2018 Volume 19 Issue 1 Pages 6-25
The aim of this article is to inspect the effect of job characteristics on attributes of "Developmental Networks (DN)" in the early career stage. Three hypotheses below based on the previous researches were verified through the questionnaire survey targeting young employees of two medium-sized shipbuilding firms.
Hypothesis 1: Two job characteristics - "task variety" and "teamwork" - have a positive influence on the structure - number, diversity and strength - of DN.
Hypothesis 2: Three personality factors -extraversion, openness to experience, and agreeablenesshave a positive influence on the structure - number, diversity and strength - of DN.
Hypothesis 3: The structure - number, diversity and strength - of DN has a positive influence on the amount and variety of DN functions.
As a result by the covariance structure analysis, hypothesis 1 was supported and hypothesis 2 and 3 was partially supported. That is, the job characteristics had indirect but significantly positive influences on the amount and variety of function of DN. In other words, two job characteristics - "task variety" and "teamwork" - stimulated DN to be both quantitatively and qualitatively rich in functions which is necessary for the development of young employees. And it was revealed that the job characteristics had more influences on the function of DN than the personality factors.
Based on these findings above, it was suggested that the teamwork which is a distinctive trait of operation organizations in Japanese manufacturing companies had the effectiveness for the development of young employees. And the possibility to enrich young employees' DN by the job design was also suggested.
一般にわが国の企業では,新規学卒者を採用し育成する点にその特徴があるといわれる。その育成は,職場において日常的な仕事を通じて行われるトレーニングであるOJTと,職場から離れて行われるOff-JTという2つの柱によって,高い成果をあげてきた。
さらにこのOJTは,計画的なOJTと非計画的なOJTとに分けられる。とくに新入社員に対しては,後者に依存する面が大きい。たとえば,厚生労働省の「平成27年度能力開発基本調査」によると,計画的なOJTが新入社員に対して実施されている事業所の比率は,全体の半数程度(50.8%)であった。このことは,育成を目的としてフォーマルに割り当てられた直属上司や先輩との関係性のみならず,職場内の多様でインフォーマルな人間関係によって,新入社員が育成されている面も大きいことを示唆している。
こうした職場の多様でインフォーマルな関係性による人材育成について,ある工作機械メーカーを調査した小池(1981)は,新人の育成について,「はじめ2,3日は先輩の作業をじっと見つめることから出発するのだ。班長が指導するのみならず,となりの先輩が熱心に教える。この点はわが国の持ち味を生かしている。」(p.64)と述べている。また川喜多(2008)は,「インフォーマルなOJT」がしばしば偶然任せで行われており,その成功は先輩が自分の仕事の時間を割いて指導を行うかどうかしだいであると指摘している。
このように,新規学卒者である若手従業員の育成に対して職場の多様でインフォーマルな人間関係が貢献していることは認識されているにもかかわらず,そのマネジメントは運や個人任せで行われているにすぎないといえる。
企業の若手従業員の育成に有効な職場の多様かつインフォーマルな人間関係を,マネジメントの対象と考えるのであれば,それがどのようなプロセスで形成されるのか,とくに組織的要因の影響について知っておく必要がある。このような人間関係をデベロップメンタル・ネットワーク(DevelopmentalNetwork:DN)の視点から捉え,その形成に対して組織的な要因がどのように影響するのかを探ることが,本稿の目的である。
ただし本稿では,DNのマネジメントを,大掛かりな制度のような組織全体レベルからではなく,OJTが実際に行われている職場2レベルから捉えたいと考える。Hall(2002)がいうように,職場の人間関係は誰もが低コストで活用できる天然資源であり,これは企業の経営企画室や人事部よりも,職場で働く人々によって認識されやすく,ゆえに職場レベルでのマネジメントが可能だと考えられるからである。
