Japan Journal of Human Resource Management
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Book Review
HATSUMI, Yasuyuki Influence of human relations in the workplace on early turnover of the youth
Tetsuhiro YAMASAKI
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2019 Volume 20 Issue 1 Pages 37-40

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『若年者の早期離職―時代背景と職場の人間関係が及ぼす影響―』,初見 康行 著;中央経済社,2018年3月,A5判・280頁

1. はじめに

本書は,若年労働者(大卒3年未満)の早期離職に対する「職場の人間関係」の影響を検討した研究書である。具体的な研究内容としては「上司」「先輩」「同期」との人間関係が,若年労働者の組織に対する「残留意思」や「離職意思」に対して及ぼす影響,またそのメカニズムの解明に取り組んでいる。筆者における問題意識は,これまでもいわゆる七五三現象と言われる若年労働者の早期離職問題について,経済学や経営学,心理学などから様々な学術研究がなされているものの,未だ根本的な解決に至っていない点にある。

この問題意識に基づき,本書では大きく3つのテーマを掲げ取り組んでいる。1つ目は,若年労働者の早期離職について,これまでの研究を時系列的な観点から見直し,各時代における早期離職の要因を考察することである。2つ目は,定量的な分析を通して職場の人間関係を可視化し,若年労働者の早期離職に関する影響力や役割を明らかにすることである。3つ目は,これまで職場の人間関係には,これまでLMX(Leader-member exchange)理論やTMX(Team-member exchange)理論の概念が用いられてきたが,本書ではこれらの概念の課題点を克服するため,アイデンティフィケーションの概念から,関係的アイデンティフィケーションの概念定義,尺度開発を行い,これまでの研究とは異なった視点から職場の人間関係を捉えようとしている。

2. 本書の概要

本書は4部構成となっており,全6章から成っている。第1部は若年労働者の早期離職の要因およびメカニズムの検討,第2部は,アイデンティフィケーションの理論・概念仮説の導出,第3部は,実証研究と結果の考察,第4部では将来の研究展望について,それぞれ論じられている。以下では,紙幅の関係上,各部の要点を紹介していきたい。

第1部となる第1章では,若年労働者の早期離職要因とそのメカニズムについて既存研究を概観し,時代ごとに考察している。まず時代としては1980年代末から1992年までのバブル期,1993年から2004年までのロスト期,2005年から2009年までのポスト期,2010年から2014年までの第2ロスト期の4つに区分している。また要因については既存研究を概観し,①経済環境や雇用情勢が影響を与えているとする「環境要因」,②若年者の職業観の変化を背景とする「個人要因」,③労働条件の低下などに起因するとする「企業要因」,④産業構造や雇用慣行の違いに求める「構造要因」の4つの要因を挙げている。そして筆者は時代ごとの早期離職率の推移と要因間の仮説的因果関係を考察し,若年労働者の早期離職の要因について,バブル経済の崩壊という「環境要因」が産業構造の変化という「構造要因」と労働条件の低下という「企業要因」を引き起こし,さらに「企業要因」が職業観の変化という「個人要因」を引き起こしたとする仮説を提唱している。

第2部となる第2章では,本書における主要概念である「アイデンティフィケーション」について議論している。まず理論的基盤である「社会的アイデンティティ理論」と「自己カテゴリー化理論」についてレビューを行い,理論における功績と批判を論じている。この2つの理論を土台として,アイデンティフィケーションの定義および特性を論じている。そしてアイデンティフィケーションを組織に応用した「組織アイデンティフィケーション」およびアイデンティフィケーションを対人関係に応用した「関係的アイデンティフィケーション」をレビューしている。特に関係的アイデンティフィケーションについて,理論的課題を指摘し,定義を修正し概念を構築している点は本書における貢献の一つであろう。その上で本書における①関係的アイデンティフィケーション尺度の開発,②組織アイデンティフィケーションと組織コミットメントの弁別性の検証,③若年労働者の残留・離職意思と人間関係の構造分析という3つの分析と11の仮説を提示している。

第3部となる第3章から第5章では,実証研究を通して,若年労働者の早期離職に対する「職場の人間関係」の影響を明らかにしている。まず第3章ではアイデンティフィケーションの尺度開発の先行研究をレビューし,既存尺度の課題を指摘している。その上で既存尺度の課題点を克服するため,第2章での定義をもとに関係的アイデンティフィケーションの尺度開発を行っている。なお新たな尺度を開発の背景としては,関係的アイデンティフィケーションの概念自体の歴史が浅く有力な尺度が固まっていないこと,定義の曖昧さや解釈の困難性を挙げている。また筆者による調査では,調査対象の抽出条件として以下の点が挙げられる。①大卒者および大学院卒者であること,②正社員であること,③一定規模以上の企業であること,なお本調査では従業員数が200名以上の企業である。④出向していないこと,⑤転職経験がないことである。

