2026 Volume 27 Issue 3 Pages 33-42
本研究は,pH以外の要素がこんにゃくゲルの物性に与える影響を動的に評価することを目的とする.具体的には,pH,水酸化物イオン量,加熱時間を統一した上で,4種のアルカリ剤(炭酸カリウム,水酸化カルシウム,炭酸マグネシウムおよびコントロールの水酸化ナトリウム)を用いてこんにゃくゲルを調製し,回転式レオメーターを用いて動的粘弾性測定を実施した.その結果,同一のpH条件下においても,金属イオンの種類によってゲルの物性に差異が出ることが明らかとなった.とくに流動転移指数に着目すると,マグネシウムなどの水和力が高いイオンほど粘り強いゲルを形成し,カリウムなどの水和力が低いイオンほど硬く脆いゲルを形成した.金属の価数や微小なpH変化は構造に大きく影響しなかった.以上より,アルカリ剤に含まれる金属イオンの種類によって,多様な食感をもつこんにゃくゲルを創出できる可能性が示唆された.
This study investigated the effects of different alkali types on the physical properties of konjac gel using a rotational rheometer. The aqueous solutions of konjac flour were coagulated using four types of alkali (potassium carbonate, calcium hydroxide, magnesium carbonate, and sodium hydroxide) while standardizing the apparent pH, the amount of hydroxide ions, and the heating time. Amplitude and frequency sweep tests were conducted to evaluate the dynamic viscoelasticity of the formed gels. The results revealed that the type of metal ion significantly affected the physical properties despite the uniform pH conditions. K added gel exhibited a high linear limit but a low flow transition index, indicating a hard but brittle structure with a delicate network. Conversely, Mg added gel showed a low linear limit and a high flow transition index, suggesting a tenacious gel. Ca added gel and Na added gel displayed intermediate characteristics, with Ca added gel showing an uneven network structure. The differences in breakdown behavior were strongly associated with the hydration ability of the metal ions (Mg > Ca > Na > K), rather than the metal valence or minor pH variations. These findings suggest that controlling hydration ability enables the creation of konjac gels with diverse textures.
こんにゃくは,一般的にこんにゃく粉水溶液に対して高いpHと高い温度を一定時間かけゲル化を進行させることで製造される.高いpHを実現するために,工業的には水酸化カルシウムが一般的に用いられる一方,日本の指定添加物として炭酸カリウムや炭酸ナトリウム,既存添加物として伝統的に貝殻焼成カルシウムや木灰・木灰抽出物など様々なアルカリ剤が利用される.アルカリ剤の種類がこんにゃくゲルの物性に影響することは知られているが,アルカリ剤に含まれる金属イオンの種類による影響についての系統的な研究は見当たらない.ほとんどの食品は弱酸性であるため,pH以外の要素でこんにゃくゲルの物性をコントロールできると,こんにゃくゲルを適用できる食品の幅が広がる.すなわち,本研究の目的はpH以外のアルカリ剤の要素すなわち金属イオンの種類がこんにゃくゲルの物性に与える影響を動的に評価することである.
こんにゃくは,コンニャクグルコマンナン(KGM)という食物繊維を主成分とするこんにゃく粉から作られる.KGMは,d-グルコースとd-マンノースが物質量比1:1.6(あるいは約2:3)の割合でβ-1,4-グリコシド結合により直鎖上に連なった主鎖をもつ多糖類である [1, 2].KGMの分子量は100万以上,重合度は約6200に達する大きな分子で,主鎖を構成する糖残基の約19個に1個の割合で側鎖としてアセチル基が結合していることが構造上の特徴となっている [3].このKGM内のアセチル基が,こんにゃく粉に高い水溶性をもたらしていると考えられている [2].
こんにゃくは,一般的に次のような過程でゲル化するといわれている.こんにゃく粉水溶液にアルカリ剤を添加し加熱すると,アルカリ剤に含まれる水酸化物イオンによってアセチル基が加水分解され,アセチル基の脱離(脱アセチル化)が生じる [4].KGM分子の主鎖を KGM とすると,この加水分解は次式のように表される.
