱初期の水蒸気の凝縮と凝縮水の蒸発の一連の過程を推算するために提案した伝熱モデル,ならびに,過熱水蒸気や高温空気による食品乾燥における湿度の影響について紹介する.

Translated Abstract

Heating of food products based on convective heat transfer from hot air to the food products is common in food processing operations, such as oven and drying process. Food is typically heated in humid air that contains a small amount of steam/water vapor. If the air contains a large amount of steam, steam could condense on the surface of the food, the dew point being higher than the temperature of the food. Moreover, when the temperature in the heating chamber is higher than the boiling point of water (100°C) at atmospheric pressure, the chamber space could become filled with pure steam with a temperature above the boiling point of water; this steam is called superheated steam. In this report, superheated steam and its utilization are described from the interdisciplinary perspectives encompassing thermodynamics, mechanical engineering, and food engineering. A heat transfer model is proposed to investigate the steam condensation followed by condensate evaporation occurring in the initial stage of food heating. The effects of humidity on food drying using superheated steam and high-temperature air are investigated experimentally.

1. 緒言

過熱水蒸気は,沸点温度よりも高い温度の水蒸気として定義される.機械工学では熱エネルギーを運動エネルギーに変換するための作動流体として,例えば,20 MPa(約200気圧)以上の高圧の過熱水蒸気は発電所などで広く利用されている[i].ここでの過熱水蒸気は,密閉した流路や空間内にあり,過熱水蒸気中への空気(外気)の混入は起こりにくい.一方,本稿で話題にする食品加工で用いられている過熱水蒸気は,大気圧(常圧)近傍の比較的低圧で使用され,温度の低い空気と接触して冷えると,すぐに水滴となって体積が減少し,周囲の空気を引き込むような状態となる.したがって,食品加工での水蒸気の利用は,空気が混入しやすい状態で使用される場合が多く,熱を輸送するための媒体,あるいは,処理雰囲気として利用される.本稿では,機械工学における熱力学と食品工学,移動現象の観点から,筆者が過熱水蒸気と最初に関わった乾燥に関する研究を中心に,食品加工における過熱水蒸気利用について,学際的な視点も含めながら概説する.

2. 過熱水蒸気利用の基礎

2.1 物質としての水

水蒸気・水は,原子番号が1の水素が2つと,原子番号が8の酸素原子で構成される3原子分子である[ii].分子量は,通常水素は中性子をもたない(中性子をもつものは重水素や三重水素とよばれる)ために,酸素1つの原子量(16.00)に水素の原子量(1.008)2つの和で,およそ18となる.Fig. 1に,水(ここでの‘水’は,液体を意味するのではなく,水蒸気も含め物質名を意味する)の相図(概念図)を示す.同図は多くの物理化学の教科書で紹介されているために詳細の説明は省略するが,とくに気相である過熱水蒸気について考える際には右上方向に延びている蒸気圧曲線が重要である.同線上の具体的な値として,例えば大気圧(101.3 kPa)では,99.974°Cである[1].また,気液平衡線上の値は,Fig. 3で後述する水の蒸気圧線(飽和蒸気圧線)と同じと考えることができる.

Fig. 1

Phase diagram of H2O.

Fig. 2に,大気圧の状態で物質としての水1 kgが保有するエンタルピー(物質が保有するエネルギーの量)と温度の関係を示す.ここでのエンタルピーの値は,水の3重点を基準0としている.先のFig. 1の大気圧上の線上を左端から横軸と平行に,熱を加えて右方向に状態が変化するとき,Fig. 2からエンタルピーの値の変化をみていく.まず0°Cの水(液体)に熱を加えると,液体のまま温度が上昇する.ここでの熱は,温度変化としてみえるために「顕熱(specific heat)」とよぶ.そのまま熱を加えて温度上げると,100°Cで気体の領域に入る.気液境界を横切るためには気化熱が必要であり.この熱は温度変化としてみえないために「潜熱(latent heat)」とよぶ.液体の水から過熱水蒸気までの変化過程をみると,水および水蒸気の定圧比熱が,それぞれFig. 2上では勾配として表わされている.また,蒸発(凝縮)潜熱が約2257 kJ/kgである.Fig. 2により,大気圧一定のもとで,水の温度や相が変化した場合,どれだけの熱の授受があったかをエンタルピー値の変化から読み取ることができる.ところで,水は他の物質と比べてこの蒸発潜熱が非常に大きい.その主な理由は,本節冒頭の水分子の構造に由来しており,液体の状態で水の分子同士が2つの水素結合により強く結合しているためである.

