Fish Pathology
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Cases of Emaciation in Farmed Greater Amberjack Seriola dumerili
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2025 Volume 60 Issue 3 Pages 161-165

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要旨

夏季にカンパチ養殖場において,魚体重約 80 gの群で累積死亡率約10%に達する死亡事例が発生した。臨床的にはヤセ症状と幽門垂の拡張が顕著に観察された。病理組織学的な観察では,胆管腔に粘液胞子虫が高頻度で観察され,顕著な肝炎が認められたほか,腸管にもコクシジウム様異物が観察された。病魚由来のRNAについてメタトランスクリプトーム解析を行ったところ,粘液胞子虫に分類される Sphaerospora属およびコクシジウム類の1種であるGoussia属に類似性を示す遺伝子配列が高頻度で検出された。今回の検査ではヤセ症状の要因を十分に説明することはできず,原因体の特定には至らなかったものの,これらの寄生体がヤセ症状の原因となった可能性が高いと考えられる。

カンパチSeriola dumeriliの海面養殖は西日本沿岸を中心に盛んに行われており,日本における主要な海面養殖産業の一つとなっている。宮崎県においても本種が盛んに養殖されているが,2021年9月にヤセ症状を呈する疾病が発生し,成長の遅れや死亡が確認されたことから,養殖現場で問題となった。周囲にはカンパチ以外にマダイも飼育されていたが,ヤセ症状を示したのはカンパチのみであった。本海域では,同様のヤセ症状が2015年春先にカンパチ当歳魚において確認されている。魚病検査を実施したところ,環境性や栄養性の要因は考えられず,感染症が疑われた。そこで本研究では,カンパチで発生したヤセ症状について,発生状況および魚病検査結果を報告する。

材料および方法

2021年11月に宮崎県A養殖場でヤセ症状が認められる不調な10尾を採取し,うち5尾を外観症状,鰓および内臓諸器官の観察,菌分離ならびに遺伝子検査に,残り5尾(#1–5)を病理組織検査に供した。外観症状の観察,鰓の生標本観察および内臓諸器官の観察は,養殖カンパチの魚病診断マニュアル(村瀬,2018大迫ら,2018)に準じて行った。内臓諸器官の観察において5尾で粘性便が確認されたため,粘性便を滅菌生理食塩水で100倍程度に希釈し,光学顕微鏡で観察した。内臓諸器官の観察後,1.5% NaCl添加ブレインハートインヒュージョン寒天培地(日水製薬)およびTCBS寒天培地(日水製薬)を用いて脳および腎臓から細菌分離を試みるとともに,遺伝子検査用として肝臓,腎臓,脾臓,幽門垂,腸管および粘液便を採取し,-80°Cで冷凍保存した。病理組織検査には鰓,肝臓,膵臓,脾臓,幽門垂,腸管を採取しDavidson固定液で1晩固定し,常法に従ってアルコール系列による脱水およびパラフィンによる包埋処理を施し,3 μm厚の組織切片を2組作製し,ヘマトキシリン・エオシン(HE)またはメイ・グリュンワルド・ギムザ(MG)染色を行い,光学顕微鏡で観察した。遺伝子検査用のサンプルは,各組織からQuick-DNA/RNA Pathogen Kit(ザイモリサーチ)を用いて核酸を抽出した。メタトランスクリプトーム解析には,全ての抽出核酸を混合したのち,RNA Clean & Concentrator-5(ザイモリサーチ)により精製したRNAを供した。次世代シーケンスに係るライブラリー調整および遺伝子配列の取得は株式会社生物技研に委託した。取得されたデータから宿主の遺伝子配列を除くために,GenBankより取得したカンパチのゲノム配列およびコーデング配列に対して,シークエンスリードのマッピングを行った。マッピングにより除外されなかったリードをアセンブルし,コンティグを構築した後,ウイルス,細菌および原虫等の遺伝子データベースに対して相同性検索を行い,病原体候補を探索した。本遺伝子解析の結果,相対遺伝子量(カバレッジ)が100以上のコンティグ配列を病原体候補として選定し,それぞれに対するPCR検査を実施した。なお,同一種に由来すると推定される複数の配列が検出された場合には,そのうちの一つを選んでPCRの標的とした。

サンプルにはカンパチ5個体の腸管および幽門垂を使用した。DNAはMaxwell 16 Tissue DNA Purification Kit(プロメガ)を用いて,RNAはDirect-zol RNA Kit(ザイモリサーチ)を用いて各組織から抽出した。また,ReverTraAce qPCR RT Kit(東洋坊)を用いた逆転写反応により,抽出RNAからcDNAを合成した。新たに設計したプライマー(表1)およびGoTaq G2 Hot Start Green Master Mix(プロメガ)を用いて各標的に対するPCR検査を試みた。寄生虫の検査にはDNAを,ウイルスの検査には幽門垂と腸管由来のcDNAを混合して使用した。