人材育成に機能する職場の多様でインフォーマルなものも含む人間関係について,ここではまず,メンタリング関係に関する研究について取り上げたい。メンタリング関係とは,「より年長の経験豊かな人物(メンター)と,より若く経験不足な人物(プロテジェ)との間にある,プロテジェのキャリアを支援し開発する目的の関係性」(Ragins & Kram, 2007, p.5)を指す。
メンタリング関係については豊富な研究の蓄積が行われており,メンタリング関係が客観的および主観的なキャリア結果に与える影響は,Scandura(1992),Orpen(1995),Chao(1997),Murphy and Ensher(2001)など,数多くの研究によって実証されている。
しかしながら,メンタリング関係に関する先行研究は,本稿の目的に照らして2つの点で限界があるといえる。
第1に,職場内の多様な人間関係を捉えきれていない点が挙げられる。多くのメンタリング研究の基盤となっているKram(1985)では,18組の2人(メンターとプロテジェ)の人間関係について詳細な調査が行われ,インフォーマルに生じたメンタリング関係の形成プロセスやそこで提供された発達支援的な機能が明らかにされている。この18組の中には,直属上司以外にも上司の上司や同僚がメンターとなっている事例が8組含まれており,メンターの属性に一定の多様性があったといえる。さらにKram(1985)は,個人はたった1人の垂直的な関係を持ったメンターによってその発達を支援されているのではなく,同僚,家族,友人といったインフォーマルなものも含む多様な人間関係のネットワークの支援を受けてキャリアを発達させていると指摘し,そのような現象を「関係性の布置(relationship constellation)」と呼んでいた。にもかかわらず,久村(2005)も指摘するように,その後の多くのメンタリング研究は,1人のプロテジェに対して1人のメンターという垂直的な2者関係を前提とするものが主流となって展開されており,職場の多様なメンターを同時に捉える視点が不十分である。
メンタリング研究のもう1つの限界として挙げられるのが,先行要因としての組織的要因に関する研究が希薄だという点である。実際に,Ragins and Kram(2007)が行ったメンタリング研究の詳細なレビューによると,先行要因としてプロテジェのパーソナリティ(性格)を論じる研究が豊富だったのに対し,組織的要因を取り上げている研究は,Aryee, Chay andChew(1996)のみであった。
2.2. デベロップメンタル・ネットワーク次に取り上げるのが,本稿が依拠するデベロップメンタル・ネットワーク(以下DN)の視点である。DNとは,「プロテジェのキャリア促進に関心を持ち,プロテジェが発達的支援を提供してくれる人であると名前を挙げた人々によって形成された,エゴセントリックなネットワーク」のことである(Higgins & Kram, 2001, p.268)。
DNに関する研究は,メンタリング研究とは異なり,特定のメンターとプロテジェという垂直的な2者関係だけでなく,キャリア発達を支援する複数の人々との関係性を同時かつ全体的に見る枠組みを有している。その視野には,職場や組織の外にある他者とのインフォーマルな人間関係も含まれている。つまり,それまで主流であった1対1のメンタリング研究の視点では見過ごされていた1対多の関係性を同時に見ようとするのである。
Higgins & Kram(2001)では,このような視点が求められる背景を,次の4つの点から説明している。第1に,雇用の保障ができなくなった企業は,個人の人間的および職業的なアイデンティティの基盤を提供することが難しくなった。第2に,厳しい環境変化に適応するために,個人は自分の上司だけではなく,組織を超えた多様な関係性の中から学習の資源を引き出すことが必要となった。第3に,組織のフラット化,柔軟化,国際化,連携により,企業内で垂直的なメンターに依存するのが難しくなった。第4に,民族,国籍,性別などといった組織成員の属性が多様になり,キャリア形成に必要な資源も多様になった。
確かに,近年の企業を取り巻くこのような環境変化は,DNに対する注目を増す要因となっているのであろう。しかし,既にKram(1985)が「関係性の布置」という概念を提示したことが示すように,働く人々のキャリアが,周囲の多種多様な人物の影響を同時に受けながら形成されていくという事象は,環境変化に関係なく常に存在していると考えることができる。しかも,キャリア形成に有効な周囲の身近な人間関係はどこにでもある天然資源であり(Hall, 2002),大きな仕組みが無くても低コストでマネジメントできる3可能性がある。
2.3. DNの先行要因DNのマネジメント可能性を考えるうえでは,それがどのような組織的要因の影響を受けて構築されるのかを考える必要がある。この点についてDobrow, Chandler, Murphy & Kram(2011)は,DNに関する先行研究をレビューしたうえで,DNの先行要因として,発達ニーズやパーソナリティといったプロテジェ内部のプロテジェ要因と,組織的文脈や職務特性といったプロテジェ外部の環境要因があるとしている。
まずプロテジェ要因としては,プロテジェの発達が先行研究で取り上げられている。たとえばChandler & Kram(2005)は,生涯発達段階によってDNの構造特性が変化すると予測している。ここでDNの構造特性とは,人間関係のネットワークとしてのつながりの強さや,ネットワークを構成する人物が属する社会的領域の多様性のことである。もう1つ,プロテジェ要因として先行研究で取り上げられているのは,プロテジェのパーソナリティ(性格)である。たとえばDougherty, Cheung & Florea(2008)は,ビッグ・ファイブ理論4に基づいて,「外向性」,「開放性」,「誠実性」が高ければ,DNの人数や多様性が増し,つながりが強くなると予測している。
次に組織的要因も含む環境要因については,先行研究で取り上げられているものは希少である。これはDN研究の上流にあるメンタリング研究と,同様の傾向である。先述のDobrow, Chandler, Murphy & Kram(2011)でも,DNの先行要因に関する研究として取り上げた8つの研究のうち,環境要因を取り上げているものはHiggins(2007)の1つだけである。この研究の中では,キャリア目標というプロテジェ要因とともに,業種5によっても有効なDNの構造は異なることが理論的に予測されている。業種が異なるということは,そのビジネスのあり方が異なるということを意味し,組織全体の戦略や構造にも影響すると考えられるが,本稿が指向する職場レベルでのマネジメントとは距離がある。