Fig. 2

Enthalpy change on temperature under atmospheric pressure.

なお,Fig. 1Fig. 2に体積は示されていないが,大気圧下で水が蒸発すると,体積は約1600倍となる.蒸発するときの体積増加は圧力が高いほど小さくなり,Fig. 1右上の臨界点以上では液体と気体の区別がなくなるために体積の不連続な変化もなくなる.

式(1)および(2)に,参考として,温度T(°C)と水の蒸気圧pv(kPa)の関係(蒸気圧曲線)を近似的に求めるAntoineの式(1),および,蒸発潜熱γ(kJ/kg) を求める近似式(2)を示す.主に0~100°C付近で簡便に使用できる式である.[2]

  
(1)
  
(2)

2.2 過熱水蒸気の生成と利用

過熱水蒸気を発生させる方法として,水に熱を加えて飽和水蒸気とし,さらに熱を加えて過熱状態にする方法が一般的である(Fig. 1の左から右向への変化).必要とする過熱水蒸気の温度や圧力条件によっては,高圧の乾き飽和蒸気(Fig. 1の気液平衡線上で水滴を含まない状態の水蒸気)を絞り膨張(等エンタルピー変化ともよぶ)により減圧することで得ることもできる(Fig. 1の蒸気圧曲線から下向きの変化).別の方法として,水素と炭素の化合物である炭化水素系の燃料や,アンモニアあるいは水素そのものを酸素で燃焼(酸化反応)させることでも過熱水蒸気は生成される.この場合,過熱水蒸気は多成分混合気体の1成分として高温の燃焼気体中に存在する状態になる.なお,燃焼による高温気体は,熱エネルギーの有効利用という観点では,一般に高温であるほど利用価値が高いため,理想的には高温の燃焼気体を安易に「冷ます」ことは避け,高温から低温まで適切な温度帯で多段的に熱を利用する考え方が必要となる.

2.3 空気中に含まれる水蒸気

我々が生活している環境を考えると,気圧はおよそ101.3 kPa(絶対圧),25°C程度であり,Fig. 1の相図上(水のみの単成分系)では,液体の水として存在する条件である.しかし,実際の‘空気’は多成分系であり,体積割合(=モル比)で0.1~3%程度の水蒸気が含まれている.わずかな量であるが,私たち人間は,その含まれている水蒸気の量(湿度)を敏感に感じている.例えば25°Cで空気に含まれる水蒸気の最大の体積割合は約3%(絶対湿度0.02 kg/kg D.A.)である.含みうる最大量の水蒸気を含む空気を飽和空気とよび,相対湿度で表すと100%と表現される.空気中に存在できる水蒸気の最大量は,温度が高くなるほど多くなり,100°C以上になると最大の体積割合が100%(水蒸気だけの空間)も存在しうる.

次に,水蒸気,湿り空気について,Fig. 3の高温高湿度域に拡張して過熱水蒸気も示すことができる空気線図を使って考える[3].Fig. 3は,横軸が温度,縦軸は空気中の水蒸気の分圧を示しており,縦軸の最大値は大気圧(101.3 kPa)で,100°Cより右側は空気を含まない過熱水蒸気の状態である.一方,下端は水蒸気分圧が0であり,水蒸気を全く含まない‘乾き空気’である.