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脱アセチル化により,アセチル基による立体障害がなくなるためKGM分子は互いに接近しやすくなる [4].これにより分子間の水素結合および疎水性相互作用が促進され,分子同士が絡み合うことで,強固な三次元の網状構造体が形成される [5].この結合は化学結合ではなく多糖類の物理的なネットワークであり,不可逆で強固なゲルとしてこんにゃくが生成される [6].
こんにゃくのゲル化に対するアルカリ剤の種類の違いに焦点を当てた研究はいくつか存在する.山際らは [7],伝統的な「灰汁」と化学薬品のアルカリ剤(水酸化カリウム,炭酸カリウム,炭酸ナトリウム)で作成したこんにゃくゲルをクリープメーターによって比較し,水酸化物は「硬いが脆いゲル」,炭酸塩は「弾力と粘りのあるゲル」を形成することを示した.山田らは [8],水酸化カルシウム懸濁液の代わりに,ホタテ貝殻から作製した粒子径の異なる5種類の「粒子状ゲル化剤」を作成し,クリープメーターを用いた物性評価を行った.アルカリ剤の粒子径によってゲル化の進行が不均一になり,それによって物性が変わることを論じた.前者は伝統的なこんにゃくの製法について検討しておりアルカリ剤の水酸化物イオンやアルカリ金属の物質量やpHを揃えるといった操作はなされてはおらず,後者では水酸化ナトリウム以外のアルカリ剤については検討されていない.
一方で,アルカリ剤の種類はこんにゃくの物性に影響を与えないという研究もある.前梶は [9],アルカリ剤は単なる水酸化物イオンの供給源であるとし,太田・前梶は [10],こんにゃくゲルの基本物性は水酸化物イオンの量に強く依存しアルカリ剤の種類による差は小さいと論じた.前梶 [9] の実験では,KGM水溶液にアルカリ剤を添加してから粘度が急激に上昇し始めるまでの時間すなわち「誘導期間(induction period,τ)」についてブラベンダー・アミログラフを用いて測定し,太田・前梶 [10] の実験ではこんにゃくゲルを圧縮した際の応力の減衰(緩和)についてオートグラフ(引張圧縮試験機)を用いた物性の比較を行っている.前者はゲル化プロセスが進行し始めた時点を特定するもの,後者はゲルが破断される時点での強度を測定するもので,双方とも静的な測定であり連続的な物性評価とは言い難い.
近年は,ゲルの詳細な物性評価に回転式レオメーターを使用した動的粘弾性測定が用いられている.これは,ゲルが内包する弾性成分(貯蔵弾性率,G′)や粘性成分(損失弾性率,G″)を明確に分離し,かつパラメータを変動させつつ物性の変化を動的に測定することができる.Herranzらは [11],水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの2種類の1価の塩を用い水酸化イオン濃度を揃えた上でアルカリ金属の種類がこんにゃくゲルの物性に与える影響について,回転式レオメーターによって動的粘弾性測定を行った.水酸化カリウムのゲルは弾力性が高く保存安定性に優れていた一方,水酸化ナトリウムのゲルは硬いものの弾力性は低く脆い性質を示した.この違いは,ナトリウムイオンの方がカリウムイオンよりも水和能力が高くゲル構造内の自由水を強く拘束するためであると考察されている.Yoshimuraらは [12],酵素で様々な分子量に調整したKGMについて,分子量,濃度,温度,アルカリ濃度によってゲル化速度が変化することを示した.Chenらは [6],KGMと他のゲル化剤との組み合わせによってG′,G″や破断特性が相乗的に増強される場合があるとした.このように近年はこんにゃくゲルに対して様々な視点から動的粘弾性測定による研究が行われているものの,金属イオンの種類の比較に焦点を当てpHや金属イオンの物質量を固定した研究はやはり見当たらない.
pHの高低は,食味に大きな影響を与えるといわれている[13].pHを一定に保ったままで食感のみをコントロールすることができれば,食味に影響がないまま,より多様な食感をもったゲルの創出につながりうる.