2.4. 組織的要因としての職務特性このように,DNの形成に影響する先行要因のうち環境要因とくに組織的要因に関するものは希少であることが,既存のDN研究の限界であるといえる。その中で,組織的な先行要因,とりわけ職場レベルでの要因として,職務特性がDNの形成に与える影響を見出した研究が2つある。
まず麓(2009)は,職場における役割曖昧性やタスク相互依存性という仕事そのものの特性(職務特性)が1対多のメンタリング関係すなわちDNに与える影響を示した。しかしながらこの研究は,DNの構造特性のみを照射しており,そこで提供される発達支援的な機能の特性,つまりDNを構成する人物から提供されるメンタリング機能(以下,「機能特性」)についての議論が無いという点や,DNの構造を人数以外の要素たとえば関係の強さといった指標から測定していない点に限界がある。さらに,役割が曖昧でないつまり明確であることが,周囲の多様な人物から支援を受けやすくすると結論づけられているが,逆に役割が曖昧だからこそ支援を必要とする論理も成り立つわけであり,説得力に欠ける面もある。
次に坂本・西尾(2013)は,キャリア初期にある中規模製造業S社の大卒ホワイトカラー若手従業員35人が持っているDNの構造と,それに影響する要因を探り,その結果として,プロテジェ要因である若手従業員の発達6によってDNの構造が変化するという事実は認められなかった一方で,若手従業員が従事する職務特性によって有効なDNの構造が異なる可能性を示した。
しかしながらこの研究も,やはりDNの構造面のみに着目していて機能面での議論が無いという点,職務特性に関する概念の検討が不十分である点に限界がある。また,DNの構造特性のうち関係の強さを測定する際に用いられた「心理的な距離感(親しさ)」という概念の妥当性に対する疑問も挙げられる。
以上のように,2つの研究いずれにも限界があるものの,組織的な先行要因としての職務特性の影響を,経験的研究を通じて見出した点には意義がある。
金井(1999)も指摘しているように,職務というのは個人と組織全体を仲介するレベルに存在する。たとえば,Hackman & Oldham(1980)の「職務特性モデル(Job CharacteristicMode)」では,職務特性を設計することによって,個人の内的動機づけをマネジメントすることができると考えられている。同じように,職務特性をデザインすることによって,個人が形成するDNをマネジメントできる可能性がある。
2.5. 造船業2社における探索的調査坂本・西尾(2013)の結果を受けて坂本(2017a)は,2012年度から2014年度にかけて,職務特性がDNの特性に与える影響をさらに詳しく知るために,造船業A社で船舶修繕に従事する若手技能職17人および若手監督職7人を対象に,仮説発見のための探索的調査を行い,その職務特性とDNの構造特性および機能特性を比較分析した。その結果は概ね以下のとおりであった。
まず,技能職および監督職の職務特性は,「プロセス可変性」,「タスク多様性」,「チームワーク」という3つの点から差異があることが確認された。すなわち,技能職は監督職と比べて,職務を遂行するうえでの手順やプロセス全体が日常的に変化しやすく(プロセス可変性),職務遂行のプロセス上にある具体的な作業の種類が豊富であり(タスク多様性),上司や先輩と一緒になって職場内で意見を出し合って問題を解決することが多い(チームワーク)という職務特性を有することが分かった。そして,この3つの職務特性の差異が,人数・つながりの強さ7というDNの構造特性の差異に対して影響している可能性が見出された。具体的には,タスク多様性が増せば,直属上司による指導だけでは不十分となり,複数の上司や先輩から学ぶ必要性が高くなるため,DNに含まれる人数が増すと考えられた。ただし,専門が異なる他部門までは広がらない。また,チームワークが強くなれば,複数で作業するためにDNの人数が増しやすくなるのはもちろん,やり取りが頻繁になるためにDNのつながりの強さも増すように作用することを示す事実が認められた。
もう1つのプロセス可変性については,直接的にDNの構造に対して影響を与えるのではなく,タスク多様性やチームワークの先行要因であり,それらを通じて間接的に影響すると考えられた。加えてプロセス可変性は,顧客ニーズや企業のビジネスモデルの根幹に関わる要因であり,職場レベルでのマネジメントは難しいと考えられた8。それに比してタスク多様性およびチームワークは,職場レベルでのマネジメントができる可能性が高いと考えられることから,この2つの職務特性を通じてDNのマネジメントを行う可能性が示唆された。
次に,DNで提供される支援機能の多様性に対しては,職務特性が直接的に影響しているというよりも,DNの構造特性を通して間接的に影響を与えている可能性が示された。たとえば技能職では,先述のような職務特性の影響を受けた結果,比較的人数が多く,つながりの強いDNになるために,DNで提供される発達支援的な機能が多様になると考えられた。他方の監督職では,比較的少人数で,つながりの弱い構造のDNが生み出された結果,DNで提供される機能の多様性が低くなったと考えられた。
なお,職務特性がDN機能の量的側面に与える影響については,質的方法の限界から,それを捉えることはできなかった。
最後に,職務特性と比較する視点から,若手従業員の発達9が,DNの構造や機能に与える影響についても分析が行われたが,それは小さくて限定的なものであった。あるいは,発達それ単独の影響というよりも,職務特性との相互作用の結果であると考えられる部分もあった。このような結果となった理由としては,Chandler& Kram (2005)が唱えるような生涯にわたる大きなスパンであればDNの変化を明確に捉えることができたかもしれないが,キャリア初期しかも入社から数年間という短期間での変化を捉えることが困難であった可能性がある。
ところで,もう1つの有力なプロテジェ要因として考えられる性格の影響については,これも方法論的限界のために検証されなかった。