Fig. 3

Psychrometric chart for high temperatures to 250 ℃ and for a wide range of humidity, including superheated steam.

Fig. 3に示されている飽和蒸気圧曲線は,それぞれの温度での飽和空気と同じと考えてよく,同図のような大気圧近傍では,Fig. 1の蒸気圧曲線と同じと考えて実用上差し支えない.また,この線よりも右側はすべて実在可能な‘湿り空気’である.

なお,飽和蒸気圧線から右側の右下がりの斜めの線は,断熱冷却線であり,水―空気系では近似的に等湿球温度線と一致する.この断熱冷却線の勾配は,水蒸気の量が多くなるほど小さくなり,大気圧の過熱水蒸気(水蒸気濃度x = 1)の場合は水平(図の上端)となり,湿球温度,露点温度,沸点温度は等しくすべて100°Cとなる.また,空気中の水蒸気の割合が減るとその勾配は急になるとともに,露点温度,沸点温度の差が大きくなる.例えば点Aの湿り空気では,Bから露点温度を,Cから湿球温度を読み取ることができる.圧力は大気圧としているため,沸点温度は100°Cである.

先に述べたように上端の線上(>100°C)は過熱水蒸気であり,その温度変化(左右の移動)は顕熱の増減を意味する.つまり,過熱水蒸気乾燥は,過熱水蒸気の顕熱を利用して水を蒸発させる操作と解釈することもできる.

なお,湿り空気中の飽和蒸気圧線上では相対湿度100 %であるが,霧(きり)や靄(もや)など,水滴が存在する場合がある.相対湿度が100 %よりも低い空気に水や水滴が触れると,水は蒸発するとともに空気の状態が断熱冷却線に沿って左上方向に変化する.一方,過熱水蒸気が水や水滴に触れると,水は蒸発しながら温度が低下(左方向に移動)する.このような過熱水蒸気中に水滴を意図的に混在させて食品の加熱や殺菌に利用する方法も報告されている[4].

2.4. 熱で力を生み出す

再び,水・水蒸気のみの単成分系に話を戻す.密閉した容器が水蒸気で満たされている状態があり,そこに常温の水を吹き込むなどで冷却すると,水蒸気は冷却されることで凝縮し,体積が減少しようとすることで圧力が下がる.容器にピストン部分があれば,ピストンは外部から大気圧の力をうけて移動する.この原理で井戸水をくみ上げる仕組みが発明された.これが蒸気機関の最初の実用例といわれている.安全管理の視点から考えると,密閉空間に水蒸気が充満した状態にならないか十分に注意しておく必要がある.容器の強度が弱い場合は,冷却されることにより,外部からの大気圧による大きな力を受けるために壊れる(縮爆)可能性もある.

上記の蒸気機関が実用化されたのちに,強い金属材料とその加工方法が開発され,密閉した状態で水を加熱して高圧の水蒸気をつくることができるようになった.この圧力でピストンを動かせば蒸気機関車のように大きな力を得ることができる.あるいは,タービンとよばれるような,高い圧力の水蒸気が低い圧力の空間に流れるときの力を利用して,羽(ブレード)を回転させて連続的に運動を得る技術が実用化され,現在,多くの発電所で用いられている.なお,発電効率を高めるためには,タービン入り口の蒸気の高圧化,高温化が必要で,現在でも材料や冷却方法の開発がすすめられている[i].最新型の発電設備では,入り口の圧力は20 MPaを超え,温度も600°Cを超えており,超臨界の状態の水(液体や気体の概念はない状態)が使われている(Fig. 1参照).このように,水や水蒸気の利用に関する技術は,社会を支える様々な分野で進歩を続けている.