本研究では,pHや加熱温度・加熱時間といった要素をコントロールした上でアルカリ剤に含まれる金属イオンの種類を変えたこんにゃくゲルに対して回転式レオメーターを用いて動的粘弾性測定を行うことで,金属イオンの種類がこんにゃくゲルの物性に与える影響を動的に分析した.これにより,食味に大きな影響を与えてしまうpHの高低に頼らない多様な食感のこんにゃくゲルの実現を検討した.
こんにゃく粉は,株式会社荻野商店(群馬県甘楽郡下仁田町)から購入したもの(「白雪特級」,粒子径規格:35メッシュパス)を用いた.比較するアルカリ剤として,炭酸カリウム(AGC株式会社,東京都千代田区),水酸化カルシウム(入交石灰工業株式会社,高知県南国市),炭酸マグネシウム(日本ガーリック株式会社,群馬県高崎市)を使用した.3種のアルカリ剤はすべて食品添加物グレードのものを使用した.
2.2 試料の調製炭酸カリウムを添加したサンプル(K-gel),水酸化カルシウムを添加したサンプル(Ca-gel),炭酸マグネシウムを添加したサンプル(Mg-gel),およびコントロールとして水酸化ナトリウムのみを添加したサンプル(Na-gel)の4種類を調製した.Table 1および2に,各サンプルの調製条件を示す.
| Sample | Alkali agent type | Mass of alkali agent (mg/100 g) |
Metal ion type | Metal ion valence | Amount of metal ion (mmol/100 g) |
|---|---|---|---|---|---|
| K-gel | K2CO3 | 24.2 | K | 1 | 0.350 |
| Ca-gel | Ca(OH)2 | 26.8 | Ca | 2 | 0.362 |
| Mg-gel | MgCO3 | 28.8 | Mg | 2 | 0.342 |
| Na-gel (control) |
NaOH | 29.1 | Na | 1 | 0.728 |
NaOH: sodium hydroxide, Na+: sodium ion, OH-: hydroxide ion, meq: milliequivalent.
K2CO3: potassium carbonate, Ca(OH)2: calcium hydroxide, MgCO3: magnesium carbonate.
K: potassium ion, Ca: calcium ion, Mg: magnesium ion, Na: sodium ion.
| Sample | Added NaOH mass (mg/100 g) |
Na+ amount (mmol/100 g) |
Total positive charge (meq/100 g) |
OH- amount from NaOH (mmol/100 g) |
Average pH before heating |
Temp. (°C) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| K-gel | 9.66 | 0.242 | 0.592 | 0.242 | 10.2 | 6.7 |
| Ca-gel | 0 | 0 | 0.724 | 0 | 10.3 | 10.5 |
| Mg-gel | 16.3 | 0.408 | 1.092 | 0.408 | 10.4 | 13.5 |
| Na-gel (control) |
0.0 | 0.728 | 0.728 | 0.728 | 10.4 | 9.0 |
NaOH: sodium hydroxide, Na+: sodium ion, OH-: hydroxide ion, meq: milliequivalent.
Temp.: average temperature during pH measurement before heating.
まず,こんにゃく粉水溶液の作成のために,ミキサー(KALELAISU製,8 リットルスタンドミキサー)に水道水3880 ccを入れ低速で攪拌しながら,こんにゃく粉120 gをだまにならないように少しずつ投入した.10分間攪拌を行ったのち,ボウルにラップをかけて冷蔵庫で一晩保管した.
次に,3種のアルカリ剤の懸濁液をそれぞれ作成した.こんにゃく粉水溶液との混合後のpHとアルカリ剤由来の金属イオンの物質量を揃えるため,あらかじめ各アルカリ剤の金属イオンと水酸化物イオンの物質量を計算し,アルカリ剤懸濁液の濃度と添加量を決定した.緩衝によりpHが上がりにくい炭酸カリウムと炭酸マグネシウムについては,追加のpH調整剤として約4質量%の水酸化ナトリウム水溶液(株式会社ナリカ,東京都千代田区) をイオン交換水で質量比4倍に希釈して用いた.
