Japan Journal of Human Resource Management
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The 45th Annual Conference at Hosei University
What Factors Enhance the Worth of Working?: The Determinant Factors for Employees in Their Twenties
SAKAZUME Hiromi
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2016 Volume 17 Issue 1 Pages 114-118

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1. 問題の所在

若年層の就業を巡っては,就業困難や非正規雇用の増大が指摘されると同時に,正社員として就職した後の問題として離職率の高さといった課題を指摘することができる。若年層の就業に関する問題を人材マネジメントという観点から捉えなおすならば,組織の人材マネジメントが若年層に対して適切に機能していない結果として,彼らの離職が生じていると考えられる。

2000年以降,人材マネジメントの領域では働きがい・働きやすさといった言葉が多用され,これらを高める人事施策の検討がなされている。それは,従業員の働きがい・働きやすさを高めることができれば,彼らから組織が望むパフォーマンスを引き出すことが可能になるだけでなく,彼ら自身のwell-beingに対しても良い効果がもたらされると考えるからである。正社員として就職した若年層の問題を,働きがい・働きやすさを高める人材マネジメントという観点から捉えた場合,若年層の働きがい・働きやすさが他の従業員グループと比較して低い水準にある可能性がある。

同時に,組織の人材マネジメントが彼らの働きがい・働きやすさを高められていない可能性もある。その一因として,彼らの働きがい・働きやすさがどのようなHRM施策によってどのように高まるのか把握できていないことがあるのではないだろうか。

そこで本稿では,若年層を20歳代と限定した上で,他の従業員グループとの比較を通じて以下の2点について明らかにする。まず,働きがい・働きやすさの水準を明らかにする。次に,人材マネジメントが彼らの働きがい・働きやすさに与える影響の仕組みとその特徴を明らかにする。なお,以下で提示する分析モデルの基本的な枠組みは,筆者が参加した『働きたい会社研究会―従業員価値を高めるには―』(公益社団法人日本経済研究センター)で提示されたものである。

2. HRM施策が働きがい・働きやすさを高める仕組み

本稿における分析モデルは図1の通りである。従業員の働きがい・働きやすさを高めるHRM施策として「積極的な育成」「納得感のある評価」「従業員の尊重」「部門内コミュニケーションの活性化」「生活の安定」の5つの施策を取り上げた。基本モデルはHRM施策が従業員の働きがい・働きやすさを高めるとするものだが,HRM施策がどのようにして働きがい・働きやすさを高めるのか,その仕組みを精査すべく,HRM施策と働きがい・働きやすさの間に,HRM施策が従業員に提供する価値を設定した。具体的には,「成長」「達成」「尊重」「所属」「安心・納得」という5要因を用いた。HRM施策はその運用を通じて,従業員に何らかの価値を提供し,従業員はその価値を享受することを通じて,働きがい・働きやすさを高めると考える。例えば,従業員が「私の会社は従業員の育成に対して積極的である(HRM施策の「積極的な育成」)と認識することが,自分自身が仕事を通じた成長(HRM施策が従業員に提供する価値の「成長」)の認識につながり,働きがいを高めるといったパスを想定している。

図1 HRM施策が働きがいに与える影響
表1 分析対象者の概要

3. 方法

3-1 対象者ならびに調査実施時期

本稿で用いたデータは,『働きたい会社研究会―従業員価値を高めるには―』(公益社団法人日本経済研究センター)が実施した調査にて収集したものである(調査実施時期2011年9月)。この中から,対象を正社員に限定した上で20歳代の一般(役職なし:以下20歳代/一般)を若年層の対象者として選定した。さらに比較対象として30歳代の一般(役職なし:以下30歳代/一般)と課長クラスを取り上げた。各群の人数は,20歳代/一般が2733名,30歳代/一般が1133名,課長クラスが1400名であった。

4. 結果

4-1 20歳代正社員の働きがい・働きやすさの現状

分散分析の結果,3群で働きがいには違いがあることが確認された(F=69.76, p<.01)。多重比較の結果,20歳代/一般の働きがいは,課長クラスよりも低いことが確認された。働きやすさについても3群で違いがあることが確認された(F=30.22, p<.01)。多重比較の結果,20歳代/一般は,管理職と比べて働きやすさが低いことが確認された。20歳代/一般と30歳代/一般の間に有意差は認められなかった。

4-2 20歳代正社員のHRM施策が働きがい・働きやすさに与える影響

HRM施策が働きがい・働きやすさに与える影響に関する分析は表2の通りである。1つのHRM施策は複数の価値を高めることがわかる。標準化係数0.2以上を1つの基準とした場合,3群全てに影響を与えるのは,「納得感のある評価」が「安心・納得」を,「従業員の尊重」が「尊重」を,「部門内コミュニケーションの活性化」が「所属」を,「生活の安定」が「安心・納得」を「成長」が働きがいを高めることであった(図3)。

逆に,標準化係数0.2以上という同じ基準を用いた場合,20歳代/一般のみ影響があると認められたのは,「従業員の尊重」が「達成」「成長」「所属」「安心」を,「所属」が働きやすさを高めることであった。また他の2群には一定の影響を与えるが20歳代/一般のみにあまり影響を与えないものとして,「納得感のある評価」から「成長」「所属」のパスがあることが確認された(図3)。

以上の結果をふまえると,20歳代/一般に該当する者のHRM施策が働きがい・働きやすさを高めるメカニズムの特徴として以下を指摘することができる。第1に,部門の一員であるという実感(所属)が働きやすさにつながることである。第2に,従業員を尊重するHRM施策が幅広く肯定的な影響を与えることである。第3に,納得感を高める評価が大きく影響しないことである。最後に,20歳代に必ずしも限定されるものではなく役職がない従業員の特徴と考えることができるが,部門内コミュニケーションの活性化が図られていることが幅広く肯定的な効果をもたらすことである。

表2 分析結果(標準化係数)
図2 働きがい・働きやすさの比較
図3 HRM施策が働きがい・働きやすさを高める仕組み

5. 考察

20歳代の役職がつかない正社員の働きがい・働きやすさは,課長クラスと比較して低いが30歳代の役職が付かない正社員との違いは認められなかった。しかし,30歳代と比較して働きがい・働きやすさを感じるメカニズムに違いが認められた。20歳代の若年層の働きやすさに対しては,組織の一員であるという実感が大きく影響を与えることから,若年層の課題は就職した企業の一員であるという所属感を持てるようになることだと言える。その所属感は,職場でのコミュニケーションを通じて醸成されると同時に,所属組織が従業員を大事にするHRM施策を行っていると認識することによってもたらされる。彼らは会社が従業員を大事にしようとしているか否かに非常に注目していると考えられる。

(筆者=法政大学キャリアデザイン学部教授)

 
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