さらに続けて坂本(2017b)では,先述のA社と同じ造船業であるB社で新造船建造業務を担当する若手技能職11人に対して同様の調査を行い,A社で修繕業務を担当する若手技能職17人のデータと比較分析した。その結果やはり,プロセス可変性,タスク多様性,チームワークという3つの職務特性が,DNの構造特性(人数・強さ)に対して影響を与える可能性があることを確認した。ただしここでも,プロセス可変性は,職務におけるタスク多様性やチームワークの必要性を高めることを通じて,間接的にDNの構造特性に影響すると考えられた。
本稿における調査の目的は,キャリア初期にある若手従業員のDNの形成プロセスにおいて,組織的要因である職務特性がDNの構造および機能に対して与える影響を,質問紙調査によって検証することにある。具体的には,先行して行った造船業A社およびB社での調査・研究の結果をふまえて,タスク多様性およびチームワークという職場レベルでのマネジメントが可能な2つの職務特性がDNの構造特性に影響し,結果としてDNの機能特性に影響を及ぼすという仮説的な分析モデルの妥当性を明らかにする。同時に,DNの形成プロセスにおいて,プロテジェの性格がDNの構造に対して与える影響についても確認する。これはDNの先行研究では確認されてこなかった点であり,それを探ることによって職務特性による影響力を相対化することが可能になる。なお本稿では,先行研究の結果をふまえて,DNの構造特性に対する影響要因に,プロテジェの発達は含めない。
また本稿では,DNの構築に影響を与える組織的な先行要因の検討に焦点を絞るため,DNが具体的にどのようなキャリア結果をもたらすのかについては,視野に含めていない。
ところで本稿は,佐藤(2015)のいう「漸次構造化アプローチ」に依拠するため,特定の企業を対象とした今回の調査結果を,直ちに一般化しようとは考えない。また本稿は,DNで提供される機能の量および多様性を被説明変数としているが,それに影響を及ぼす全ての要因とそれらの因果関係を一度に明らかにしようとするのでなく,その中でもまず組織的要因,とくに職場レベルでのマネジメントが可能である職務特性が持つ影響を確かめようとしている。そして,本稿の調査で得られた結果を基に,必要に応じて変数の追加や仮説の修正を行い,調査対象者を新たに理論的に選択しながら,徐々に理論構築を進めていく。このような全体プロセスの中の1つの重要な研究として,本稿を位置づけている。
3.2. 分析モデルと仮説本稿では,先行研究の検討結果に基づいて,図1のような分析モデルを仮定し,次の3つの仮説を量的データによって検証する。
【仮説1】
職務特性(タスク多様性・チームワーク)は,DNの構造特性(人数・強さ)に対して正の影響を与える。
具体的には,先行研究(坂本, 2017a, b)の結果から,タスク多様性はDNの人数に,チームワークはDNの人数および強さに影響すると考えられる。
【仮説2】
プロテジェの性格(外向性・開放性・協調性)は,DNの構造特性(人数・多様性・強さ)に対して正の影響を与える。
【仮説3】
DNの構造特性(人数・多様性・強さ)は,DNの機能特性の提供量および多様性に対して正の影響を与える。

本稿では,造船企業A社およびB社において製造部門の若手従業員を対象とした質問紙調査を実施した10。これら2社ともに,坂本(2017a, b)での調査協力企業と同一である。A社は,造船業の中でも修繕専門の企業であり,一方のB社は,新造船部門と修繕部門の両方を備えている。いずれも2015年度時点で,A社の従業員は約300人で,B社は約700人である。ただしB社については,社内事情により,今回の調査では近隣地域に分かれて所在する2つの工場のうちの1つのみを対象とし,その従業員数は430人であった。
さて一般的に製造業では,計画的なOJTの実施率が他の産業と比べて特に高いというわけではなく(厚生労働省, 2016),非計画的なOJTが人材育成に対して一定の機能を果たしていると考えられる。したがって,そこでは職場のインフォーマルなものも含む人間関係が鍵となっていると考えられる。とりわけ造船業は労働集約的であり,ある程度は機械化や自動化が進んだとはいえ,いまだ「カン」や「コツ」に依存した多くの熟練工を要し,その技能修得には時間を要することが特徴である。そこで求められる熟練の技能は,主に職場の人間関係を基盤としたOJTによって育成されることが多いといわれる(日本労働政策研究・研修機構, 2006)。したがって,キャリア初期にある若手従業員の育成のために,DNの構築が行われやすい条件にあると考えられた。
またこの2社は,従業員数に若干の差はあるものの,規模としては同じ「中手」と呼ばれる造船企業である。一般的な中小企業がそうであるように,この2社においても,フォーマルなメンタリング制度や計画的なOJTが十分に機能しているわけではない。同時に,DNの形成に大きな影響を及ぼしそうな他の制度や慣例の普及も認められない。このことは,職務特性やプロテジェの性格という要因が,直接的にDNの態様に作用する状況を生み,それらの要因の影響を捉えるうえで適しているとも考えられた。
さらにこの2社は,同じ広島県内の近隣地域に所在していることから,地域的な特性という背景要因にも一定の共通性がある。
このような2社から得られた調査対象者は,表1のとおりである。いずれも勤続満1年から10年目まで11で,製造部門の若手従業員の全数であり,男性である。また,全員が新規学卒入社である。その内訳は,造船現場で働く技能職12および造船業では「事技職」と呼ばれる現場監督や設計を行う従業員13から成る。なお,入社年次が古い者の中には,技能職の1人が班長,事技職の6人が主任,事技職の2人が係長14といった初級の役職者が含まれる。

ここで技能職および事技職の職務内容について,若干の説明を行っておこう。
まず技能職のうちA社およびB社の船舶修繕に従事する若手従業員は,エンジン,船体,配管,電気系統,甲板上の装置,塗装など,対象とする機器や部品などに応じて分かれた部門に属している。次にB社の新造船建造に従事する若手従業員は,大別して船体そのものの組立に関わる部門,もしくは船内におけるエンジンなどの装置の設置や電装,配管などに関わる部門に属している。いずれの場合も,作業長をトップとする10〜15人程度の作業組織があり,その下で5人前後の班(ショップ)に分かれ,班長の指揮で業務を行っている。
次に事技職のうち,コストや納期を含めた工程管理を行うのが監督職である。具体的には,船主側と工程について打ち合わせを行い,それに基づいて現場への指示と監督を行う。監督職は半年から1年程度の育成期間を終えると独立し,担当技師として1隻単位で任されるようになる。もちろん閑散期以外は,同時に複数の船舶を担当することが多い。他方の設計職は,新造船建造を行うB社のみに該当する職種である。文字どおり船舶の設計を行うのが職務であるが,受注段階の全体図の設計を担う者や,建造段階の構造や部品に関する詳細な設計を行う者がいる。設計職は育成期間が長く,直属上司や先輩からの指導の下で,技能を高めていく。