その後,こんにゃく粉水溶液に,アルカリ剤懸濁液と水酸化ナトリウム水溶液を添加し,3種のサンプルを作成した.
K-gelとして,こんにゃく粉水溶液100 gに炭酸カリウム1質量 %懸濁液2.5 gと約1質量 %水酸化ナトリウム水溶液1.0 gを添加した.Ca-gelとして,こんにゃく粉水溶液100 gに水酸化カルシウム1.1質量 %懸濁液2.5 gを添加した.Mg-gelとして,こんにゃく粉水溶液100 gに炭酸マグネシウム1.2質量 %懸濁液2.5 gと約1質量 %水酸化ナトリウム水溶液1.7 gを添加した.
水酸化ナトリウムによる影響を見るため,アルカリ剤懸濁液は添加せず水酸化ナトリウム水溶液のみを添加し同程度のpHに揃えたNa-gelをコントロールとして作成した.これは,こんにゃく粉水溶液100 gに約1質量 %水酸化ナトリウム水溶液を3.0 g添加し作成した.
本研究では,3種のアルカリ剤の金属イオン量(K,Ca,Mg)を約0.35 mmol/100gに近似させること,および加熱前のみかけのpHを10.2〜10.4の範囲に統一することを最優先の固定条件とした.炭酸塩の緩衝作用によりpHが上昇しにくいK-gelおよびMg-gelについては,少量のNaOH水溶液を添加してpHの調整を行ったため,結果としてTable 2に示す通り,試料間でNaイオン量や総電荷量に差異が生じている.この追加されたNaイオンおよびOHイオンがゲル物性に及ぼす影響を評価し,各金属イオン固有の効果を推測するために,NaOHのみで同等のpHに調製したNa-gelをコントロールとして配置した.各試料の物性値をこのNa-gel(コントロール)と比較・相対評価することで,3種の金属イオン(K,Ca,Mg)がゲルの構造に与える影響を分析できる実験設計となっている.
また,各サンプルの pH を揃えるため,上記のようにこんにゃく粉水溶液100 gに対するアルカリ剤懸濁液等の添加量は2.5 gから4.2 gの範囲で変動している.これにより試料間に最大で約1.6 %のポリマー濃度差(水分量として最大1.7 gの差)が生じるが,高分子ゲルのべき乗則(G′∝Cn)から試算される弾性率への影響は最大でも5 %程度と微小である.この影響は,後述する金属イオンの種類に起因する崩壊特性(線形限界や流動転移指数)の差異と比較して極めて小さいため,本研究における結論を妨げるものではないと判断した.
なお,本研究と同濃度のこんにゃく粉水溶液に対して炭酸カリウムが 0.3~0.7質量 % となるように添加する予備実験を行った際は,pH10.2~10.6程度以上(計測温度22~25°C)にpHは上昇しないという炭酸塩の緩衝作用が観察された.今回は,こんにゃく粉水溶液に対して炭酸カリウムの添加量は0.02質量 % であり,炭酸塩によって緩衝作用が起きる量ではない.
こんにゃく粉水溶液とアルカリ剤を添加した混合液を添加したサンプルを作成するにあたって,混合時の脱アセチル化反応の進行を防ぐために氷水に漬けたビーカー内で攪拌を行った.攪拌は,撹拌機(東京理化器械株式会社,東京都文京区,マゼラNZ-1300)およびテフロン®攪拌翼(東京理化器械株式会社,東京都文京区,58 × 19 mm)を使用し,回転速度 90 rpmで50分間を行った.50分間という攪拌時間は,同濃度の混合液を利用した予備実験により3点のpHがほぼ均一になる最低限の時間という観点で設定した.