3. 伝熱学的な基礎解析(凝縮から蒸発への反転過程)

筆者は,過熱水蒸気の基礎的な伝熱解析を始めた当時,矩形ダクト内に設置した水槽の水(材料)表面での温度分布や水の蒸発速度の測定実験を,後述する逆転点温度の関連研究として行っていた.食品加熱では,水(材料)の温度が上昇する過渡的な状態での水位(材料の重量)の変化過程が大切であるため,反転過程として整理した(Fig. 4).また,その特徴的な値を求める式(3)(5)を示した.ここでは仮想的に水槽(材料)は十分な深さ(厚さ)があり,加熱条件となる過熱水蒸気の流速や温度は加熱開始直後(t=0)から一定としている.式中の変数λは材料(水)の熱伝導率,Tsfは水の表面温度(ここでは水の沸点温度),Tl0は材料の初期温度,aは材料の温度伝導率,qHは気流から材料表面への対流熱流束と輻射熱流束の和である.qHは過熱水蒸気の温度が高く,風速が速いほど大きな値となる.

Fig. 4

Mass change in early stage of superheated steam heating from condensation to evaporation using 1D heat transfer model. (Reverse process model).

(3)(5)式より,凝縮時間(tc),最大凝縮量(Δmmax),復元時間(tre)のいずれも,熱伝導率λが大きいほど,初期温度Tl0が低いほど,さらにqHが小さいほど値が大きくなることがわかる.また,式(3)式(5)を比較すると,式に用いている変数の値によらず,復元時間(tre)は凝縮時間(tc)の4倍となることが示されている[5-7].

実際の食品の加熱操作では,気流条件は非定常性を有しており,また,被加熱物も様々な形状,表面性状を有するため,Fig. 4の反転過程の形は変化する.空気が混合している場合,空気の割合が多くなるほどTsf (露点温度に相当)は沸点温度に比べて低くなり,蒸発に転じた後のTsfは湿球温度に漸近する(Fig. 3参照).空気と過熱水蒸気の混合気体の混合割合を変えることにより,反転過程ならびに温度の履歴を変化させることができる.つまり,空気と過熱水蒸気の混合割合(湿度)とその時間変化は,気体の温度や風速と同様に重要な操作パラメータになりうる.

  
(3)
  
(4)
  
(5)

上述のFig. 4,ならびに,Eq.(3)(5)は,現象を簡潔かつ一般化することができるために,プロセス最適化を考える際,影響因子の抽出や思考実験の際に便利である.一方で,実際の加工装置と食品を用いたプロセスでは,食材の性状や気流状態(温度,風速,湿度)とその時空間的な変化など,様々な他の条件因子を考慮する必要がある.例えば,気流状態に与える影響として,装置の構造や断熱性能,材料のハンドリング(出し入れ)過程,装置の蒸気供給能力,庫内容積,密閉性などがあり,数値化が難しいために,これらは装置の特性としてブラックボックス化されることが多い.しかし,この変化過程は食品の仕上がりに大きく影響することがあり,現場では現在でも経験的に操作されている部分といえるだろう.

4. 食品加工における水蒸気利用

4.1 過熱水蒸気乾燥

「過熱蒸気」を熱風として用いる乾燥方法は,1900年代の始めころから報告がみられ,特徴として省エネルギー化が可能であると紹介されている.ここでの「過熱蒸気」は,水の蒸気(いわゆる過熱水蒸気)とは限らず,種々の溶媒の蒸気も含んだ言葉として用いられていた.その中でも,高温の水蒸気を乾燥熱風として用いる方法の呼称は,過熱水蒸気乾燥のほか,空気と水蒸気の混合系として高温高湿度乾燥,Airless dryingなどが報告や解説記事にみられる.

過熱水蒸気を乾燥熱風として用いる主な利点として,低酸素雰囲気となるため高温でも酸化・燃焼反応が起こりにくいことが報告されている.また,湿り空気中での水蒸気の混合割合(湿度)が高くなるほど,湿球温度(熱力学的な湿球温度)と露点温度はともに上昇して沸点温度に近づく.この性質より,材料の性質によっては,材料内の水分移動が促進されて乾燥割れを防止することができるという報告がある一方で,材料がポーラスになりやすいとの報告例もある[8].

