Japan Journal of Human Resource Management
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Print ISSN : 1881-3828
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Motohiro MORISHIMA
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2019 Volume 20 Issue 1 Pages 2-3

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 私の駆け出しの頃

わが国の社会科学者や行動科学者が海外専門誌への投稿・出版を求められるようになってきた。労務研究も例外ではない。確かに,International Journal of Human Resource ManagementやHuman Relationsなど,いわゆるTier 1か,それに近い専門誌に,気の遠くなるようなレビューを通り抜け,掲載される論文も増えてきた。また労働経済学や労使関係の分野では,Industrial RelationsやIndustrial and Labor Relationsなどに以前から掲載されることも多かった。

私も2000年代の初めぐらいまでは,このレースの参加者だった。昔は労使関係が主なテーマだったので,上記の労使関係2誌に何本か掲載させてもらった。British Journal of Industrial RelationsやJournal of Organizational Behaviorなどにも載せて頂いた。

だが,この頃は日本の労使関係や人的資源管理の研究者にとっては,異常に幸運な時期でもあった。わが国の経済的繁栄が労使関係や雇用システムと関連しているのではないかという推論が盛んになされ,In Japan…といえば,それだけで多くの人が耳を傾けてくれた。同様に研究論文も上記の仮説に関するものであれば,それだけでエディターやレフェリーの関心を引いたものである。

もちろん,このことは青木昌彦氏,小池和男氏,花田光世氏をはじめとする優れた研究者の偉大さを少しも減ずるものではない。単に私のような二流研究者にとってラッキーな時代だったということである。

 その後

その後私も立場が変わり,海外専門誌との関係では,今度はレフェリーやエディターとして,ゲートキーパー的な役割につくことが多くなった。なかでも,Human Resource Managementは,1997年にAssociate Editor(AE)となり,今年の1月にやっとお役御免となった。約22年も合計5人のEditor-in-Chief(編集長)に仕えたことになる。ちなみにAEは,論文の採否に関する最終判断をする権限を与えられており,1年に10本程度は最終判断をするから,この期間で何本の論文をリジェクトしてきたことか。他にInternational Journal of Human Resource ManagementとHuman Resource Management Reviewには,採否権のない,ボードメンバーとして参加させて頂いている。

この20年で変わったことは,ひとつは,日本に対する関心がひどく薄らいだことである。もうIn Japan……だけでは関心を引かなくなった。だが,それに代わって,中国や他の国への関心がとても大きいかというと,一時期は中国に高い関心があったが,最近はそれほどでもない。この頃HRM系の雑誌に中国企業や組織を対象とした論文が多く掲載されるようになったのは,どちらかといえば,中国人の研究者が増え,データ収集が中国国内で行われることが多くなったからだと思う。

 最も変わったこと

それに代わって,掲載される論文(言い換えると,レフェリーが高評価を与える論文)に共通している点が3点際立ってきた。理論,方法論,文章である。

理論とは,説明したい事象が発生するメカニズムに関する仮説がなんらかの理論枠組みに基づいてきちんと議論され,使用される変数(特に先行要因,antecedents)が,理論枠組みにしっかり紐づけられていることである。別の言い方をすれば,現象や結果の面白さが論文の評価ポイントなのではなく,理論的な前進を常に求められるということでもある。理論と紐づかない変数はすぐに見つかってたたかれるし,また理論的貢献が何かわからないというのは,レフェリーがエディターにリジェクトの推薦をしてくるときによく見られる理由である。

その結果もあるのか,HRM研究で使われる理論的枠組みが極めて少数に絞られ,また理論というよりは見方(view)とでもいうべき大括りな枠組みが使われることが多くなってきた。大括りのものにしておけば,どんな議論でも包含可能だということなのかもしれない。ただ抽象度の高い,見方(view)は反証しにくいので,理論的なブレークスルーが期待できなくなってきた。

第2が方法論である。方法論的にしっかりしているかは極めて重要である。Common method varianceが少しでも疑われたら,すぐにリジェクトになるし,同時に使用された尺度や質問項目と,もともとの理論概念との整合性(概念妥当性)の欠如が大きな減点になることも多い。さらに最近では,データのレベル(個人,集団/チーム,組織など)が混在した分析は批判されるようになってきた。

第3が文章の書き方である。クリアな書き方をしている,理論との関連がわかりやすいなどはプラスの評価になるし,逆にその専門誌の通例に従わない書き方は,書き直しを要求されることが増えてきた。英語の良し悪しが評価の重要なポイントになるのは昔からだが,英語を母国語としない私たちにとってハードルがさらに高くなってきているように思う。

考えてみれば,この3点が採否の分かれ目になるのは,当たり前のことかもしれない。理論的に仮説が提出され,方法論もしっかりしており,読みやすい原稿。そうしたものがアクセプトされていくのである。トマス・クーンの言うノーマルサイエンスを前提とした場合,正しい方向と言うべきだろう。あえて愚痴を言えば,現象そのものへの関心のウェイトが減ってきたともいえる。

中国や他国の投稿者は,この3点を見事にマスターして,どんどん掲載論文を増やしている。教育というか訓練も上記3点を強調しているのだろう。わが国の研究者もこの状況の中で海外雑誌に投稿し,掲載されることが期待されているのである。大変な時代になった。

  • 守島 基博

学習院大学

 
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