Japan Journal of Food Engineering
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Studies on Membrane Filtration in Food Separation Process
Takaaki TANAKA
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2025 Volume 26 Issue 4 Pages 121-125

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Abstract

食品工業では粒子の除去・回収に多数の分離プロセスが用いられている.本研究では環境循環型の粒子分離用の膜分離プロセスの開発を目指し,生分解性プラスチック製濾過膜の開発とデプスフィルターへの応用研究を行った.製膜法には主として相分離法を,酵母や乳酸菌の膜分離を行った.ポリ乳酸製濾過膜の作製では相分離前の高分子溶液表面の部分乾燥や高分子溶液への界面活性剤の添加により,乳酸菌を阻止可能な膜が作製できることを示した.作製した非対称膜は,粗い面側から濾過を行うとデプスフィルターとして機能し,高い濾過速度が得られた.また,セルロース繊維とポリヒドロキシアルカノエートの複合膜においては,セルロース繊維側から酵母懸濁液の濾過を行うと高い濾過速度が得られることを示した.本研究で開発した生分解性プラスチック製濾過膜やデプスフィルターが食品工業における粒子の除去・回収プロセスの改善につながることが期待される.

Translated Abstract

In the food industry, many separation processes are employed to remove and recover particles. The author has been studying development of environmentally sustainable membrane separation processes for particle separation, focusing on the preparation of biodegradable plastic filtration membranes and their application to depth filters. The membranes are mainly prepared via phase separation methods. Membrane filtrations were performed using yeast and lactic acid bacteria. It was demonstrated that membranes capable of blocking lactic acid bacteria were produced by partially drying the surface of the polymer solution before phase separation or by adding surfactants to the polymer solution. The resulting asymmetric membranes functioned effectively as depth filters when filtration was performed from the rough side, achieving high filtration rates. Furthermore, in composite membranes made from cellulose fibers and polyhydroxyalkanoates, high filtration rates were obtained when filtration of yeast cell suspension was performed from the cellulose fiber side. The biodegradable plastic membranes and depth filters developed in the studies are expected to contribute to improving particle removal and recovery processes in the food industry.

1. はじめに

食品工業では粒子の除去・回収に多数の分離プロセスが用いられている.とくに酵母や細菌などの微生物(Fig. 1)は,①大きさがマイクロメートルオーダーと小さい,②水との比重差が小さいため,沈降速度が低い,③軟らかいため,濾過ケークの圧縮性が高い,という理由から,硬い珪藻土(Fig. 2)などが濾過助剤として用いられて濾過分離されている[1].菌体の回収が必要な場合は遠心分離法が用いられるが,①および②のため,高速回転が必要となり,スケールアップが困難である.濾過法はスケールアップが容易であるが,濾過助剤を用いると珪藻土などを含む難分解性の濾過残渣が大量に発生する.

Fig. 1

SEM images of yeast (a) and Lactobacillus plantarum (b).

Fig. 2

SEM image of diatomite.

著者は,1990年に食品・バイオプロセスにおける微生物菌体の濾過法の研究を開始した.まず,濾過助剤を必要としないクロスフロー膜濾過法の研究を進めた.クロスフロー膜濾過法は濾過膜に平行な流れにより,濾過抵抗増加の主要因である膜面上の粒子層(濾過ケーク)の形成を抑制し,高い濾過速度を得る方法である(Fig. 3).2002年からは生分解性ポリエステル製を用いたコンポスト(堆肥)化処理可能な濾過膜の開発研究も開始した.1990-2006年の研究成果に対して2007年に日本食品工学会奨励賞「食品微生物の膜分離に関する研究」を授賞していただいた [1].

Fig. 3

Dead-end filtration (left) and crossflow filtration (right).

2007年以降は生分解性ポリエステル膜とデプスフィルターに着目して食品微生物の膜分離について研究を進めている.食品微生物としては主として酵母(5 μm)と乳酸桿菌Lactobacillus plantarum(0.7×2.5 μm)を用いている(Fig. 1).

2. 生分解性ポリエステル製濾過膜の開発

濾過分離においては,分離膜上の濾過ケークの形成による濾過抵抗の増大に加えて,分離膜内の目詰まりにより,濾過抵抗が増大する[1].そのため,目詰まり後の濾過膜の廃棄が問題となる.そこで,著者らは生分解性ポリエステルを用いたコンポスト化処理可能な濾過膜の開発研究を進めている[2].ポリ乳酸(PLLA)[3-5]を中心に,ポリブチレンサクシネート(PBS)[6]やポリヒドロキシアルカノエート(PHA)[7]を素材として濾過膜を開発し,その性能評価を行った(Fig. 4).用いた高分子はバイオマスからも生産可能である.これらの生分解性バイオマスプラスチックを濾過膜に利用できるようになれば,目詰まり成分とともに使用後の膜をコンポスト化処理することが可能になり,環境循環型の膜分離プロセスが実現されることが期待できる(Fig. 5).

Fig. 4

Examples of biodegradable plastics. PHBV (poly(3-hydroxybutyrate-co-3-hydroxyvalerate)) is an example of PHA.

Fig. 5

PLLA in industries and natural environment.

本研究の製膜には高分子溶液の相分離現象を用いた相分離法を用いた(Figs. 6-7).高分子溶液の温度を低下させて相分離を行う熱誘起相分離法(Fig. 6)では孔径が比較的揃った多孔質膜(Fig. 8(a))が形成される.それに対して高分子溶液に高分子を溶かさない非溶媒を接触させて相分離を行う非溶媒誘起相分離法(Fig. 7)では非溶媒と接した面の孔径は小さく,反対側の面の孔径は大きくなる非対称膜(Fig. 8(b))が形成される.