また,1960年代に,すでに空気中よりも過熱水蒸気中の方が水の蒸発が速くなる逆転点温度について述べられている.筆者の研究室の先人である吉田,兵働らは,濡壁塔を用いた実験で同一質量流量の条件で比較した場合,逆転点温度は170~176°Cと報告している(Fig. 5)[9].なお,他の研究者らかも種々の値が報告されている.吉田らもこの逆転点温度は実験装置や実験条件に依存すると説明している.なお,空気と水蒸気の熱的な物理的性質,ならびに,蒸発中の水温(湿球温度)と気流温度との関係から,理論的に逆転点温度の存在を示すことが可能である.

Fig. 5

Effect of change of temperature on evaporation rate in hot air and superheated steam at the same mass flow rates G.

4.2. 食品の加熱操作への利用

乾燥熱風として過熱水蒸気を利用する場合,材料の初期温度が低い状態で操作を開始すると,Fig. 4に示したように材料表面で水蒸気の結露(凝縮)が起こる.この過程を利用すれば,水分の蒸発(乾燥)を抑えながら急速に加熱をすることができる.その制御因子としては,風速や気流温度とともに,気流の湿度(空気と水蒸気の混合比)も重要である.

例えば,100°Cの高温の空気を食品などの湿った材料に吹き付けても,食品の水分蒸発に熱が使われるために100°Cには到達しない.一方,飽和水蒸気を使うと,表面温度を100°Cまでは急速に上昇させることができる.しかし,飽和水蒸気を用いると蒸し加熱に近くなり,多量の凝縮水が生じて食品の品質を悪化させる場合がある.凝縮水量を減らす方法として,材料の初期温度を上げておく,空気を混合させる(露点温度を下げる)などのほか,過熱水蒸気を利用することも考えられる.

過熱水蒸気に空気が混ざると,露点温度や湿球温度は,その圧力下での水の沸点温度よりも低くなり,気体の温度も沸点温度よりも低くすることができる.次節で湿度の影響を調べた実験結果の一例を紹介する.

4.3 熱や水分への感受性の強い材料

市販の馬鈴薯澱粉に水を含ませて直径約15 mmの球状に成形したものを試料として,170°Cの高温空気(HA),高湿度空気,過熱水蒸気(SHS)の気流中で乾燥実験を行った結果をFig. 6に示す[10].Twetは,それぞれの条件での湿球温度を示している.なお,それぞれの湿球温度と水蒸気の体積割合,露点温度の関係は,Fig. 3から読み取ることができる.

Fig. 6

Photos of starch samples after drying.

Fig. 6より,気流の湿球温度(湿度)によって乾燥後の形状が大きく変化することがわかる.過熱水蒸気中(Fig. 6(c))では大きく膨らむなど形状に大きな変化がみられた.また,高温空気と過熱水蒸気の混合気体の例(Fig. 6(b)),加熱開始後に高温空気から過熱水蒸気に3分間で移行した場合(Fig. 6(d))は,それぞれ異なる結果となった.

つぎに,ジャガイモを10 mm×20 mm×5 mmを試料として,高温空気と過熱水蒸気の中で乾燥実験を行った後の試料写真とSEM写真をFig. 7に示す[11,12].(a)の高温空気による乾燥後は表面に澱粉粒が観察される.一方,(b)の過熱水蒸気では表面に澱粉粒はみられず,クラスト部は比較的均質な状態となった.この原因は,Fig. 6の(b)や(c)の場合と同様に,表面で澱粉粒が初期の凝縮伝熱により糊化したためであり,試料表面は透明性を有する状態となり光沢も観察された.Fig. 8に,乾燥途中の色変化を測定したCIELAB表色系におけるa*値とb*値の変化を示す.過熱水蒸気中の方が,赤みが強くなっていることがわかる.

Fig. 7

Photos of cross section near the surface after drying of potato by hot air (a) and superheated steam (b) at 170 ℃.

Fig. 8

Color changes of potatoes during drying in hot air and superheated steam.