第4章では,第2章で挙げた3つの分析についての結果を示している。まず関係的アイデンティフィケーション尺度の開発においては,5つの論点から分析が行われている。特に若年労働者と就業継続者の比較分析の結果,職場の人間関係は就業継続者よりも若年労働者に対して,より影響を及ぼすことを明らかにしている。次に組織アイデンティフィケーションと組織コミットメントの弁別性の検証においては,確認的因子分析,相関分析,重回帰分析から検証し,異なる概念であることを示した。最後に若年労働者の残留・離職意思と人間関係の構造分析においては,関係的アイデンティフィケーションが残留・離職意思に対して,「間接的」に影響を与える可能性が高いことが示され,影響を与えている場合には,職場の人間関係は,職場満足や組織アイデンティフィケーションを経由して影響を与えていることが確認されたと指摘している。また構造分析による比較においても,職場の人間関係は就業継続者よりも若年労働者に対して,より影響を及ぼすことを明らかにしている。

第5章では,第4章で行った3つの分析と11の仮説の検証結果をまとめている。本書における若年労働者の早期離職問題への貢献として次の2点があげられる。1点は若年労働者の早期離職問題を時系列的な点から考察し直し,その要点・メカニズムを明らかにした点である。もう1点は,上司・先輩・同期との「職場の人間関係」が,若年労働者の残留・離職意思にどのような影響を与えているかを明らかにした点である。

第6章では,筆者が行った研究の課題が述べられるとともに,今後の4つの研究展望が示されている。①質的調査による分析では,若年労働者の職業観に関するもの,職場の人間関係に関するもの,若年労働者に関するものの3つのテーマを掲げている。②分析モデルの改善では,2つ改善点を挙げている。一つは対象となる人間関係の拡張である。本書では職場の人間関係として「上司」,「先輩」,「同期」を取り上げているが,これ以外の部下といった人間関係の追加も検討している。もう一つは,職場満足や組織アイデンティフィケーションのように,職場の人間関係が影響を及ぼす可能性がある他の要因の追加を検討している。③中小企業への応用では,本書の主要な分析データにおいて,大企業(従業員数1,000名以上)に所属する労働者が多数を占めていた。このため中小企業に焦点を当てた再調査の必要性を指摘している。④多様な雇用形態への応用では,現在,雇用形態の多様化が進んでおり,特に非正規雇用者の割合が増加している。このため非正規雇用者が職場の人間関係にどのような役割を担っているのか,また周囲の人間関係からどのような影響を受けているのか,別途調査の必要性を指摘している。

3. 本書の意義と課題

第1に,バブル経済期以降の約30年間を振り返り,各時代において若年労働者の早期離職がどのような要因・時代背景によって引き起こされたものかについて,「環境要因」,「構造要因」,「企業要因」,「個人要因」の4つの視点から,膨大な先行研究をレビューし包括的に考察している点である。前述したが,若年労働者の早期離職の要因について,バブル経済の崩壊という「環境要因」が産業構造の変化という「構造要因」と労働条件の低下という「企業要因」を引き起こし,さらに「企業要因」が職業観の変化という「個人要因」を引き起こしたとする仮説を示している点は非常に興味深い。

第2に,本書の主要概念である「アイデンティフィケーション」について,丁寧な先行研究のレビューを行い,概念の定義や特徴,理論的基盤,類似概念との弁別性などを包括的に議論している点である。こちらも前述しているが,関係的アイデンティフィケーションについて,理論的課題を指摘し,定義を修正し概念を構築している点,そして若年労働者の早期離職問題にアイデンティフィケーションを導入し,職場の人間関係がもたらす影響について考察している点は,大きな貢献の一つであろう。

第3に,これは課題というよりは期待になるが,若年労働者の早期離職の問題に対して,就職活動における満足度,最初に配属された部署・業務に関する満足度の視点を追加してもらえればと考える。具体的には希望入社と不本意入社における差異,また希望部署・希望職種と不本意部署・不本意職種との差異を検討に加えるものである。理由としては,現在の我が国の新卒一括採用の場合,必ずしも希望する会社に新卒入社できるとは限らない。例えば,一口に金融業界と言っても,銀行,保険,証券と様々な業種がある。証券会社に就職したかった若年労働者が,希望がかなわず銀行に就職した場合,早期離職に影響があるのではないだろうか。また同様に希望していた会社に入社したとしても,例えば企画や広報といった思い描いていた部署ではなく,財務や経理といった内部管理部門に配属となった場合,早期離職に影響しないだろうか。本書でも触れられてはいるが,若年労働者が自身の能力や個性,仕事内容を重視する職業観が強まることによって,それが満たされない場合,早期離職を選択する可能性は十分にあると考える。

多くの企業が人手不足で悩む近年,若年労働者の定着に関して,どのように組織マネジメントをしていくのかという視点はさらに重要になってくると考える。本書から「職場の人間関係」の重要性について実証的な結果が得られたことは,人事労務の現場においても貴重な視座であると言える。

(評者=大阪成蹊大学マネジメント学部講師)

 
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