Fig. 6

Preparation of porous membranes by thermally induced phase separation method.

Fig. 7

Preparation of porous membranes by nonsolvent-induced phase separation method.

Fig. 8

SEM images of cross sections of PLLA membranes prepared by thermally induced (a) and nonsolvent-induced (b) phase separation method.

ポリ乳酸膜の製膜においては,溶媒として含水1,4-ジオキサンを熱誘起相分離法では酵母を阻止可能な膜(Fig. 8(a))を作製することに成功していた[8]が,細菌の阻止はできていなかった.そこで,熱誘起相分離法を行う前にポリ乳酸溶液の表面を部分的に乾燥させることによって,密な分離層を形成させ,乳酸桿菌を阻止可能なポリ乳酸膜を作製することに成功した(Fig. 9)[3].さらに,溶媒としてジメチルスルホキシド[9]や界面活性剤を添加(相分離の過程で非溶媒分子の高分子溶液への拡散を促進する)した1,4-ジオキサン(Fig. 10)[5]を用いることにより,非溶媒誘起相分離法を用いて乳酸桿菌L. plantarumを阻止可能なポリ乳酸製濾過膜を作製することに成功した.

Fig. 9

Preparation of porous membranes by thermally induced phase separation method with drying.

Fig. 10

Preparation of porous membranes by nonsolvent-induced phase separation method with surfactant.

3. デプスフィルターの開発

懸濁液からの粒子を除去する濾過膜は濾過膜表面で粒子を捕捉するスクリーンフィルターと濾過膜内部で粒子を捕捉するデプスフィルターに大別できる(Fig. 11).前者の場合,表面に密な粒子層が形成して濾過抵抗が増加し,濾過速度は著しく低下する.一方,後者では粒子が膜内部に分散されて捕捉されるため,濾過抵抗の増加が緩やかとなり,前者と比較して濾過速度の低下が軽減される [10,11].

Fig. 11

Screen (a) and depth (b) filters.

著者はデプスフィルターに着目し,まず,生分解性プラスチック製ではないポリスルホン製デプスフィルターの濾過特性を検討した.逆三角形状の非対称多孔質構造が膜内で粒子を分散させて捕捉することに有効なことを明らかにした[12,13].

次に生分解性バイオマスプラスチック膜のデプスフィルターへの応用を検討した.生分解性バイオマスプラスチック膜においても逆三角形状の非対称多孔質構造を利用することにより,膜内で粒子を分散させて捕捉することと,高い濾過速度が得られることを明らかにした[4,9,14].Fig. 12に示すような非対称性ポリ乳酸膜において,乳酸菌懸濁液を平滑な面から濾過した場合と粗い面から濾過した場合を比較すると,Fig. 13に示すように粗い面から濾過した場合の方が平滑な面から濾過した場合と比べて濾過速度(グラフの傾き)の低下が軽減され,同じ液量の濾液を得るために必要な濾過時間が3分の1に短縮することができた [9].

Fig. 12

Screen filtration from smooth side and depth filtration from rough side of asymmetric porous membrane.

Fig. 13

Filtration of L. plantarum cell suspensions from smooth and rough sides of asymmetric PLLA membranes.

また,セルロース繊維層の片側にPHA多孔質層を形成させた濾過膜もデプスフィルターとして有効なことを示した [15].セルロース繊維もバイオマス由来の循環型材料であるが,単独では食品微生物の阻止は困難であった.そこで,生物由来の生分解性プラスチックであるPHAとセルロース繊維との複合膜をデプス濾過のために開発した.複合膜はセルロース繊維製のリント布上にPHAのジメチルホルムアミド溶液をコーティングした後に,相分離を行うことによって作製した.PHA の多孔質層の約半分がリント布のセルロース繊維層と複合化していた(Fig. 14).酵母懸濁液の濾過を行ったところ,リント布側から濾過を行うとPHA 側から濾過した場合の5倍の平均速度で濾過を行うことができた(Fig. 15).

Fig. 14

SEM images of cross sections of lint cloth of cellulose fibers (a) and PHA–lint cloth composite filter (b).

Fig. 15

Filtration of yeast cell suspensions by PHA–lint cloth composite filters from PHA and cloth sides.

4. おわりに

以上のように,著者は食品微生物の膜分離を中心に食品分離プロセスを研究してきた.環境循環型食品工業における濾過プロセスのために生分解性プラスチック製の多孔質膜を開発し,多孔質膜の構造を利用して高速な濾過が可能なデプスフィルターへの応用を目指している.今後も食品分離プロセスの研究により食品工学や食品工業の発展に貢献したいと考えている.

謝辞

食品工学の分野の膜分離の研究を進めるにあたり,多くの皆様のご協力をいただきました.研究のきっかけや場を与えていただいた,岡山大学名誉教授 中西一弘先生,新潟大学名誉教授 谷口正之先生,テキサス大学オースチン校名誉教授 Douglas R. Lloyd先生に感謝いたします.実験には岡山大学と新潟大学の教職員や学生の皆様にご協力をいただいております.科研費や各種財団等からの研究助成もありがたく,研究を進めるために使わせていただきました.最後になりましたが,授賞選考委員の方々,日本食品工学会の皆様に厚くお礼申し上げます.

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