pHと温度の測定には,pHメーター(HORIBA Instruments Pte Ltd.,Singapore,ガラス電極式水素イオン濃度指示計D-210P-F)とpH電極(株式会社堀場アドバンスドテクノ,京都市,フラットISFET pH電極0040N-10D)を用いた.サンプルの粘度を考慮し,同一サンプル内の異なる3点を計測したうえで,pHは測定水素イオン濃度に基づく平均値,温度は算術平均による平均値を求めた.すべてのサンプルについて,攪拌後のpHを10.2~10.4の範囲にそろえた.一般的にこんにゃくのゲル化はpH11.3〜12.6の強アルカリ域で進行するとされる [12]が, pH10程度であれば室温下でゲル化はほぼ進行せず,かつ60°C以上に加熱したとき急激にゲル化が進行することがJianら [14]によって報告されている.サンプルの安定性を担保するために,このpHをターゲットとして調製を行った.
すべてのサンプルをそれぞれ30.0 g取り出し,ナイロンポリ袋(クリロン化成株式会社,大阪市東淀川区,彊美人XS-1220)に入れ,真空包装機(エラスティック合同会社,東京都中央区,JP290)を用いて30秒脱気・密封し,全体を平らに延ばした.300 mLビーカーに200 mLの水道水を入れ,ウォーターバス(東京理化器械株式会社,東京都文京区,EYELA SB-350)を用いて80 °Cに熱した状態にし,密封したサンプルを1袋ずつ投入して60分間ずつ加熱した.その後,反応の進行を止めるために,氷水で1時間冷却し十分に熱をとったのち,冷蔵庫に保管した(Fig. 1).

Samples cooled after heating. The sample ID is Na-gel.
サンプル内の気泡やゲル化進行度の違いによるムラを考慮し,上記の方法で混合・攪拌・加熱処理を行った各サンプルから,無作為に10個の試験片を採取し,サブサンプルとしてそれぞれ測定を行った(N=10).回転式レオメーター(サーモフィッシャーサイエンティフィック社,米国Massachusetts州Waltham,HAAKE MARSIII)(Fig. 2)を使用し,各サブサンプルに対して動的粘弾性測定を実施した.

Rotational rheometer used in this study HAAKE MARS III. Manufactured by Thermo Fisher Scientific, provided by Izumi Center, Osaka Research Institute of Industrial Science and Technology.
最初に,歪依存性測定を実施した.歪依存性測定(振幅スイープ)は,角周波数ωを一定にして振幅を変化させる振動試験で,各サンプル片のG′,G″の変化を動的に測定する.本測定は,ω5 Hz,温度10 °C(室温は20 °C以上),測定ギャップ0.05 mmの条件下で実施した.
次に,周波数依存性測定を実施した.周波数依存性測定は,歪み(振幅)γを一定にしてωを変化させる振動試験で,各サブサンプルのG′,G″の変化を動的に測定した.本測定は,制御歪み5%,温度10 °C(室温は20 °C以上),測定ギャップ0.05 mmの条件下で実施した.
それぞれの測定において,サブサンプルを回転部に置きスムージングしたうえで回転部からはみ出た部分をトリミングして測定を実施した.
2.4 統計処理回転式レオメーターでの歪依存性測定は,γもしくは応力τを制御するものの,それらの値は測定対象の物性によって変化するため,サブサンプルの測定結果に共通した間隔の軸がなく,サブサンプルの算術平均をそのまま計算することはできない.そのため,γを基準グリッドとして10個のサブサンプルの計測値を線形補完したうえで,γごとのG′,G″およびG″/G′で求められゲルの粘弾性挙動を示す損失正接(tanδ)の平均値をそれぞれ計算することで,サンプル全体の物性値とした.
ωを一定にして振幅を変化させる歪依存性測定を,4つのサンプルに対して実施した.Fig. 3ではサンプルごとの測定結果を示す.

Strain dependence of dynamic viscoelasticity for the konjac gels. G′, storage modulus, G″, loss modulus.
歪依存性測定では,構造が破壊されない安定範囲(線形弾性領域,LVR / Linear Viscoelastic Region)を特定したうえで,各サンプルの性質をみるために,LVR内のG′(G′LVR),LVR内のtanδ,構造破壊が始まる線形限界τL,流動点におけるせん断歪(Shear Strain)γfを特定した.