表1 PCR検査に使用したプライマー一覧

標的プライマー名配列(5′-3′)産物サイズ(bp)
Goussia sp.MzYtGsiFTGCTTTGTAATTGGAATGGTGGGA1,010
MzYtGsiRGGCCAAGGTTATAAACTCGTTGAATGC
Sphaerospora sp.SphaSeriF2CGCCAGCAACGTTAGATGTTTATAA970
SphaSeriR2TCGCAAAACAATCATACAAAAGCACA
Paramyxovirus-1PmyxV289FCACTTCGGCATGGCTCTGTTCC493
PmyxV289RAGACGAGGCAGCCCAGATGATG
Paramyxovirus-2PmyxV673FTGCGGCCTGTTCGATTTGTGAC424
PmyxV673RTGGGGTCAACACGAGATTGCCT
Paramyxovirus-3PmyxV1410FCGTGTATCCGACCAAGACCCAT481
PmyxV1410RGCAAAAGAGGTTCCTGCGTTCC
PhenuivirusPheleV2709FTTCTTCATGATGGCCGGACTCG477
PheleV2709RCGTTGACCTTCGCACAATGGCA

結果および考察

魚病診断における病魚の症状および粘性便の顕微鏡観察結果を図1に示す。すべてのカンパチ病魚において,ヤセ症状(図 1A),幽門垂の拡張(図 1B)が確認された。また,肝臓を切断した際には,胆汁の漏出が認められた。粘性便の顕微鏡観察により,球胞子虫様のオーシスト(約 10 μm)を備えたコクシジウム様異物(図 1C)が確認された。病魚の脳及び腎臓から細菌分離を試みたが,特徴的な細菌は検出されなかった。

図1 カンパチ病魚で認められた症状

A:ヤセ症状,B:幽門垂拡張(黒矢頭),C:粘性便で確認されたコクシジウム様異物(白矢頭)

病理組織学的に観察し,全個体(#1–5)に概ね共通した所見を得た(図 2)。5個体の胆管腔に粘液胞子虫のプラスモディウムが高率で観察され,内部に成熟胞子が確認されたことから,Sphaerospora属に由来するものと考えられた(図 2B)。肝臓においても,共通し,浸潤細胞の集積による炎症が観察され,そのうち1個体(#2)では顕著な肝障害が認められた(図 2A)。5個体の腸管腔にコクシジウム様の原虫が出現し,腸管上皮に付着していたが,組織に変性や炎症などの顕著な異常は認められなかった(図 2C)。また,3個体(#2,4および5)の腸管粘膜上皮層には,粘液胞子虫と考えられる多核体が中程度に認められた(図 2D)。5個体の腹膜には多数の肉芽腫が観察されたが,周囲組織や肉芽腫内部に病原体は認められず,反応の原因は特定できなかった(図 2E)。なお,5個体全てにおいて細菌は観察されず,ウイルス感染を積極的に疑うような病変も認められなかった。胆管腔に多数の粘液胞子虫のプラスモディウムが認められ,胆汁の漏出や顕著な肝炎が観察されたことから,粘液胞子虫が総胆管あるいは多くの小胆管を閉塞し,うっ滞した胆汁が肝組織内に貯留した可能性が高い。胆汁酸は毒性を有し,これが死亡や不調の一因となるとともに,肝機能の低下を引き起こす可能性があることから,ヤセ症状との関連が疑われる。しかし,肝臓や胆管以外にも,腹膜炎や腸管における原虫寄生といった共通の病変が認められており,それぞれの病変との関連性は不明であるため,胆管腔閉塞以外の要因も否定できない。

図2 肝臓,胆管,幽門垂上皮,腸間膜の病理組織像

A:肝臓に多数の浸潤細胞が出現し,マクロファージセンター(*)が形成されている。画面に見える核の大部分は浸潤細胞であり,肝細胞がみられない。また,胆管上皮が無秩序的に増生し(白矢頭は一部を示す),顕著な肝炎がみられる。B:肝臓の胆管腔の管腔に観察された粘液胞子虫のプラスモディウム。右下の挿入写真にプラスモディウムの中身にみられた成熟胞子の拡大を示す。C:コクシジウム様異物が幽門垂上皮に付着し,上皮の細胞高がやや低くなっている。D:粘膜上皮層に粘液胞子虫様の多核体(白矢印)がみられる。画面下の核は粘膜上皮の核である。E:腸間膜にみられた肉芽腫炎(黒矢印は一部を示す)。肉芽腫周囲に繊維の増生がみられ,線維化が起きている。画面左上端に膵組織や画面中央に血管(黒矢頭)がみられるが,異常はない。A,C,D,E:HE染色;B:MG染色