4.2. 分析に用いた概念 4.2.1. 職務特性先行研究(坂本, 2017a, b)での知見をふまえて,本稿では「タスク多様性」および「チームワーク」の2つを分析に用いる。これらは,職場レベルでのマネジメント可能性が高いと考えられる職務特性である。まずタスク多様性については,先行研究において技能職に特徴的な職務特性として確認された2つの概念,「作業内容の多様さ」および「知識・技術の多様さ」を用いることとした。ここでは,作業内容の多様性が高いことは,必要とされる知識・技術の多様性に密接につながるので分割せず,タスク多様性という1つの概念に集約されると考えた。
次にチームワークについては,先行研究で確認された「意見の出し合いによる問題解決(以下,「集団的問題解決」)」と「単独作業の多さ(逆転概念)」を用いることとした。前者がチームワークを集団の社会的側面から捉える概念だとすれば,後者は作業の構造的側面から捉える概念だといえる。
しかしながら,日本企業の作業組織の特徴といわれるチームワークをより的確に捉えたいと考え,森田(2008)を参考にして構成概念を追加することとした。具体的には,「職場内での目標共有」,「相互援助」,「作業者の自律性」の3つである。これらを含めることによって,職務特性の概念は計7つとなった(表2)。

以上2つの職務特性,つまりタスク多様性およびチームワークを,本稿ではそれぞれ合成変数として扱うこととした。なぜなら,たとえば「チームワーク」を観測できない潜在変数として,それが「集団的問題解決」,「相互援助」,「目標共有」といった観測変数に影響して顕在化すると考えるよりも,逆にこれら3つの観測変数を集約ないし合成して「チームワーク」という1つの概念を成立させると考える方が妥当だと考えるからである。タスク多様性についても同様に考えられる。
そこで,SPSSver.24を使用して主成分分析を行った。その結果,今回のデータセットを「タスク多様性」および「チームワーク」という2つの概念に合成することは難しく,3つの変数に合成されることが分かった(表3)。第1主成分では集団的問題解決,相互援助,職場内での目標共有が高い重みを示すことから,「相互依存性16」とした。第2主成分ではタスク多様性とスキル多様性が高い重みを示すことから,「タスク多様性」とした。第3主成分では作業者の自律性と単独作業(負)が高い重みを示すことから,「集団内自律(集団作業を前提とした自律)」とした。
ただし「集団内自律」は,DNの構造特性に対する影響を理論的に説明することが難しい。なぜなら,集団の中で自律して作業することは,他者との交流が減ずることになり,DNの大きさや強さも減じるかもしれない。かといって,集団内で単独で作業をするわけではないのでDNの大きさや強さを減らすとは限らないし,自律するからこそ積極的に他者との関係性を持てるようになるかもしれない。先行して実施した探索的研究でも,この点に関する有力な知見は得られていない。このため,この後の相関分析の結果によって,共分散構造分析(パス解析)で使用するかどうかを判断することとした。

先行研究と同じくビッグ・ファイブ理論を用いるが,そのうち3つの性格因子(表4)がDNの構造に影響すると仮説では考えた。具体的には,外向性,開放性,協調性であり,Dougherty, Cheung & Florea(2008)らの主張とはやや異なる。この研究では外向性および開放性に加えて,誠実性もDNの構造に影響するとしているが本研究では用いなかった。なぜなら,戦略的に有力なメンターとの関係性をつくるうえでは,誠実さの一面である「がまん強さ」が有効であると主張されているが,自己統制や自律性は他者への依存をかえって躊躇させるように作用するとも考えられるため,その影響力は正か負か判断しがたい。一方で協調性は,外向性と同様に対人関係に対して直接的に正の影響を与える要因であると考えられるため,本稿では取り入れることとした。
なお質問紙では,簡便な回答が可能である和田(1996)の質問項目を用いた。

先行研究(坂本, 2017a, b)と同様に,以下の3つをDNの構造特性を把握するための概念として用いた。
調査時から見て前年度(2015年4月から2016年3月)を振り返り,自身の成長にとって良い影響を与えたと思われる周囲の人物は何人いるかを質問紙で問うた。これが,各回答者のDNの人数となる。ただし,紙面の限界から最大で10人までとした。また,社外の人物を含めていいこととしたが,家族や友人などプライベートは含まないように指示した。DNの人数が多いほど,DNで提供される機能の量や種類の多様性が増す可能性が高くなる。
DNの多様性は,そこに含まれる人物の範囲(領域)の広さであり,安田(1997)によれば,人数とともにネットワークの大きさを示す指標の1つである。本稿では,ネットワーク研究およびDN研究の先行研究の知見にしたがって,「社会システム」の観点からDNの多様性に着目する。社会的ネットワークの研究では,ネットワーク内にある情報の同質性に影響を与える要因として多様性が着目されており(安田, 1997),Higgins & Kram(2001)もBurt(1983)やKrackhardt(1994)にしたがって,「範囲(range)」と「密度(density)」の2つの指標を取り上げている。
Higgins & Kram(2001)では,DNの範囲を,「対象となる人との関係性が生まれた社会システムの数。たとえば,会社,学校,コミュニティー,専門的協会など」(p.269)としている。すなわち,全ての関係性が同一の社会システムから生じている場合には多様性が低く,逆に関係性が多くの異なる社会システムから生じている場合には多様性が高いといえる。そして,多様性が増すほど,提供される情報や学習資源の同質性が軽減されると考えられる。
そして本稿では,DNに含まれる人物のうち,他部門17に属する人数が占める比率をDNの多様性として用いた。つまり,所属部門を企業内の社会システムと捉え,他部門に属する人物が多いほど,その人のDNの多様性が高くなり,得られる情報や学習資源が多様になると考えられる。したがって,DNの多様性が高いほど,DNで提供される機能の量や種類の多様性も増す可能性が高くなる。