LVRは臨界歪に基づき特定した.せん断応力とせん断歪の両対数プロットにおける傾き(微分値)を算出すると,LVR内での理論値は1.0となる.しかし,歪依存性測定においては,γもしくはτの上昇に伴って網目構造が切断されるなどゲルが徐々に崩壊し,両対数プロットの傾きは徐々に小さくなっていく [16, 17].本研究では,このようなLVR判定の一般的考え方に基づきつつ,サンプル内の構造ムラに起因する誤判定を防ぐための閾値として「傾きが0.97を下回る点」を設定した.さらに,ノイズによる一時的な値の乱高下ではなく,ゲルの崩壊が不可逆に開始された点を捉えるために,両対数プロットの傾きが「0.97を下回りかつその後1.0以上に上昇することがない点」を臨界歪と定義した上で,「計測開始時点から臨界歪までの範囲」をLVRとした.
また,同一サンプル内の構造のばらつきを比較するために,LVR内およびLVR終了時点から流動点の間におけるG′およびG″の変動係数(CV)についてサブサンプル間の平均値を求めた(Table 3).
| LVR properties | Breakdown behavior | Coefficient of variation (CV) | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| in LVR | LVR to flow pt. | |||||||||
| Sample | G′ (Pa) |
G″ (Pa) |
tanδ | τL (Pa) |
τf (Pa) |
Flow trans. |
G′ | G″ | G′ | G″ |
| K-gel | 1783 | 409 | 0.23 | 190 | 654 | 3.45 | 0.02 | 0.03 | 0.13 | 0.13 |
| Ca-gel | 1922 | 423 | 0.22 | 119 | 621 | 5.20 | 0.10 | 0.10 | 0.29 | 0.24 |
| Mg-gel | 1761 | 416 | 0.25 | 105 | 686 | 6.53 | 0.06 | 0.09 | 0.16 | 0.13 |
| Na-gel (control) |
1836 | 415 | 0.23 | 158 | 713 | 4.51 | 0.04 | 0.04 | 0.31 | 0.15 |
LVR properties, breakdown behavior, and CV were determined by amplitude sweep tests.
LVR: linear viscoelastic region, G′, storage modulus, G″, loss modulus, tanδ: loss tangent,
τL: linear limit (shear stress), τf: flow point (shear stress at G′= G″), Flow trans.: Flow transition index, flow pt.: flow point.
LVRを元に,各サンプルのG′LVRの平均を求めて比較した.G′LVRは,各サンプルの静止時の構造の強固さを表す.K-gelはG′LVR 1783 Pa,Ca-gelはG′LVR 1922 Pa,Mg-gelはG′LVR 1761 Pa,Na-gelはG′LVR 1836 Paとなった.LVRにおけるはG′,Ca-gelの値が最も高く,ゲル化が最も進行したといえる.
次に,LVR内におけるtanδの平均値を比較した.K-gelは0.23,Ca-gelは0.22, Mg-gelは0.25,Na-gelは0.23となった.各サンプルのLVR内におけるG′とtanδの平均値から,静止時の構造の強固さや粘弾性挙動にはサンプル間の差がなかったといえる.一方,tanδの平均値をグラフ(Fig. 4)に書き表すと,K-gelは歪が上昇してもtanδの値の上昇がやや遅い,すなわち延性があり内部構造自体が変形しやすいという特徴がみられた(Fig. 4).他のサンプルと比較してK-gelは内部のゲル化の進行が遅かったと考えられる.

Strain dependence of tanδ for the konjac gels. tanδ, loss tangent.
ゲルが崩壊していく際の性質をみるために,線形限界と流動点を特定し,流動転移指数(Flow transition index)を割り出した.