メタトランスクリプトーム解析の結果を表2に示す。複数種の寄生虫およびウイルスに類似性を示す遺伝子配列が検出された(表 2)。なかでも検出率が高かったのは,コクシジウム類に分類されるGoussia属および粘液胞子虫類に分類されるSphaerospora属であった。ウイルスに関しては,パラミクソウイルスに類似性を示す配列が比較的多く検出され,詳細な解析の結果,パラミクソウイルス科に属するウイルスが少なくとも3種含まれていると推測された。このほか,フェヌイウイルス科に類似する配列も検出された。これらの高カバレッジ配列を標的として特異的プライマーを設計し,個体別および臓器別にPCRによる陽性率を調べた。その結果について,寄生虫に関するものを図3,ウイルスに関するものを図4に示す。

表2 メタトランスクリプトーム解析で検出された寄生虫及びウイルス(一部抜粋)

Sequence ID類似性が認められた種Genbank ID類似性相対遺伝子量(カバレッジ)上位分類群
Parasite_01Goussia sp.MH7587841,816/1,845 bp(98%)131.6Eimeriidae
Parasite_02Goussia sp.MH7587823,353/3,471 bp(97%)198.5Eimeriidae
Parasite_03Sphaerospora sp.MF4317251,922/2,095 bp(92%)245.9Sphaerosporidae
Parasite_04Sphaerospora sparidarumJX286629530/604 bp(88%)302.9Sphaerosporidae
Parasite_05Parvicapsula curvaturaMF1613981,592/1,905 bp(84%)39Parvicapsulidae
Parasite_06Parvicapsula anisocaudataKY3419252,404/2,902 bp(83%)21.8Parvicapsulidae
Parasite_07Ceratomyxa ireneaeJX971430501/611 bp(82%)1.8Ceratomyxidae
Parasite_08Ceratomyxa sp.MZ32772873/81 bp(90%)1.8Ceratomyxidae
Virus_01Paramyxoviridae sp.UED3723261/240 aa(25%)303.4Paramyxoviridae
Virus_02Sara tick phlebovirusQPD0162051/151 aa(34%)270.2Phenuiviridae
Virus_03Crotalus paramyxovirusAWX68683162/464 aa(35%)190.9Paramyxoviridae
Virus_04Anaconda paramyxovirusARJ32394151/345 aa(44%)134.5Paramyxoviridae
Virus_05Reptilian ferlavirusQWZ46270137/395 aa(35%)133.2Paramyxoviridae
Virus_06Reptilian ferlavirusQBR53083243/527 aa(46%)120.4Paramyxoviridae
Virus_07Anaconda paramyxovirusARJ32396256/487 aa(53%)77.8Paramyxoviridae
Virus_08Reptilian ferlavirusQBR53083242/517 aa(47%)55.3Paramyxoviridae
Virus_09Anaconda paramyxovirusARJ32396247/475 aa(52%)53.3Paramyxoviridae
  寄生虫の類似性は塩基配列で,ウイルスに対する類似性はアミノ酸配列の同一率で示した。

図3 Goussia属およびSphaerospora属に対するPCR 検査の結果

図4 パラミクソウイルスおよびフェヌイウイルスに対するPCR検査の結果

寄生虫に対する遺伝子検査では,ヤセを示す衰弱ブリ全個体の腸管および幽門垂においてGoussia属およびSphaerospora属に対する陽性反応が確認された。Coccidia属をはじめとするコクシジウム類は消化管に障害を引き起こすことが報告されている(Suyapoh et al., 2022)。また,Sphaerospora属の粘液胞子虫も養殖トラフグやマダイにおいてヤセの原因となっている可能性が高いとされている(堅田ら,2015)。

一方,ウイルス検査では,全個体に共通して陽性反応を示すウイルスは認められず,本症との関連性は低いと考えられた。既知のパラミクソウイルスは魚類ではマスノスケにおいて報告されているが,肝臓や消化管に病変を引き起こすことは確認されていない(Batts et al., 2008)。

以上の結果から,本魚群は複数の病原体に感染していることが確認されたが,主たるものは肝臓胆管内の粘液胞子虫感染および腸管上皮のコクシジウム感染であった。中でも,コクシジウム感染は病理組織学的には必ずしも重篤とはいえない例もあったが,PCR検査では5個体すべてから検出された。また,同年9月に採取された検体においても,腸管にコクシジウムの重篤な感染が認められた。病勢の盛期には重篤な感染例が多くみられ,これがヤセ症状の一因となった可能性が高いと考えられる。おそらく,ヤセ症状の発現には両方の感染症が関与していたと推測される。実際に,宮崎県では2015年に養殖カンパチにおいて,今回とは異なる海域でコクシジウム類と思われる感染例が報告されている(岩田ら,2017)。また,養殖ブリにおいてもヤセ症状を呈する症例が確認されているが,今回の症例との関連性は不明である。ブリ類におけるヤセ症状は2021年以降も散発的に発生しているため,今後の原因究明および予防・治療対策に関する研究の進展が期待される。

文献
 
© 2025 The Japanese Society of Fish Pathology
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