なお,ネットワークの多様性を示すもう1つの指標である密度,つまりネットワーク内の人物の相互のつながり合いの程度については,DN内全ての人物の相互のつながり合いを正確に把握することは方法論的に困難であるため,本稿の調査では含めていない。
Higgins & Kram(2001)は,関係性の「強さ」とは,「感情」,「相互依存性」,「コミュニケーション頻度」の3つの概念からなるとしている。この中から本稿では,DNに含まれる人物との「コミュニケーション頻度」に近似した「やりとりの頻度」を関係性の強さの指標とした。なぜなら,DNで提供される機能の量および多様性は,やり取りの頻度から最も直接的に影響を受けると考えたからである。つまり,やり取りの頻度が高いDNであるほど,量的にも質的にも豊富な機能が提供されると期待できる。
質問紙では,①で挙げられた人物それぞれと,普段どれくらいの頻度でやり取りを行っているかを,以下の基準で点数化して問うた。つまり,1ヶ月に1回以下は1点,1ヶ月に2~3回程度は2点,1週間に2~3回程度は3点,1日に2~3回程度は4点,1日に何回もの場合は5点である。DN全体の強さは,それぞれの人物について回答された数値の平均とした。
4.2.4. DNの機能特性に関する概念坂本(2017a, b)を基に一部加筆して作成された12種類のDNの機能に関する質問項目(表5)に対して,前項の①で挙げられた人物それぞれから,提供を受けたと感じる程度をリッカート尺度の4段階(1.あてはまらない,2.どちらかといえばあてはまらない,3.どちらかといえばあてはまる,4.あてはまる)で回答させた。「1.あてはまらない」を除いて,回答された数値をそれぞれの機能ごとに積算したうえで,12種類の機能の平均値を算出した。たとえば,DNが3人から構成されているケースを考えてみる。「基本的指導」の提供が,1人目からは「4.あてはまる」,2人目からは「3.どちらかといえばあてはまる」,3人目からは「2.どちらかといえばあてはまらない」だったとすると,この機能のDN全体での提供量は「4+3+2=9」となる。「技術的指導」以下の11の機能についても同様に計算し,12の機能の平均値を算出する。DNで提供された機能を客観的に捉えることは難しいため,この数値をDN全体で提供された機能の提供量を示す指標とした。この数値が高いほど,より多くの量の機能が提供されたDNであると考える。
12種類のうち何種類の機能が,DN全体から提供されたかをケースごとに算出した。

本稿の調査では,各調査対象者から得られたデータセットを以下の分析に投入し,仮説や因果モデルの検証を行った。
投入した変数間の相関係数を算出した。
本稿における3つの仮説を検証するために,共分散構造分析によるパス解析を行った。つまりここでは,分析モデルの部分適合度の確認を行うと同時に,変数間の因果の連鎖を表わす分析モデルの全体適合度,つまりモデルと実際のデータとのズレの少なさの確認を行った。ただし,考えられる全ての要因とパスを探索して,最適な因果モデルを構築することが,本稿の目的とするところではない。ゆえに,もし仮説モデルの全体適合度が低かったとしても,どのように修正すればそれが高まるかを知ることによって,今後の調査・研究に向けた示唆を得ることを期待している。
回答者は144人であり(表6),回答率はA社が100%,B社が65.4%,全体では78.7%であった。ただし,分析に必須の項目に対する回答が欠損していた3ケース18を削除した結果,141ケースが最終的な分析対象となった(有効回答率77.0%)。

各変数における2変数間の相関を検討するため相関係数を算出した結果が,表7である。
本稿で着目する職務特性が,DNの構造特性と有意に相関する項目を確認しておく。タスク多様性については,DN人数(r=.211, p<.05)と有意な相関があった。相互依存性については,DN人数(r=.207, p<.05)と,DN強さ(r=.252, p<.01)と有意な相関があった。集団内自律については,DNの人数,多様性,強さいずれに関しても有意な相関係数は認められなかった。このため,次の共分散構造分析の際には,分析に含めないこととした。
次いで,DNの構造特性が機能特性と有意に相関する項目を確認しておく。DNの人数については,DN機能の提供量(r=.927, p<.01),DN機能の多様性(r=.639, p<.01)に有意な相関があった。DN多様性(他部門率)については,DN機能の提供量(r=.218, p<.01),DN機能の多様性(r=.251, p<.01)に有意な相関があった。DNの強さについては,DN機能の提供量(r=.477, p<.01),DN機能の多様性(r=.849, p<.01)に有意な相関があった。
ところで,仮説および分析モデルでは想定していなかったが,最終的な被説明変数であるDN機能の提供量と多様性の間に,有意で高い相関関係が認められた(r=.570, p<.01)。そこで,次に行う共分散構造分析ではこの2つの変数間の因果関係も確認することとした。具体的には,DN機能の提供量が増せば,多様性も増すと考えられる。


共分散構造分析による初回のパス解析の結果は,図2のとおりであった。ここでは,5%水準で有意かつ絶対値が0.15以上の標準化パス係数のみを示し,係数は全て小数点以下第3位を四捨五入している。なお,4.2.1で行った主成分分析の結果から,職務特性を示す概念である「チームワーク」を「相互依存性」に置き換えた。
タスク多様性から有意なパスが認められた変数は,DNの人数(β=.21, p<.05)であった。また,相互依存性から有意なパスが認められた変数は,DNの人数(β=.19, p<.05)とDNの強さ(β=.22, p<.01)であった。よって,仮説1は支持された。つまり職務特性は,DNの構造特性に対して有意で正の影響を与えていることが確認できた。

性格因子のうち外向性からは,DNの強さに対して有意なパスが認められた(β=.19, p<.05)。また協調性からも,DNの強さに対して有意なパスが認められた(β=.20, p<.05)。開放性からは有意なパスは認められなかった。よって仮説2の一部が支持された。
5.3.3. DNの構造特性と機能特性の因果関係DNの構造特性のうち人数からは,DNの機能提供量に対して有意かつ高い係数のパスが認められた(β=.93, p<.001)。DNの強さからは,DNの機能多様性に対して有意なパスが認められた(β=.79, p<.001)。DNの多様性からは,DNの機能特性に対して有意なパスは認められなかった。よって,仮説3の一部が支持された。