τLは,せん断応力τとせん断歪γの比(弾性率)が一定でなくなり始める,τ(γ)またはγ(τ)曲線上の点と定義される.τLは,構造の「微細な破壊」が始まった点であり,この値が大きいと崩壊が始まりにくく,ネットワークの密度や結合が密であるといえる [15].本研究では,ISO 6721-10:2025 および EN 14770:2023 を参考に,G′がLVRにおける平均値から5 %低下した時点のせん断応力τをτLとして求めた [18, 19].K-gelは190 Pa,Ca-gelは119 Pa,Mg-gelは105 Pa,Na-gelは158 Paとなった.
τfは,G′=G″となる交点(クロスオーバーポイント)におけるせん断応力と定義される.この値は,物体が流れ出すのにどれだけの外力が必要かという抵抗力の大きさを表す.K-gelは654 Pa,Ca-gelは621 Pa,Mg-gelは686 Pa,Na-gelは713 Paとなった.
流動転移指数は,τfとτLまたは降伏点の値の比として定義され,構造が壊れ始めてから完全に流動化するまでの粘り強さや脆さを表す指標となる.値が小さいと構造破壊が始まると同時に流動化しているといえ,値が大きいと粘りのあるクリーミーな質感であるといえる [20].本研究では,τfとτLの比を流動転移指数とし,各サンプルの値を計算して比較した.K-gelは3.45,Ca-gelは5.20,Mg-gelは6.53,Na-gelは4.51となった.
歪依存性測定における崩壊時の性質をまとめると,K-gelは,線形限界値が最も高いものの流動転移指数は小さい,つまり崩壊が始まりにくいが始まるとすぐに壊れる,硬いが脆いゲルであった.逆に,Mg-gelは,歪依存性測定において線形限界値が最も低く流動転移指数は大きい,つまり崩壊は始まりやすいが流れにくい,粘り強いゲルであった.Ca-gelは,Na-gelとともに上記2つのサンプルの中間の性質であった.
3.1.4 線形領域と非線形領域での性質の比較上記から,線形領域内での挙動から安定時のゲルの物性には金属イオンの種類が影響しているといえる.非線形領域での挙動から崩壊時のゲルの物性には金属イオンの種類よりも水和力が影響しているといえる.前者は結着成型剤としての利用の際に,後者は食感改良剤としての利用の際に,それぞれ役立つ知見となりうる.
3.1.5 均質性各サンプルの構造の均質性をみるために,サブサンプル間のG′およびG″の平均に対するCVを比較した.それぞれLVR内および構造破壊の経過中である線形限界と流動点の間に分けて計算を行った.いずれのサンプルも構造破壊が始まると変動係数が大きくなるが,Ca-gelは,LVR内のG′のCVの平均値および同G″の変動係数の平均値がともに0.10でありほかのサンプルと比較して突出して大きく,構造にムラがあることがわかった.
3.2 周波数依存性測定周波数依存測定において,すべてのサブサンプルのG′およびG″を測定し,各サンプルの平均値を求めた(Fig. 5).その後,各サンプルのtanδを割り出し,比較した(Fig. 6).周波数が高くなるほどtanδが下がるという傾きはほぼ同じであった.4つのサンプルとも絡み合いの強いポリマー様だったといえる.周波数依存性において,K-gelは,G′およびG″双方の値が全体にわたって最も低かった.一方でtanδがやや低かった.これらのことから,K-gelは最も緩やかなゲルを形成したといえる.炭酸塩は水酸化物に比べ緩衝性が高く均一的な反応を行うとされているが,今回の実験では,K-gelの加熱前後のpH低下幅(10.2→7.6)は,Na-gel(10.4→7.6)と同程度であり,また前述の予備実験においてこんにゃく粉水溶液に対して炭酸カリウムを単独で添加した際に観察された緩衝領域pH(10.2~10.6)よりも十分に低下したことから,今回の実験条件は添加した炭酸カリウムの反応を十分に引き出したものであったと判断できる.Na-gelのtanδはやや高くネットワークの構造自体が緩かった.Mg-gelとCa-gelは,上記2つのサンプルの中間の性質を示した.

Frequency dependence of storage and loss moduli for the konjac gels. G′, storage modulus, G″, loss modulus.