5. 装置化

食品の加熱装置あるいは焼成用のオーブン庫内に,水蒸気を積極的に供給する機能を有するものが市販され,沸点温度よりも高い温度の水蒸気(過熱水蒸気)が多く存在する状態での加熱が手軽にできるようになった.例えば,小型の家庭用オーブンレンジや業務用のスチームコンベクションオーブンなどがあり,これらは,煮る,焼く,蒸す等の調理が可能である.前者は2000年ごろから,後者は1980年から1990年代にかけて日本でも普及が進んだ.さらに,過熱水蒸気の状態で庫内に供給できる加熱焼成装置や,一部の過熱水蒸気の排気を循環利用できる連続式のオーブン,あるいは,一部のみで過熱水蒸気が供給される連続式加熱装置など,装置の構造としても高度化が進んできている.

過熱水蒸気を利用した装置は,上述の家庭用や店舗用のほか,大量調理施設,食品工場(冷凍食品製造,加工・乾燥食品の製造),お弁当などのベンダーなどに広がりをみせている.主に食品の安全性(表面殺菌),歩留り率,生産性,品質の向上のために導入されることが多いようである.

過熱水蒸気を利用する際に,空気を含まないことを前提とすると,過熱水蒸気に「湿度」の概念は馴染まないが,実際に利用するためには高温高湿度域での「湿度」について理解し把握しておくことが望ましい.研究開発段階や装置のスケールアップの際の設計指針を得るためにも,定量的な湿度の把握が望まれる.

6. おわりに

過熱水蒸気の利用について,筆者らは乾燥分野から関わりをもった.食品加工分野では,古くから乾燥を抑えることのできる加熱方法として,水蒸気は積極的かつ巧みに利用されている.水蒸気は,身近な物質で大変手軽に使用することができる一方,物性面で特異な性質をもっており,気相内に存在する物質の一成分としてとらえることで,さらなる高度利用の余地が残っていると考えている.

ところで,研究で食品と関わり始めた当時,食品加工や調理に関する文献を調べたところ,その広がりや実験データの多さに驚いた記憶がある.その後,食品を専門とされる先生方や食品機械と関わる技術者の方,調理現場で働いておられる方々と一緒に研究ができる機会を得た.筆者の素人質問に対して,多くの時間を割いて説明や議論の相手をしていただいた.近年は世界的な社会情勢の変化の中で,食品分野でもエネルギーや資源に関して議論する機会が増えており,水蒸気利用に関する期待も変化している.また,社会的課題への対処にむけて様々な分野の知恵や技術とともに,人の育成が必要とされている.機会があれば,少しでもお役に立てたらと考えている.

今後,社会の変化に応じて過熱水蒸気の技術の見え方も変わっていくであろう.水や水蒸気は,貴重な物質的資源であり,さらに水蒸気は大きなエネルギーをもった状態とみることができる.また,水蒸気は水素の燃焼反応で得られる物質でもある.カーボンニュートラル,水素社会への変化の中で,水蒸気は新たな役割を担う物質として,再認識されるのではないかと感じている.いずれにしても,これまで以上に水や水蒸気を‘大切に使う’ことが求められる.

最後になったが,長い歴史と社会的背景の中で,水蒸気・過熱水蒸気を簡便かつ安全に利用するための技術向上に取り組まれた多くの技術者,研究者の方々に敬意を表し,今後の発展を願いながら結びとしたい.

謝辞

本研究は,筆者が大阪市立大学(現・大阪公立大学)で職を得て以来,継続して取り組んできたものです.日本食品工学会の関係者をはじめ,ご指導いただいた多数の先生方,一緒に研究に取り組んでご支援を頂いた企業あるいは公的研究機関の技術者・研究者の方々,とくに学生諸氏に深く感謝申し上げます.また本研究は,これまでに行政及び民間団体からの競争的資金など,多くのご支援を得て取り組むことができました.ここに深くお礼申し上げます.

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