つまり,DNの人数が増すほど提供される機能の量が増し,DNのつながりの強さが増すほど提供される機能の種類が増すということができる。また,DNの範囲つまり構造的な多様性が広がったとしても,そこで提供される機能の量や種類の多様性が増すわけではないといえる。
さらに,DNの機能提供量が増せばDNの機能多様性も増すと考えることは論理的には可能であったが,そこには有意なパスは認められなかった。このことは,DNで提供される機能の多様性が,そこで提供される機能の量に依存するわけではないことを示している。
ここでとくにDNの機能多様性に着目すると,DNの人数が増すことによってそれが増すわけではなく,そのつながりの強さのみが影響力を有していることになる。同時に,DNの構造的な多様性(他部門率)は機能多様性に影響力を有していない事実を合わせると,頻繁に交流できる同じ部門の身近な人物から多様な種類の機能が提供されている可能性が高いことを意味している。つまり,若手従業員にとっては,他部門へと関係性を拡大することよりも,同一部門内での関係性を強くすることの方が重要だといえるだろう。このことは,新造船建造でも船舶修繕においても,船体,電機,エンジン,配管,塗装などの部門ごとに必要とされる知識や技術が特化していることが影響したと推察できる。
5.3.4. 職務特性と性格因子の影響力の比較DNの機能提供量に対する総合的な影響力を示す標準化総合効果については,職務特性のうちタスク多様性がβ=0.192,相互依存性がβ=0.156であるのに対し,性格因子は外向性がβ=0.052,協調性がβ=0.055であった。またDNの機能多様性に対する標準化総合効果は,職務特性のタスク多様性がβ=0.052,相互依存性がβ=0.217であるのに対し,性格因子は外向性がβ=0.161,協調性がβ=0.176であった。したがって,DNで提供された機能の量に対しては,性格よりも2つの職務特性の方が総合的な影響力が大きく,機能の多様性に対しては,職務特性のうち相互依存性については性格よりも影響力が大きいことが分かる。
5.3.5. 分析モデルの全体適合度の検討次に,分析モデル全体の適合度を知るために,各種の適合度指標を確認した。その結果,CMIN:χ2(25)=126.601(有意確率=.000),GFI=.855, AGFI=.682,NFI=.805, CFI=.855,RMSEA=.170であった。いずれの指標からも,適合度の良いモデルとはいえなかった。
そこでさらに,5%水準でも有意でないパスを削除して再分析を行った。この際,理論的に妥当性のある仮説が成り立つのであれば,新たにパスを追加する方針とした。再分析を1回行うことによって全てのパスが有意になり,かつ全体適合度が十分に高くなった。その結果が図3である。適合度指標は,CMIN:χ2(27)=54.438(有意確率=.049),GFI=.922, AGFI=.870,NFI=.909, CFI=.951,RMSEA=.085であり,いずれの指標も望ましい改善が見られた。
ただし,DN人数およびDN強さの誤差間のパスに強い相関が認められたことには注意が必要である。その誤差相関を含めることによって,上のように全体適合度の高いモデルが得られたということは,職務特性や性格では説明ができない共通の原因が他にまだ隠されている可能性が考えられる。この点については,今後の課題として後述したい。
ここで再び,各変数間のパス係数(部分適合度)について確認をしたところ,初回の分析と同様に,仮説1,仮説2の一部,仮説3の一部が支持される結果となった(図3)。まず職務特性のうちタスク多様性からは,DNの人数(β=.15, p<.05)に対して有意なパスが認められた。相互依存性からも,DNの人数(β=.21, p<.05)とDNの強さ(β=.23, p<.01)に対して有意なパスが認められた。次に性格因子のうち外向性からは,DNの強さに対して有意なパスが認められた(β=.16, p<.05)。協調性からも,DNの強さに対して有意なパスが認められた(β=.16, p<.05)。さらにDNの構造特性のうち人数からは,DNの機能提供量に対して有意なパスが認められた(β=.93, p<.001)。DNの強さからも,DNの機能多様性に対して有意なパスが認められた(β=.84, p<.001)。

DNの機能提供量に対する総合的な影響力を示す標準化総合効果については,職務特性であるタスク多様性がβ=0.136,相互依存性がβ=0.194であるのに対し,性格因子は外向性および協調性いずれもβ=0.000であった。またDNの機能多様性に対する標準化総合効果は,職務特性のタスク多様性がβ=0.000,相互依存性がβ=0.194であるのに対し,性格因子は外向性がβ=0.136,協調性がβ=0.135であった。したがってこのモデルでは,DNで提供された機能の量に対しては2つの職務特性のみが影響力を有しており,機能の多様性に対しては職務特性のうち相互依存性のみが性格よりも大きい影響力を有していることが確認された。
以上の結果から,タスク多様性および相互依存性という2つの職務特性は,DNの構造特性のうち人数と強さに対して正の影響を与え,さらにDNの人数と強さが,それぞれDNで提供される機能の量および種類の多様性に正に影響するという因果の連鎖を確認することができた。また,これら2つの職務特性が,結果的にDNで提供された機能の量および種類の多様性に与えた影響は,性格因子のそれよりも大きいことも分かった。同時に,分析モデル全体の適合度は,誤差間の相関を設定することで高められたことから,他の隠された要因の存在も示唆された。
本稿は,キャリア初期にある造船企業2社の若手従業員を対象に質問紙調査を行い,組織的要因である職務特性が,多様でインフォーマルな関係性であるDNの構造特性および機能特性に対して与える影響を検証することを試みた。その結果,職務特性はDNの構造特性に対して有意で正の影響を与えており,プロテジェ要因である性格よりも影響力が大きいことが明らかとなった。さらにDNの構造特性は,DNで提供される機能の量および多様性に対してそれぞれ有意で正の影響を与えていた。つまり職務特性は,DNで提供される機能の量および多様性に対して,間接的に有意で正の影響を与えていたといえる。言い換えれば,タスク多様性や相互依存性といった職務特性は,量的にも質的にも豊かな機能が提供されるDNの形成を促すことにつながるということになる。