Frequency dependence of tanδ for the konjac gels. G′, storage modulus, G″, loss modulus.
歪依存性測定における線形領域内での性質,崩壊時の性質,均質性および,周波数依存性測定の結果と考察をまとめる.K-gelは,一度崩壊が始まると壊れやすい脆いゲルであった.逆に,Mg-gelは,崩壊は始まりやすいが流れにくい,粘り強いゲルであった.Ca-gelは全体としてみると,Na-gelとともに上記2つのサンプルの中間の性質であったが,内部構造としてムラが大きく均一なネットワークが成立していなかったと言える.
とくに、この流動転移指数に着目すると,各サンプルの値はマグネシウムイオン(6.53)>カルシウムイオン(5.20)>ナトリウムイオン(4.51)>カリウムイオン(3.45)の順となった.この序列は,金属イオンの価数や水和力の高さ(ホフマイスター系列における塩析効果の傾向)と概ね合致している. 先行研究においても,KGMゲルの形成挙動は塩の存在下でホフマイスター系列に従い,金属イオンの水和力がネットワーク構造の熱的安定性などに影響を及ぼすことが報告されている [21]. 本研究においても,水和力が高いイオン(マグネシウムやカルシウム等)は,周囲の水を引き寄せることで鎖間の疎水性相互作用を強化し,高い保水性によって粘り強く耐える強固なネットワークを形成したと考えられる [21, 22].一方で,水和力が低いイオン(カリウムなど)は,疎水性相互作用を強化しにくいため,ネットワークの結合が相対的に弱く,水分を保持できずにすぐ全体が崩壊する脆いゲルを形成したと推察される [22].つまり,アルカリ剤に由来する金属イオンの水和力の違いが,ゲル全体の巨視的な崩壊挙動(保水性や粘り強さ)を決定づけているといえる.
以上の結果は,pHの高低に頼らず多様な食感のこんにゃくゲルを実現するにあたって,金属イオンの種類を変えることにより異なるゲルの構造を評価できることを明らかにした.また,ゲル化の進行スピードと水和力に合わせた最適なpHおよび加熱時間のコントロールが必要な可能性が示唆された.こんにゃくゲルのアルカリ剤に含まれる金属イオンの種類に着目することで結着成型剤として,また金属イオンの水和力に着目することで食感改良剤として,多様な物性の実現にこんにゃくゲルを活用できることを示した.
こんにゃくを製造するために調製するこんにゃく粉水溶液とアルカリ剤の混合液について,みかけ上のpH,添加するアルカリ剤の水酸化物イオンの物質量やアルカリ金属の物質量,加熱時間を固定したうえで,pH以外のアルカリ剤の要素すなわち金属イオンの種類が凝固後のこんにゃくゲルの物性に与える影響を動的に評価した.その結果,金属イオンの種類によって,凝固後のこんにゃくゲルは異なる物性を持つことがわかった.とくに、流動転移指数に着目すると,水和力の高低がゲル全体の崩壊挙動に影響を与えていることが示された.
また,加熱前後のpHの高低がゲルの構造や崩壊挙動に影響を与えているとはいえないことがわかった. 金属イオンの種類や水和力に合わせたpH,加熱時間をコントロールすることで,添加したいもしくは添加したくない素材との組み合わせの検討が可能となり,条件に応じた適切なゲルを生成することができる可能性を示すことができた.
本研究における動的粘弾性の測定にあたり,回転式レオメーター(HAAKE MARS III)の利用にご便宜を図っていただきました,地方独立行政法人大阪産業技術研究所(和泉センター)の舘秀樹氏に深く感謝いたします.
CV: coefficient of variation
G′: storage modulus, Pa
G″: loss modulus, Pa
N: number of samples
tanδ: loss tangent
γ: shear strain
γf : shear strain at flow point
τ: shear stress, Pa
τf : flow point, Pa
τL: linear limit, Pa
ω: angular frequency, Hz
i) https://wiki.anton-paar.com/en/amplitude-sweeps/ (Feb. 22, 2026)