ここでは,この結果が示す理論的含意が,どのような点にあるかを検討したい。まず,従来のメンタリング研究やDN研究においては十分に探求されてこなかった職務特性という組織的要因が,職場の発達支援的な人間関係のネットワーク(DN)の形成に対して一定の影響力を有していることを,量的調査によって明らかにすることができた点に,本稿の意義がある。
次に,日本企業の生産システムという組織のマクロ的視点と職務特性という組織のミクロ的視点,さらには従業員の人材育成という個人レベルの視点を統合した理論構築の契機を,本稿が提供したと考えることができる。相互依存性はチームワークを構成する概念の1つといえ,チームワークは日本企業の作業組織の1つの特徴である。またタスク多様性は,既述のとおり森田(2008)が日本の製造企業の作業組織におけるチームワークの特徴の1つとして挙げた「多能工化」に近似した概念である。これら2つの概念を1つの広義のチームワークとして捉えることも可能である。ゆえに,日本の製造企業の作業集団において導入されてきたチームワークが,品質,コスト,納期といった生産的な成果のみならず,職場のインフォーマルなOJTを通じた人材育成にも同時に貢献していたメカニズムを示すことができる可能性がある。これまで見過ごされてきたかもしれないが,日本企業の生産システムにおいて整合的であったチームワークが,意図せざる結果として,若手従業員の育成にも整合的であった可能性がある。
一方で,本稿の結果から得られた実践的含意は,DNの形成に対するマネジメント可能性を,職務特性という要因を通じて示した点にある。つまり,タスク多様性や相互依存性,あるいはチームワークという職務特性は,職場レベルのマネジメントによって設計できる可能性が高いと考えられる。実際に,タスク多様性に含まれるスキル多様性は,Hackman & Oldham(1980)の職務特性モデルの中で1つの要因として取り上げられている。チームワークについても,たとえばMorita(2001)によって日本の製造企業のチーム作業方式が海外に移転されている事実を示したように,現場での実践を通じた学習可能性が高い。したがって,この2つの職務特性を職務設計によって強めることができれば,質・量ともに充実したDNの形成を促すことが期待できるだろう。
本稿には以上のような含意がある反面,以下のような限界や残された課題もある。
第1に,最終的な共分散構造分析の結果で,DNの人数およびDNの強さの誤差間に強い相関が認められた点である。この誤差相関を含めることによって,全体適合度の高いモデルが得られたということは,職務特性や性格以外の隠れた要因が,DNの人数および強さに対して同時に影響していた可能性が考えられる。この隠れた要因の1つの候補として,上司や先輩の関わり行動が挙げられる。坂本・西尾(2013)では,上司の部下に対する関わり方が,若手従業員の成長に有効なDNの構築に影響する可能性が示唆されている。本稿の調査対象者についても,その上司や先輩の関わり方に着目した調査・分析を行う価値があるだろう。
第2に,本稿の調査対象者の問題がある。本稿では,広島県内の近隣地域に所在するA社およびB社の若手従業員を対象とした全数調査を行った。B社の回答率が約65%であったものの一般の調査に比較すれば高く,この調査結果は調査対象者群の特性をよく表しているといってよいだろう。
しかし本稿の結果を,規模や所在地域が異なる他の造船企業に対して直ちに一般化することはできない。そこで,漸次構造化アプローチの視点に立って,次の対象者の選定を理論的に行って,さらなる質的・量的調査を継続する必要がある。新たな調査対象としては,他地域の中手造船企業や,少品種大量生産のシリーズ船戦略を取る大手造船企業が考えられる。
また,今回取り上げた2社とは異なる人材育成のあり方が見られる製造業で働く若手従業員などが考えられる。本稿における調査対象者のDNの特徴を端的に述べれば,人数の多さや範囲の多様性よりも,身近な人物とのつながりの強さを増すことによって多様な機能の提供を期待できるものであった。そしてこれは,2社の作業現場において必要な知識・技術が,部門ごとに特殊であることが要因であると推察された。しかしながら,部門横断的で汎用性の高い知識・技術を基盤とした製造現場においては,今回とは異なりフォーマルなOff-JTの有効性が高かったり,上司など身近な人物との関係性が相対的に重要ではなかったりする可能性がある。また,頻繁な配置転換も可能であり,これらの結果,部門外の人物も含めた構造的に多様性の高いDNになる可能性が考えられる。
第3に,提供されたDNの機能が,結果的に若手従業員の成長やキャリア発達に対して,どのように影響したのかを検証する必要がある。質・量ともに充実した機能が提供されるDNの構築が,若手従業員の主観的および客観的なキャリア形成の結果に対して正の影響を及ぼすことが実証されれば,DNの形成を促進するための職務設計を行うように企業を後押しすることだろう。ただし,キャリア形成の結果を主観的または客観的に測定するのは容易ではなく,かつ中長期的な視野も必要である。
第4に,タスク多様性や相互依存性といった職務特性が,職場の成果や生産性に対して,どのように影響しているのかを検証する必要もある。若手従業員の成長のためだけに職務設計を行ってDNを充実させたとしても,作業集団としての成果をともなっていなければ意義が損なわれる。たとえば,日本の製造企業における作業組織の特徴を表わすチームワークが,タスク多様性や相互依存性という要因から構成されるとすれば,それは納期や品質などといった点で高い生産性につながる可能性が高い(森田, 2008)。また,鈴木(2013)によれば,職務の相互依存性は,職場での創意工夫行動を促すとも考えられる。
以上のとおり限界や残された課題があるものの,本稿が取り組んだ問題は,日本企業の職場における人材育成を考えるうえで意義があり,今後も引き続き探求していきたい。
本報告は,科学研究費補助金(基盤研究C・課題番号24530509,15K03708)による研究成果の一部である。
調査の実施にあたり,数年にわたって多大なるご協力をいただいたA社およびB社の皆様に厚く御礼を申し上げます。また,共同研究者である京都女子大学の西尾久美子先生,論文の執筆にあたってご指導いただいた関西大学の森田雅也先生にも心よりの感謝を申し上げます。最後に,貴重なコメントやアドバイスを頂いた査読者の方々にも深く感謝を申し上げます。
(筆者=大手前大学現代社会学部准教授)